デジタル技術はサプライチェーン強靭化に必要不可欠(日豪印ASEAN)
第2回サプライチェーン強靭化フォーラム(4)

2021年11月11日

日本とオーストラリア、インド、ASEANの産官学が参加した第2回サプライチェーン強靭(きょうじん)化フォーラムの開催内容を伝えるシリーズ。今回は、その4回目(最終回)。

アカデミアセッションの第2部は、「サプライチェーン(SC)強靭化とデジタルトランスフォーメーション(DX)」と題した。第1部に引き続き、日本、オーストラリア、インド、ASEANから、合計4人のパネリストが登壇。DXがサプライチェーンに与える影響などについて活発に論じた。

複雑化するサプライチェーン、デジタル技術で変革求められる

冒頭、ボストンコンサルティンググループ(BCG)マネジング・ディレクター&パートナーのロマン・ドロービエ氏がデジタル化によって変革するサプライチェーンと経営という観点から説明した。

  • サプライチェーンのDXが求められる理由は、サプライチェーンがますます複雑化し、従来のアプローチでは急速に時代遅れになりつつあり、特に新型コロナウイルス感染下の現代社会では、早急な変革が求められることにある。
  • デジタルを活用すれば、サプライチェーン全体の可視性を引き上げた上で、統合的なサプライチェーン計画策定やエンド・トゥ・エンドの最適化などが実現され、売上面だけではなく、在庫管理などコスト面でも改善効果の創出が可能となる。例えば、在庫を正確に予測できることで、機会損失や過剰在庫を防ぐこともできるようになる。
  • ただし、サプライチェーンのDXはテクノロジーやIT、アルゴリズムの導入が中心に進むものではない。最も重要なのは、これらを活用しつつビジネス自体のトランスフォーメーションを進めることだ。この意味で、ビジネスニーズとユーズケースを踏まえつつ、人×テクノロジーのオペレーションの在り方を設計し、早期に効果を創出していく動きを作ることが重要となる。

データ中心のサプライチェーン管理推進へ

続いて、早稲田大学社会科学総合学術院教授の中島健一氏が製造業を念頭に置いたデータ駆動型のサプライチェーン管理に関して紹介した。

  • サプライチェーンにおける実際のオペレーションという観点から、サプライチェーン強靭化について考えてみたい。サプライチェーンのオペレーションのデジタル化には、調達や製造などで在庫やリードタイム、品質などを管理する「管理技術(MT)」と、それらのプロセスや顧客への販売などの管理を支援する「情報技術(IT)」が重要だ。「管理技術」は具体的には、日本がモノづくりでリードしてきた品質におけるTQM(Total Quality Management)などが挙げられ、サプライチェーン強靭化でも非常に重要な役割を果たすと考えられる。また、従来のサプライチェーンの課題だったブルウィップ効果(注1)、制約条件の理論(TOC、注2)に加え、近年ではサプライチェーンの途絶や持続可能性などが活発に議論されている。
  • サプライチェーンの強靱性を推進していくポイントとしては、(1)「管理技術」の活用、(2)データに基づいた品質やプロセスの保証、(3)データやプロセスの標準化という考え方が必要になってくる。今後、データを中心としたサプライチェーン管理を推進していくために、例えば、産官学の協力によるグローバルサプライチェーンデータバンクの創設などを提案したい。

デジタル化で中小企業のグローバルバリューチェーン参画が進む

さらに続いて、インド工科大学マドラス校准教授のスバシュ・サシダラン氏。同准教授は、デジタル化がインドのグローバルバリューチェーンに果たす役割に関して、研究を進めてきた。

  • グローバルバリューチェーンとは、製品やサービスを作りだすに当たっての一連の段階で、2カ国以上の関与があることをいう。現在、世界の貿易の85%がこの仕組みに乗っていることがわかっている。
  • インドでは、製造業セクターはGDPの15%にしか当たらない。裏返すと、国外から直接投資を誘致することによって、グローバルバリューチェーンに参加できることになる。近年は日本や韓国から、多くの直接投資が流入している。
  • 次に、インドのデジタル化についてデータから状況を見る。世界銀行のデータによると、インドでは2000年代、インターネット加入率がまだ低水準だった。しかし、近年は指数関数的に増加。これに伴い企業でデジタル投資も増加している。ブロードバンド加入数やサーバー数も増えつつある。さまざまなデータから、インドのデジタル化が進んでいることがわかる。
    グローバルバリューチェーンに参加している企業は、参加していない企業よりもデジタル投資が多い。特に2016年以降、投資額が大きく伸びている。
  • 研究の結果から、インドで進むデジタル化はグローバルバリューチェーンの参入に大きな役割を果たしていると考えられる。その影響は大企業だけなく、中小企業にも及ぶ。
    デジタル化の推進により、インドの中小企業ビジネスが推進されることになるだろう

物流分野のデジタル化が課題

最後のパネリストとして、世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターのプルショッタム・コーシク氏が、同センターの取り組みについて説明した。

  • インダストリー4.0は、インドのさまざまな分野で推進されている。象徴的なのが、農業やがん治療、教育などでの取り組みだ。また、スマートシティー、サーキュラーエコノミーでも試みが始まっている。
  • インドの物流セクターにおけるデジタル投資は、2025年までに550億ドルほどに上るとの予測もある。この分野では、デジタル化の遅れという課題がある。たとえば、交通手段を代替利用する際(鉄道利用を自動車に変更する場合など)や、貿易などの物流の各段階で、企業間や政府との間でデータ共有の仕組みが整備されていない。
    こうしたことから、現在、物流分野でデジタル化のプロジェクトが進展。政府や企業間でのデータ共有が試みられている。こうした取り組みは、官民共同で進めていく必要があるだろう。

最後に、モデレーターの政策研究大学院大学教授の篠田邦彦氏が総括コメントとして、(1)サプライチェーン強靭化には、データ管理や人材育成、標準化などの観点から、企業のDXを進める必要があること、(2)デジタル化により、中小企業や地方の企業がグローバルバリューチェーンにつながり、ビジネスを拡大するには、官民連携による取組が重要なことを示した。

インド太平洋地域の強靭なサプライチェーン構築へ

閉会のあいさつで、経済産業省通商政策局長の松尾剛彦氏が今回のフォーラム全体を通して得られたサプライチェーン強靭化の実現のために必要な認識の共有を行った。

  • サプライチェーンの強靭化のためには、その可視化が必要不可欠だ。その上で、さらにより一層強靭化を進めていくには、地域レベルでの協力やデジタルの力をどう生かすかがカギになる。
  • インド太平洋地域の強靭なサプライチェーン構築を産官学一体で模索しながら、各国の強みを生かし、地域大での繁栄や社会的課題の解決を可能にすることが重要。今後の方向性としては、そうした連携のあり方を追求していきたい。

注1:
需要に対応して生産する産業に見られる現象で、サプライチェーンをさかのぼるにつれて、需要の変動に対応するため、在庫の変動が大きくなる現象。
注2:
サプライチェーン管理のための考え方の1つ。ボトルネックに着目して、全体最適化を行う。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2021年11月15日)
第16段落
(誤)・インダストリー0は、
(正)・インダストリー4.0は、
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課
遠藤 壮一郎(えんどう そういちろう)
2014年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)、ジェトロ・ベンガルール事務所などの勤務を経て、2020年6月から現職。