日EU・EPAの効果検証と見えてきた課題
さらなる活用に向けて

2019年12月13日

日EU経済連携協定(EPA)の2019年2月の発効から、10カ月が経過した。日本から EU向け主力輸出品の最新の統計を見ると、EPAが積極的に利用されている実態があり、特に一部食品では同EPA発効と連動して、発効前直近の2018年との比較で日本からの輸出が明らかに伸びている。また、日本関税協会が財務省関税局と共同で実施したEPA利用にかかるアンケート結果(11月1日発表)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(980KB)によると、日EU・EPAは日本が締結するすべてのEPAのうち、日本からの輸出では、日タイEPA(回答数160)に次いで多くの企業が「利用している」(158)と回答、輸入では日EU・EPAが最多(335)となっており、最も最近に発効したEPAの1つであるにもかかわらず、積極的に利用されている実態が明らかとなった。

一方で、見えてきた利用上の課題もある。本稿では、ジェトロがこれまでに国内各地で開催したセミナー参加者のアンケート結果や実際に利用した企業のコメント、EU統計局が公開している日EU・EPA利用率などに基づき、現時点での同EPAの効果と課題を検証する。

食品を中心に、高い日EU・EPA利用率

まず、日EU・EPAが発効した2019年2月1日以降の主力品目にかかる日本からEU向け輸出の伸びを表1に示す。EU統計局(ユーロスタット)が公表する、日本からEUへの輸入に関する直近のデータを分析した。9月までの8カ月間の統計では、EUの日本からの輸入総額は前年同期比7.6%の伸びとなった。日EU・EPAの恩恵がある個別品目の状況を見ると、工業製品では日本からの輸入トップ品目である乗用車(21.2%増)やバイク用部品(26.4%増)、食品では魚のフィレ(2.4倍)、麺(38.9%増)、牛肉(35.5%増)、スープ、ブロス(25.8%)で前年同期比2割以上と、順調に輸入が伸びている。表の右側には、ユーロスタットが公表するデータに基づき、各品目の日本からEUへの輸入のうち、日EU・EPAが利用された割合を記載した。こちらは最新データが6月となっており、期間が異なるため一概に結び付けられないものの、特に食品では、日本からの輸入の伸びが顕著な品目では高い日EU・EPA利用率となっていることが分かる。突出した効果が表れている魚のフィレや牛肉、麺では同EPA発効前に課されていた関税率が高く、日EU・EPAの適用により発効時点から即時撤廃となったことで、EU市場での競争力が目に見えて高まっている。

表1:日本からEUへの主要品目の輸入額の伸び

(全体)(単位:億ユーロ)(△はマイナス値)
品名 従来の税率
(注)
日EU・EPA
譲許内容
日本→EU輸入額
(2018年)
伸び率
(前年比)%
日→EU
輸入額(19年2~9月)
伸び率
(2~9月前年同期比)%
日EU・EPA利用輸入額
(19年2~6月)
日EU・EPA利用率
(2~6月の割合)%
乗用自動車 5~10% 8年目撤廃 98.8 1.7 78.4 21.2 6.5 12.9
自動車部品 3~4.5% 即時~6年目撤廃 39.5 △ 5.6 26.8 3.5 3.2 17.8
バイク 6~8% 4~6年目撤廃 11.4 10.9 9.1 △1.5 5.7 82.3
印刷機 無税~1.7% 即時撤廃 18.5 △ 9.3 11.1 △9.7 0.2 68.9
物理分析用機器 無税~1.9% 即時撤廃 13.5 7.0 10.2 16.2 0.5 60.5
ターボジェット、ターボプロペラ等 2.7~4.1% 即時~4年目撤廃 12.4 △ 5.0 8.4 8.0 0.0 0.5
気体ポンプ、真空ポンプ、気体圧縮機 無税~3.2% 即時撤廃 9.7 △ 4.4 6.4 △1.4 0.5 21.0
蓄電池 2.6~3.7% 即時~8年目撤廃 9.5 12.3 6.0 △4.8 0.9 26.7
点火用磁石発電機、直流磁石発電機、イグニションコイル、点火プラグ 3.2% 即時撤廃 8.8 3.1 6.0 1.8 0.6 17.0
ガソリンエンジン 1.7~4.9% 即時撤廃 6.3 1.2 5.1 16.3 1.8 49.4
ディーゼルエンジン 1.4~4.2% 即時~4年目撤廃 6.5 18.8 4.7 14.8 0.7 21.7
バイク部品 無税~4.7% 即時~4年目撤廃 6.0 △ 0.9 4.9 26.4 1.2 41.7
ギヤボックス 2.7~6% 即時~6年目撤廃 6.6 △ 1.9 4.2 △4.2 0.6 21.6
全品目計 691.7 1.3 496.6 7.6 45.3 22.9
(食品・飲料)(単位:100万ユーロ)
品名 従来の税率
(注)
日EU・EPA
譲許内容
日本→EU輸入額
(2018年)
伸び率
(前年比)%
日→EU
輸入額(19年2~9月)
伸び率
(2~9月前年同期比)%
日EU・EPA利用輸入額
(19年2~6月)
日EU・EPA利用率
(2~6月の割合)%
ソース等混合調味料 無税~9% 即時撤廃 51.9 3.6 40.5 16.8 13.7 57.9
緑茶 無税~3.2% 即時撤廃 20.7 6.5 14.8 17.2 1.8 48.5
牛肉(生鮮・冷蔵) 12.8% +141.4~303.4ユーロ/100キロ 即時撤廃 13.0 19.6 11.6 35.5 7.2 91.0
ホタテ貝 8% 8年目撤廃 18.4 △ 29.0 8.6 8.1 4.6 75.3
その他の発酵酒(清酒含む) 5.76~19.2ユーロ/100L 即時撤廃 12.1 2.8 9.1 18.5 2.0 37.3
7,7% +24,6ユーロ/100キロ等 即時撤廃 8.1 12.3 7.2 38.9 1.1 24.7
スープ、ブロス 11.5~14.1% 即時撤廃 6.5 6.9 4.9 25.8 1.6 50.7
魚のフィレ 18%(ぶり等) 即時撤廃 4.2 △ 4.0 6.4 136.6 2.6 86.5

