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鍵を握る激戦州での無党派の取り込み(米国)
2020年大統領選の展望(後編)

2020年9月28日

2020年米国大統領選挙は、半年少し前には全く想定されていなかった新型コロナ禍や人種差別抗議デモ・暴動の発生など、異例ずくめの中で実施される。しかし、大統領選を決定づけるのは、激戦州の動向であることには変わりはない。そして、2020年はその激戦州でも異変がみられる。後編では、激戦州の動向を中心に大統領選の行方を展望する。

激戦州に異変も

米国の大統領選挙は、上下院議員数の定員に従って州ごとに配分された選挙人(計538人)による間接選挙の形を取る。そして選挙では、州ごとに候補者が選ばれ、得票が多かった候補者がその州の選挙人すべてを獲得する仕組み(いわゆる勝者総取り)となっている(注1)。一方で、州によって、伝統的に共和党あるいは民主党の支持者が多い州があり、選挙前からほぼ結果が明らかな州も多い。このため、どちらの党の候補でも当選の可能性がある州、いわゆる激戦州での結果で勝敗が決まると言われている。これは今回の選挙にも当てはまる。

表1は、2000年以降に実施された過去5回の大統領選挙での州別の選挙結果を示すものだ。過去5回のうち、1回でも別の政党が勝利した州は13州しかない(注2)。このうち、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの3州は、2000年から2012年までの4回は民主党が勝ち続けていたが、直近の2016年選挙ではいずれも得票率1%未満の僅差で共和党が勝利し、トランプ大統領の誕生に大きく貢献した。トランプ大統領にとっては、今回の選挙でも落とせない州ということになる。これらの州で頻繁に遊説するのもそのためである。フロリダ、アイオワ、オハイオの3州も、過去2回、民主党が連続して勝利していたところ、2016年に共和党が奪還した。このため、今回の選挙でも動向が注目されている。

さらに、今回の選挙戦では、従来、共和党支持者の多い州(いわゆるレッドステート)でも、接戦が予想される展開になっている。すなわち、激戦州と呼べる州が従来よりも増えたことになる。9月27日現在、政治情報サイトのリアルクリアポリティクスによると、支持率の差が8%未満の激戦州は12州に上る(表2参照)。

表2:2020年大統領選挙で接戦が予想される州(9月27日現在)(△はマイナス値)
州名 バイデン候補の
支持率(%)
トランプ候補の
支持率(%)
バイデン候補の
マージン(%)
アリゾナ 48.2 44.8 3.4
フロリダ 48.7 47.4 1.3
ジョージア 45.2 46.5 △ 1.3
アイオワ 46.0 46.0 0.0
ミシガン 49.2 44.0 5.2
ネバダ 49.0 43.7 5.3
ニューハンプシャー 48.0 42.5 5.5
ノースカロライナ 47.0 46.2 0.8
オハイオ 49.0 45.7 3.3
ペンシルバニア 48.8 44.2 4.6
テキサス 44.6 48.2 △ 3.6
ウィスコンシン 50.7 43.7 7.0

注:各州で実施した世論調査の平均による支持率の差が8%未満の州。
勝者総取り方式でなく選挙区ごとに選挙人を選出するメーン州、ネブラスカ州の一部の選挙区を除く。
出所:リアルクリアポリティクス

このうち、特にアリゾナ、ジョージア、テキサスの3州は、過去5回の選挙で共和党が一度も負けたことがない共和党の地盤だ。テキサス州やアリゾナ州は、州外からの人口流入により人口が拡大している。その中で、特にラテン系の人口増加が著しく、選挙結果にも影響を与えるとみられている(2020年9月10日付地域・分析レポート参照)。とりわけテキサス州は、選挙人の数も38人と全米でもカリフォルニア州(55人)に次ぐ大票田だ。そのため、トランプ大統領にとっても死守しなければならない州といえる。

激戦州での無党派の取り込みがカギ

2020年の大統領選は、再選を目指す現職のトランプ大統領への信任投票の色彩が濃い。前述のピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、バイデン候補に投票する理由は、彼が「トランプ氏でないから」との理由が56%で最多だった。2番目の理由の「リーダーシップ、パフォーマンス」(19%)を大きく上回っている。

2016年の大統領選挙は、事前の世論調査の結果を覆してトランプ大統領が当選した。このことから、今回選挙では、バイデン候補有利と言われる中でも、より慎重な見方が多いようにみられる。前回選挙で世論調査がトランプ候補の支持を過少評価してしまった理由は何か。米国世論調査協会の報告書では、要因の1つとして、前回の大統領選で勝敗を決定づけた激戦州のミシガン州、ウィスコンシン州、フロリダ州、ペンシルベニア州で、11~15%の有権者が投票日の直前1週間で投票する候補を決めた点を挙げている。その際に、トランプ候補を選んだ有権者が多かったようだ。

