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「『食の』シリコンバレー」を目指すスイス、フード&ニュートリションバレーを設立
国外の食品企業、スタートアップの誘致を促進

2020年6月26日

ボー州、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、ローザンヌホスピタリティマネジメントスクール、ネスレは5月1日、共同出資で「スイスフード&ニュートリションバレー協会」を設立した。スイスで食品エコシステムの構築を促進するための団体で、連邦政府の支援も受けている。

国内のあらゆる関連企業、研究機関、教育機関、支援機関などを1つの枠組みに収める。国外の優れた食品関連企業をスイスに誘致し、国内スタートアップの育成に向けたワンストップ窓口としての機能も担う。スイスを食品に関するイノベーションの一大拠点にし、新たな健康的な食品の開発やライフサイエンス、廃棄物削減など、持続可能な食品産業を実現するための課題解決に資することを目的にしている。

協会設立の狙い、スイスの食品エコシステムの概要について報告する。

大規模農業に適さない土地柄、スイスの取り組み

スイスは、山岳地帯が多く大規模農業には適さない。このため、有機農業や地域に根差した製法のこだわり(2020年4月21日付地域・分析レポート参照)もあり、付加価値の高い農業を推進してきた。

加えて、教育機関、企業、行政がそれぞれの立場で、食品産業全体の研究開発や人材育成、グローバル化を後押ししている。教育機関としては、スイスを代表する2つの連邦工科大学〔EPFLとチューリッヒ工科大学(ETH)〕に食品専門の研究施設があり、多様な分野での研究が進められている。またローザンヌホスピタリティマネジメントスクールは、1893年設立と世界最古のホスピタリティマネジメントの高等教育機関だ。ホテルを始めとするホスピタリティ業界で、経営の基幹となる人材を育成している(2020年5月15日付地域・分析レポート参照)。

グローバル企業の存在も大きい。ボー州ベベイに本社を置くネスレは、栄養価の高い乳児用乳製品のメーカーとして1866年に設立された世界最大の食品・飲料会社だ。現在、187カ国に拠点がある。2019年4月には「R&D(研究開発)アクセラレーターセンター」を設立。自社内で研究開発を行うだけでなく、アクセラレーターとしての機能も持つようになった。ネスレのほかにも、スイスに本社を置く食品関連のグローバル企業がある。例えば、ジボーダン(香料)、フェルメニッヒ(香料)、テトララバル(食品用容器)だ。「スイスフード&ニュートリションバレー」によると、これら4社による特許取得件数は2万6,000件に上る。スイスの人口当たりの特許取得件数は、世界最多。そのスイスで、食品産業は医薬品に次いで最も多くの特許を取得している分野なのだ。これらを背景として、大学からのスピンオフを含め、現在、スイスには300社を超える食品関連のスタートアップ企業が存在する。また、連邦政府や各州、大学がその育成を支援している(2018年6月15日付地域・分析レポート参照)。

なお協会の出資者である4機関は、いずれもボー州に所在する。ボー州はスイス西部に位置するスイスフランス語圏の州で、EPFLが輩出するスタートアップ企業が集積する。優れた景観が評価されユネスコ世界遺産に登録されたブドウ畑「ラヴォー地区」を有し、観光と一体となった農業に力を入れている。州政府も、州内資源を活用できるフード&ニュートリションバレーの構想を支援している。

スイス国内の関係者を結集し、投資とイノベーションを呼び込む

このような環境の中で「スイスフード&ニュートリションバレー」を設立した狙いについて、ジェトロは2月26日、同協会でコーディネーターを務めるファティ・デルデル氏にインタビューした。

質問:
設立の背景、狙いは。
答え:
スイスには、もともと多くの食品関連の企業や研究機関がある。このため、エコシステム自体は既に存在していた。しかし、食品に関連するさまざまな問題を解決するには、各組織がよりオープンになり、イノベーションを起こしやすい環境をつくることが大切だ。 「スイスフード&ニュートリションバレー」の設立で、このエコシステムを可視化し対外的にPRすることができる。これにより、世界中の優れた関連企業を呼び込み、スイスを食品関係企業の集積地にしたい。スイス企業も、オープンイノベーションに向けて動いている。設立メンバーの一員であるネスレは、2019年に「R&Dアクセラレーターセンター」を設立した。世界的な企業がオープンイノベーションに積極的になったという意味で、これは革新的なことだ。
質問:
協会の設立により何が可能になるか。
答え:
国外の企業がスイスへの進出、スイス国内の企業や研究機関との連携を希望する場合、協会に関心分野や計画を伝えれば、エコシステム内の多様な関係者と効率的につなぐことができるようになる。スイスへの進出を目指す企業に対しては、労働許可取得を簡易にし、税金に関するサービスを行う計画もある。(詳細は、今後同協会のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで発表の予定)
質問:
特に力を入れたい分野は。
答え:
(1)精密農業(データを活用して品質向上や省力化を目指す農業管理手法)、(2)フードチェーン4.0(食品サプライチェーンの透明性と安全性の向上)、(3)廃棄物削減、(4)スマートパッケージ(特殊な材質や技術が組み込まれたパッケージング)、(5)食品加工(加工技術、製造技術の高度化)、(6)栄養(人体の機能改善のための新たな商品開発)、の6分野に焦点を当てる。
質問:
今後の予定は。
答え:
国際的な知名度の向上を目指して、「スイスフード&ニュートリションバレー」の名を冠して、魅力ある外国企業や人材をスイスに集めるためのキャンペーンを国外で実施する。新型コロナウイルスの終息後には、スイス国内外でイベントを開催し、国際見本市に参加したい。既に今年1月には、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(米国、ネバダ州ラスベガス)にプレゼンス・スイス(スイスの存在を国外にアピールするため、連邦外務省に置かれた機関)と連携して参加した。2021年には、食の未来をテーマにした国際シンポジウムをローザンヌで開催する。
質問:
目標は。
答え:
今後1〜2年のうちに、世界の食品関連企業が国外への進出を考えた時に最初に思いつく目的地としてスイスを考えてくれることを目指したい。

