自動車関連企業の進出加速、直近の販売低迷には懸念も(インド)
モディ首相の地元グジャラート州の日系企業進出動向(1)

2019年6月11日

インド西部グジャラート(GJ)州では、スズキやホンダ二輪の進出・生産拡大に伴い、同州中部に位置するマンダル・ベチャラジ地域において自動車関連産業の集積が進んでいる。同地域に拠点を置く日系企業は30社を超えた。モディ首相の地元グジャラート州の日系企業進出動向を2回に分けて報告する。前編では、自動車サプライヤー企業の進出が相次ぐグジャラート州の現状を紹介する。

GJ州で各社が生産拡大、日本企業同士の提携も

インドの四輪車市場は400万台の大台に乗り、2017年にドイツを抜いて世界4位に躍進した。今後も毎年平均6%の成長が続いた場合、2020年には500万台、2030年には1,000万台に拡大することが予想されている。2018年6月に開催されたスズキの株主総会において、鈴木修会長は「(マルチ・スズキは)現在のインドの乗用車シェア50%を維持し、2030年には500万台を獲得したい」と意気込みを示した。マルチ・スズキが北部ハリヤナ州グルガオンとマネサールに保有する工場では、合わせて年間150万台を生産している。また現在、グジャラート州ハンサルプールにあるスズキの100%子会社、スズキ・モーター・グジャラート(SMG)では生産台数50万台体制のところ、第3ライン稼働により2020年までに75万台まで拡張する予定だ。マルチ・スズキとSMGの生産台数を合わせて、2020年までに225万台を生産できる体制を整える。

また、スズキはトヨタ自動車と、2019年3月にインドでの新たな協業に向けて着手することで合意した。具体的には、トヨタがハイブリッド車(HV)のコア技術であるHVシステム・エンジンと電池の現地調達化を進めて普及を図る一方、スズキがインドでの小型モデル(スズキ名:シアズ、エルティガ)をトヨタにOEM供給することなど双方の強みを持ち寄ることが検討されている。さらに両社は、2020年をめどにインドでの電気自動車(EV)の発売に向け、プロトタイプEVを使った試験を実施中だ。同年には、SMGに隣接するスズキ、東芝、デンソーの合弁会社が、インド初となる自動車向けリチウムイオンバッテリーの量産を開始する予定だ。インドでの環境対応車の普及促進に向けて対応するとともに、インド政府が掲げる「メーク・イン・インディア」政策にも貢献するための土壌を固める。

二輪車を製造するホンダ・モーターサイクル・アンド・スクーター・インディア(HMSI)も、生産拡大に動く。現在、HMSIのインドでの二輪車の年間総生産能力は640万台だが、グジャラート州の第2工場での生産能力を現在の120万台から2020年までに180万台に拡張し、インド全体で700万台生産体制を構築する予定だ。

日系自動車部品メーカー各社も追随の動き

こうした自動車メーカーの増産の動きを踏まえ、自動車部品メーカー各社もグジャラート州での生産拠点の設立を急ぐ。SMGまで約20キロに位置する「マンダル日本企業専用工業団地」(注1)内には、自動車部品メーカーをはじめ9社が入居している。2019年5月現在、三菱アルミニウム(自動車・エアコン向け熱交換器用アルミニウム押出チューブ)やTSテック(二輪車用シート)など5社が稼働中だ。


日系企業9社が進出するマンダル日本企業専用工業団地(ジェトロ撮影)

残る4社のうち、三光合成(樹脂部品)と東プレ(自動車用プレス部品)は2019年3月末に建屋が完成した。村上開明堂(自動車用バックミラー)とASTI(電装品)は工場建設中で、2020年までの生産開始を目指す。そのほか、同工業団地内で豊田通商が開発・運営する「プラグ・アンド・プレイ型レンタル工場」にも、自動車関連メーカー複数社が入居する。また、日系物流会社も顧客のニーズに対応するため、同州に進出済みのすべての日系物流会社はSMGに近接した場所(2~25キロ圏内)に貸し倉庫を保有し、さらなる需要増を見越した倉庫拡張も行っている。アーメダバードに拠点を持つ郵船ロジスティクス・インドでは、既存の倉庫に加え新規倉庫を建設中で、2019年内完成を目指すという。