このため今回も、特に激戦州での無党派層取り込みが勝敗に大きな影響を与えることになるとみられる。バロット・アクセス・ニュースが31州の有権者の登録データを集計したところ、投票登録者に占める無党派の割合が年々拡大している。2020年2月には29.1%と、共和党支持者(28.9%)を上回ったのだ。なお、民主党支持者は39.7%あるが、減少傾向を示す。党派に縛られずに投票する有権者が増えているといえそうだ。

また、エリアでは、特に都市と地方の中間に位置する「郊外」の有権者の取り込みが重要になるだろう。前述のピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、地方部ではトランプ大統領支持が60%、バイデン候補支持が39%と、トランプ大統領が強い支持を受けている。逆に、都市部ではバイデン候補支持が68%、トランプ大統領支持は30%で、バイデン候補が圧倒的な支持を受ける。その中間に位置するのが郊外だ。ここでは、バイデン候補支持が54%、トランプ大統領支持が44%とその差は10%にとどまる。さらに、性別でみると、郊外男性ではバイデン候補が50%、トランプ大統領が48%でほぼ拮抗(きっこう)する。対して、郊外女性ではそれぞれ57%、40%とバイデン候補が大きくリードしている。

トランプ大統領も、郊外の女性有権者の重要性は認識しているようだ。8月22日付のツイッターでは、「民主党主導の都市は犯罪であふれ、それは郊外にもすぐに広がる可能性がある。それなのに、なぜ郊外の女性はバイデンに投票するのか。民主党は低所得者の郊外への居住計画も進めようとしている」とメッセ―ジを発信。郊外の女性有権者に対して「法と秩序」に訴える戦略に出ている。

最高裁判事の人事が争点に急浮上

これまでみてきた通り、今回の大統領選は多くの変動要因があり、予測がより一層難しい。さらに、過去の大統領選でもみられた、選挙日の直前の10月に選挙戦に大きな影響を与える出来事、いわゆる「オクトーバー・サプライズ」が出てくる可能性もある。直近の2016年の大統領選では、民主党のクリントン候補が国務長官時代に私用メールを公務で使用した問題で、2016年10月28日、FBI長官が新証拠を見つけ、捜査を再開すると発表した。これにより、世論調査でクリントン候補のリードが大きく減り、大きな痛手となった。

既に10月を迎える前に、選挙戦に大きな影響を与えるとみられるサプライズが1つ起きている。9月18日、米連邦最高裁判所でリベラル派の代表として知られるルース・ギンズバーグ最高裁判事(87歳)が死去した。最高裁判事に空席が生じ、その後任選びが大統領選の直前に進められることになったため、大統領選の争点の1つに急浮上している。最高裁の判断は妊娠中絶や銃規制など米社会を二分するような重要な問題に大きな影響を及ぼすため、最高裁判事の人事は国民の関心も高い。前述のピューリサーチセンターの世論調査でも、大統領選の投票に当たって重要視する関心事項として、「最高裁判事指名」が「経済」、「ヘルスケア」に続き第3位に挙げられている。最高裁判事の承認時期についても、共和党および民主党支持者で意見が分かれている(2020年9月28日付ビジネス短信参照)。

トランプ大統領は9月26日、民主党側の激しい反発の中、最高裁判事の候補として、シカゴ連邦上級裁のエイミー・バレット判事(48歳)を指名した。バレット判事は、敬虔なカトリック教徒で保守派として知られる。ギンズバーグ判事の死去後、最高裁判事は全9名中リベラル派が3名、保守派が5名となっており、次期判事が保守派となれば最高裁での保守派優位が決定的になる。トランプ大統領は大統領選前に、上院での承認を終わらせる構えで、支持基盤である保守層、さらに女性判事を指名することにより、支持が低迷している女性有権者へのアピールを狙っている。

一方、バイデン候補は「これはオバマケアが存続できるかどうか、新型コロナ感染の中での医療に関わる問題だ」と主張。11月10日には最高裁で、医療保険の適用対象を拡大してきたアフォーダブルケア法(通称:オバマケア)の合憲性についての審理が行われる予定で、国民の関心の高い医療と最高裁判事人事を結び付けることで、有権者に危機感を持たせ、トランプ大統領への批判票を拡大させる戦略に出ている。

現時点での世論調査の結果を見る限りでは、トランプ大統領は劣勢だ。しかし、激戦州の中でも支持率の差を縮めている州もある。大統領選の当日まで目の離せない展開が続くことが予想される。


注1:
メーン州とネブラスカ州は、下院選挙区ごとに候補者(選挙人)を選出する。
注2:
コロラド、フロリダ、インディアナ、アイオワ、ミシガン、ネバダ、ニューハンプシャー、ニューメキシコ、ノースカロライナ、オハイオ、ペンシルべニア、バージニア、ウィスコンシンの13州。

2020年大統領選の展望

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
若松 勇(わかまつ いさむ)
1989年、ジェトロ入構。ジェトロ・バンコク事務所アジア広域調査員(2003~2006年)、アジア大洋州課長(2010~2014年)、海外調査計画課長(2014~2016年)などを経て、2016年3月より現職。

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