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日本で発行される「人体に影響を与えない」証明書の課題
トルコへの食品輸出における実務上の課題と注意点(2)

2020年3月27日

トルコへの食品輸出における実務上の課題と注意点(1)では、トルコ向け食品輸出の現状を紹介した。今回は、輸出時に求められる証明書の発行に関して、具体的にトラブル発生の経緯や注意点を紹介する。

トルコ政府が輸出国に求める書式要件

トルコ政府は、トルコへの食品輸入に際して「人体に影響を与えない旨」の証明書(衛生証明書)を要求する。トルコの食品輸入関連規制によると、トルコへ食品を輸出する場合には、輸出国または原産国で、「参考」に示した要件を満たす証明書を入手の上、通関前に提出する必要がある。これらの要件は、トルコ政府が全世界に対して共通に求めているものである。衛生証明書の発行機関名については、トルコ農業・森林省のウェブサイト内に掲載されている、トルコ政府がリスト化している各国の機関名と完全に一致している必要があり、小さな相違でもある場合には、トルコ政府から認められない可能性が高い。日本については表1のとおり、民間検査機関を含め100以上の機関名が掲載されている(表1参照)。

参考:衛生証明書の主な要件

  1. 人体に影響を与えない旨の記載
  2. 商品名
  3. 生産地
  4. 製造業者または輸出業者名
  5. 証明書の発行機関・責任者名。ただし発行機関はトルコ政府が認める衛生証明書発行機関リストに掲載され、完全に名称が一致していること
  6. 前述の責任者による署名

注1:トルコ規則上、グローバル証明書と特定証明書が存在するが、日本側の書類は一般的にグローバル証明書が適用されている。そのため、前述はすべてのグローバル証明書の要件であり、特定証明書発行の場合にはインボイスナンバーや製造ロット、重量などの記載も必要になる。
注2:根拠条文は、以下の通り。
植物性由来食品および飼料の輸入に関する公式管理規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (BİTKİSEL GIDA VE YEM İTHALATININ RESMİ KONTROLLERİNE DAİR YÖNETMELİK、官報28731 号2013年8月7日付)。条文は、ウェブサイトで参照できる(トルコ語)。
植物性由来食品、飼料または食品に接する梱包および原料の輸入管理に関する実施指示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (BİTKİSEL GIDA VE YEM İLE GIDA İLE TEMAS EDEN MADDE VE MALZEMELERİN İTHALAT KONTROLLERİNE DAİR UYGULAMA TALİMAT、2013年8月14日付)。内容をウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで検索できる(トルコ語)。
出所:トルコ農業・森林省ウェブサイトおよび各種規則よりジェトロ作成

表1:トルコ農業・森林省が定める衛生証明書発行機関リスト抜粋(日本に関する2014年以降の登録分)(-は値なし)
証明書発行機関名 商品グループ 日付
Japan Ministry of Health, Labour and Welfare Free Sale Certificate
(自由販売証明書)
Public Health Centers Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Center for Public Health Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Environment and Consumer Affairs Office Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Health and Welfare Center Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Health and Welfare Office Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Health Care Center Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Health Center Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Health Office Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Nagoya City Food Hygiene Inspection Laboratory Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Office of Health, Human Services and Environmental Issues Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Office of Health Administration, Department of Health and Environment Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Office of Regional Health, Department of Health and Environment Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Public Health Office Health Certificate
(衛生証明書)
2014
Wholesale Market Sanitary Inspection Station, Tokyo Metropolitan Governmetn Health Certificate
(衛生証明書)
2014
MAFF- Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries - Tarım Orman ve Balıkçılık Bakanlığı Yem ve ürünleri
(飼料関連)
2015
MHLW- Ministry of Health, Labour and Welfare - Japonya Sağlık ,Çalışma ve Refah Bakanlığı Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
MHLW - Hokkaido Regional Bureau of Health and Welfare (Bakanlığa bağlı yetkili birim) Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
MHLW - Tohoku Regional Bureau of Health and Welfare (Bakanlığa bağlı yetkili birim) Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
MHLW - Kanto-Shinetsu Regional Bureau of Health and Welfare (Bakanlığa bağlı yetkili birim) Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
MHLW - Tokai-Hokuriku Regional Bureau (Bakanlığa bağlı yetkili birim) Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
MHLW - Kinki Regional Bureau of Health and Welfare (Bakanlığa bağlı yetkili birim) Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
MHLW - Chugoku-Shikoku Regional Bureau of Health and Welfare (Bakanlığa bağlı yetkili birim) Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
MHLW - Kyushu Regional Bureau of Health and Welfare Gıda ürünleri
(食品関連)
2015
Foof İnpection and Safety Division Pharmaceutical Safety And Environmental Health Bureau The Ministry of Health, Labour and Welfare, Japanese Government 2018
National Tax Agency (NTA) Alkollü İçkiler
(アルコール飲料)
2019

