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2020年大統領選挙で存在感を増すラテン系有権者(米国)

2020年9月10日

11月の米国大統領選挙まで約2カ月となった。ドナルド・トランプ大統領とジョー・バイデン前副大統領の直接対決を想定した世論調査では、バイデン氏がおおむねリードしている。ただし、トランプ氏には現職の強みもある。このため、共和党と民主党の勢力が拮抗(きっこう)する激戦州での戦いに注目が集まる。

2018年の中間選挙では、ラテン系の人口増加が選挙に与える影響が指摘された。トランプ政権下で移民政策が厳しさを増す中、新型コロナウイルスの感染拡大(以下、コロナ禍)により経済的打撃を受けたラテン系有権者が政治参加を前向きに捉え、社会変革を求めるなど意識の変化もある。今回の大統領選挙でも、大きな影響を与えるとみられる。

人口増で勢いを増すラテン系有権者

米国におけるラテン系(注1)人口は、2008年時点で4,780万人だった。それ以降も右肩上がりに増え続け、2018年には5,990万人になった。全体の人口比では、1970年の5%から18%に上昇。2020年の大統領選挙では、ラテン系有権者は2016年から500万人増加し、3,200万人に達するとみられる。全有権者に占める割合は過去最高の13%になる(注2)。

特にラテン系の有権者の割合が高いのは、ニューメキシコ州(ラテン系の割合:42.8%)、カリフォルニア州(30.5%)、テキサス州(30.4%)、アリゾナ州(23.6%)、フロリダ州(20.5%)(注3、表参照)。中でも、激戦州であるテキサス州、アリゾナ州、フロリダ州は選挙人数(注4)が多く、大統領選挙結果を左右する重要州だ。

表:ラテン系有権者の割合が高い州および激戦州の世論調査支持率状況
州名 選挙人数(人) ラテン系有権者の割合(%) 2020年大統領選挙投票予想平均値に基づく状況 最新調査時期 2016年大統領選挙時の勝者
カリフォルニア 55 30.5 バイデン氏、27ポイントリード 9月 ヒラリー・クリントン(民主党)
テキサス 38 30.4 トランプ氏、3ポイントリード 9月 ドナルド・トランプ(共和党)
フロリダ 29 20.5 バイデン氏、1ポイントリード 9月 ドナルド・トランプ(共和党)
ペンシルバニア 20 5.3 バイデン氏、4ポイントリード 9月 ドナルド・トランプ(共和党)
アリゾナ 11 23.6 バイデン氏、7ポイントリード 9月 ドナルド・トランプ(共和党)
ネバダ 6 19.7 バイデン氏、5ポイントリード 9月 ヒラリー・クリントン(民主党)
ニューメキシコ 5 42.8 バイデン氏、15ポイントリード 9月 ヒラリー・クリントン(民主党)

注:ラテン系有権者の割合の高い州(20%以上)に、ラティーノ・ディシジョンが定義する激戦州を追加。
出所:ピュー・リサーチ・センター、270 トゥ・ウィン

コロナ禍で大きな打撃を受けたラテン系

ピュー・リサーチ・センターの8月の世論調査からは、コロナ禍は特にラテン系市民への経済的打撃が大きいことを示唆している。ラテン系の失業率は4月に18.5%とピークに達した。その後、6月には14.5%まで下がってはいる。このいずれも全米平均失業率(4月は14.4%、6月11.2%)を上回る。また、政府の経済的支援がさらに必要とされる比率も、全国平均が71%なのに対し、ラテン系は78%だ(注5)。別の世論調査(注6)では、ラテン系の47%がここ1年で自身あるいは配偶者が失業したと回答した。これも、全体の27%、黒人層の31%、アジア系の34%を上回るものだ。

また、ブルッキングス研究所の報告(注7)によると、ラテン系の世帯では60%が緊急時に備えた貯蓄が1,000ドル以下、さらに20%は100ドル以下であり、経済的困窮者が多いことを読み取ることができる。

トランプ氏とバイデン氏の攻防が続く重要州

前述のテキサス州、アリゾナ州、フロリダ州はいずれも2016年の大統領選挙でトランプ候補が勝利した。しかし、最近の世論調査では、テキサス州を除き、バイデン氏の支持率がわずかにトランプ候補を上回る状態だ。いずれも、激戦州に色分けされている。これらの3州では、経済再開後にコロナ感染が再び拡大し、コロナウイルス検査の陽性率も高い(注8)。このように、コロナ禍が経済再開の足かせにもなっている。

