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未曾有の危機への対応に苦悩する在米日系企業(米国)

2020年4月22日

新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るう中で、米国でも感染者数、死者数は瞬く間に急増し、ともに世界一となっている。感染拡大に伴い、米国での事業環境も短期間のうちに激変した。戦後最長の景気拡大を記録し、成長を謳歌(おうか)していた米国経済も、2020年第2四半期(4~6月)は大幅なマイナス成長が確実視されている。米国内の事業環境はどう変化し、それによって、現地日系企業がどのような課題に直面しているのか。最近、ジェトロが在米日系企業を対象に実施した緊急・クイックアンケート調査PDFファイル(1.46MB)(2020年4月6~8日実施、1,048社回答、以下、アンケート調査)の結果などを参考にしながらこれらの点を整理してみたい。

42州が自宅待機令を発動

感染拡大による事業環境の変化としては、3点が挙げられる。1つ目は、州政府などによる自宅待機令(注1)の発動だ。感染対策として、多くの州では人同士の接触を極力減らし、社会的距離(Social Distance)を徹底するために、自宅待機令を発動している。これにより、人々の最低限の生活維持に「必要不可欠な事業(essential business )」(注2)以外は職場での事業を禁止し、在宅勤務を義務付けている。4月15日時点で、そうした自宅待機令を州全体で発動している州は50州のうち42州に上り、3つの州でも一部の地域で自宅待機を命じている。アンケート調査では、在米日系企業の過半数(50.6%)の企業が在宅勤務を義務付けられていると回答している。特に感染が深刻なニューヨーク州を含む北東部では、その割合は7割に上る。この影響で工場の操業停止を余儀なくされている企業も多い。ただし、一方で、43.5%の企業が「必要不可欠な事業」として、職場での事業を継続していると回答している。

経済活動の低下で需要の減少が顕著

2点目として、前述の自宅待機令による影響も大きいが、経済活動の低下によって、多くの分野で需要の減少が顕著になっている。アンケート調査によると、製造業で、生産を中断、または通常未満の稼働率で生産している企業は約7割に達した。生産が減少している理由を聞いたところ、約4分の3の企業が「取引先の減産を含む国内需要の減少」を理由に挙げている。3月下旬ごろから、自動車メーカー各社が米国内での生産を一時停止しており、そうした点も影響が大きいとみられる。

3つ目は、入国制限の強化だ。日本から米国への入国は禁止されていないが、日本からの入国者は入国から14日間にわたり、ホテルなどの宿泊先や自宅などにおいて待機を命じられる。逆に、米国から日本への入国者も同様に、14日間の自宅待機を求められる。また、3月19日から米国大使館でのビザ面接も停止されている。

最優先課題は従業員の安全確保

このような短期間における事業環境の激変から、在米日系企業は未曾有の困難に直面している。その課題を7つに整理してみた(表参照)。それぞれが関連しあっているものも多いが、順にみていきたい。

まず、最優先に取り組まなくてはならないのが、「従業員の安全確保」だ。特に、「必要不可欠な事業」に該当し、工場の操業が可能な場合、どうやって感染者を出さずに操業を続けるのか、非常に困難な課題を突き付けられている。米国疾病予防センター(CDC)のガイドラインでは、人と人の距離を6フィート(約1.8メートル)取るように指導されているが、そのようなスペースが取れないなどの悩みも聞かれる。毎日、体温を測ることを強要できるのかなど、労務管理的な観点から気を使わなくてはならないことも多い(注3)。

また、感染が広がる中で、駐在員やその家族を一時帰国させるべきか、という判断に悩む企業もある。ただし、アンケート調査では、移動による感染リスクへの不安や帰国後の滞在先確保が困難であることなどから、企業の駐在員について7割(70.8%)が、駐在員の家族は6割(59.6%)が、一時帰国しない予定と回答している。

表:在米日系企業が直面している課題
課題 具体例
従業員の安全確保 感染対策、駐在員・家族の一時帰国の判断
在宅勤務下での業務遂行 労務管理、営業の制約、メンタル面のケア
雇用の維持 在宅勤務できない人の処遇、給与支払い期間、解雇の判断
資金繰り 運転資金の枯渇、特に飲食・旅行関係などで深刻
規制・支援策の解釈 申請手続き、条件等の詳細把握、承認されるか不明
ビザ更新・新規申請 ビザ面接停止でビザの更新、新規赴任ができず
先行きの見通しが立たない 事業再開の時期がわからない

出所:ジェトロ緊急クイックアンケート調査、個別ヒアリングなどよりジェトロ作成

課題多い在宅勤務による業務遂行

一方で、こうした状況であっても事業を継続していくことが求められる。特に在宅勤務が増える中で、業務遂行の難しさにも直面している。在宅勤務の導入によってどんなことが懸念されているのかをアンケート調査で聞いたところ、最も回答の割合が高かったのが「営業活動の制約」で、過半数(52.6%)の企業が選択している。対面で直接、営業活動ができないことで、今後、売り上げが落ちることを懸念する声が聞かれる。これとほぼ並ぶ割合(51.8%)の回答が、「社員間のコミュニケーション不足などによる生産性の低下」である。また、「在宅勤務ができない人(工場や倉庫の作業員)の処遇」(35.5%)も課題になっている。そのほか、「勤怠管理」(34.1%)、「顧客サポートの低下」(31.7%)、「社員のメンタル面のケア」(31.6%)もそれぞれ3割以上の企業が選択しており、悩みは尽きない。

