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スイス産チーズの輸出増は貿易自由化の成功例

2020年4月21日

山岳酪農が盛んなスイスでは、生乳を長く保存するための加工品としてチーズ作りが古くから行われており、国民食として重要な位置を占めている。地域によってさまざまな製造方法があり、一説ではスイスには約450種類のチーズがあると言われている。

交易の主要品目としても扱われてきたスイス産チーズだが、2007年にスイスとEUとのチーズ貿易が完全に自由化され、フランスやイタリアなどからの輸入チーズとの競争にさらされるようになった。チーズの原料となる牛乳の価格がEU加盟国の方が安いため、製造コストの比較的安いEU産チーズの輸入が大幅にスイス市場に増えると自由化実施以前は予想されていた(2007年6月22日付ビジネス短信参照)。しかし、貿易自由化から10年超が経過した現在、スイス産チーズは順調に輸出を伸ばし、市場を拡大している。特に、スイスを代表するグリュイエール産チーズが輸出量、生産量を増加させていることが注目される。本レポートではスイス産チーズの輸出の歴史を振り返るとともに、ブランド確立に成功し、順調に輸出を伸ばしているグリュイエールチーズ組合の取り組みを紹介する。

スイス産チーズ輸出の歴史

スイス産チーズ輸出の歴史は、大きく3つの期間に分けることができる。

  • まず、スイスチーズ連合(The Swiss Cheese Union)が独占的にチーズを輸出していた1914年から1999年まで。連合は、輸出の独占権を法的に与えられる代わりに、戦争や経済危機に備えてチーズの備蓄を保証することが求められた。輸出によって国内の牛乳の過剰生産を調整し、連邦議会が設定した価格でチーズを流通させていた。チーズの貿易自由化を望んだ連合は、1999年のEUとの第1次バイラテラル協定PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.20MB) 調印後に解散した。
  • EUとの貿易自由化への移行期である2000年から2007年まで。2002年に発効した第1次バイラテラル協定には、チーズの段階的な関税削減も含まれていた。
  • 関税の完全撤廃(2007年6月)後の2008年以降。

1991年から2018年を前述に沿って3つの期間に分割し、各期間における年間輸出入額の平均を算出し、まとめたのが表だ。

表:スイス産チーズの輸出入額(年平均)(単位:100万スイス・フラン、年平均)
時期(年) 輸出 輸入
1991-2018 540 315
第1期:1991-1999 540 264
第2期:2000-2007 488 288
第3期:2008-2018 577 377

出所:SwissImpexデータ(HSコード0406 Cheese and Curd)を基にジェトロ作成

年平均輸出額は、第2期でわずかに減少したが(前期比10%減)、第3期の2008年以降は増加し(前期比18%増)、第1期を超えている。第2期の年平均輸出額の減少は、スイスチーズ連合の解体後の新体制への適応まで時間がかかったためと推測されるが、その後、スイス産チーズの年平均輸出額は貿易自由化によって伸びた。輸出先も広がっている。1991年には89%がEU向けで、第2位の米国はわずか6%だったが、2018年には米国向けは14%にまで増えた。日本向けも、1991年には輸出金額はわずかに約300万スイス・フラン(約3億3,600万円、CHF、1CHF=約112円)だったが、2018年には約900万フランに増えた。

一方、各期の年平均輸入額は一貫して増加しており、第2期は第1期から9%増、関税撤廃後の第3期は第2期から31%増(第1期から43%増)となった。

ブランド保護と発信の努力

輸出増加には、関係組合によるブランドイメージの確立と保護への努力が貢献した。

スイスを代表する名産品のグリュイエールチーズもその1つだ。2019年5月にグリュイエール組合が発行した2018年の年次報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.38MB) によると、グリュイエールチーズもまた、貿易自由化以後、輸出量が増えている。1999年のスイスチーズ連合解体時に9,200トンだった年間輸出量は、2018年に1万2,800トンまで伸びている。国内の消費量は比較的一定だが、輸出については貿易が自由化された2000年半ば以降に大きく伸びていることがわかる(図参照)