注:従来の税率とは、WTOの実行最恵国(MFN)税率を指す。
出所:EU統計局

さらに、日EU・EPAの利用状況について、EU統計局が発表する6月までの直近のデータを基に、より詳しく分析した。全品目合計のEPA利用率は22.9%だが、商品分類別にみると利用率にばらつきが見られる(表2参照)。

表2:日EU・EPA利用率(2~6月)(商品分類別)(単位:億ユーロ)
商品分類 日EU・EPA
利用率
日EU・EPAを利用した日本からEUへの輸入額 日EU・EPA対象品目(注)全体の日本からEUへの輸入額
鉱工業品合計 22.8% 44.7 196.4
階層レベル2の項目輸送機器、同部品 20.6% 16.7 81.3
階層レベル2の項目機械類および電気機器 20.4% 14.1 69.3
階層レベル2の項目化学工業品 21.3% 3.1 14.7
階層レベル2の項目プラスチック、ゴム製品 41.5% 4.3 10.3
階層レベル2の項目光学機器、測定機器、精密機器 22.5% 1.5 6.9
階層レベル2の項目非鉄金属 27.7% 1.1 4.1
階層レベル2の項目繊維および繊維製品 46.3% 1.5 3.3
階層レベル2の項目鉄鋼・鉄鋼製品 32.6% 0.8 2.3
階層レベル2の項目石、陶磁、ガラス製品 31.7% 0.5 1.7
階層レベル2の項目雑品 56.1% 0.6 1.1
階層レベル2の項目がん具、遊戯用具および運動用具 20.9% 0.1 0.3
階層レベル2の項目鉱物性生産品 31.8% 0.1 0.2
階層レベル2の項目貴金属、身辺用細貨 11.5% 0.0 0.1
階層レベル2の項目その他鉱工業品 28.4% 0.2 0.8
農林水産物・食品 40.6% 0.52 1.28
階層レベル2の項目調整食料品、飼料 41.9% 0.24 0.58
階層レベル2の項目その他農産品 21.9% 0.08 0.38
階層レベル2の項目飲料、アルコールおよび食酢 38.4% 0.04 0.10
階層レベル2の項目魚、甲殻類 72.0% 0.08 0.11
階層レベル2の項目肉類 86.8% 0.07 0.08
階層レベル2の項目その他農林水産食品 11.6% 0.00 0.01
総計 22.9% 45.27 197.63

注:EPA対象品目とは、実行最恵国待遇(MFN)税率が有税の品目を指す。
出所:EU統計局

鉱工業品では、雑品(56.1%)、繊維および繊維製品(46.3%)、プラスチック、ゴム製品(41.5%)で利用率が4割を超え、特に高い利用率が示された。雑品に含まれるのは主にボールペン、シャープペンなどの筆記具で、日EU・EPA利用率は約7割に達しており、同EPAを利用した輸入が約5,000万ユーロに上っている。