注:日本に関して2014年以降に認定された発行機関のみ表示。「-」は、元資料に記載がない項目。
出所:2019年12月25日にトルコ農業省ウェブサイトからダウンロードした資料に基づきジェトロ作成

トルコ政府による書類審査は厳密なことから、トルコ側の輸入業者と協議の上、前述の要件を完璧に満たす証明書を入手することが重要であるが、証明書の書式については特段指定がなく、トルコ政府としては政府間協議や各国内の書式統一までは求めていない。必要要件さえ満たしていればよいという立場をとっているためだ。

では、なぜ保健所の衛生証明書の活用ではトラブルが多発したのか、また、なぜ両政府が有効とするにもかかわらず自由販売証明書は活用されないのか。

日本の保健所に存在しない「衛生証明書」

日本企業は輸出に際し、トルコ輸入業者から過去に通関で使用した書類サンプルを提示され、類似の「衛生証明書」を入手するよう求められることが多い。実態上は、日本国内の保健所が発行した衛生証明書や欧州各国政府が発行した書類をサンプルとして提示されることが多く、場合によっては、念のため外務省のアポスティーユ(公印確認、官公署や自治体などが発行する公文書に対する証明)も入手するよう求められる。

しかし、ここで日本側に問題が発生する。水産物や畜産物のように個別に手続きが定められている場合を除き、日本の各保健所においては、英文の衛生証明書の書式や発行手続きが存在しない。各保健所は、管轄する地域企業からトルコ向け輸出に向けて証明書の発行を求められた場合、個別に英文の衛生証明書の発行可否を検討してきた。しかし、書式などが定められていないことから、衛生証明書の発行可否は保健所次第であり、過去に類似の書類を発行した実績がない場合は、可否の判断に慎重になる。地域によっては、発行不可と判断する事例も実際に見られた。

発行可能と判断された場合であっても、日本・トルコ間の公式文書に関する文化・慣習が異なる中で、統一書式のない書類を作成する必要があることから、両国企業間で正確に認識を共有し、証明書が要件を満たすように保健所と調整することが重要となる。要件を満たさない場合には、表2のような細かい指摘がトルコ政府からなされ、輸入通関ができなかった事例がある。もちろん、書類の修正や再発行を要する場合には再度、保健所と個別に相談しなければならない(注1)。

