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新型コロナで小売業界に大きな打撃、オンライン販売は好調(米国)
ニューノーマルへ変革の動きも

2020年6月19日

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、米国トランプ大統領は3月13日、国家非常事態を宣言した(2020年3月17日付ビジネス短信参照)。3月中旬以降、ほぼ全ての州で自宅待機令が発令された。必要不可欠な事業として営業継続を許可された食料品店や薬局、ガソリンスタンドなどの一部業態以外は店舗の閉鎖を迫られた。この事態に、小売業界は大きな打撃を受けた。本稿では、2020年4月までの小売売上高と業種別の動き、新型コロナウイルス収束後の新たな日常に向けた業界変革の方向性などについてみる。

自動車・同部品、フードサービス、衣料などが大きく減少

自宅待機令の発令が本格化した2020年3月以降、米小売業の売上高は大きく減少した。商務省によると、3月の小売売上高(季節調整値)は前月比8.3%減(2020年4月20日付ビジネス短信参照)、4月も16.4%減(速報値)(2020年5月21日付ビジネス短信参照)。2カ月連続で統計開始(1992年)以来最大となる減少幅を更新した。

2020年4月の売上高(4,039億4,600万ドル)を米国での新型コロナウイルス発生前の2019年12月と比べると、23.1%減だ。数カ月で2割強が失われたことになる。この落ち込みを業種別寄与度でみると、自動車・同部品が6.9ポイント減と最も押し下げ、次いでフードサービス(6.2ポイント減)、衣料(3.9ポイント減)となった(図参照)。

自動車・同部品の落ち込みの背景には、3月中旬以降、必要不可欠でない事業の停止や外出自粛を呼びかける州が増えたことで、新車購入の機会が大きく制限されたことがある(2020年4月9日付ビジネス短信参照)。

図:2020年4月の小売売上高の2019年12月比業種別寄与度
自動車・同部品が6.9ポイント減、次いでフードサービスが6.2ポイント減、衣料が3.9ポイント減、ガソリンスタンドが3.5ポイント減、総合小売が1.7ポイント減、家具が1.2ポイント減、家電が1.0ポイント減、その他が0.7ポイント減、スポーツ・娯楽品・書籍が0.6ポイント減、ヘルスケアが0.6ポイント減、建材・園芸用品が0.2ポイント減と減少しました。食品・飲料は1.2ポイント増、無店舗小売は2.1ポイント増と増加しました。

出所:米商務省のデータを基に作成

フードサービスは、感染拡大を受けて臨時休業した店舗が多かったことなどが影響した。全米レストラン協会のアンケート調査によると、レストラン業界全体の売り上げ損失は3月に300億ドル、4月500億ドル。2020年全体で2,400憶ドルが見込まれている。レストラン予約サイトのオープンテーブルは「今後、個人経営など小規模店舗を中心に経営が立ち行かなくなる恐れがあり、米国の飲食店の4分の1が廃業に追い込まれる可能性がある」と指摘した(「ブルームバーグ」5月14日)。

衣料は、大半の事業者が3月中旬から店舗を閉鎖したことで、深刻な売り上げ減となった(2020年3月24日付ビジネス短信参照)。こうした中で、衣料品店大手のJクルー・グループは5月4日に米国連邦破産法第11章の適用を申請した。新型コロナウイルスの流行以降、全米規模で展開する小売業者初の経営破綻だ(2020年5月12日付ビジネス短信参照)。同社は、3月上旬から傘下の全ブランドの店舗を臨時閉鎖し、これにより約9億ドルの売り上げ損失につながったとしている。こうした小売店の閉鎖は、今後も続きそうだ。調査会社コアサイト・リサーチによると、2020年末までに小売店の閉鎖数は全米で最大2万5,000店に達する可能性がある。「その半数以上がショッピングモール内の店舗で、特に衣料品店や百貨店が多くなる」と指摘している。

