プラスチック排出削減に向け進む、官民の取り組み(スイス)

2019年10月2日

家庭から出るプラスチックごみの回収とリサイクルの促進が、国際的な議論となっている。スイスでも、ペットボトル以外のリサイクル(再資源化)率の低さという課題を抱えつつ、プラスチックごみ削減の取り組みが進んでいる。埋め立て禁止、業界協約によるレジ袋の有償化、公共イベントでのリサイクル可能な容器の提供、産業界による自主規制や回収など、具体策と現状を概説する。

可燃性廃棄物の埋め立ては禁止

実は、スイスはOECD加盟国の中で有数のごみ排出国である。OECDの環境に関する2015年の報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、スイスで1年間に排出される一般廃棄物は1人当たり712キログラムであり、デンマーク(751キロ)と米国(725キロ)よりは少ないが、OECD平均522キロを大きく上回っている。ただし、家庭ごみの量で比較すると、スイスの1人当たり排出量は399キロであり、ルクセンブルク(581キロ)、デンマーク(515キロ)、オーストリア(477キロ)、オランダ(462キロ)、ドイツ(454キロ)、ノルウェー(448キロ)、英国(422キロ)、フランス(414キロ)、カナダ(403キロ)を下回っている(日本は253キロ)。従って、スイスの廃棄物の総量を押し上げているのは事業系ゴミであると考えられる。

スイスでは、廃棄物処理政令第10条により、可燃性廃棄物は回収できない場合、焼却が義務付けられている。連邦環境事務局(FOEN)によれば、スイスでは2000年以降、可燃性廃棄物の埋め立ては行われておらず、廃棄プラスチックの全量が、リサイクルされるか、エネルギーリカバリー(ごみ発電)のため焼却されている。欧州のプラスチックメーカーから成る製造事業者団体プラスチックヨーロッパの2018年版の報告PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.2MB) によれば、スイスは、消費者が廃棄したプラスチックのうち、エネルギーリカバリーのために焼却されている割合が2016年で75%程度と、フィンランドに次いで高い。他方、リサイクル率は25%程度と、EUにスイスとノルウェーを加えた30カ国の平均値41%を大きく下回っており、リサイクルが進んでいないのが現状である。

スイスでは、連邦レベルではなく、州政府が自治体への委任を通じてプラスチック廃棄物処分を確保する責任を負い、認可された民間事業者が回収に当たっている。ジュネーブ市では、家庭廃棄物に関しては、段ボール、瓶、缶、乾電池、コーヒーカートリッジに加え、ペットボトルが主要リサイクル品目に指定されており、街角にはこれらのリサイクルステーション(回収箱)が設置されている。


ジュネーブ市内のリサイクルステーション(回収箱)、
ペットボトル用は左から2番目(ジェトロ撮影)

ペットボトル以外のリサイクル率の低さが課題

FOENは「原則として、エネルギーリカバリーよりもリサイクルのための分別回収が優先されるべき」だとして、プラスチックの分別収集を進めていき、その割合を70%とすることを目標に掲げている。現状では、リサイクルかエネルギーリカバリーかの選択は州および事業者に委ねられており、経済合理性からエネルギーリカバリーが選ばれやすい。

環境系NPO団体のゼロ・ウェイスト・スイスによれば、特にペットボトル以外のプラスチックのリサイクル率が11%にとどまっている(ペットボトルは82%)。2017年にFOENが行ったプラスチックリサイクル・再資源化調査報告書によれば、ペットボトルのみをリサイクルする場合と比べ、ペットボトル以外のプラスチックもリサイクルする場合、リサイクルによる環境負荷軽減効果を上回っているとされている。

業界協約による有料化でレジ袋大幅削減

使い捨てのプラスチック製レジ袋の店頭での無償配布の禁止や供給の禁止、課税などの措置が、世界で導入されつつある。オーストリアでは2020年1月(2018年12月18日付ビジネス短信参照)、米国ニューヨーク州では2020年3月(2018年4月5日付ビジネス短信参照)から使用が禁止される。日本でも、環境相が2019年6月3日、プラスチックレジ袋の無料配布を規制する意向を明らかにした。

スイスでは、連邦レベルではこの種の規制はない。スイス小売連盟によると、これは、規制を求める動議に対し、スイス小売共同体(CI CDS)とスイス小売連盟が、小売業界においてプラスチックレジ袋の無料配布を自主的に取りやめる業界協約の締結を代案として示し、「介入を回避」した成果である。連邦議会は2016年9月、遅くとも2018年内に締結される同協約によって、使用される使い捨てプラスチック袋の数が80%削減されるとの想定に基づき、規制による禁止を行わない決定を下した。前述2団体は2016年10月、主に食料品を扱う店舗での使い捨てプラスチックレジ袋の無償配布を2018年1月1日までに終了し、2025年までにその消費量を70~80%削減することを盛り込んだ「使い捨てレジ袋の消費を削減するための業界協約」に署名した。同協約には、2018年4月までにさらに30以上の食品小売企業が参加。署名団体・企業の報告によれば、2017年に消費者に配布したレジ袋は6,611万枚と2016年比で約84%減少し、2018年も5,567万枚と、すでに目標を達成した。

