サプライチェーンの可視化が企業収益の改善を後押し(日豪印ASEAN)
第2回サプライチェーン強靭化フォーラム(2)

2021年11月11日

日本とオーストラリア、インド、ASEANの産官学が参加した第2回サプライチェーン強靭(きょうじん)化フォーラムの開催内容を伝えるシリーズの2回目。本稿では、企業セッションを取り上げる。デジタル・サプライチェーン・マネジメント(SCM)におけるグッドプラクティスが紹介され、ベンダー側から5社、デジタルSCMに成功している2社が登壇した。各社の説明では、サプライチェーンの可視化が自社、あるいは顧客企業の収益拡大に寄与するとの見方が共通していた。

データ活用が顧客の収益改善

ベンダー側の登壇者と発言要旨は次のとおり。

(1)日立製作所の研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 生産・モノづくりイノベーションセンタ・センタ長の倉田英明氏は、ESG(環境・社会・ガバナンス)への貢献を含めて、サプライチェーンを取り巻く状況が複雑化する中、同社開発のIoT(モノのインターネット)プラットフォーム「ルマーダ(Lumada):TWX-21」の意義を紹介した。

  • 当社はルマーダ:TWX-21により、事業変動に即応したビジネス計画・実行による社会貢献につながる生産・消費の実現や、トラブル発生時の迅速な意思決定による停滞のないサプライチェーンの実現支援といった、データから将来を予見するサプライチェーン最適化サービスを提供する。このプラットフォームをコンシューマーメーカーに導入した結果、拠点ごと品目ごとの在庫水準の自動算出や、販売計画・最適在庫水準、荷積みの形態を考慮した各拠点への自動出荷指示などを実現した。このサービスにより、緊急の在庫調整輸送を減らせることによる二酸化炭素(CO2)排出削減(環境価値)や、欠品不足を防ぐことによる生活の質(QOL)向上(社会的価値)を実現できる、加えて、経済的効果として、これまで導入した企業の平均で、棚卸資産を約20%削減できたり、サプライチェーンの断絶リスクへの対策にかかった日数がこれまでの90日から7日に低減できたりした。今後は、サプライチェーンのフレキシビリティー向上に役立つ「サプライチェーン・コーディネーション・サービス」を強化していく。これにより、ESGを考慮した信用評価を提供することで、ビジネスパートナーの選定サポートや契約、調達、製造、支払いを柔軟に、また即時に行うことができるプラットフォームを提供。

(2)タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)(インド)コーポレート部門のグローバルヘッドのランジャート・ゴスワミ氏は、サプライチェーンにおけるアナリティクスの活用について説明した。

  • 現在のサプライチェーンが新型コロナウイルスや貿易戦争、自然災害などで影響を受ける中、TCSはサプライチェーンにアナリティクスを活用することで、サプライチェーンの強靭化に貢献してきた。例えば、当社は大手食料雑貨店の実店舗とアプリなどを融合させたオムニチャネルへの変革を支援した実績を持つ。TCSは、人工知能(AI)、IoT、機械学習のデジタル技術を用いてソリューションを提供し、ダッシュボードでの可視化を図ることで、よりよい意思決定につなげた。どのような(導入企業の)顧客がいつ何を欲しているのかなど、あらゆることを可視化し、リアルタイムで把握できるようにした。結果的に、機会損失の減少や顧客の待ち時間削減などにつながった。TCSは、ITソリューションだけでは変化をもたらすことはできないと考えている。顧客と向き合い、顧客を支援する体制が必要になる。

(3)企業間・拠点間のSCMコラボレーションを支援するE2Open社(米国)のパブリックセクター(宇宙&防衛)ディレクターのケリー・トンプソン氏は、同社の「E2ネット統合プラットフォーム」を紹介した。

  • 見えないことは測定できない。可視化することはリスクの顕在化や強靭化にとって大事だ。本システムには、全てのサプライチェーンパートナーを1つのコラボレーションネットワークで結ぶことができる強みがあり、メーカーやサプライヤー、顧客、サービスプロバイダー、その他の企業とリアルタイムで安全に連携し、サプライチェーン活動を調整することができる。これによって、サプライヤーごとの課題、出荷した貨物の位置、輸出・輸入の通関などのプロセスの管理、倉庫から配達など、1つのユーザーインターフェースで閲覧可能で、企業行動の各プロセスの可視化がラストワンマイルまで実現できる。本システムは既に1,000社以上が導入している。