オンライン販売は好調

13業種中11業種の売上高が減少する中で、無店舗小売り(2.1%増)や食品・飲料(1.2%増)の売り上げは増加した。自宅待機令下でのオンライン消費や飲食料品の買いだめの影響とみられる。 アマゾンが4月30日に発表した2020年第1四半期決算の売上高は、前年同期比26%増の755億ドルと大幅に増加した。また、食料品宅配代行サービスを手掛けるインスタカートは、3月15日時点の過去3日平均のモバイルアプリダウンロード数が、前月同日比3.2倍の約4万件と急増した。当初は急激な需要の高まりを受け、配達対応が十分に追いつかなかったものの、4月には最長2週間先の商品を事前注文できる「オーダー・アヘッド(Order Ahead)」や、配達希望日を指定せずに最短で商品を届ける「ファスト・アンド・フレキシブル(Fast & Flexible)」といった新たな機能を導入して、需要拡大に対応している。

オンライン販売の成否が業績面での明暗を分ける

新型コロナウイルスの流行が続く状況下では、オンライン販売の成否が業績面での明暗を分けた。例えば、米国内に4,700店舗以上展開する小売り最大手のウォルマートは、第1四半期(2~4月)の既存店売上高が前年同期比10%増となり、ほぼ20年ぶりの高い伸びを記録した。特にネット販売の売上高が74%増と好調だった。前四半期の35%増に比べ、急拡大したことになる。同社は、これまでも実店舗を維持しつつ、ネット注文された商品の宅配サービスの強化、国内3,000店舗以上で商品を店舗の駐車場で車から降りることなく受け取ることのできるカーブサード・ピックアップの展開など、積極的なオムニチャネル化とデジタル化を推進してきた。こうした取り組みの結果、自宅待機令が発令された3月には、宅配サービスとカーブサイド・ピックアップの利用者数が4倍に伸び、新規顧客の開拓にもつながった。

また、大手百貨店のノードストロームも、デジタル技術を活用して顧客サービスを向上させてきた。専用のモバイルアプリを使って、スマートフォンで撮影した商品の類似品をオンライン検索できるサービスや、オンライン購入か否かにかかわらず、返品希望者が自身で返品できるセルフサービス窓口の設置などを進めてきた。

一方で、いくつかの百貨店では、こうしたオンライン対応に苦戦したことが経営悪化につながったとされる。高級百貨店のニーマン・マーカスと百貨店大手のJCペニーは、それぞれ5月7日、15日に連邦破産法11章の適用を申請した。その要因として、デジタル化対応の遅れなどが指摘されている。南カリフォルニア大学マーシャル経営大学院のカリンダ・ユーカンワ助教授は、「ニーマン・マーカスは今後数カ月、倒産しないためのとても困難な戦いに直面する」「これは小売業、特にオンラインでの存在感やオンラインインフラを持たないニーマン・マーカスのような高級店の倒産の始まりにすぎないのかもしれない」と指摘した(CNN5月7日)。

このように、オンライン化の成否は小売業界の動向を占う上で重要とみられる。同時に、オンラインとオフラインのシームレスな統合がより重要、との指摘もある。ペンシルベニア大学ウォートン校のバーバラ・カーン教授は、「ウォルマートやアマゾンのような大企業では、オンライン・オフライン双方の統合が他社よりはるかに進んでいる」一方で、「苦戦している小規模企業、苦労している小売業者は、それほど統合が進んでいない」と述べた。あわせて、オムニチャネル化への取り組みが今後の勝敗を分けるポイントになる、と指摘している(wbur5月1日)。

ニューノーマルに向けた小売業の変化も重要

新型コロナウイルスの影響が続く中で、小売業ではこれまで以上に変化が進むとみられる。オムニチャネル専門家のクリス・ウォルトン氏は、新型コロナウイルスは小売業界に、(1) 食料品のオンライン販売普及、(2)キャッシュレス化の促進、(3) レジなし店舗やモバイル決済の導入拡大、(4)店舗の役割の変化、(5) 倉庫システムの自動化・ロボット導入の促進、の5つの変化をもたらす、と指摘した(「フォーブス」誌4月1日)。

