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3つの要素から見る米国の大統領選挙

2020年7月9日

11月に予定される大統領選挙。その行方を占う要素はさまざまある。このレポートでは、(1)新型コロナウイルスへの対応、(2)警察官による黒人暴行死事件の影響、(3)民主党側の副大統領候補選出の3つのポイントについてまとめた。

このほか、ドナルド・トランプ大統領が打ち出した非移民ビザによる入国制限措置について補足する。

各州の経済再開と新型コロナウイルス感染者の状況

まず、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた米国の動きを振り返っておく。トランプ大統領は3月13日、国家非常事態宣言を発令。これを受けて、ほとんどの州で自宅待機令が出された(注)。これに伴い、経済活動が停滞。その後、4月下旬から各州がそれぞれ段階的に規制緩和を進めた。マスク着用やソーシャルディスタンシングなど感染防止の措置を取りながら、基本的な経済活動再開が進められている。しかし多くの州で、6月中旬ごろから感染が再び広がりつつある。

6月18~24日の1週間の検査数に対する陽性者の占める割合(陽性率)を各州で比較したところ、アリゾナ州が23.0%と最も高い。サウスカロライナ州(16.2%)、ミシシッピ州(16.1%)が続く(表1参照)。上位 17州が軒並み、共和党が優勢とみられる共和党州か民主党と共和党の勢力が拮抗(きっこう)する激戦州だ。これらの多くは、4月20日にいち早く経済再開を開始したサウスカロライナ州、同24日に再開したテキサス州やジョージア州など、4月下旬から5月上旬の比較的早い時期に経済再開に乗り出した州でもある。

表1:陽性率10%以上の州
順位 州名 支持政党の傾向 陽性率
(単位:%)
1 アリゾナ 激戦州 23.0
2 サウスカロライナ 共和党州 16.2
3 ミシシッピ 共和党州 16.1
4 フロリダ 激戦州 14.4
5 ユタ 共和党州 13.2
6 テキサス 共和党州 11.4
7 ネバダ 激戦州 10.2
8 ジョージア 激戦州 10.1

注:2020年6月18日~24日のデータ。「陽性率」とは、この間の新型コロナウイルスの検査件数に対する陽性者数の割合。
出所:Covid Tracking Projectデータからジェトロ作成

民主党州の中で最も高いカリフォルニア州は、18位だ。陽性率は5.6%で、50州平均の5.9%を下回る。ギャビン・ニュ―サム州知事(民主党)は感染者の増加に対応して6月18日、州内でのマスクなどフェースカバーの着用を義務付けると発表した。同州以外で陽性率が高い民主党州は、メリーランド州(4.8%)、ワシントン州(4.8%)だ。ニュージャージー州やニューヨーク州などの民主党州でも、州としてマスク着用義務が制定された。

一方、共和党州では、州全体でマスク着用義務を課す対応は比較的まれだ。むしろ、各自治体の対応に任される傾向があった。例えば、フェニックス周辺を中心に感染者が急増するアリゾナ州。ダグ・デューシー州知事(共和党)は、州全体のマスク着用義務を制定せず、着用の是非を各自治体の状況によって判断するよう促している。

なおテキサス州では、フェースカバー着用に関する規則の権限をめぐって動きがあった。9都市の市長が6月16日、連名でグレッグ・アボット州知事(共和党)宛てに書簡を送り、各市の裁量による制定権限を認めるよう求めた。同州知事は、感染拡大を受け、7月2日にマスク着用を義務付けることを発令した。

トランプ大統領はこれまで、公衆の前でもマスクやフェースカバーを着用していない。共和党州などで陽性率が高いのには、大統領が新型コロナウイルスの効果的予防策としてのマスク着用を呼びかけないことにも一因があるとも言われている。共和党州や激戦州の陽性率の高さが経済再開のペースを遅らせることも懸念される。共和党議員からもマスク着用に対する大統領の認識の低さを指摘する声ある。この状況下、トランプ大統領もマスク着用に賛成の意向を示し始めた。