図: グリュイエールチーズの販売量(スイス国内、輸出、合計)の比較
(単位:トン、年)
販売量の推移をスイス国内、輸出、合計の3つのカテゴリー別に1977年から2018年までの期間で表示。スイス国内、輸出ともに販売量は増えている。 スイス国内に関しては、1977年から78年までは12000トン程度だったのが、2018年には16000トンを超えている。輸出に関しては、1977年から78年までは5000トン弱であったのが、2000年には約8500トン程度、2011年には約11670トン、2017年には約11787トン、2018年には約12800トンとなっている。

出所:グリュイエール組合2018年年次報告書を基にジェトロ作成

グリュイエール組合はこの順調な輸出増の理由としてまず、2001年7月に取得した地理的表示保護制度の1つ「原産地呼称統制(AOC)」を挙げている〔現在は2011年12月に取得したヨーロッパの統一規格の原産地呼称保護(英語名PDO、フランス語名AOP)を認証ラベルとして使用〕。仕様を厳格に定め、特定の産地と条件、製法によって作られたチーズのみが「グリュイエールチーズAOP」を名乗ることができる。以前は国内外でグリュイエールチーズの安価な偽物が出回っていたが、AOCの導入以後、これらの偽物を駆逐し、真正品の価値をアピールできるようになった。

加えて、露出度を高める販促活動を積極的に行っている。ヨーロッパ陸上競技選手権や、クロスカントリースキー・ワールドカップ、20万人以上を動員するスイス最大の野外フェス「パレオ・フェスティバル」など注目度の高いスポーツや音楽イベントのスポンサーとなり、国外での知名度向上を目指している。米国の「ウィンター・ファンシー・フードショー」や、フランスの「シアル(SIAL)」など食品分野の国際見本市への出展も積極的だ。出展イベントの数は、2018年に43にも上った。これらの活動は、スイス産チーズのマーケティングを行う非営利組織「スイス・チーズ・マーケティング」と共同で行っている。

生産地のグリュイエールには、チーズの製造工程をじっくりと見学することができる施設「メゾン・ド・グリュイエール」を設けており、2018年には65万人以上が来場した。牧歌的な風景の中に造られた施設で、チーズ製造の様子を間近で見たり、チーズ輸出の歴史について学んだりすることができる。また、グリュイエール組合のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます では、消費者が気軽に試せるレシピを豊富に掲載するなど、グリュイエールチーズの魅力について、歴史や生産地域とのつながりなど多彩な切り口で紹介し、日本語を含む9カ国語で情報を日々発信している。

スイス産チーズの輸出が順調に増加しているのは、このような継続的かつ熱心な販促活動により、国際的な知名度を高めた結果といえる。

グリュイエールチーズに限らず、AOPを取得している他のチーズも輸出に熱心だ。「テール・エ・ナチュール」誌(2017年12月14日付)に掲載された調査結果によると、エティバチーズの2017年の生産量は460トンで、スイス全体のチーズ生産量の0.2%に過ぎないが、生産量の40%に当たる184トンを輸出している。

さらなる輸出先の多様化を期待

2007年の貿易自由化後、AOPによるブランド保護やプロモーション活動の努力などにより輸出を伸ばしてきたスイス産チーズだが、今後、輸出先をさらに拡大・多様化し、輸出量をますます増やすことを期待している。グリュイエールチーズ組合は、今後は米国やスウェーデン、フィンランド、日本、中国、ロシアを新たな市場として販促活動を強化する方針だ。

執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
城倉 ふみ(じょうくら ふみ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ鹿児島の勤務を経て、2018年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
マリオ・マルケジニ
ジュネーブ大学政策科学修士課程修了。スイス連邦経済省経済局(SECO)二国間協定担当部署での勤務を経て、2017年より現職。

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