多様な企業・関係機関が食品エコシステムに参画

スイスの食品エコシステムの特徴は、官民、規模の大小を問わず、多様な種類の企業、団体、研究機関、教育機関、スタートアップ、中小企業が参画していることにある。ここからは、エコシステムの一員として同協会が例示している関連団体や企業を紹介する。

研究・ネットワーク関連団体

  • スイスフードリサーチ(Swiss Food Research)
    イノスイス(イノベーション促進を目的とした国営機関)からの委託を受け、農業分野の技術移転に関する実証プロジェクトの公募、資金の提供、支援を行う。2013年以降、57のプロジェクトに50万7,500スイス・フラン(約5,580万円、1スイス・フラン=約110円)を資金提供した。
  • フードニュートリションクラスター(Food Nutrition Cluster)
    2015年に設立された食品産業分野の団体。食品、農業、包装、流通、研究・研修機関、公共部門、専門家団体など80以上が加盟している。環境に配慮した食品関連プロジェクトへの支援、資金調達に関する情報提供などを行う。
  • マイアグロフードネットワーク(My agrofood network )
    フランス語圏スイス農業技術者協会(AIASR)と、イタリア語圏スイス農業食品科学技術者協会(ATTAA)からなる農業技術者ネットワーク。前者には、フランス語圏の農学者約300人が所属する。中高生への農学教育の奨励、会員間および外部向けの交流事業を行っている。
  • 食品産業コンピタンスネットワーク(正式名称は独語のみ、Kompetenznetzwerk Ernährungswirtschaft)
    ソーシャルメディア「Agrofoodscout」を運営。サイト上では、スイス国内の農業関連イベントに関する情報収集、関心に応じたパートナー探しを行うことができる。
  • アグリデア(AGRIDEA /農業農村開発協会)
    さまざまな専門知識を持つ110人のスタッフが、農業研修や農業政策に関わる国際的なネットワークの中で、効率的で持続可能な農業の実現のためのワーキンググループやプロジェクトを実施している。スイスの各主要語圏(フランス語圏、ドイツ語圏、イタリア語圏)に拠点を持つ。
  • フードハック(Foodhack)
    食品関連のスタートアップに関する最新ニュースの提供、パートナー、メンター、投資家と出会いを提供するサイトを運営している。

食品関連スタートアップ

  • キトロ(Kitro SA/フードチェーン4.0、廃棄物削減)
    食品廃棄物の量や傾向をモニタリング・分析できる特殊なごみ箱を製造。レストランは分析結果を利用することで、より廃棄物の少ない業務プロセスへの変更を検討できる。
  • ガマヤ(Gamaya/精密農業)
    作物の各種情報を取得できるハイパースペクタクルカメラを開発。畑を撮影するだけで作物データを取得することができ、農家のコスト(水、化学薬品、燃料)と労力の削減に貢献できる。
  • アグロサステインスイス(Agrosustain Swiss/精密農業)
    特殊な菌を栽培中の野菜、果物に付着させることで、傷みにくくすることができる。廃棄物の削減、農薬の過剰な散布を防ぐことに貢献する。
  • アルヴァー(Alver/食品加工)
    大豆や牛肉の2倍以上のタンパク質を有し、手軽に栄養を取ることができるゴールデンクロレラTMの無香料パウダーを生産する。
  • ジーエヌユービオティクス(GNUBiotics/栄養)
    オリゴカッサライド(オリゴ糖の成分に似た腸内細菌を整える物質)の成分に関する商品を開発する。粉ミルクに、既存の糖類に代えて同社の商品を混ぜることで、下痢や便秘などの消化に関する問題が解決できる。

以上のように、多種多様な企業、団体、スタートアップが参画していること、そして農業から食品加工、廃棄物削減に至るまで、食品産業の将来を見据えた業際的なテーマに焦点を当てていることが同協会の特徴である。出資者である前述の4機関はいずれもボー州が拠点だが、将来的にはスイス全土の州が参画することを望んでいるという。「スイスフード&ニュートリションバレー」の誕生で、食品産業におけるスイスの国際的な知名度が向上するか、注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
城倉 ふみ(じょうくら ふみ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ鹿児島の勤務を経て、2018年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
ナタリー・コルニエ
2001年からジェトロ・ジュネーブ事務所勤務。日本食のプロモーションや対日投資促進事業等に従事

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