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経済・新型コロナ対策に加え、人種差別問題や「法と秩序」が争点に(米国)
2020年大統領選の展望(前編)

2020年9月24日

8月後半の民主党、共和党両党の全国大会で、ジョー・バイデン前副大統領、現職のドナルド・トランプ大統領がそれぞれ11月3日の大統領選挙の正式候補に指名された。選挙戦もいよいよ終盤戦だ。しかし、わずか半年の間に、新型コロナウイルスの感染拡大、さらに米国史上最大規模の人種差別抗議デモと暴動の発生など、目にする光景は激変。誰も予想していなかった環境の中で選挙戦が展開されている。世論調査の結果などから、バイデン候補が有利とみられているものの、今回の大統領選は多くの変動要因を抱えている。

2020年の大統領選はこれまでと何が違うのか。その特徴を整理しつつ、2回にわけて間近に迫った大統領選の行方を展望したい。

新型コロナ禍の下で選挙戦が進む

2020年の大統領選が特異な最大の要因は、新型コロナ禍という非常事態の中で実施される点だ。9月23日時点で、米国内の感染者は690万人、死者は20万人以上にのぼる。今後1カ月余りの間で感染がどのような状況になるかが、選挙結果にも大きな影響を与えるとみられる。その理由の1つは、新型コロナ禍に対するトランプ大統領の対応が不十分で、経済再開を早く進め過ぎたために感染が拡大していると非難されているところにある。民主党側は、トランプ大統領の新型コロナウイルスへの初期対応の遅れなどを攻撃材料にしている。となると、11月3日の選挙までに仮に感染が収束に向かっていれば、トランプ大統領には有利に働くだろう。

報道によると、米国疾病予防管理センター(CDC)は8月下旬、各州政府に対し、10月終わりか11月初めごろまでに新型コロナウイルスのワクチンを病院関係者とハイリスクグループに投与する準備をするよう、指示した。トランプ政権は、感染収束のカギを握るワクチンの開発を重要視する。迅速なワクチン開発を進める「ワープスピード計画」を発表し、2020年末までに供給体制を構築することを目指している。9月7日の記者会見で、トランプ大統領は「10月中にワクチンが開発されるかもしれない」と発言し、11月の大統領選前にワクチンが完成する可能性を示唆した。しかし、あまりに早急なワクチン開発には、安全性への懸念の声も聞かれる。

さらに、トランプ大統領は新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び、繰り返し「感染拡大の責任は中国にある」との主張を展開。中国との対決姿勢を強めている。これも、大統領選のキャンペーンの一環と捉えることができる。トランプ大統領は、バイデン候補を親中派と位置付ける。その上で、「彼が勝てば中国がこの国を支配する」と、自身の対中強硬姿勢を有権者にアピールしている。

回復の足取り鈍い経済

新型コロナ禍は、経済活動そのものにも影響を与えている。感染防止のために、3月から4月にかけて、42州で自宅待機令が発動され、経済活動に制限がかけられた。その後、4月下旬以降、各州で徐々に経済再開が進められている。しかし、レストラン・バーなどは多くの州で屋内営業の制限が続くのが現状だ。そのほか、大規模な集会は禁止されているケースがほとんどで、エンターテインメント産業、観光産業などが大きな打撃を受けてきた。2020年8月の失業率は8.4%だ。4月の14.7%を底に改善がみられるものの、依然として高水準で推移している。回復の足取りは鈍い。

11月の大統領選で再選を目指すトランプ大統領は、新型コロナ禍が広がるまで、好調な経済を自身の業績として有権者にアピールしてきた。そのため、景気の回復状況は選挙結果にも大きな影響を与えるとみられる。実際に、米国や世界の人々の意識調査などで定評のあるピュー・リサーチ・センターが2020年7~8月に米国で実施した世論調査によると、大統領選の投票に当たって重要視する関心事項は、「経済」(79%)が第1位だった。これに、「ヘルスケア」(68%)、「最高裁判事指名」(64%)、「新型コロナウイルスの感染拡大」(62%)、「暴行事件」(59%)などが続く(2020年8月18日付ビジネス短信参照)。

急増が見込まれる郵便投票

新型コロナ禍が大統領選に直接及ぼす影響の1つに、郵便投票が広く実施される見通しとなっていることが挙げられる。米国では、選挙方法を州ごとに決定できる。各州では、有権者や選挙スタッフへの感染防止のために、有権者に郵便投票の選択肢を増やす動きが広がりつつある。有権者全員を郵便投票可能にするケースや不在者投票を全州民に認めることなどにより、2020年の大統領選は郵便による投票が拡大する見通しだ。その動きは既にみられる。例えばペンシルバニア州では、2020年6月の大統領予備選で、郵便投票のリクエストが180万票に及んだ。2016年の同予備選での郵便投票はわずか10万票余りだったのち比較すると、急増したことになる。