雇用の維持に難しい判断を迫られる

企業によっては、雇用の維持が差し迫った課題になっている。前述の通り、在宅勤務を義務付けられる中で、特に製造業で工場の操業が停止してしまい、現場の作業員などの業務がなくなってしまった場合、また、飲食店などで業務ができなくなってしまった場合の従業員をどう処遇するのか、給与はいつまでいくら払うのか、解雇せざるを得ないのか、非常に重い決断を求められている。いったん解雇した場合、事業を再開した際に、すぐに戻ってきてもらえるのか、という懸念も聞かれる。これは同時に、資金繰りの問題にも直結する。工場の操業やサービスの提供が止まり、売り上げがなくなる中で、従業員に支払う給与に加え、テナント料など運転資金の枯渇も懸念されている。特に、飲食店や旅行関係などで深刻な影響がみられる。

支援策や新たな規制の詳細を把握するのに苦慮

こうした資金繰りの解決策として、関心を持たれているのが連邦政府や州政府の支援策だが、制度や手続きの詳細を把握するのに苦労している、との声も聞かれる。アンケート調査で、支援策の活用状況を聞いたところでは、現状、連邦政府から提供されている支援策が中小企業向け中心ということもあってか、「利用の予定はなし」との回答が半数を超えた。一方、約4分の1の企業が「利用を検討している」と回答し、「関心はあるが情報を把握できていない」とする企業も14.5%と一定の割合を占めている。現状では、特に中小企業庁(SBA)が提供する給与保護プログラム(Paycheck Protection Program:PPP)に関心が集まっている(注4)。従業員500人以下の企業を対象とした融資プログラムではあるが、一定期間、従業員の雇用を維持した場合は、従業員の給与経費、既存の不動産ローン、家賃、リース契約などで支払った経費は全て免除される。このため、資金繰りの問題を抱える企業から大きな期待が寄せられている。ただし、SBAは4月16日に、財源枯渇のためPPPの新規申請を停止すると発表している。今後、追加財源が投入されるかなど、動向を注視する必要がある。そのほか、支援策以外でも自宅待機令などの規制について、例えば、州によって「必要不可欠な事業」の定義が異なり、事業所として事業継続可能か判断が難しい、といった声も聞かれる。

ビザの問題で悩んでいる企業も少なくない。前述の通り、米国大使館は現在、ビザ取得のための面接を停止している。ビザの更新期限が近づく中で日本に帰国した場合、更新していつ戻ってこられるのか、という不安の声が聞かれる。また、人事異動で駐在員を交代させる時期なのに、後任のビザがいつ取得できるかわからない、という問題も顕在化している。

事業再開の見通しは立たず

最後に、そもそも、この感染拡大がいつ終息して、いつから事業が再開できるのか見通しが立たないという点が最も悩ましいところである。米国内では、毎日の新規感染者数が高い水準にありながらも、4月8日ごろ以降は3万人前後で横ばいになってきており、感染拡大のペースはピークに達したように見える。トランプ大統領は4月14日、経済再開に向けた将来設計のための「偉大なる米国経済復興産業グループ(Great American Economic Revival Industry Groups)」の設立と主要企業の代表者らから成るメンバーを発表、また4月16日には、市民生活やビジネス活動の再開のためのガイドラインを発表し、これに呼応する形で、4月24日からテキサス州で一定の制約のもと、小売店舗の開店が認められることになるなど、経済活動の再開に向けた動きも見られ始めた。しかし、自宅待機令の解除や入国制限の緩和に向けた具体的なタイミングはまだ見えず、むしろ、各州・自治体による自宅待機令の期間の延期が繰り返されている。在米日系企業は当面の間、視界不良の中で、前例のない厳しい事業運営を迫られるといえるだろう。


注1:
極力、外出を控え、必要不可欠な事業以外は企業に在宅勤務を義務付ける自宅待機令は、州によって呼称が異なるが、本稿では一律に自宅待機令としている。
注2:
「必要不可欠な事業」は州によって定義が異なる。ただし、多くの州が国土安全保障省傘下のCISA(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)が発表しているガイダンスPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(384.66KB) を参照し、定めている。
注3:
米国雇用機会均等委員会(EEOC)は3月19日、新しいガイドライン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を発表し、COVID-19への対応のため雇用主による従業員の体温測定を認めている(質問A.3)。
注4:
詳細PDFファイル(444.97KB) 参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
若松 勇(わかまつ いさむ)
1989年、ジェトロ入構。ジェトロ・バンコク事務所アジア広域調査員(2003~2006年)、アジア大洋州課長(2010~2014年)、海外調査計画課長(2014~2016年)などを経て、2016年3月より現職。

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