バイデン氏は、新型コロナウイルス対応でトランプ大統領のリーダーシップが欠如していると非難する。今後の対策や各州での感染状況が両候補の支持率に大きく影響を与えそうだ。

黒人暴行死事件の社会的広がり

続いて、警察官による黒人暴行死事件についてみる。

中西部ミネアポリスで発生したこの事件は、全米各地での抗議デモにとどまらず、影響が大きく広がりつつある。例えば、大手テック企業が抗議活動への支持を表明し、化粧品メーカーが差別に配慮して商品の名称変更を発表する動きがあった。

米国シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが6月12日に発表した調査結果によると、デモに関するトランプ大統領の発言について、6割が「誤った発言」と回答した。人種別では、白人層が51%と、黒人層(85%)やヒスパニック系(71%)、アジア系(69%)との相違が大きかった。また、48%が「トランプ氏が人種問題を悪化させた」と回答。人種別には黒人層が68%、アジア系が62%、ヒスパニック系が55%と白人層(42%)を上回った。

このような状況で、トランプ氏とバイデン氏の大統領選での直接対決を想定した全国の世論調査の平均値(6月22日~7月7日)では、バイデン氏が49.6%、トランプ氏が40.9%とバイデン氏が8.7ポイントリードした。7月2日にモンマス大学が発表した世論調査結果では、バイデン氏53%、トランプ氏41%だった。共和党支持者は87%がトランプ氏支持で、民主党支持者は92%がバイデン氏支持と、党派によって両極端に分かれる結果だ。人種別では、白人層がトランプ氏48%、バイデン氏46%と拮抗しており、黒人層・ヒスパニック系はトランプ氏24%、バイデン氏68%とバイデン氏がリードする。

トランプ大統領は事件の犠牲者への哀悼よりも、派生したデモなどの言及が多い。これに対してバイデン氏は、非難の声を上げている。黒人層やヒスパニック系のトランプ氏への反発が大統領選挙にどう影響するか注目される。

女性、非白人が注目される副大統領候補

マイノリティーへの配慮や先の黒人暴行死事件の影響もあり、民主党の副大統領候補に女性で非白人が選ばれる可能性が高まったといわれる。現在、女性候補者として11人が挙がっている(表2参照)。中でも、カマラ・ハリス氏やエリザベス・ウォレン氏は民主党の大統領候補でもあったことから、全国的に知名度が高い。

表2:2020年民主党副大統領候補と目される人物(女性)
No 名前 年齢
(歳)
人種 現職・前職 主な政治的主張
1 カマラ・ハリス 55 非白人 現連邦上院議員(カリフォルニア州) 中産階級の減税、警察制度改革
2 エリザベス・ウォレン 70 現連邦上院議員(マサチューセッツ州) 巨大企業の解体、富裕税の導入、社会保障制度改革
3 ケイシャ・ランスボトムズ 50 非白人 現アトランタ市長 警察制度改革、人種問題
4 バル・デミングス 63 非白人 現連邦下院議員(フロリダ州) 銃規制、司法改革
5 スーザン・ライス 55 非白人 オバマ政権の国連大使 イラン核合意、パリ協定
6 ミッシェル・ルーハングリシャム 60 現ニューメキシコ州知事 クリーンエネルギー推進、最低賃金引き上げ、移民制度
7 タミー・ダックワース 52 非白人 現連邦上院議員(イリノイ州) 国防、障害者政策
8 タミー・ボールドウィン 58 現連邦上院議員(ウィスコンシン州) ヘルスケア、対中貿易
9 グレッチェン・ウィットマー 48 現ミシガン州知事 ヘルスケア、インフラ整備、最低賃金引き上げ
10 ステイシー・エイブラムス 46 非白人 元ジョージア州下院議員 選挙制度改革、ヘルスケア、司法改革
11 カレン・バス 66 非白人 現連邦下院議員(カリフォルニア州) 環境、知的財産、ヘルスケア、経済

