遺伝子組み換え食品に関する厳しい規制
トルコへの食品輸出における実務上の課題と注意点(3)

2020年3月27日

トルコへの食品輸出における実務上の課題と注意点(2)に引き続き、本稿では遺伝子組み換え食品に関する規制を取り上げる。現状では、トルコ向け食品輸出において最も大きな課題と言える。

厳しい遺伝子組換え食品への規制

トルコへの食品輸出にあたり、現状もっとも対応が困難な課題は、遺伝子組み換え食品規制への対応だ。トルコ政府は、食品に対する遺伝子組み換え作物(GMO)の使用を認めていない。GMOの流通や表示に関する何らかの規制を持つ国は多く、トルコが加盟交渉を進めるEUでも厳格な管理規定や表示義務があることから、規制があること自体は特殊ではない。しかし、トルコでは、その規制が特に厳しい。実際に、GMO検出を理由に市場から消えたとされる食品がある。数年前に日本食レストランで不足したカレールーや、突然販売されなくなった韓国産インスタント麺は、GMOが原因だったと言われている。

加工食品における「遺伝子組み換え食品」の使用は不可

トルコの遺伝子組み換え食品に関する規制によると、トルコ政府が認可したGMOについては、使用および輸入が認められている(注1)。しかし実際に認可された製品を確認すると、飼料用途では存在するが、食品用途で認可されているGMOはない(注2)。そのため、トルコへのGMOを含む食品の輸入は実質的に禁止されていると見てよい。具体的には、トルコへの貨物到着後、作物および原産地に応じて国際規格に基づくGMO検査が実施され、その結果、「GMO検出」となった場合には、その数値にかかわらず輸入不可となる。

トルコ政府の資料によると、日本はほとんどの作物についてリスク国とされており、大豆、トウモロコシなどの作物、あるいはこれらに由来する食品を使用している場合には、輸入時に毎回検査が実施される。この検査では微量のGMO検出すら許されず 、GMOの観点では「検出」「不検出」の2択のみで輸入可否が判断されている。通関においては、あくまでトルコ到着後の検査結果のみが有効であり、外国検査機関の検査データは商談時の参考にしかならない(図参照)。輸入時のGMO検査でGMOが検出された場合、商品は輸入不可となり、廃棄または返送扱いとなることから、その損害は非常に大きい。さらに、酵母エキスや麹(こうじ)といった微生物を含む原材料を含む食品については、微生物が遺伝子組み換え体でない旨の書類も求められる。

「意図せざる混入」は実質的には適用されず

一般にGMOについては、分別生産・流通管理したとしても、原料段階や輸送、製造等の過程で、偶発的あるいは技術的に避けられないGMOの「意図せざる混入」が発生し得るとされている。そのため、EUや日本では認可されたGMOに限るが、一定の許容値が認められている。EUは混入率0.9%未満、日本は同5%以下と定められており、これらの範囲内で条件を満たせば「意図せざる混入」と扱うことが可能であり、各国の規則に応じて表示不要または「遺伝子組み換えでない」「GMO Free」などを表示することが可能である。

トルコについては、規則がEU準拠であり、「意図せざる混入」の許容値はEU同様、混入率0.9%未満とされている。しかし、そもそも食品に関して認可されたGMOが存在しないため、この「意図せざる混入」は実質的に適用されない。トルコの政府系検査機関のGMO検査責任者はジェトロのヒアリングに対し、「他国と比べても、食品については厳しい基準を採用し、厳密に検査を実施している」とする。ある大手輸入業者は、商談時に「食品に関するGMO検出の基準値は0.01%だと考えてほしい」と説明している(注3)。

輸入者はGMO不検出の保証を要求

このようなGMO規制を背景に、多くのトルコ側輸入業者は各国の輸出者または製造業者に対して、「GMOの不使用・不検出」を保証するよう求める。さらに、輸入時の検査でGMO検出となった場合の廃棄・返送費用は輸出側負担とすることを、ビジネスの条件として求めている場合もみられる。

これに対し、日本企業のGMO不使用食品は、GMO不使用を前提に製造や物流が管理されてはいるものの、多くの場合はEUや日本の基準を前提としている。そのため、特にGMOを商業栽培している国から輸入された原料、あるいはその輸入原料から作られた原材料を使用している場合には、「意図せざる混入」により微量のGMOが検出される可能性がないとは言えず、トルコには輸入ができない可能性がある。また、高度な加工や発酵処理がされた食品の場合には、製造の過程で遺伝子組み換えDNAが分解されることから、仮に商品に微量の「意図せざる混入」があったとしてもGMOの検出は難しく、輸入実務上は問題とならない可能性もあるが、GMO不使用・不検出の「保証」までとなると、日本企業はためらわざるを得ない。