テキサス州のラテン系人口は、2010年から2019年にかけて200万人増加した。2021年の中ごろには、州内で最大の人種グループを形成すると予測されている。8月にテキサス州で実施された世論調査(注9)では、トランプ氏の支持率がバイデン氏を7ポイントリードしていた。しかし、ラテン系に限れば、支持率はバイデン氏がトランプ氏を9.5ポイントリードする。

3月に同州で行われた民主党の大統領候補争い(予備選挙)で、ラテン系の44歳以下ではバーニー・サンダース氏が5割を超える支持を集めた(出口調査)。45歳以上の支持でサンダース氏を上回ったバイデン氏とは対照的だった。エッセンシャルワーカーの多いラテン系はコロナ禍で最前線に立たされている。それだけに、健康保険への関心が高い。また、若年層の共感を集めたのは、ヘルスケアの充実を目指すサンダース氏の提唱した国民皆保険(メディケア・フォー・オール)などだった。となると、バイデン氏はヘルスケアや最低賃金の引き上げ、移民政策などでラテン系の幅広い世代からの支持を集めることが重要だ。トランプ大統領もテキサス州の重要性を認識する。7月下旬に同州を訪問し、4つのエネルギー関連プロジェクトの許可書に署名するなど、エネルギー関係者を中心に票の獲得を目指している。

アリゾナ州では、隣接するカリフォルニア州の生活コスト上昇やアリゾナ州に進出する企業増加に伴って、人口流入が続く。特に州都フェニックスのあるマリコパ郡は、2年連続で全米で最も人口が増加した郡だ。その中で、ラテン系が人口の30%を占める。2016年の大統領選挙では、州全体でトランプ氏が勝利した。ただし、マリコパ郡では共和党、民主党の得票率差は2012年の共和党11ポイントリードから2016年には共和党3ポイントリードにまで縮まっていた。

さらに、2018年の同州の連邦上院議員選では、民主党のカイルステン・シネマ氏が共和党のマーサ・マクサリー氏を破って当選した。シネマ氏はラテン系の票を75%獲得しており、これが勝利の要因になったといわれる。アリゾナ州を含む4州で8月に実施された世論調査(注10)では、トランプ氏、バイデン氏の直接対決ではともに48%と同率だった。しかし、ラテン系ではバイデン氏が65%と、トランプ氏(35%)を大きく上回った。こうしてみると、11月の大統領選挙でもラテン系の投票の影響が大きいとみられる。

フロリダ州は、各調査会社の分析では激戦州とされている。最近の世論調査では、バイデン氏、トランプ氏の支持率は、ほぼ互角となっている。2018年の中間選挙では、知事選、上院選とも共和党候補が僅差で勝利した。2016年の大統領選挙と2018年の中間選挙を比べると、多くの選挙区で潜在的に民主党支持へのシフトが起こっていたと言われる。しかし、特にラテン系人口が多いマイアミ・デ―ド郡を含む3郡では、2018年の選挙では共和党が優勢だった。今回の大統領選ではフロリダ州のラテン系の票を民主党がどれだけ獲得できるかがカギとなる。

投票を後押しする支援団体

これまで選挙に無関心と言われてきたラテン系移民の意識を高め、米国社会での存在感を固めるために、各種支援団体が活動を続けている。米国のラテン系非営利擁護団体ウニドスUS(UNIDOS US)は、大統領選挙に向けて経済、移民、健康、教育の4つのテーマを掲げてラテン系有権者の積極的な政治参加を促す。

非営利組織ボート・ラティーノ(Voto Latino)はラテン系の若年層に選挙で投票する意義などを説明している。同団体のウェブサイトでは、自身もラテン系でニューヨーク州の連邦下院議員でもあるアレクサンドリア・オカジオ・コルテス氏(注11)が投票の重要性について説くコメントを、ビデオで公開している。同団体によると、ジョージ・フロイド氏暴行死事件の後、6月1~10日のラテン系の選挙登録者は6万3,158人に達し、5月1~10日の登録者2,294人の27倍と急増した。

また、ラテン系人口の多い州で投票促進の活動に従事する市民団体ミ・ファミリア・ボータ(Mi Familia Vota)は、アリゾナ州、フロリダ州、テキサス州を含む9州(注12)で、1,000万ドルをかけてキャンペーンを展開している。ラテン系有権者の投票を促進するためだ。