出所:各種報道を基にジェトロ作成

キニピアク大学の世論調査では、大統領選挙で副大統領候補者の重要度について聞いたところ、「非常に重視する」(55%)、「やや重視する」(33%)を合わせて88%と関心が高い。

英誌「エコノミスト」と英調査会社ユーガブが6月にバイデン氏に投票する意思のある人を対象に実施した調査によると、バイデン氏が女性を副大統領候補に選ぶべきと考える人は80%、否定する人は5%だった。選ぶべきと考える人の割合は、白人層(81%)、黒人層(74%)、ヒスパニック系(83%)で、人種間の違いは少なかった。また、アフリカ系の副大統領候補を選ぶべきと考える人は58%、否定する人は6%と、過半数は肯定的だ。アフリカ系候補を選ぶべきとする人の割合を人種別で見ると、黒人層(71%)、ヒスパニック系(61%)が白人層(55%)を上回る。

同調査では、民主党の副大統領候補として選ばれるべきは誰かという問いに対しては、ハリス氏が25%、ウォレン氏が23%と上位を占めた。2人に次いで、前回の中間選挙でのジョージア州知事選でブライアン・ケンプ氏と接戦になって敗れたステイシー・エイブラムス氏が8%、オバマ政権の国連大使だったスーザン・ライス氏が6%で、その他の候補者は5%以下にとどまった。

大統領選挙では、ウィスコンシン州やミシガン州などの激戦州を制することが重要だ。このことから、タミー・ボールドウィン氏(ウィスコンシン州選出連邦上院議員)、グレッチェン・ウィトマー氏(ミシガン州知事)が選ばれる可能性もある。激戦州のジョージア州でアトランタ市長を務めるケイシャ・ランスボトムズ氏は非白人でもあり、注目を集める。バル・デミングス氏(フロリダ州選出連邦下院議員)は知名度では他の候補者より劣るものの、トランプ氏の弾劾裁判で弾劾管理人を務めた同氏をバイデン氏は高く評価している。

主要候補とは見なされてないが、中西部の激戦州、アリゾナ州での得票を重視する観点から、候補として元アリゾナ州知事、オバマ政権で国土安全保障長官だったジャネット・ナポリターノ氏の名前も挙がっている。

女性で非白人という条件、およびバイデン氏とのバランスを考慮して、ハリス氏、デミングス氏、ライス氏が有力という見方もあり、その選択によりバイデン氏の支持者が多い黒人層の投票率を高める効果が期待でき、民主党の勝利を確実にするために必要とも言われる。

ビザ制限措置の影響は

トランプ大統領は、経済の好調を追い風に再選を目指していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済状況が悪化し、強みとなっていた経済をアピールすることが困難になってきた そこで打ち出したのが、非移民ビザによる入国の一時停止・制限だ。大統領は6月22日、外国人が特殊技能職(H-1B)ビザなど一部の非移民ビザで入国することを、2020年末まで停止・制限すると発表した(2020年6月23日付ビジネス短信参照)。目的は、米国民の雇用を守るためとされる。この政策の支持者は、就労者の流入により賃金レベルが引き下げられているという見方を示す。

しかしこの措置は、米国内企業の人材採用などビジネス展開への影響も考えられる。例えば、ミシガン州労働・経済開発庁は6月30日、企業や関係機関に向けて反対声明を発出した。外国人就労者の制限が産業やイノベーションに与える負の影響を懸念するという。声明では、民主党の副大統領候補にも挙がっている同州のウィトマー州知事が「ミシガン州は広く開かれた州であるべきだ」との見解を示した。


注:
自宅待機令を発動したのは、全米50州のうち42州(2020年4月22日付地域・分析レポート参照)。
各種調査の調査時期、対象者数
ピュー・リサーチ・センター調査 6月4~10日、全米成人1万1,013人対象、回答者9,654人
キニピアク大学調査 6月11~15日、全米の有権者1,332人対象
モンマス大学調査 6月26~30日、全米の有権者867人対象、回答者733人
エコノミスト、ユーガブ調査 6月28~30日、成人649人対象(ジョー・バイデン氏に投票する人)
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。

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