検討可能な対応策

このような状況を踏まえ、現状、日本企業が取り得る対策は限られている。ビジネスを考えると現実的でない対策も含まれるが、過去の商談で実際に検討された対策案としては、表のようなものがある。トルコ市場の開拓に取り組もうとする日本企業は、このような対策にかかるコストや手間と、現実的なGMO検出リスクやビジネスとしての期待度を総合的に勘案し、ビジネス上の判断をしているのが実態である。

GMOについて頭を悩ませているのは日本企業だけではない。過去には欧州の世界的大手食品メーカーの検査担当者も、政府系検査機関を訪れて遺伝子組み替え食品検査についてヒアリングを行ったようであり、筆者が同検査機関を訪れた際には、英国企業の大豆製品が事前検査のために大量に運び込まれていた。トルコ市場を開拓するにあたって、世界各国企業が対応に苦労している共通課題だと言えよう。

表:過去に見られたGMO規制への対策例
ポイント 対策
1.商品選定段階
  • 原材料や製造工程が複雑になるほどリスク管理が難しいことから、原材料の少ないシンプルな商品に絞って商談を行う。
2.原料・製造段階
  • GMO混入リスクのなるべく低い産地から非GMO原料を仕入れ、GMOを含む可能性がある食品とは製造ラインを分けることで、「意図せざる混入」リスクを可能な限り下げる。
  • 例えば、国産原料のみを使用し輸入原料を使わない工場で製造する、米国産原料は使用しない、など
3.出荷前(日本)
  • 原料の仕入れ後や商品製造後などに、日本で遺伝子組み換え食品の検査を実施し、可能な限り「意図せざる混入」の有無を事前に把握する。
4.出荷前(トルコ)
  • 輸入業者と協議の上、出荷予定商品のサンプルを製造ロットごとに事前送付し、トルコ側の検査機関で自主検査する。
5.その他
  • 輸入業者とのリスク分担に関する協議や、万が一の事態に備えた保険付保を模索する。
  • 輸入不可となった場合の損害額を最小限とするため、欧州などの在庫を活用し、少量を欧州などの近隣地域から輸出する。

出所:各種資料・ヒアリングに基づきジェトロ作成

果敢に参入し、市場を奪うアジア企業

これまで3回にわたり、日本企業がトルコへの食品輸出を目指す際に直面する課題を紹介した。もちろん紹介した点に加え、EU規則に準拠する汚染物質、添加物、残留農薬などの規制も考慮する必要がある。また、強い価格志向、代金回収リスク、さらにはトルコの消費者が食に対して保守的という難しさも忘れてはならない。

しかし、世界における日本食ブームがトルコにも到来する兆しはあり、人口8,000万人の未開拓市場と考えると、将来的なポテンシャルは大きい。トルコの輸入業者は「日本勢がためらっている間に、残念ながら品質が高いとは言えない他国産の日本食品が市場の需要を満たしている。このままだとトルコ人はこの品質・価格が当たり前だと思ってしまう」と現状を危惧する。アジア各国の企業は未開拓の今を商機と考え、「衛生証明書」や「GMO不使用保証」にも対応し、積極的に売り込みを仕掛けている。豊富とは言えないが、高級スーパーマーケットに行くと中国企業の麺類やワサビ、香港企業の各種調味料が棚に並ぶ。韓国企業はトルコとの自由貿易協定(FTA)による関税メリットを生かして参入を図っている。

本レポートで紹介したとおり、トルコは短期的には実務上の課題が多く、難易度の高い市場と言わざるを得ないが、東日本大震災の影響による放射性物質全ロット検査は2018年に撤廃されている。今後は現在交渉中の日・トルコ経済連携協定(EPA)が締結されれば、ビジネス環境の改善が期待できる。また、2019年には日本からの直接輸出事例が見られたことから(2020年2月14日付地域・分析レポート参照)、トルコ輸入業者からは日本食ビジネスを前向きに検討するとの声が寄せられている。これらを踏まえると、この機を逃さず、トルコの市場性を中長期的な視点で検討しておく価値は十分にあるだろう。

検討にあたっては、欧州や中東への出張機会を利用し、まずはトルコに立ち寄ることをお勧めする。市場規模や経済水準に対して日本食ビジネスが非常に少なく、まだまだ先行者として市場開拓する余地があることがお分かりいただけるだろう。


注1:
遺伝子組換え作物および遺伝子組換え食品に関する規制(GENETİK YAPISI DEĞİŞTİRİLMİŞ ORGANİZMALAR VE ÜRÜNLERİNE DAİR YÖNETMELİK、2010年8月13日付官報27671号)。原文(トルコ語)は、ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます から参照できる。
注2:
バイオセーフティー委員会ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (トルコ語)によると、公表されている認可されたGMOは飼料用途のみ。
注3:
いずれもジェトロのヒアリングによる。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
中村 誠(なかむら まこと)
2008年、ジェトロ入構。対日投資部、海外市場開拓部、生活文化産業部、ジェトロ北海道を経て、2015年12月から現職。