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インド、ロックダウン下の物流の課題
在ムンバイ日系企業へのヒアリングから(1)

2020年8月13日

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、インドで全土封鎖(ロックダウン)が始まったのは3月25日だった。それからから4カ月が経過した。しかし、国内累計感染者数は8月3日時点で180万人を超え、終息の気配が見えない。

一方でインド政府は、このような状況の中でも、積極的な緩和策も同時に進めてきた。4月下旬から、工場操業再開許可や一部小売店舗の営業再開などが講じられている。言うまでもなく、経済の停滞を回避するためだ。

しかし産業の根幹である物流への影響は甚大で、多くの課題が未解決のままだ。こうした事情を把握するため、ジェトロ・ムンバイ事務所は7月上旬、ロックダウンによる物流への影響や現在抱えている経営課題などについて、当地日系企業から緊急ヒアリングした。

なお、以下のとりまとめは、海運・物流・製造のそれぞれの立場から聴取した結果を反映したもの。立場の違いから必ずしも一貫していない点に注意を要する。また、本稿は7月上旬時点での状況を反映したもので、最新の状況と異なる場合も想定される。

物流会社:労働力不足と遅延費用免除通達への対応に追われる

ヒアリングの結果、海運・物流会社の主な課題として、以下の指摘があった。

1. ドライバーやワーカーなどの労働力不足

ロックダウン開始で、インドではほとんどの産業が停止した。一方、インド政府は物流に関して、おおむねロックダウン前の状況を維持するように努めた。これを反映して、各州政府による物流への制限は比較的少なくなっていた。

しかし、ほとんどの産業が停止する中で従前の労働力が余剰になった。そのため、労働者の多くは一時的に職を失うことになる。このような労働者の多くは国内からの出稼ぎ労働者だ。失職後は、地元へ帰省することを余儀なくされた。

これを受け、本格的な産業再開後、労働者の確保が困難になる。結果として物流への影響は大きいものとなった。例えば、ドライバー不足に起因して、トラック運搬費用が高騰した。また、ワーカーの帰省やロックダウンの移動制限で、従業員の出勤が困難となった。さらに、これに伴い作業の著しい遅滞などが生じた。

2. 遅延費用免除措置による損失

海外からの貨物や輸出向けコンテナが港湾に長期間滞留し、超過保管料(demurrage)やコンテナ返却延滞料(detention)などの遅延費用が発生。コストがさらに付加されることになり、大きな問題になった。これに対応して、インド船舶省は4月21日、国内主要港に対し、ロックダウン期間中の貨物保管料免除などに関する通達を発出。物流企業や荷主に発生する5月3日までの一部諸費用を免除するとした(2020年4月30日付ビジネス短信参照)。

しかし、5月4日以降はこの免除通知の効力が失効。その後、追加の通達も発出されていない。結果として、物流企業は、実際には港湾内に貨物が滞留し遅延に係るコストが発生しているにもかかわらず、免除が受けられない。一方で、荷主もコロナ禍で影響を受けていることから、請求しにくい状況にある。このため、損失が生じている。

3. 当局から頻発する通達への対応コスト

ロックダウン下、内務省や船舶省など、中央政府各省庁が様々な通達を発出した。これに加え主要港湾が立地する各州や市からも、ガイドラインが提示された。物流企業は、これらを順守しなければならなかった。当局の通達は頻発し、その内容は末端まで浸透しているとは言い難かった。このギャップにより、現場では混乱が多発した。ガイドラインは、州ごとで違う場合もあり、非常に複雑なオペレーションが求められることになった。その結果、物流企業は、これまで以上の管理コストの負担を強いられている。

非常に複雑なオペレーションが求められることになった。その結果、物流企業は、これまで以上の管理コストの負担を強いられている。

荷主側:かさむ遅延費用と運搬コストの増加

次に、商社や製造業などの荷主が抱える主な課題としては、以下が挙がった。

1. かさむ遅延費用

インド政府は、5月3日までの各種遅延費用の免除を通達。荷主負担を軽減する措置を取った。しかし現実には、労働力不足などの問題が発生。このため、免除期間内に所要の作業を完了することが困難になった。結果として、免除期間外の各種遅延費用を請求されるケースが出てきている。

