加速する中国企業のグジャラート州への進出(インド)
MGモーターの新車予約は好調、中国企業専用工業団地計画も

2019年8月30日

インド西部グジャラート(GJ)州では、日系企業に次いで、中国企業の投資が活発だ。上海汽車集団(SAIC)傘下の英国系MGモーター・インディアのスポーツ多目的車(SUV)が「ヘクター」の生産を開始したことに加え、ドレラ特別投資地区(SIR)での電気自動車(EV)向けのバッテリー工場建設、中国企業専用の工業団地開発計画など、その動向は加速している。インドで自動車販売が落ち込む中、市場獲得に向けた競争激化の懸念も高まる。インド市場をにらむ中国企業のGJ州への進出動向について伝える。

MGモーターSUV「ヘクター」の予約好調

GJ州には、スズキ・モーター・グジャラート(SMG)、ホンダ・モーターサイクル・アンド・スクーター・インディア(HMSI)、タタ・モーターズ、フォード、ヒーロー、MGモーターなど、多くの自動車メーカーが進出。デリー首都圏、タミル・ナドゥ州、マハーラーシュトラ州に次ぐインド第4の自動車生産拠点として台頭しつつある。

一方、インド国内の自動車販売は、景気減速や金融機関の貸し渋り、自賠責保険の負担増、燃料価格の高騰などの影響で、2018年11月以降、販売不振が続いている。インド自動車工業会(SIAM)が発表した7月の乗用車全体〔多目的自動車(UV)、バンを含む〕の販売台数は、メーカー別では、乗用車メーカー17社のうち14社がマイナス成長となるなど、事態は深刻だ(2019年8月23日付ビジネス短信参照)。

そうした中、中国の自動車大手でGJ州南部ハロルに工場を持つ上海汽車集団(SAIC)傘下の英国系MGモーター・インディアが第1弾車種として生産を開始したスポーツ用多目的車(SUV)「ヘクター」(写真参照)の予約が好調だ。この車種は48ボルトのリチウムイオンバッテリーを搭載したインド初の「48Vマイルドハイブリッドカー」で、6月4日からの予約受け付けを開始した。50日間で2万8千台の予約注文が入ったことから、生産が間に合わない事態を避けるため、一時的に予約受け付けを停止したほどだ(7月28日付「エコノミック・タイムズ」紙)。MGモーターはGMインディアを買収し、同社ハロル工場の改修に250億ルピー(約375億円、1ルピー=約1.5円)を投資した。4月29日から操業開始している。

同社のラジーブ・チャバ代表取締役は「現在は10年計画の第1フェーズにあり、従業員やディーラー、顧客への満足度向上を図り、将来的な成長のための基盤強化に努める」(3月31日付「エコノミック・タイムズ」紙)と語った。今後の計画について、同氏は「2022年までにインドで5車種を投入し、500億ルピーを投資する」(7月28日付、同上)という。具体的には、現在、50都市120カ所にある販売店を2020年までに300カ所まで拡大する計画で、年産台数8万台を見込む。原材料・部品の75%程度を現地調達する予定で、将来的には電気自動車(EV)の生産も始める方針を明らかにしている。インドの自動車市場をめぐる環境は、さらなる競争の激化が見込まれる中、中国企業はEV化にも攻勢をかける。


MGモーター・インディアが販売するSUV「ヘクター」
(8月25日、ジェトロ撮影)

青山控股集団、ドレラSIRで自動車用バッテリー工場建設を発表

中国の青山控股集団(Tsingshan Holding Group)は、アーメダバード市内から約100キロ南西に位置するドレラ特別投資地区(SIR)に、2,100億ルピーを投じてEV向けなどのバッテリー製造工場を今後3年程度で建設する予定だ。インドでのEV普及を推進するインド改造評議会(NITI Aayog)のアミタブ・カント最高経営責任者(CEO)や州政府幹部はGJ州を中長期的なEVハブとし、その中心にドレラSIRを位置付けることを発表している(2019年8月22日付ビジネス短信参照)。インド自動車大手タタ・モーターズの親会社であるタタ・グループも、この地に400億ルピーを投資し、リチウムイオンバッテリー工場の建設を発表するなど、リチウムイオンバッテリー生産拠点として注目が集まる。日系勢ではスズキ、東芝、デンソーの合弁会社が2020年をめどに、インド初となる自動車向けリチウムイオンバッテリーの量産を行う予定だ(2019年6月11日付地域・分析レポート参照)。

図:グジャラート州における主要自動車メーカー工場立地と
ドレラ特別投資地区(SIR)
ドレラ特別投資地区とグジャラート州アーメダバード市内及び州内における主要自動車メーカー工場の立地と周辺の工業団地との位置関係を示す地図。 ドレラ特別投資地区(SIR)はアーメダバード市内から約100キロ南西に位置している。 北部にはサナンドⅡ工業団地、サナンドⅢ工業団地、タタモーター、フォードの工場が立地、さらに北方にはマンダル日本企業専用工業団地、ホンダの工場 スズキの工場が立地する。

出所:ジェトロ資料を一部加工

中国中小企業協会(CASME)、サナンド近辺に中国企業専用の工業団地開発

自動車産業以外でも中国企業の進出機運が高まる。ジェトロが6月4日、GJ州産業開発公社(GIDC)のディプティ・マラタ サナンド地域マネジャーに、日系企業以外の投資動向について聞いたところ、「最近は中国企業などからのサナンドⅡ工業団地やマンダル日本企業専用工業団地の隣にあるバガプーラ工業団地への入居に関する問い合わせが増えている」と語った。

中国企業専用工業団地の開発に向けた動きも出ている。6月7~9日に、中国広東省の視察団は、アーメダバード市内から約40分の距離にあるサナンドⅡ工業団地とマンダル日本企業専用工業団地などを視察し、電機・電子やテキスタイル、医療機器関連企業などを訪問した。一行は、ビジェイ・ルパニ州首相やGJ州工業開発局(iNDEXTb)のラジクマール・ビニワル代表取締役らとも面談。視察メンバーである中国中小企業協会(CASME)は、自動車関連企業が集積するサナンドⅡ工業団地から西10キロのサチャーナに中国企業専用の工業団地を開発するため、200エーカーの土地を購入したことを州政府に報告するとともに、今後のGJ州への中国企業進出に向けた支援を要請した。広東省は2015年にGJ州政府と姉妹都市提携を結んでおり、今回の視察メンバー代表の中国共産党広東省支部のリー・シィー書記は「2国間の貿易や直接投資を通じた連携が強くなることがGJ州と広東省の経済関係強化にもつながる」と語った(6月8日付「ファイナンシャル・エクスプレス」紙)。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ)
2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。