表2:ジェトロの把握する過去の衛生証明書記載内容とトラブル例
証明書の必須項目 実際に見られた記載内容 主なトルコ政府からの指摘事例
人体に影響を与えない旨の記載
  • この製品は食品衛生法により製造され、人間の消費に適している
  • 人間のために製造された食品であり、日本国内で自由に販売できるものである
  • A社は食品衛生法に基づく食品製造施設にて、製造を行っている食品製造業者である
  • 「製造国で自由に販売されている」「製造国の法規則に基づき製造された食品」「人間の消費に適している」といった文言が明確に記載されていない場合には、トラブルになる可能性あり。
発行機関名
(保健所)
  • Public Health Office
  • Public Health Center
  • Governer of都道府県、Mayor of 市町村名
  • 保健所の英語名称が、農業・森林省のリスト(表1)に記載されたものと完全一致しない場合はトラブル発生。
  • 発行者が首長、都道府県・市町村、衛生当局名などの場合、農業・森林省のリスト(表1)と一致しないためトラブル発生。
  • 農業・森林省のリスト(表1)には保健所の個別地域名は記載されていないが、書類に「地域名」が記載されている場合、リストと一致しないとの指摘がなされた事例あり。
責任者名
署名
  • 役職名、公印
  • 役職名、責任者名、サイン
  • 役職名、責任者名、サイン、公印
  • 日本では公印を持って公式書類とされるが、トルコ側では公印だけでは効力なし。必ず責任者の個人名と直筆サインが求められる。

出所:各種資料・ヒアリングに基づきジェトロ作成

時間と手間を要するトラブル対応

トルコ側の規則では、証明書の発行機関についてその有効性に疑義が生じた場合は、在トルコの各国大使館・総領事館から「本証明書の発行機関は発行権限を有する適切な機関である」といった旨の文書を入手することで、有効性を確保できるとも定められている(注2)。実際、複数の欧州各国大使館は商務官名などで文書を発行したことが確認されている。トルコ側の輸入業者からは、在トルコ日本大使館や在イスタンブール日本総領事館に対して、このような書類に関する照会が寄せられたものの、原則発行されてきておらず、大使館・領事館は公印の認証のみ対応している。トルコ側の規則ではトラブル解決のための救済策が講じられているにもかかわらず、日本の場合は保健所から再度書類を取り寄せねばならず、他国と比べて対応に手間と時間を要したことも事業者にとっては問題となった(注3)。

以上のように、証明書の発行について両国の様々な事情が重なり合い、「日本からの輸出は『実質的に』不可能」という認識が生まれた。加えて、トルコ農業・森林省による書類審査は厳密とされる一方で、時にトルコ側の定める必要要件を完璧に満たしていないにもかかわらず、説明や運用によって柔軟に対応されたケースもあると言われる。このような個別の事例が、通関トラブルを防ぐための対策が何であるかをより分かりにくくしていたといえよう。

浸透しない自由販売証明書の有効性

日本政府は、このようなトラブルを解決して日本産食品の輸出拡大に向けた環境を整備すべく、トルコへの食品輸出における実務上の課題と注意点(1)で紹介したとおり、2014年にトルコ政府との間で「自由販売証明書」の有効性を確認した。発行体制も各地方厚生局で公式に整備し、2015年には書式を修正してトルコ専用様式を作り、書類に関する不確定要素をすべて取り除いた。実際に2016年以降、少量ではあるが自由販売証明書を活用したスムーズな輸出通関事例が確認された。これで保健所の衛生証明書を使う必要はなくなり、筆者としても、トルコへの食品輸出の道は開かれたと考えていた。

しかし、残念ながら書式制定から3年以上たっても、自由販売証明書の存在や有効性は十分にトルコの輸入業者の間で浸透しなかった。ジェトロからもトルコの各輸入業者に繰り返し説明し、ようやくスムーズな通関の決め手としての自由販売証明書の活用へ理解が得られてきたものの、その有効性に確信が持てない現地企業が多かったためである。過去に多くのトラブルを経験してきた輸入業者の本音は、「色々とトラブルがあるが、日本から輸入する場合には前例を踏襲して衛生証明書を使った方が安心」というものである。

トルコにおける日本食品輸入のパイオニア的な企業は「いくら日本側で公式発表された書類だとしても、トルコ政府による、トルコ語で書かれた根拠や公式見解を確認できない現状では、この書類の使用にリスクを感じずにはいられない。私は過去に使った書類を使い、引き続き欧州経由で輸入する」と筆者に語った。トルコ政府は証明書の書式制定までは各国に求めないというスタンスであることから、日本の自由販売証明書の有効性を証明するようなトルコ語の公式資料は存在しない。そのため、前述のような輸入業者の不安を払拭(ふっしょく)する有効な手立てもない。

