いま在米日系企業が抱える課題、アフター/ウィズコロナ時代をどう迎えるか

2020年7月28日

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、米国では一時期、50州のうち40を超える州で自宅待機命令が発令された。在米日系企業も9割超が在宅勤務を実施した(2020年3月30日付ビジネス短信参照)。このように、多くの企業がこれまでにない対応が迫られた。ただ、4月下旬以降になって、経済活動の制限は徐々に緩和されてきている。

このような状況下、ジェトロは在米日系企業を対象に、第5回緊急・クイックアンケート調査PDFファイル(1.91MB)を実施した(以下、第5回アンケート調査)。調査期間は6月26日~7月1日、961社が回答した。

第5回アンケート調査によると、9割弱の企業で職場での事業再開が可能になっている。事業再開は順調に進んでいるともみえる。しかし、新型コロナウイルスの脅威は完全に去ったわけではない。今後に向けて対処すべき課題は山積している。例えば、工場やオフィス内での感染防止対策の策定や、働き方・事業戦略の見直しなどだ。

本稿では、第5回アンケート調査の結果や個別ヒアリング結果を基に、アフターコロナまたはウィズコロナ時代に企業が抱える課題を探る。

事業継続と安全対策のバランスに苦悩

第5回アンケート調査結果では、在米日系企業のうち、製造業の約3割、非製造業の5割超が、6月末時点でも在宅勤務を継続している。感染第2波のリスクが意識される中で、事務所再開に慎重になる企業は依然として多い。オフィスでの勤務を部分的に再開した企業でも、交代制で在宅勤務を継続している例がみられる。州や郡政府による出社比率規制を踏まえて「全社員をグループAとBに分け、1週間おきに交代で出社」させるのがその一例だ。このほか、製造現場を持つ企業では、「工場は再開、オフィスは原則在宅勤務を継続する」など、職種・担当によって対応を分けている場合もある。ただ、日系企業からは「(在宅勤務になじむ職種とそうでない職種がある中で)職種間で不公平感が生じる可能性があり、在宅勤務を継続するか否か決めかねている」といった悩みも聞かれる。また、「弁護士から、駐在員と現地職員の間で(在宅勤務の導入度合いで)待遇に差をつけないように留意すべきとの助言があった。このため、シフトを組む際に神経を使う」という声もあった。オフィスの部分的・段階的再開に際し、処遇の公平性確保が課題の1つになっているようだ。

オフィスや工場を再開する場合には、従業員の安全確保を第1に考えることが重要だ。オフィス再開を決断した日系企業の多くは、まず、米国疾病予防管理センター(CDC)や米 国 労 働 安 全 衛 生 庁 (OSHA)のガイドラインに沿った対策を講じ、マスク着用や社内での社会的距離確保を義務付ける。しかし、対策実施に当たって、「一番苦労したのがマスク着用の徹底」「従業員のモラル維持が問題」など、従業員への意識付けに苦労するケースもある。

さらに、安全対策と業務遂行の両立も課題だ。「社会的距離を確保した上での作業は、生産能力が7~8%落ちる」という声もあるように、一部の企業は生産性維持に苦悩する。

そのほか、「オフィス出入り口を1カ所に集約し、毎朝従業員の体温測定やコロナ症状に関する聞き取りを行い、勤務可と判断された者だけ入館可」とするという対応例も聞かれた。このように、オフィスへの出社に制約を設ける例もある。複数の州に拠点を持つ企業は、こうしたルールづくりや運用を州ごとに異なる基準に沿って行う必要がある。対応以前に、情報収集が課題になる図式だ。

都市部のオフィスを中心に、企業は通勤時の安全確保にも懸念を示している。例えば、ニューヨーク市内に事務所を構える企業では、地下鉄・鉄道やバスなどの公共交通機関を使って通勤する従業員が大半だ。「公共交通機関の衛生状況が心配」「現地採用の社員のほとんどが公共交通機関で1時間かけて出勤する。1年ほど先までは、出社を強要するのは難しいかもしれない」など、従業員の安全確保が難しいとの理由で在宅勤務を継続するケースもある。一方で、郊外に立地する企業では、通勤中の感染リスクは低いとの声もある。ほとんどの社員が自家用車で通勤しているためだ。

事業所などの再開に当たっては、従業員の呼び戻しも課題となる。第5回アンケート調査では、従業員を解雇、レイオフまたは一時無給休職(注1)とした企業のうち 、7割以上が「従業員を呼び戻した/呼び戻す」と回答している(図1参照)。

図1:解雇した従業員の呼び戻し状況
呼び戻しなしが22.1%、一部の従業員を呼び戻し(予定を含む)が36.0%、全ての従業員を呼び戻し(予定を含む)が36.6%、その他が5.3%。

出所:ジェトロ「第5回在米日系企業の新型コロナウイルス対策に関わる緊急・クイックアンケート調査結果」

再雇用に当たっては、感染防止対策の徹底をアピールしている。「安全な作業環境をPRするなど、従業員に安心してもらえるよう努力」するとした企業が多い。また、無事に呼び戻すことができた場合でも、「感染や濃厚接触を理由として自宅待機を続けている従業員が一部いるため、追加雇用が必要」とする企業もあった。さらなる人員確保を模索する例もある。

一方で、いまだ再雇用に至ることができていないケースでは、「一部の従業員は7月まで戻ってこないかもしれない」と、先行きを不安視する声が聞かれた。3月末に成立した「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)法」により、連邦政府による失業給付の増額措置が7月31日まで実施されている(2020年3月30日付ビジネス短信参照)ためだ(注2)。