自動車生産100万台超が進出判断の目安

現状、自動車産業の集積地の1つであるデリー周辺に進出済みの企業は、自社の部品をグジャラート州までトラックで2日間程かけて運搬し、取引先付近の倉庫に一時保管しセットメーカーに納品するケースが多い。この中には、取引先の生産拡大に伴う依頼の増加に迅速に対応できるよう、先行してグジャラート州への投資を表明して受注増に備える企業や、まずはグジャラート州のレンタル工場において操業し受注状況を見ながら自社工場建設を検討する企業もあり、取引先からの受注見込みと投資回収計画を事業計画に落とし込むための現地視察を行う企業が増えてきている。経済産業省の調査報告書(注2)によると、インド進出済みの日系製造業でグジャラート州未進出企業(n=49)の6割が「次の工場をアーメダバードに」と回答し、そのうち半数超が100万台超の自動車生産規模が期待できるか否かが、同州への進出の目安だと回答した。グジャラート州における自動車産業の体制強化に伴い、アーメダバードを中心とした同州への日系企業の進出が見込まれている(2019年5月23日付ビジネス短信参照)。

直近の自動車販売は低迷

インドの自動車市場拡大の予想とは裏腹に、直近2018年の販売台数成長率の伸び悩みは懸念材料だ。インド自動車工業会(SIAM)の発表によると、2018年度の乗用車販売台数は337万7,436台となり、成長率は前年度比2.7%と、2017年度の7.6%に比べて伸び率は大きく鈍化した。SIAM関係者は、自動車ローンを扱う金融機関の貸し渋り、自動車保険の負担増や燃料価格の高騰などが原因と分析しているが、総選挙を前にした消費者の買い控えを原因とする見方もある(2019年4月22日付ビジネス短信参照)。2019年のインド乗用車部門の成長率は3~5%と見込まれるが、売れ行きを左右する主な要素としては、(1)下院総選挙後にどの程度需要が復調するか、(2)2020年4月から導入されるバーラト・ステージVI(BS-6。欧州の排ガス基準のユーロ6と同等)に向けた各メーカーの対応の進捗、(3)2019年4月1日から実施されているエコカー購入資金制度「EV生産・普及促進(FAME)インディア」の第2期を踏まえたEV化の動き、などだ。(2)について、マルチ・スズキは2019年4月25日、2020年4月以降はディーゼルエンジン車の生産と販売を継続しないことを表明した。現地メーカーのタタも、小型車両を対象にディーゼルエンジン車の販売を終了する方針を示している。現代自動車(韓国)は2019年5月末に販売予定の新型スポーツ用多目的車(SUV)「べニュー」のBS-6対応車も今後、現地生産の予定という。一方、ホンダやフォード(米国)は今後もディーゼルエンジン車を販売する方針を示している。ここ数年で市況が目まぐるしく変化するインドでは、自社の事業計画を柔軟に軌道修正しながら、市場攻略を進める必要があるといえる。


注1:
「マンダル日本企業専用工業団地」:2011年11月にジェトロがグジャラート州政府と覚書を締結。日本企業専用工業団地を整備することに合意し、ジェトロは日系企業への入居案内や各種手続きなどを支援している。さらに、日印政府は日本からインドへの投資を促進するための「日本工業団地(JIT)」の開発に向けて取り組むことに合意しており、同工業団地はインドで12カ所選定されたJITの1つに選定されている。
注2:
経済産業省「平成30年度質の高いインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業 (インド国:グジャラート州サナンド地区における日本専用工業団地および関連事業実施可能性 調査事業)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(7.1MB)

モディ首相の地元グジャラート州の日系企業進出動向

  1. 自動車関連企業の進出加速、直近の販売低迷には懸念も(インド)
  2. 進出業種に広がり、投資環境上の留意点も(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ)
2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
北村 寛之(きたむら ひろゆき)
2004年、ジェトロ入構。総務部経理課、ジェトロ大分、企画部事業推進班(東南アジア・南西アジア)、ジェトロ・ニューデリー事務所(アーメダバード駐在)を経て、2017年11月より現職。