まず、食料品のオンライン販売の普及について。ファブリック(注)が実施したアンケート調査によると、新型コロナウイルスの流行以前は、食料品の購入方法の中でオンライン販売が占める割合はわずか5%に過ぎなかった。しかし感染拡大後は、約2倍の9%に達したという。また、感染拡大後の数週間で食料品をオンラインで購入した回答者の2割が、初めてサービスを利用したと答えている。これまで主な利用者であったミレニアル世代に限らず、今後はより幅広い年齢層も利用するようになると見込まれ、食料品のオンライン販売の割合は2020年末までに12%に達すると予測している。

2つ目のキャッシュレス化の動きの背景には、紙幣に付着したウイルスによる感染リスクを恐れ、以前と比べて消費者が現金使用を控えるようになった心理が影響している。このため、コンタクトレス(非接触型)決済が増えた。この傾向は今後も続くとみられる。アメリカン・エクスプレスが4月6~8日に約1,000人を対象に実施したアンケート調査によると、コンタクトレス決済を利用したことのある回答者の58%が、今後さらに利用を拡大すると答えた。一方、現金使用を増やすと回答した割合は、新型コロナウイルス流行前に比べ16ポイント減っている。

3つ目のレジなし店舗やモバイル決済の導入拡大について。アマゾン・ゴー(2019年5月16日付ビジネス短信参照)のように、専用のモバイルアプリ上で決済を行う機能を備えることで、従業員と顧客の接触を防ぐことが可能になる。また、ウォルマート傘下の会員制倉庫型小売店のサムズクラブでは、モバイル決済機能「スキャン&ゴー(Scan & Go)」を全店舗で展開している。買い物客はスマートフォンにダウンロードしたモバイルアプリを利用して商品のバーコードをかざしながら買い物を行うだけで、レジを通らずに買い物を済ませることができる。同社は2016年から同サービスを導入しているが、新型コロナウイルスの感染拡大後、新規利用者数は約5倍に達したという。

4つ目の店舗の役割の変化について、ウォルトン氏は、「これまで店舗は消費者が買い物を行うために訪れる場所だった。しかし今後は、商品を受け取る場所としての機能をこれまで以上に果たすようになる」と指摘している。例えば、大手スーパーマーケットチェーンのクローガーは、同社で初となるピックアップ専門の店舗を開設した。同店舗はカーブサイド・ピックアップと宅配サービスに特化し、買い物を行うための売り場は設けられていない。また、ドラッグストア大手のウォルグリーンズは、ピックアップを利用する消費者の急増に対応する取り組みを進める。これまで処方箋薬の受け取り専用であったドライブ・スルーのピックアップ窓口を他の商品購入にも拡大。生活必需品を中心に、60点以上の取り扱いを開始している。

最後に、倉庫システムの自動化・ロボット導入の促進。ネット販売の需要急増を受けて、物流現場で働く従業員の感染リスクを防ぐための対策が重要視されるようになってきた。このため、倉庫内での作業をロボットやドローンで置き換えられる動きが進むとみられている。具体的には、商品の在庫管理や店頭在庫補充の自動化、ロボット導入が加速すると指摘されている。

米国各州で経済再開が進められている。こうした中で、今後、小売売上高がどのように回復していくか、そして、新型コロナウイルス収束後のニューノーマルにおいて消費行動の変化に米小売業界がいかに対応していくのか、注目される。


注:
小売業者のフルフィルメント機能構築を支援する物流テックスタートアップ。フルフィルメント機能とは、オンラインで注文された商品を消費者に届けるまでの一連の業務。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査部
樫葉 さくら(かしば さくら)
2014年、英翻訳会社勤務を経てジェトロ入構。現在はニューヨークでのスタートアップ動向や米国の小売市場などをウォッチ。

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