ペン類の実行最恵国(MFN)税率は3.7%で、同EPAにより即時撤廃となっている。文具メーカーのサクラクレパス(大阪市)は、マーカーやボールペンを欧州向け輸出の主力商品としており、発効前の1月から準備を進め、子会社化したオランダ法人が積極的に日EU・EPAを活用している(2019年6月6日付ビジネス短信参照)。化粧筆を輸出する白鳳堂(広島県熊野町)も、同EPAの発効後、同社から欧州の取引先に働き掛けて利用を進める(2019年8月2日付ビジネス短信参照)。

繊維製品では、完成衣料品でMFN税率が10%を超える高関税品目が多いが、日EU・EPAでは全て発効と同時に撤廃されているため、特に恩恵が大きい。ドイツに欧州法人を設立する和歌山県の靴下メーカーのニッティド(2019年11月8日付ビジネス短信参照)や、欧州向けに手袋などを輸出する広島県のアトム(2019年8月20日付ビジネス短信参照)も、EPAにより8%(手袋)〜12%(靴下)の高関税が撤廃されるメリットを最大限に活用。また、ニット糸・関連製品を製造・欧州向けに輸出する山形県の佐藤繊維(2019年10月3日付10月4日付ビジネス短信参照)は、同EPAの活用を前もって顧客に周知、発効直後から戦略的に活用する。さらに日EU・EPAを機に、日本からの買い付け強化を図っていた現地バイヤーとの新たな取引など、同EPAによるビジネス機会の拡大を実感しているという。同社は、国内に展開するアパレルショップでEUから衣料品も輸入しており、輸入者としても関税削減メリットを受けている。

プラスチック・ゴム製品については、ゴム製の空気タイヤ(日EU・EPA利用率47.7%)だけでEPAを利用した輸入が1億ユーロ以上に上っているが、その他プラスチック板(54.1%)やポリエステルの一次製品(56.8%)などの素材関連での活用が進んでいる。ゴム製の空気タイヤは、自動車用のものでは4.5%の関税がEPAで即時撤廃、プラスチック製品は、多くの品目で6.5%と比較的高い関税率がかかっていたところ、EPAによって即時に撤廃されており、やはりEPAのメリットが大きい。

一方、日本からEU向け主力輸出品である機械類(日EU・EPA利用率20.4%)や輸送機器(20.6%)、化学工業品(21.3%)、精密機器(22.5%)については、いずれも6月までのデータでは2割程度の利用率にとどまった。要因として、機械類、輸送機器では構成部材が非常に多く、後述するように、多くの企業が日EU・EPA利用の課題として挙げる、原産地規則を満たすための「社内体制の整備」や「サプライヤーとの協力体制」がネックとなり、比較的準備に時間を要していることが考えられる。また、EU向けに輸出する製品と、それに用いられる、アジアなど第三国から調達する部材のHSコードが類似する商品の場合は、関税分類変更基準の利用が難しくなる。その場合に選択肢となる付加価値基準は、全部材の価額情報を足し上げて原産材料の使用割合条件を満たすことを説明する必要があり、これを日EU・EPA利用の課題に挙げる企業もいる。こうした、より入念な準備が必要となる分野では、原産地手続きの準備の整備に伴い、7月以降、同EPAの利用率が高まっていることが期待される。

食品分野では、日本からEUへの輸入額は限られるものの、肉類(日EU・EPA利用率86.8%)、魚・甲殻類(72.0%)、調整食料品(41.9%)、飲料(38.4%)で、高い利用率が示された。特に牛肉や水産品などの一次産品については、原産地規則を満たしやすく、その証明も他の品目と比較して煩雑になりにくく、比較的利用しやすいこともその背景の1つとして考えられる。食品分野では、前述の通り、日EU・EPAの利用が進んでいる品目で輸入額の伸びも顕著となっている。

加盟国間の利用率の差は、7月以降の改善に期待

日EU・EPAの利用率を加盟国別で見ると、同EPAが発効した2019年2月から6月までのデータでは、国により利用状況に大きな差があることが明らかとなった(表3参照)。ルクセンブルクに次いで高い日EU・EPA利用率となったオランダ(日EU・EPA利用率46.0%)では、同期間中の日EU・EPAを利用した輸入額が9億8,790万ユーロに達し、28カ国中トップだった。利用率で見ると、同EPA対象品目の日本からの輸入額が1億ユーロ以上の国の中で同EPA利用率が3割を超えたのは、ルクセンブルク(64.8%)、オランダ(46.0%)、ハンガリー(37.0%)、イタリア(30.9%)だった。

