コロナ後における中国内陸部の最新動向
武漢市、成都市の消費市場を事例に

2020年11月11日

中国は、都市封鎖や健康コードなどを活用した強力なウイルス対策を実施したことで、早期に新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大を抑え込んだ。日本のメディアなどでも、中国の急回復ぶりが日々報道されているが、そうした報道は上海市や北京市といった沿海部の都市を対象としたものが多い。本稿では、湖北省武漢市ならびに四川省成都市を事例に、中国・内陸都市におけるコロナ後の復興状況や動向について、「消費」の視点からレポートする。

武漢市、クーポン券で消費喚起も全面的な回復は道半ば

コロナは、武漢市の経済活動や市民生活に甚大な影響を及ぼした。10月30日時点の累計感染者数が5万344人(死者数3,869人)となり、中国全体の感染者数の半数以上を占めている。

感染拡大を食い止めるべく、武漢市では2020年1月23日午前10時から都市封鎖が行われ、バス、地下鉄、鉄道駅、空港、高速道路が閉鎖された。企業や店舗の操業は、スーパーマーケットや医療用品の製造・販売といった市民生活に必要不可欠な業種を除き、3月21日まで原則禁止となった。市民の外出も原則禁止され、2月から食料や生活必需品は実質的な配給制となった。コロナは武漢市の経済活動に甚大な影響を及ぼし、2020年第1四半期の武漢市の域内総生産(GRP)は前年同期比40.5%減、社会消費品小売総額は45.7%減と大幅に減少した。

徹底した感染防止対策が行われた結果、武漢市では4月以降、新規感染者の発生を抑えることに成功し、4月8日に都市封鎖が約2カ月半ぶりに解除された。湖北省ならびに武漢市政府は企業の操業再開を支援し、武漢市を含む湖北省の主要業種企業(注)における操業再開率は、4月30日時点で98%にまで回復した。上半期における同市のGRPは前年同期比で19.5%減、社会消費品小売総額は34.4%減と、引き続き前年同期比で大幅な減少となったが、第1四半期と比較して減少幅は大きく縮小した。消費が回復途上にある中、オンラインショッピング市場は好調だ。上半期における同市の社会消費品小売総額がマイナスとなった中で、オンラインショッピングにおける小売総額は前年同期比4.2%増となった。 コロナ収束後は、外出や人との接触を控えるようになったことで、オンラインショッピングが今まで以上に身近なものになった。その利便性も相まって、リアル消費からオンライン消費への転換は、今後さらに加速していくものと予想される。

武漢市の街の様子については、10月時点でほぼコロナ流行前と変わらない状況になっている。現地メディアの報道では、8月時点で市内主要商圏における人の通行量や販売額は前年同期の水準にまで回復した。 しかし、コロナ流行前と比べ、9割以上の人が常時マスクを着用するようになったほか、個人経営の商店・食堂など比較的規模の小さな店舗の2割程度が営業を再開できていないなどの変化が見られる。また、武漢市内で営業を行う日本料理店の経営者にヒアリングを行うと、「客足は戻ってきているが、前年と比べて売り上げが4割落ちている」「コロナの影響で宴会が少なくなり、高価な料理やお酒の注文が減っている」といった声が聞かれる。

落ち込んだ消費市場を活性化させるべく、湖北省ならびに武漢市政府はさまざまな消費刺激策を講じている。武漢市政府は、4月19日から7月30日まで3回に分けて「武漢消費クーポン券」をオンラインで発行し、飲食店(出前を含む)やスーパーマーケット、デパートなどでの消費を促した。本クーポンは、同市民向けに総額5億元(約75億円、1元=約15円)分が発行され、現地メディアによれば、50億元分の消費効果をもたらした。また、2020年10月から2021年1月25日まで、市内の夜間消費を喚起するためのキャンペーンを実施し、観光スポットや飲食店、ショッピングエリアで利用できる割引クーポンも発行している。

湖北省政府は、2020年8月にコロナの影響で甚大な被害を受けたホテルや飲食店、旅行代理店などを支援すべく「湖北旅行キャンペーン」を実施、12月31日まで武漢市を含む省内の主要観光スポットを無料開放した。その結果、武漢市は国慶節連休中の旅行先として人気を集め、旅行者数では成都市に次いで第2位となる約1,818万人に達した。また、10月から自動車の購入者に対して、購入金額の3%分を補助金として支給するといった消費支援策も実施されている。


武漢市中心部の様子(ジェトロ撮影)