民主党副大統領候補の効果

8月の民主党全国大会で、カリフォルニア州選出の連邦上院議員のカマラ・ハリス氏が、副大統領候補に正式に指名された。同氏は2019年に民主党大統領候補に立候補し、候補者による民主党討論会ではバイデン氏と肩を並べたこともある。インド系とジャマイカ系の両親を持ち、米国の人種の多様性を象徴する存在だ。そのため、民主党にとってはラテン系を含め多様な人種からの支持を得られることにつながる。

前述のボート・ラティーノとラテン系の政治動向を調査するラティーノ・ディシジョンズ(Latino Decisions)が激戦州とする6州を対象に行った調査(注13)では、ハリス氏が副大統領候補に指名されることを想定した質問で、ラテン系の59%が前向きに受け止めているという結果だった。また、別の世論調査(注14)でハリス氏の指導力について聞いたところ、ラテン系は65%が「強い指導者」(全体54%、白人層50%、黒人層76%)と回答した。一定の評価を得ていることが、ここからうかがえる。

ラテン系住民には、トランプ政権の移民政策の影響で差別主義者の標的にされることへの恐れもあると言われる。「ウォールストリート・ジャーナル」紙とNBCニュースが実施した世論調査(注15)では、ラテン系の60%が「米国社会は差別主義的」と回答した(全体では56%、白人層で51%、黒人層78%)。別の世論調査で、ラテン系はトランプ大統領への不支持率が62%と支持率(33%)を大きく上回る(注16)。このような状況で、政治への関心を高め社会変革に向けて動き始めたラテン系の票は、次回の大統領選挙結果を左右する可能性がある。


注1:
ラテン系は、スペイン語を話すラテン系およびラテンアメリカ諸国からの移民の総称。最近では、ラテン系およびラテン系の総称でラティンクス(Latinx)という呼称もある。本稿では、参考資料の原文がヒスパニック系(hispanic)の表記でも、ラテン系の表記に統一した。
注2:
ピュー・リサーチ・センター2019年10月報告
注3:
ピュー・リサーチ・センター2020年1月報告
注4:
米国の大統領選挙では、ほとんどの州で、州全体の得票数が最も高い候補者が全ての選挙人を獲得する「勝者総取り方式」を採用している。また、有権者は事前に登録し投票資格を得る必要がある。
注5:
調査実施時期は2020年6月16~22日。対象者は全米の成人4,708人、うちラテン系742人。
注6:
デモクラシー・ファンドとUCLAの世論調査。実施時期は2020年7月30日~8月5日。対象者は全米50万人。
注7:
調査実施時期は2020年6月12~19日。ラテン系1,195世帯。
注8:
2020年8月24~30日の陽性率平均値(新規検査数に対する新規感染者数の割合)は、アリゾナ州で7.3%、フロリダ州で12.3%、テキサス州で12.8%、全米平均は、5.7%(出所:ジョンズ・ホプキンス大学)。
注9:
非営利団体テキサス・ラテン・ポリシー・ファウンデーションとライス大学のベーカー研究所が実施した世論調査。実施時期は8月4~13日。対象者はテキサス州の有権者846人。
注10:
ヘリテージ・アクションが実施した世論調査。実施時期は8月2~4日。対象者はアリゾナ州、フロリダ州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州の有権者400人。
注11:
2018年の中間選挙で、ニューヨーク州の下院14区のアレクサンドリア・オカジオ・コルテス氏は、10期務めた現職のベテラン議員を抑えて民主党候補となり当選し、民主党女性議員躍進の一翼を担った。
注12:
前述の3州に加えて、カリフォルニア、コロラド、ミシガン、ネバダ、ペンシルバニア、ウィスコンシンの各州。
注13:
調査実施時期は2020年6月7~19日。対象者はアリゾナ、フロリダ、テキサス、ネバダ、カリフォルニア、ペンシルバニアの6州のラテン系有権者1,200人。
注14:
英誌エコノミストと調査会社ユーガブの世論調査。実施時期は2020年8月23~25日。対象者は成人1,480人、うちラテン系153人。
注15:
調査実施時期は2020年7月9~12日。対象者は全米有権者900人、うちラテン系は10%を占める。
注16:
注14に同じ。
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。

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