一方、ベルギー(12.3%)、ルーマニア(13.1%)、英国(14.5%)、ポーランド(16.5%)、フランス(17.4 %)、アイルランド(17.4%)では、利用率が20%以下だった。輸入額が1億ユーロに満たない国を含めると、スロバキア(3.6%)、キプロス(3.8%)、エストニア(6.7%)が利用率10%を下回っており、利用が進んでいない現状が見られる。ただし、国によりばらつきが大きい要因の1つとして、これまでEUが締結してきた自由貿易協定(FTA)とは異なる手続きを含む日EU・EPAについて、発効当初はその運用面での混乱があったことなどが考えられる。しかし、6月には日EU両政府間で税関運用の改善に向けた文書を採択(2019年7月30日付ビジネス短信参照)、さらにこれを受け、一部加盟国税関ではEPA運用ガイダンスの発表、更新(2019年8月23日付10月31日付ビジネス短信参照)などの動きも見られており、当局側の運用にかかる問題は相当程度、解決を見ていると考えられる。そのため、加盟国間の利用率のギャップも、7月以降は改善が進んでいる可能性が高い。

表3:加盟国別の日EU・EPA利用率(2〜6月)(単位:億ユーロ)
EU加盟国 日EU・EPA利用率 日EU・EPAを利用した日本からの
輸入額(2~6月)
日EU・EPA対象品目(注)全体の日本からの輸入額
(2~6月)
EU全体 22.9% 45.3 197.6
ベルギー 12.3% 4.7 38.5
ドイツ 24.2% 8.6 35.4
英国 14.5% 3.8 26.0
オランダ 46.0% 9.9 21.5
フランス 17.4% 3.2 18.6
イタリア 30.9% 4.3 13.8
スペイン 22.0% 2.8 12.7
ポーランド 16.5% 1.1 6.8
ハンガリー 37.0% 1.7 4.6
チェコ 26.4% 1.2 4.6
スウェーデン 26.1% 0.9 3.5
オーストリア 27.3% 0.5 1.8
アイルランド 17.4% 0.3 1.5
ポルトガル 28.8% 0.4 1.4
ルクセンブルク 64.8% 0.7 1.0
ルーマニア 13.1% 0.1 1.0
デンマーク 35.6% 0.3 0.9
フィンランド 33.0% 0.3 0.9
スロバキア 3.6% 0.0 0.7
ギリシャ 26.5% 0.2 0.6
スロベニア 26.8% 0.1 0.4
ブルガリア 18.2% 0.1 0.4
キプロス 3.8% 0.0 0.3
エストニア 6.7% 0.0 0.2
マルタ 25.6% 0.0 0.2
リトアニア 29.3% 0.0 0.1
クロアチア 29.4% 0.0 0.1
ラトビア 29.8% 0.0 0.1

注:日EU・EPA対象品目とは、実行最恵国待遇(MFN)税率が有税である品目を指す。
出所:EU統計局

さらなる利用のため、見えてきた課題も

一方で、ジェトロがこれまで国内各地で開催したセミナー参加者のアンケート結果や、実際に日EU・EPAを利用、または利用を検討した個別企業からの相談対応や利用状況の聴取を行ってきた中で、利用に際しての課題も見えてきた。

ジェトロは2018年度から、国内各地で日EU・EPA活用促進を目的としたセミナーを実施している。2019年6月~11月に14回開催したセミナーの参加者(注1)を対象に、ジェトロが実施した日EU・EPA利用に関するアンケート結果では、114人(87社)が「日EU・EPAを利用している」と回答した。

アンケートでは、利用に当たっての課題も聴取。「日EU・EPAを利用している」と回答した企業の中では、表4のとおり、原産地証明にかかる社内体制の整備(57.0%)、自己証明制度の手続き(52.6%)やサプライヤーとの協力体制整備(50.0%)が高い割合となり、対応のコスト(13.2%)よりも、手続きそのものや体制作りを課題と捉える傾向が見られた。なお、冒頭で紹介した日本関税協会が財務省関税局と共同で実施したEPA利用にかかるアンケート結果でも、同様に、自己申告制度の課題として、多くの企業が原産地証明にかかる書類整備、検認に備えた社内体制の整備を挙げている。