完全復旧し、消費市場としてさらなるビジネチャンスを拡大させる成都

成都市のコロナの累計感染者数は、10月27日時点で339人(死者数3人)。コロナ拡大当初は他都市と同様に感染が広がったが、その回復のスピードは速かった。成都市のコロナ感染防止策は入念であり、現在、海外から中国に入国する際、ホテルでの14日間の隔離待機措置を受けることが義務付けられているが、成都市の場合はさらに7日間が追加され、合計21日間の隔離待機措置が適用される。入念な感染防止対策もあってか、成都市の直近の新規感染事例は、外国からの入国者による輸入事例のみに限定されている。市街地の様子を見ても、10月時点では、人が密集するエリアを除けば、大半の市民がマスクを着用していない。大型商業施設への入店時こそ、形式上マスクの着用を推奨されるが、着用を強制されることはない。市民はマスクをポケットにしまって携帯するか、マスクのゴムを肘に通してぶら下げながら携帯する「肘マスク」をする人が増え、成都市民のスタイルとして定着しつつある。

経済活動も、コロナ流行前の状態にほぼ回復しつつある。2020年第1四半期のGRPこそ前年同期比3.0%減とマイナス成長であったが、同年上半期においては前年同月比で0.6%増とプラス成長に転じている。社会消費品小売総額を見ても、2020年上半期は前年同期比7.7%減と大きく落ち込んでいたが、同年8月には前年同月比4.5%増でプラスに転じた。コロナ流行期にもかかわらず新たにオープンした商業店舗もあり、2020年上半期だけで国内外企業を含む122社が市内に商業店舗をオープンした。これは、中国中西部地域で最も多い数である。ロフトが上海に次ぐ中国2番目の店舗として2021年1月に成都店舗の開店を控えるなど、新たな日系小売流通業の進出も予定されている。また、リアルの場でのイベント活動も再開されてきており、市内ホテルでは連日のように経済関連のシンポジウムなどが開催されている。

飲食業界も、10月時点で既にコロナ流行前の状態に回復した感がある。成都市ではコロナが流行し始めた2月こそ、営業時間の短縮や、店舗収容人数を定員の半分以下に抑える措置がとられていたが、3月18日には、成都市政府のコロナ対策部が「飲食業の全面回復に関する通知」を発し、危険レベルが「大」の地域を除き、市内飲食店に対して通常営業を認め始めた。成都市の名物料理に火鍋料理があるが、人気店の店舗前には、平日から大勢の客が行列をつくることも珍しくない。中国全土に店舗展開する大手日系飲食店の関係者にヒアリングを行ったところ、「店舗を展開する中国各都市の中で、店舗の営業状態がコロナ流行以前の状態にいち早く戻った都市は成都であった」「8月の成都店舗合計の売り上げは前年同月比を超えた」と話す。

コロナ流行前の状態にほぼ回復しつつある成都市であるが、中国内陸部有数の消費市場としてのビジネチャンスをさらに拡大させるべく、現在、力を入れているのが、公共交通指向型都市開発(TOD開発)である。2010年に市内初となる地下鉄1号線が開通して以降、2019年12月時点での総延長距離は302キロあり、これは東京の地下鉄総延長距離とほぼ同規模となった。この距離は2020年中に515キロで拡大される予定であり、その拡大のスピードは目覚ましいものがあるが、目的は単にレールと駅を増やすだけではない。市内105カ所のターミナル駅を対象に、駅周辺に商業施設、住宅、学校、病院などの施設を建設し、交通と市民の暮らしが融合した有機的な街づくりを目指している。同プロジェクトを契機として、既にTSUTAYAやホテルオークラなどの日系企業が成都市への進出を表明している。今後も、当プロジェクトを契機に、成都市のさらなるビジネスチャンスの拡大が期待される。


成都市中心部の様子(ジェトロ撮影)

内陸都市は消費を牽引する原動力となるか

外国との経済交流が制限されつつある中で、中国政府は「国内経済の循環」を重視しており、今後は国内の消費喚起が鍵となる。コロナによる甚大な被害を受けた武漢市は、GRPや社会消費品小売総額などの消費に関連する経済指標の多くで、前年同期比でのマイナス成長が続いている。しかし、さまざまな消費刺激策を講じることで消費市場の回復を急いでいる。また、中国国内でもいち早く消費が回復した成都市では、その消費市場をターゲットとした企業進出が進んでおり、さらなるビジネスチャンスの拡大に向けた都市開発も行われている。中国内陸部に位置する両都市の消費市場は、程度には差があるものの着実な回復を遂げており、中国の消費を牽引する原動力になることが期待される。コロナ後の中国・内陸都市の経済動向を今後も注視していく。


注:
工業、建築業、卸小売り・宿泊飲食業、サービス業。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
寺田 俊作(てらた しゅんさく)
2015年、ジェトロ入構。デジタル貿易・新産業部EC・流通ビジネス課(2020年)を経て現職。