前広な情報収集と準備で日EU・EPAをフル活用

(EU、日本、イタリア)

欧州ロシアCIS課

2019年10月03日

ニット用の糸の紡績、ニット製品製造、アパレル事業などを手掛ける佐藤繊維(山形県寒河江市)は、他社がまねできないニット用糸を強みとして、世界のラグジュアリーブランドが顧客に名を連ねる(2018年5月25日付地域・分析レポート参照)。同社はニット糸の輸出で、日EU経済連携協定(EPA)による関税の優遇を受けている。ジェトロは9月20日、同社の外販部輸出課の五十嵐健太(ケネス)課長補佐に、欧州輸出の取り組みや日EU・EPAの活用状況について聞いた。

情報収集と取引先への周知で、発効直後からEPAを活用

日EU・EPAの活用について、佐藤繊維は日EU・EPAが署名された2018年7月ごろから、東京税関や経済産業省の所管部署、輸出業者などに相談しながら、自社で情報収集を重ねて準備を進め、EPA発効日である2019年2月1日の輸出申告分から関税の優遇を受けている。2018年12月に発効日が決定した後、取引先に事前周知し、迅速な活用に向けて具体的な手続きを進めたが、発効当初はEU側の輸入関税撤廃に関する具体的な手続きについての情報が不足しており、手探り状態だったという。主な対象品目は自社で紡績するニット糸で、EUの実行最恵国待遇(MFN)税率約3~6%が日EU・EPAにより無税となっている。自社で使用するインボイスに、協定が定める原産地申告文をデータ上で刷り込んでおり、輸出の都度、申告する方式を取っている。主に自社からイタリアなどの工場への直接輸出で、インボイスにHSコードを含めて、できる限り詳細な情報を書き込んでいるため、通関時にEPAの適用に関してトラブルもなく順調だという。

国際宅配業者が代行する通関手続きではEPA利用の念押しを推奨

同社製品は通常、国際宅配便を利用して海外へ輸出している。国際宅配便は、発送地から配達地までの小口貨物の輸送を一貫して請け負うため、通常、輸入申告書類作成や通関手続きまで含めて、国際宅配業者が代行し、関税なども業者が立て替える。ただ、通関手続きを国際宅配業者が代行する分スムーズな一方、これまで2回ほど通関時に原産地申告文が見逃されてしまい、関税が誤って賦課されるケースもあった。こうした事態を予防するため、インボイス上にタイプしてある申告文を目立たせることや、輸送時に、宅配業者や輸入者に「日EU・EPAの適用申請対象」の旨を念押しするなどの対策を取っていると、五十嵐氏は話す。なお、原産地申告の認識もれにより、誤って日EU・EPA非適用となった輸入申告については、EUの関税還付制度を利用して、イタリア税関に申請し、日EU・EPAの遡及(そきゅう)的適用により宅配業者の立て替え分が還付される予定だが、同税関からは、還付には半年程度を要する旨の回答を得ているという。

そのほか、産業特有の悩みとして、原産地規則の当てはめも難しい。日EU・EPAでは、繊維製品は原則として2工程ルールが適用されるが、例えば最新技術を用いたニット製品ではそもそも縫製が1工程しかないケースもあるなど、テクノロジーにルールが追い付いていない現状があるという。また、根拠資料についても、例えば繊維製品では重量で原産性を示すことが求められるケースがあるが、15~20種類の糸を組み合わせた複雑なニット製品の場合、最終製品に含まれる個別の原料糸の実際の重量割合を量ることができない。こうしたケースでの対応を税関などにも相談しながら、一つ一つ試行錯誤で書類を整えている。

写真 編地だけではなく、刺しゅうにも複数種の糸を使用している(佐藤繊維提供)

編地だけではなく、刺しゅうにも複数種の糸を使用している(佐藤繊維提供)

(根津奈緒美、野々下美和)

(EU、日本、イタリア)

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