(4) NECのインド現地法人NICDCロジスティクスデータサービス(NLDS)の最高経営責任者(CEO)&ディレクター兼NECインディア(NECCI)アソシエイトバイスプレジデントの大島一郎氏は「ロジスティックス・データ・バンク」を用いたインドにおけるロジスティックスの可視化について説明した。

  • Logistics Data Bank(LDB)は、NECがインド政府系の開発公社(NICDC)と合弁で設立したNLDSが提供する、インドの海上用貨物コンテナ物流の可視化を行う事業。インドでのロジスティックスに関しては、リードタイムの長さ、輸送の遅延、どこに貨物コンテナがあるのか判然としないといった課題がある。NLDSはこうした問題を解決すべく、コンテナ貨物にICタグ(RFID)を貼り付け、国内各地に設置されたRFIDリーダーから位置情報を取得することで、輸送状況を可視化している(LDB)。2016年以降、4000万個以上のコンテナのトラッキングサービスを提供。NLDSウェブサイトでコンテナの輸送経路や位置情報などを確認できる。RFIDの取り付け作業は約600人の人員が365日、17の港で対応している。NLDSは、同サービスを活用したアナリティクスレポートを各省庁や港に提供している。これらは公開されているため、各港はそれぞれの課題やボトルネックを把握し改善することで、結果として全体の滞留時間やリードタイムの削減など、インド全体の物流課題の克服、さらに、インド政府が目標としている世界銀行のビジネス環境ランキングや物流パフォーマンス指標(LPI)の改善にも貢献している。

(5)インドのローカス社 インド・中東・太平洋事業担当バイスプレジデントのピユシュ・シャルマ氏は、ラストワンマイル物流に果たす技術の役割について講演した。

  • サプライチェーンの中で人間の決定を自動化するディープテックプラットフォームについて説明する。当社技術の導入は、在庫の最適化と環境負荷の低減を実現する。特に、当社はラストワンマイルの配達の最適化に注力する。なぜなら、同配達が物流コストの28%を占めること、最適化は(同社技術を導入した企業の)顧客をつなぎ止めることに大きな役割を果たすからだ。電子商取引(EC)の最近の急激な成長は、消費者自身の企業への期待値も高めただけに、ラストワンマイルを含めたサプライチェーンの可視化はより重要になってきている。

サプライヤーとの連携通じた可視化も

ユーザー側の登壇者と発言要旨は次のとおり。

(1)デジタルSCMに成功している企業として登壇した米国アマゾン・ドット・コム 電気車両・サステイナブルトランスポーテション部門ゼネラルマネジャーのチャンドラセカール・スブラマニアン氏は「自動車分野におけるデジタルサプライチェーンの影響」と題して、セッションに参加した。

  • 現在、自動車のサプライチェーンは、業界として自動化の方向に進んでいる。こうした状況下、アマゾン・ドット・コムはミドルマイルとラストマイルの物流に強みを有し、戦略的な倉庫の立地を実現することなどを通じて、多くの自動車関連企業のニーズに応えることができる。
  • 顧客の注文が複雑なサプライチェーンの小さな要素に細分化され、デジタル化によって統合されて、顧客を一気通貫でサポートできる体制に当社の強みがある。

(2)住宅設備のLIXILからは、サプライヤーを含めたサプライチェーンに係るシステムの可視化についての説明があった。

  • 国連の原則に基づき、サプライヤーとの健全なパートナーシップで調達活動を行う必要性から、2017年には原材料調達から部品、製品、廃棄まで、サプライチェーン全体の環境負荷を効果的に運用し、生産・物流・販売まで、システムの可視化を図ることに努めている。サプライヤーとの連携により、調達段階でリスクを特定し、安全で安定した製品を提供することで、責任ある製造と販売を統合することを目指している。現状では全サプライヤーの80%が可視化システムを導入している。データの可視化によって、在庫状況や入荷予定日の確実な把握、従業員の残業時間削減や次期開発製品のマーケティング資料に活用できるといった効果が得られた。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課課長代理
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部北米課(2008年~2011年)、同国際経済研究課(2011年~2013年)を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2013~2017年)勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課(2017~2018年)を経て2018年7月より現職。

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