表4:日EU・EPA利用に際しての課題(単位:人、%)
項目 回答数 割合
社内体制の整備(マニュアル、人材育成、システム化など) 65 57.0%
自己証明制度の手続き 60 52.6%
サプライヤー/取引先との協力体制整備(原産地証明書に必要な書類の整備など) 57 50.0%
対応コスト 15 13.2%
分からない 4 3.5%

出所:セミナーのアンケート結果を基にジェトロ作成

より具体的な利用の課題や税関運用に関する懸念としては、以下のような回答が見られた。

  • 一度に多くの商品を輸出する場合の自己申告が負担
  • 特に付加価値基準を適用する場合、原産性の証明が煩雑かつコストがかかる
  • 原産地の根拠資料の整備(サプライヤーとの協力体制、資料の作成方法)
  • サプライヤーの立場として、輸出者からの根拠資料の要請への対応が負担
  • EU加盟国間の運用が不統一
  • (輸入税関での)HS分類
  • クーリエ便を利用した際、原産地証明を貼付していたにもかかわらず見落とされ、日EU・EPAが適用されないケースがあった
  • 検認の詳細が不明
  • ASEANなど他地域とのFTAと比較して原産地基準が厳しい
  • (生産者ではない)輸出者の立場として、原産地の根拠書類を揃えるコストが大きい、生産者以上に検認に対する不安がある

自己申告制度への懸念は全てのEPA利用者に共通する課題だが、ジェトロが個別企業からの相談対応や利用状況の聴取を行ってきた中で、特定の商品分類では、原産地基準がネックとなり利用ができないと言う声も一部企業から寄せられた。例えば食品では、そばや中華麺などの麺類や焼き菓子など、原料に小麦粉を含む産品については、小麦粉の原産比率の基準を満たすことができず、EPAの利用を諦めたと言う声も多い。小麦粉については、輸出品に含まれる原料のうち、日本またはEU以外で生産された非原産品の重量割合が、麺、べーカリー製品ともに産品全体の重量の10%を超えると、日本原産品と認められず、日EU・EPAの適用を受けることができない(注2)。原産地規則を満たすために調達先の見直しが必要となるケースは、機械類などの工業製品でも当てはまるが、食品の場合、原料を国産に切り替えるコストは同EPAのメリットを上回りかねず、主原料が変わると風味が変わってEUで市場開拓した商品とは別物になってしまうとの声も、一部企業で聞かれる。

食品は、多くの品目で日EU・EPAによる関税削減メリットが大きく、同EPAの利用が欧州市場での競争力強化に特に貢献すると期待される分野だ。日EU・EPAでは、食品分野でのさらなる市場アクセス改善に向けた協力規定も盛り込まれている。今後、さらに利用を促進するルールの見直しに加えて、EU側の輸入規制など、関税以外の参入障壁緩和も期待される。


注1:
今回は、岡山市、長野市、延岡市、松山市、北九州市、福岡市、広島市、東広島市、呉市、名古屋市、豊田市、横浜市、大阪市、岐阜市で開催したセミナーでのアンケート結果を利用した。
注2:
HS1902項(麺)の原産地規則の例(かっこ内は執筆者による補足)
CC(2桁レベルの関税分類変更基準)。
ただし、次の全ての要件を満たすことを条件とする。
生産において使用される第2類(肉および食用のくず肉)、第3類(魚ならびに甲殻類、軟体動物およびその他の水棲無脊椎動物)および第16類(肉、魚の調整品)の非原産材料の総重量が産品の重量の10%を超えないこと。
生産において使用される第10.01項(小麦およびメスリン)の非原産材料の重量が産品の重量の90%を超えないこと。
生産において使用される第10.06項(コメ)および第11.01項(小麦粉およびメスリン粉)から第11.08項 (でん粉およびイヌリン)までの各項の非原産材料の総重量が産品の重量の10%を超えないこと。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
根津 奈緒美(ねづ なおみ)
2007年、ジェトロ入構。2007年4月~2012年6月、産業技術部(当時)地域産業連携課、先端技術交流課などで製造業、バイオ産業分野の地域間交流事業や展示会出展を支援。2012年6月~2013年5月、アジア経済研究所研究人材課。2013年5月~2015年7月、経済産業省通商政策局経済連携課にて関税担当としてFTA交渉に従事。2015年7月より海外調査部欧州ロシアCIS課にてEUなど地域を担当。