日本側の輸出業者にすれば、トルコ側の輸入業者の求めに応じて書類を準備することが一般的であり、トルコ側が日本の保健所の衛生証明書サンプルを提示したのであれば、当然、最寄りの保健所に衛生証明書の発行可否を問い合わせる。よほどトルコ・ビジネスの経験が豊富でなければ、自由販売証明書の有効性を事前に把握し、リスクの低い書類として逆提案することは難しいだろう。これが、長年課題とされてきた証明書発行問題の構図だ。

自由販売証明書の積極的活用を

2019年に入り、ようやく複数の日本食品輸出事例が商業ベースで実現した。個別の商品に応じた調整事項はあったが、これらの輸出においては自由販売証明書を活用したことで、証明書に関するトラブルは発生しなかった。これは両国の輸出入当事者にとっても重要な事実であり、2国間の証明書問題が解決済みであったことが、改めて証明されたと言えるだろう。これらを踏まえ、今後、トルコへの食品輸出を検討する場合は、輸入業者に対して積極的に自由販売証明書の活用を提案するのがよいだろう。保健所の発行する衛生証明書も理屈上は有効であるが、合意された書式がないことから、どのような指摘がされるか予想がつきにくく、リスクも伴う。また、そもそも保健所から入手できない場合も実際にある。他方、自由販売証明書については、その有効性を両国政府が確認しており、実例もあることから信頼性は高い。

万が一、輸入業者が過去の経験から、強く保健所の衛生証明書の入手を求めてきた場合には、ビジネスが安定するまでは自由販売証明書と衛生証明書の両方を用意しておくことを強く勧めたい。自由販売証明書は出荷前にのみ入手可能であり、衛生証明書をつかって通関トラブルが生じたとしても、事後的に自由販売証明書で対応することはできないためである。念のため両書類を準備しておくことで、リスクを低下させることができる。衛生証明書を入手する場合は、保健所と相談の上、衛生証明書 作成時の注意点PDFファイル(608KB)を満たす書類を入手することが大切だ。これらを満たしてもトラブルを確実に回避できるとは言えないが、直近のトラブル事例や、在トルコ日本大使館によるトルコ農業・森林省への照会結果などを踏まえると、リスクが低く現実的に発行可能な書類サンプルであると考える。

2019年11月に成立した「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律案」により、2020年4月以降は日本側の証明書発行体制が変更される予定だ。トルコ向け取引を検討する場合は、日本側の最新状況を確認しながら証明書を準備してほしい。


注1:
ジェトロ・イスタンブール事務所では、複数の衛生証明書サンプルを入手しているが、書式は定まっていないことから、記載内容や体裁が少しずつ異なる。
注2:
植物性由来食品、飼料または食品に接する梱包(こんぽう)および原料の輸入管理に関する実施指示(2013年8月14日付)
注3:
ジェトロ・イスタンブール事務所から大使館や総領事館にヒアリングした結果に基づく。どうしても日本国大使館または総領事館から文書を入手する必要がある場合は、個別に事情を説明して発行可否を確認することをお勧めしたい。なお、過去のトラブル事例では、他の公的機関(例えばジェトロ)の書類では効力がなかった。

変更履歴
文章中言及されていた資料が添付されていない誤りがありましたので、以下の通り訂正し該当資料へのリンクを付しました。(2020年4月22日)
小見出し「自由販売証明書の積極的活用を」第2段落
元の文:保健所と相談の上、別添のチェックポイントを満たす書類を入手することが大切だ。
訂正後:保健所と相談の上、衛生証明書作成時の注意点(608KB)を満たす書類を入手することが大切だ。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
中村 誠(なかむら まこと)
2008年、ジェトロ入構。対日投資部、海外市場開拓部、生活文化産業部、ジェトロ北海道を経て、2015年12月から現職。

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