一部の地場物流会社には、免除通達を無視して荷主に費用を請求してきた例もあったという。

一方で遅延費用に関しては、現在では港湾での遅滞が解消しつつあるようだとの回答も聞かれた。

2. 労働力不足などに起因し、さまざまなコストが上昇

荷主は港から倉庫まで、コンテナを運搬する必要がある。しかし、ここでもドライバー不足が影響。通常時よりかなり高い費用を負担しなければならなくなっている。

経済活動が再開し始めた5月には、倉庫スペースが枯渇した時期もあったという。一気にモノが動いた結果だ。

ロックダウンにより税関の機能が低下している。税関側が電話やメールでの問い合わせに対応できず、業務に支障を来した時期もあったという。

3. 物流遅滞によるビジネス機会の損失

ロックダウンの影響はビジネス機会の損失にも直結した。物流が遅滞したことにより、製品が使用期限を迎えて廃棄せざるを得なかった企業もある。

同様に、遅滞により販売機会を逸し、在庫として保管をしなければならなくなったとの回答もあった。

ムンバイ向け定期国際便が停止したことで、航空貨物輸送も事実上停止となった。その影響を受けているという回答も聞かれた。

問題は改善しつつあるものの、労働力不足などの長期化に懸念

以上のヒアリング結果のように、物流会社は労働力不足に陥った状態で、頻発する通達に対応することが求められた。さらに、本来は荷主に請求できる遅延チャージを放棄せねばならなくなった例もあるようだ。

労働力不足に関しては、政府による目下の労働政策などで直接的な解決が見込めず、問題の長期化が予想される。免除通達失効後の遅延費用について、経営状態が悪化した荷主に対する請求は譲歩が余儀なくされる可能性も否定できない。また、当局からの通達やガイドラインは引き続き各地で多発しているようだ。そのたびに操業可能な時間帯や従業員の移動制限が改変され、対応するガイドラインやオペレーション・システムを検討しなければならない。

一方で商社や製造業など荷主側も、物流の遅延により多大な影響を受けている。遅延費用に関しては、現在では幾分改善が見られるようでもある。しかし、経済が縮小し、物流量が減少している状況があることにも考慮を要する。物流需要が高まった際に、現在の態勢で維持・対応できるかは、不透明だ。また、労働力不足は上述のとおり、中長期的な課題として残り続ける可能性がある。物流の遅滞によるビジネス機会の喪失に関しては、港湾の状況が改善した後もドライバーの不足や需要の減退、販売先の縮小が予想され、一概に楽観視できない。

アフター・コロナを見据えたビジネス構築が不可欠に

ここまで日系企業が抱えるロックダウン下の物流問題について、物流会社側と荷主側の状況を見てきた。先に指摘したとおり、ロックダウンの緩和が進展したとしても、物流の課題は簡単に解決できないものがある。

また、経済の不調は、各産業の需要の大幅減退といった物流以前の大きな経済問題も一因になっている。例えば、インドの主要産業の1つであり日系企業も多く進出する自動車の5月の新車販売台数は、各部門で8割以上の減少だ(2020年7月29日付ビジネス短信参照)。

産業の根幹たる物流を維持するため、インド政府や各州政府によるさらなる支援策が求められるが、現下のコロナ禍の状況、経済情勢などを考えると、政府にも余裕がないだろう。現状生じている課題の多くは、行動規制の緩和とともにある程度は改善していくだろうが、その問題の根幹は残存し、企業の努力ですぐに解決するものではない。さらに、最近ではインドと中国との衝突の影響も物流に出始めている(2020年8月13日付地域・分析レポート参照)。 企業は「コロナ前」への回復を期待するのではなく、「コロナ後」のビジネス構築、つまり、懸念や課題を考慮に入れつつ事業を検討する必要に迫られている。

在ムンバイ日系企業へのヒアリングから

  1. インド、ロックダウン下の物流の課題
  2. 中国との軍事衝突が物流、貿易にも打撃(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
比佐 建二郎(ひさ けんじろう)
住宅メーカー勤務を経て、大学院で国際関係論を専攻。修了後、2017年10月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
尾川 哲男(おがわ てつお)
総合商社に27年、大手電機メーカーに13年勤務。イラン、UAE、インドなどでの駐在を経て、2019年からジェトロ・ムンバイ事務所で海外投資アドバイザー。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。

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