自治体レベルでは、ジュネーブ州で店舗でのプラスチック製レジ袋の無料配布を禁止し、プラスチック包装の回避を推奨する州法(廃棄物管理法の改正法)が2019年3月に成立し、2020年1月1日から施行される。これに加え、2019年7月にはプラスチック製レジ袋の使用を禁止する請願が州議会に提出され、規制改正に向けた議論が行われている。

公共イベントなどで進む、リサイクル可能な容器の提供

使い捨てプラスチック包装容器の使用・流通についても、国際的に規制が進みつつある。EUは、使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止することを決定した(2019年5月22日付ビジネス短信参照)。国連環境計画(UNEP)の2018年版の報告書によると、使い捨てプラスチック製品の流通を規制している国は34あるほか、スイスを含む多くの国で産業界が自主規制を導入している。

スイスでは、州や自治体単位で取り組みが進みつつある。早いところでは2014年ごろから、2019年以降は多くの都市で、各自治体の規制または指導により、屋外でのフェスティバルなどの公共の催しにおいて、再利用可能なカップでのドリンクの提供が義務付けられるようになっている。

例えば、バーゼル・シュタット準州法は、公共スペースや500人以上が集まる私有地で開催されるイベントでの飲食の販売に当たっては、原則としてペットボトルを含むリサイクル可能な容器を使用する必要がある、と定めている。

スイスの公共イベントではまた、食器類へのデポジット制の適用が推奨されており、食器類が返却されれば、事業者が消費者にデポジット分を返す仕組みとなっている。デポジット額は、ジュネーブ市の場合はカップ300ミリリットルで2フラン(約216円、1フラン=約108円)、500ミリリットルで5フラン、皿・ナイフ・フォークの場合は5フラン程度だ。


リサイクル可能なプラスチックカップ(ジェトロ撮影)

産業界も独自の取り組みを進める

産業界による取り組みも進んでいる。欧州飲料協会(UNESDA)は2018年9月以来、EUにスイス、ノルウェーを加えた地域全体で、2025年までにソフトドリンクのプラスチックボトル(キャップ、ラベルを含む)を100%再利用可能なものとする目標を維持している(2018年9月18日付ビジネス短信参照)。これは2018年1月のEUの「欧州プラスチック戦略」が、2030年までにプラスチック包装資材を100%再利用可能なものとすると定めたところ、産業界が5年前倒しする目標を自主的に定めたものである。同戦略では、同年までにプラスチックのリサイクル率を50%以上とすることも目指している。

NPOゼロ・ウェイスト・スイスは2015年の設立以来、廃棄物となる包装容器などを、使わない・買わない、再使用する、リサイクルする、というごみゼロ活動を進めており、現在、その活動に賛同して包装の簡素化やプラスチック包装容器の削減を行う50以上の事業者が加盟している。

消費者に対する環境リスク低減のための、各種活動を行っているCONTACT財団は、包装容器に使い捨てプラスチックを使わない製品を集めた小売店舗LOLAをベルンに開業した。ここでは豆類、コーヒーやシャンプーといった食料品や日用品が量り売りされているほか、柄が木製の歯ブラシ、再利用可能な化粧パッドなどが販売されている。

スイスを代表する食品・飲料企業であるネスレは、以前から環境対策に力を入れている。カートリッジ式コーヒー「ネスプレッソ」の使用済み容器のリサイクルを28年前から開始しており、53カ国10万拠点での回収率は2018年に28%に到達した。また、2025年までに、同社はすべての製品の包装資材をリサイクル・再利用可能な素材に代えていく方針を発表している。2019年2月には、製品へのプラスチックストローの添付廃止を開始しており、紙製のパッケージングへの変更も始めている。ただし、ネスレは、コカ・コーラやペプシなどと並んで、プラスチック排出源として国際的な注目も浴びている。環境団体グリーンピースが2017年、世界42カ国で海岸の監査・清掃活動を行った結果、収集されたプラスチックごみから特定された、プラスチック排出源のトップ3として名指しされたのは、ネスレ、ユニリーバ、インドネシアのトラビカ・マヨラだった。

大手スーパーマーケットのコープが、乳製品・調味料用のプラスチックボトル(非ペットボトルを含む)、ペットボトル、乾電池、蛍光灯、系列店販売の家電製品、衣類などのリサイクルを、また、ミグロも同様に、ペットボトル、乳製品やトイレタリー製品・調味料用の非ペットボトルプラスチック容器、乾電池、蛍光灯、CD/DVD、自社販売の家電製品などのリサイクルを自主的に行っている。ドイツ系スーパーマーケット事業者アルディは、2022年までに原則すべてのプライベートブランド商品の包装資材を100%再利用可能なものに切り替え、2025年までに包装資材の使用を2015年比で半減、2018年末に使い捨てのプラスチック製の袋を店内からすべて排除する、などのプラスチック廃棄物削減に向けた10の取り組みを公表している。

執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所長
和田 恭(わだ たかし)
1993年通商産業省(現経済産業省)入省、情報プロジェクト室、製品安全課長などを経て、2018年6月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
マリオ・マルケジニ
ジュネーブ大学政策科学修士課程修了。スイス連邦経済省経済局(SECO)二国間協定担当部署での勤務を経て、2017年より現職。