【中国・潮流】都市封鎖から1年が経過した武漢
新型コロナ危機を乗り越えてデジタル先進都市を目指す

2021年1月21日

中国湖北省武漢市で新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大による都市封鎖が行われてから約1年が経過した。本稿では、そうした武漢市について街の変化や復興の状況や政策の動きなどをレポートする。

武漢市では2020年1月23日から2カ月以上にわたって、市民の外出や企業の操業が厳しく制限された。3月21日から一定条件の下で企業の操業再開が許可された。しかし2020年第1四半期(1~3月)の域内総生産(GRP)は、前年同期比40.5%減の大幅なマイナスとなった。その後を合わせてもGRPは2020年第1~3四半期(1~9月)で同10.4%減と、依然としてマイナス成長が続く。とはいえ、経済は回復を遂げつつある。また、同市はデジタル経済の発展に向けた政策を相次いで打ち出すなど、新たな動きもみられる。

コロナ禍を経て武漢市民の意識に変化

2021年1月時点で、武漢市内の様子はコロナ流行前とほとんど変わらない。人通りや車の往来はもちろんのこと、コロナの影響で空きテナントとなっていた場所にも新たな店舗が開店した。このように、入れ替わりも進んでいる。変化といえば、市民のマスク着用率が高くなった。市民は高い危機意識や衛生意識を持つようになり、マスク着用が日常生活の一部になった。

また、市内では「黄色い自転車」をよく見かけるようになった。これは、出前サービス大手の「美団」が運営するシェア自転車だ。シェア自転車自体は数年前から市内に配置されていた。ただ、コロナ後は以前にも増して台数が増えた。密になりやすい地下鉄やバスを極力避け、自転車で移動できる距離なら積極的にシェア自転車を利用する人が増えた。現地紙も、健康意識の高まりとともに「『通勤のついでに自転車に乗って運動しよう』と考える人も多くなった」と報じた(「湖北日報」2020年5月8日)。


武漢市内のシェア自転車(ジェトロ撮影)

武漢市民にマスク使用が定着(ジェトロ撮影)

消費回復に向けて各種支援策を実施

コロナの流行によって特に大きな影響を受けたのが消費市場だった。都市封鎖により外出に制限がかかったことで、2020年第1四半期の武漢市の社会消費品小売総額は前年同期比45.7%減と大幅に減少した。

都市封鎖解除を受け、武漢市政府は2020年4月から飲食店やスーパー、百貨店などで利用できる「武漢消費クーポン」を総額5億元分(約80億円、1元=約16円)発行。これは市場に50億元分の消費効果をもたらしたとされる。

また、2020年10月から2021年1月まで、市内の夜間消費を喚起するためのキャンペーンも実施。観光スポットや飲食店、ショッピングエリアで利用できる割引クーポン券を発行した(2020年11月11日付地域・分析レポート参照)。加えて湖北省(武漢市を含む)では、2020年10月から自動車の購入者に購入金額の3%分を補助金として支給する支援策(2020年10月16日付ビジネス短信参照)のほか、旅行業の活性化を目的とした省内主要観光スポット無料開放キャンペーンなども展開された。

こうした一連の消費支援策の成果で、武漢市の第1~3四半期の社会消費品小売総額は前年同期比28.1%減とマイナスながら着実な回復を遂げた(図参照)。

図:武漢市のGRPおよび社会消費品小売総額の成長率
2019年は、GRPが7.4%増、社会消費品小売総額が8.9%増。2020年第1四半期はGRPが40.5%減、社会消費品小売総額が45.7%減。2020年上半期はGRPが19.5%減、社会消費品小売総額が34.4%減。2020年第1~3四半期はGRPが10.4%減、社会消費品小売総額が28.1%減となった。

出所:武漢市統計局データを基にジェトロ作成

デジタルインフラ整備に向けて5G通信網拡充へ

一方で、武漢市と湖北省の産業政策では、デジタル経済の発展に注力する姿勢が顕著になってきた。その基礎となるのが、第5世代移動通信システム(5G)通信網の整備だ。5G通信網は、自動運転やビックデータ、スマート製造、遠隔診療などのインターネットを活用したサービスの普及に必要不可欠なデジタルインフラとされる。

湖北省政府は2020年6月15日、「デジタル経済の発展を加速させ新たな経済成長ポイントを育成するための若干の措置外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を発表。5G基地局を省内に5万基設置するほか、3年以内に国家レベルのビッグデータ試験モデル企業を30社誘致。人工知能(AI)とビッグデータ産業を1,000億元以上の規模に成長させ、3年以内に30カ所以上のスマート製造モデル工場を建設するなどの具体的な目標を設定した(2020年6月18日付ビジネス短信参照)。

武漢市政府も同年7月13日、「武漢市での画期的なデジタル経済発展に向けた実施方案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を発表。(1) 3年以内に5G基地局を市内に3万基設置して都市全体を5Gネットワークでカバーする、(2) それを基礎にAIやビッグデータなどのデジタル経済を発展させる、(3) 同市GRPに占めるデジタル経済の付加価値総額を50%以上にする、といった目標を設定した。武漢市では、2020年10月末までに2万基以上の5G基地局の設置が完了し、市中心部や重点工業園区が5Gネットワークでカバーされている。

こうしたデジタル分野の産業発展政策を踏まえ、企業などで関連投資も活発に進められている。中国ECサイト大手アリババは2020年11月2日、武漢市に華中本部を設置すると発表した(2020年11月10日付ビジネス短信参照)。11月20日には、中国初の「中国5G+工業インターネット大会」を同市で開催。大会では、産業イノベーションや港湾施設のスマート化など、関連投資プロジェクト16件の調印式も挙行された(2020年11月27日付ビジネス短信参照)。

また、2021年1月1日、自動運転車の商業利用に向けたPRを目的に、「自動運転パーク」が武漢市で開園した。自動運転車のテーマパークは中国初の試みだ。武漢経済技術開発区(注)の龍霊山生態公園内に位置し、5Gと人工衛星「北斗」による高精度の位置情報システムが整備されている。バスやタクシー、清掃車、移動自動販売車など19台の自動運転車が域内で走行しており、来場者が自動運転車を体験することができるパークとなっている(2021年1月7日付ビジネス短信参照)。

デジタル分野で先進都市を目指す

武漢市は、世界で初めてコロナの集団感染が確認された都市として世界的に有名になった。それが今では、コロナによる危機を乗り越え、デジタル分野で先進都市になることを目指している。「火神山病院」は2020年2月2日新設のコロナ専門病院だ。わずか10日間で完成したことでも知られる。5Gネットワークを完備し、遠隔医療システムやロボットによる物資の運搬、AIを活用した診断システムが導入された。中国で最も先進的な医療を提供できる病院の1つとして、また復興する武漢のシンボルとして国内では有名だ。

武漢市はデジタル経済を発展させながら、「コロナの深刻な被害を受けた街」というイメージを払拭(ふっしょく)することができるのか。今後の動向に注目したい。


注:
武漢経済技術開発区は、国家インテリジェント・コネクテッドカー(武漢)テストモデル区に指定されている。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。