郵便投票が選択できるようになると、投票率も上昇するとみられる。2020年2月のアイオワ州の民主党の大統領予備選では、大半の投票が郵便投票によって行われた。その結果、2016年と比較すると、実際のところ投票率が15%から24%に上昇したという。他の州の予備選でも同様に、モンタナ州が45%から55%、ニューメキシコ州が34%から40%、サウスダコタ州が22%から28%に投票率が上昇した。ただし、郵便投票による投票率の上昇が特定の政党・候補に有利に働くかどうかは明らかでない。一方、州によっては9月から投票が可能になるため、現時点で支持率が上回っているバイデン候補が有利になるとの見方がある。最も早いノースカロライナ州では、9月4日から郵便投票が開始されている。

しかし、トランプ大統領は、郵便投票では不正が発生すると繰り返し主張。選挙で敗者となった場合、結果を受け入れないのではないか、との懸念も出ている。また、郵便投票の封筒の開封作業なども必要で、選挙結果の判定には時間がかかることも見込まれている。州によっては、選挙当日の消印の投票まで有効としている州も複数ある。このため、選挙が接戦となった場合、最終的な選挙結果が判明するまでに少なくとも数日、場合によると数週間かかる見込みだ。なお、米国選挙支援委員会(EAC)によると、2018年の中間選挙では全投票者の25%が郵便で投票した。

米国史上最大級の人種差別抗議デモ

新型コロナに加えてもう1つ大統領選の争点として浮上しているのが、人種差別問題とその抗議デモに伴う暴動・治安悪化だ。

2020年5月25日、ミネソタ州の最大都市ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官に殺害される事件が発生。これをきっかけに全米の多くの都市で抗議デモが行われている。デモは、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」を合言葉として、米国史上最大級の運動に発展している。6月時点で推定1,500万~2,600万人が参加した。人種差別問題への関心の高まりは、黒人層の支持を受けるバイデン候補に有利に働くとみられる。


ニューヨーク・マンハッタン5番街にあるトランプタワーの前の路上にも
「Black Lives Matter」の文字が描かれた(ジェトロ撮影)

「法と秩序」を選挙の争点に持ち込むトランプ大統領

しかし、当初、平和裏に行われていたデモ行進は、一部が暴徒化し、店舗を破壊し略奪行為を行うなどの事態に発展した。その後、8月23日にウィスコンシン州ケノーシャで起きた警官による黒人銃撃事件を受けて、抗議デモが過激な暴動となり、市街に大きな被害が出た。さらに、同地や活発な抗議デモ活動が続くオレゴン州ポートランドなども含む複数の都市で、武装したトランプ支持者グループと人種差別抗議デモが衝突。一部では、死者が出る事態に至った。人種差別抗議デモが危険な暴動に発展していることは、バイデン陣営にとっては誤算だろう。ポートランドの抗議デモは9月5日に連続100日目に突入したが、収束する気配がみられない。

こうした状況に、トランプ大統領は、急進左派が運動を扇動しているとして、「法と秩序」を前面に打ち出す。バイデン候補の下では「米国の安全を守れない」との批判を展開し、治安の悪化を懸念する有権者の支持を獲得しようとしている。抗議デモを軍隊や治安部隊の力により鎮圧しようとするトランプ大統領への反発は強い。しかしテレビでは、連日、デモ隊と治安部隊との激しい衝突や焼き打ちに合う市内店舗の映像が報道される。これに、不安を抱く有権者も増えているものとみられる。

なお、こうした人種差別抗議デモ以外でも、主要都市での治安悪化が懸念されているのが実情だ。8月2日付の「ウォールストリート・ジャーナル」によると、2020年に入り、殺人事件が全米主要50都市のうち、36都市で増加した。犯罪件数全体でみると、7月までに前年同期比で24%増加しているという。新型コロナ禍で学校や教会が閉鎖され、警察の活動も低下していることなどが要因として指摘されている。発砲事件も多発する。このように、治安への不安が広がっている。全米で続く抗議デモに伴う暴動や発砲、殺人事件による治安の悪化は、「法と秩序」を訴えるトランプ大統領に有利に働いているといえるだろう。

2020年大統領選の展望

  1. 経済・新型コロナ対策に加え、人種差別問題や「法と秩序」が争点に(米国)
  2. 鍵を握る激戦州での無党派の取り込み(米国)
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
若松 勇(わかまつ いさむ)
1989年、ジェトロ入構。ジェトロ・バンコク事務所アジア広域調査員(2003~2006年)、アジア大洋州課長(2010~2014年)、海外調査計画課長(2014~2016年)などを経て、2016年3月より現職。

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