以上のように、在米日系企業にとっての課題は、在宅勤務を継続するか、安全を確保した上で出社を再開するかの判断だけではない。仮に再開を決断した場合でも、従業員の安全性確保と生産性維持を両立させる体制構築に悩まされる。企業はさまざまな配慮を重ね、アフター/ウィズコロナ下での事業継続に取り組んでいる。

オンラインと対面の併用にも課題あり

アフター/ウィズコロナ時代の働き方はどうあるべきか。在宅勤務を含め、日系企業は今後も新しい道を模索する必要に迫られるとみられる。

第5回アンケート調査において、「コロナ後に対応した業務体制の見直しとして、どのようなことに取り組んでいるか(あるいは取り組む予定か)(複数回答可)」を質問したところ、74.1%が「在宅勤務やテレワークの活用拡大」に取り組むと回答した(図2参照)。感染拡大の当初は、在宅勤務を導入した企業の85.5%が「業務遂行に何らかの支障が出ている」と回答していた(第1回アンケート調査(3月24日~26日実施)PDFファイル(1.01MB)参照)。しかし最近では、「オフィスに戻らなくても、業務上の支障はほとんどない」「オフィスに戻る必要があるのかという議論が出ている」といった声も聞かれるようになった。実際にテレワークを導入したことで、オフィスに出社しないかたちでの新しい働き方を模索する動きが続いている。

一方で、完全な在宅勤務は難しい、といった指摘もある。例えば、「情報収集や営業などが難しい」「創造性のあるコミュニケーションはオンラインでは限界がある」など、部門によって対面でのやり取りをなくすことはできない、との意見も多い。また「国境をまたいだテレビ会議が以前より増え、長時間勤務の温床になっている」といった労務管理上の課題を指摘する企業もあった。

アフターコロナでは、オンラインと対面を効果的に使い分けていくことが必要とされる。しかし、実際の運用方法については、今後も検討を続ける必要がありそうだ。

図2:コロナ後に対応した業務体制の見直し(複数回答)
在宅勤務やテレワークの活用拡大が74.1%、自動化・省人化の推進が21.1%、現地スタッフ・従業員の削減が17.1%、日本人駐在員の削減11.0%、スタッフの待遇見直しが10.7%、人材の現地化の推進7.9%、OEMなどアウト―ソーシングの活用が2.2%、その他が2.9%、特に見直しをする予定はないが13.7%。

出所:ジェトロ「第5回在米日系企業の新型コロナウイルス対策に関わる緊急・クイックアンケート調査結果」

アフターコロナの事業戦略

在米日系企業は、アフター/ウィズコロナ時代にどのような事業戦略を取っていくのだろうか。現在の企業の経営状況をみると、第5回アンケート調査で過去1カ月(6月)の売り上げが前年同月と比べ減少した企業の割合は 71.7%に上る(図3参照)。依然として厳しい状態が続いていることが確認された。とりわけ、米国で製造業に携わる日系企業の多くが従事している自動車関連産業は、大きな打撃を受けている。米国の2020年第2四半期(4~6月)の新車販売台数が前年同期比33.7%減と、リーマン・ショック以降で最大の減少率となった(2020年7月8日付ビジネス短信参照)。

図3:2020年6月の売り上げ状況
減少(50%以上減少)が15.0%、減少(20%以上50%未満減少)が35.2%、減少(1%以上20%未満減少)が21.5%、横ばいが21.1%、増加が7.2%。

出所:ジェトロ「第5回在米日系企業の新型コロナウイルス対策に関わる緊急・クイックアンケート調査結果」

こうした中、事業戦略の見直しに向けた検討を始める動きもみられる。第5回アンケート調査では、「コロナ後に対応した事業の見直しとして、どのようなことに取り組んでいるか(あるいは取り組む予定か)(複数回答可)」との質問に対し、3割近い企業が「新たな販路の開拓」「新たな製品・サービスの開発・販売」と回答した。特に「ヘルスケアやIT・デジタル(関連製品・サービス)などは今後伸びていく」と考える企業が多い。自社製品をデジタルに対応させるなどして、アフターコロナに向けて動き出している。また、「バーチャル展示会、オンライン商談会などの活用推進」も23.1%と、時間と場所にとらわれずにバイヤーにアピールできる機会を生かそうとする企業もある。

新型コロナ禍を機にサプライチェーンを見直す、または見直すことを検討中とした企業は、5月末時点で3割だった(第4回アンケート調査(5月27日~6月1日実施)PDFファイル(2.10MB)参照)。その内容として多かったのは、「調達先の多角化」(42.6%)、「米国内での調達拡大」(36.9%)の2つだ。分散化と地産地消、両方向の動きがうかがえる。例えば、ウイルス感染拡大をきっかけにサプライチェーンを見直したある企業は、これまで「全ての部材を米国内で調達してきた。しかし、感染者数増加に伴い生産を見合わせる工場があったため、1社のみに集中させず、複数の企業に発注するような検討を始めた」と、見直しの方向性を説明する。一方で、「世界中に感染が広がっており、どの国にもリスクがある」として、今回のコロナ危機を要因とするサプライチェーン見直しは行わない、と述べる企業も多い。

米国の1日あたり新規感染者数は7月13日、7日間平均で初めて6万人を超えた(CNBC7月14日)。このように、米国では新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念されている。日系企業はこうした不安を抱えながらも、新たな販路や製品・サービス、デジタルツール活用を検討し、アフター/ウィズコロナ時代の事業戦略を模索し始めている。


注1:
雇用契約は継続し、健康保険などは維持するもの。
注2:
州によっては、就業が可能であるにもかかわらず職場復帰を拒否した場合、従業員は失業給付を受ける権利を失う可能性がある。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査部
菊池 蕗子(きくち ふきこ)
民間企業勤務を経て2019年から現職。進出日系企業の支援事業に携わり、各種情報提供を行っている。