加速する雄安新区の建設、早期参入を模索の日系企業も(中国)

2019年4月5日

2019年に入って、雄安新区の建設推進の動きが見られる。国務院が1月2日に「河北雄安新区全体規画(2018~2035年)に関する回答」を公開したほか、中国共産党中央委員会と国務院が1月24日に「河北雄安新区の全面的な深化に向けた改革と開放拡大を支援することに関する指導意見」を発表した。また、1月16日には習近平総書記(国家主席)が現地視察に訪れ、政策整備や建設状況の紹介を受けており、深セン経済特区、上海市浦東新区に続く国家プロジェクトの推進に注目が集まっている。2月末の現地視察を踏まえて、最近の政策展開状況、現在の建設状況、政府による誘致状況などについて紹介する(注1)。

トップレベルのデザインは基本的に完成

国務院が1月2日に公開した「河北雄安新区全体規画(2018~2035年)に関する回答外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(2019年3月5日付ビジネス短信参照)によると、国務院が雄安新区の2035年までの詳細な発展プランである「河北雄安新区全体規画(2018~2035年)」を承認し、雄安新区を質の高い発展を推進する全国の見本、現代化経済体系の新たな牽引役として建設することの意義を強調している。

「河北雄安新区全体規画(2018~2035年)」自体は公開されていないが、中国政府網に掲載されている新華社2019年1月17日付記事は、「河北雄安新区全体規画(2018~2035年)」は短期、中長期の建設目標を明確にしたと指摘している。具体的には、2022年までに「先行開発区」の基礎インフラ設備を基本的に建設し、市街地区の原形が一応の形を表すようにし、「スタートアップ区」の重大基礎インフラ設備を全面的に建設するなどとした点を指摘している(このほか2035年、21世紀半ばを建設の節目としている)。ちなみに、雄安新区の1,770平方キロのうち、まず開発を行う地域「スタートアップ区」として100平方キロを設定しているが、そのうち38平方キロが「先行開発区」で、現代金融やビッグデータなどの分野のイノベーション型・モデル型プロジェクトの集積を狙っている。また、前述の新華社の記事では、北京の非首都機能を受け入れる重点を、大学、科学研究機関、医療機関、企業本部、金融機関、事業単位などと明確にしたと指摘している。

ちなみに、雄安新区管理委員会の担当者から聞いたところ、雄安新区については「1+N」と呼ぶ規画(長期的な展望を示すもの)体系がある。この「1」は、2018年4月に発表された雄安新区のマスタープラン「河北雄安新区規画綱要」のことである(2018年5月7日付ビジネス短信参照)。「N」は複数のものを指し、具体的には「1」の規画を基本的なものとして、その下に「河北雄安新区全体規画(2018~2035年)」「白洋淀生態環境ガバナンス保護規画」「スタートアップ区コントロール性規画」「先行開発区コントロール性詳細規画」の4つの総合性規画が整備され、さらに洪水防止、震災防止、エネルギー、総合交通など26の専門規画が整備されるとのことである。

都市発展戦略に明るい中国政府系シンクタンクの専門家は、4つのうち「河北雄安新区全体規画(2018~2035年)」と「白洋淀生態環境ガバナンス環境保護規画」は既に制定済みだが、残りの2つの規画が定められないと、雄安新区全体としての詳細な建設計画は見えないと述べた。


雄安新区管理委員会の建物
(ジェトロ撮影)

「雄安市民服務中心(市民サービスセンター)」の
様子(ジェトロ撮影)

また、中国共産党中央委員会と国務院は2019年1月24日に、「河北雄安新区の全面的な深化に向けた改革と開放拡大を支援することに関する指導意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を発表した。同意見では、イノベーション駆動型発展を強化し、現代化経済体系を建設することを重点任務の1番目に挙げているが、その筆頭には、雄安新区の国有企業と事業単位の改革を挙げ、北京の国有企業本部や支社の雄安新区への移転を支援し、その過程で戦略的に再編成するなどとしている。また、北京のイノベーション型の成長著しい科学技術企業や、科学技術研究機関、イノベーションプラットフォームの移転も促すとしている。そして、プラットフォームの1つとなる「国家実験室」の新設や、北京市のハイテクパークである中関村科技園区にならった「雄安新区中関村科技園」の建設、知的財産権の迅速な審査・登録・保護を目的とした「知的財産権保護センター」の設立も行うとしている。

このほか、重点任務の1つとして、公共サービス供給メカニズムをイノベーションし、民生の保障レベルを改善することを挙げている。北京の大学やイノベーションの特色のある中等職業学校などが全体移転、分校設立、共同設立などさまざまな形で移転する支援をしつつ、新たなメカニズム・モデルを有する「雄安大学」を建設するなどとした。また、北京の病院についても、全体移転、分院設立、共同設立などさまざまな形で移転する支援を行うとした。そして、北京市と雄安新区の教育、医療衛生、社会保障などの各分野での相互協力を強化することを挙げている。

さらに重点任務の1つとして、国内外への開放を拡大し、開放発展に向けたさらなる基盤を構築するとした。越境EC(電子商取引)の総合試験区の設置を支援するほか、条件を満たす場合は、できるだけ早く出資比率制限の緩和・取り消しをしつつ、外商単独資本または中外合弁金融機関の設立を支援する(ただし、この金融機関が何を指すか詳細は不明)。また、紛争時における多角的な解決メカニズムの構築のため、国際的な仲裁、認証、鑑定の権威的機関の設立も支援するとしている。

雄安新区管理委員会の担当者は、同指導意見について、「1+N」の政策体系が初歩的な完成を見せたと述べた。「1」は同指導意見で、「N」は同指導意見に沿った政策展開を図る上で、必要な一連の複数政策を指す。現在準備中だとした上で、雄安新区の建設開始から2年近くが経過し、トップレベルのデザインが基本的に完成したと強調した。ちなみに、同指導意見でも、関連部門が責任分担に基づき、分野と段階に分けて実施プランを策定し、具体的な任務、タイムスケジュール、ロードマップなどを明確にするように求めている。

建設はこれから本格化する状況に

雄安新区は国家プロジェクトとして、国内外の注目度は高く、前述のとおり中央レベルの指導意見などで建設推進の動きが見られるが、中国政府が雄安新区の建設を発表したのは2017年4月で、マスタープランが公布されたのは前述のとおり2018年4月であり、開始からようやく3年目を迎えるところである。

現地で面談した関係者の話を総合すると、現時点では総建築面積が9万9,600平方メートルの「雄安市民服務中心(市民サービスセンター)」の建設は進んだものの、そのほかは基礎インフラ整備、従来型低付加価値産業の整理、生態回復のプロセスにあり、これから建設が本格化する状況である(2019年3月6日付ビジネス短信参照)。

市民サービスセンター内には、自動運転バスなどが走行する自動運転のテストコース、顔認証で部屋に入室可能なホテル「THE COLI HOTEL」などがあり、エコスマートシティーの実現のため、各企業が最新のイノベーション技術を示している状況にあり、日系企業担当者を含めて多くの人が視察に訪れている。また、市民サービスセンター内には、中国銀行、中国農業銀行、中国工商銀行などの銀行や、中国移動、中国電信などの通信会社、アリババ、テンセント、百度などのIT企業などが既に入居している。


「雄安市民服務中心(市民サービス
センター)」内の入居企業を示す看板
(ジェトロ撮影)

「雄安市民服務中心(市民サービスセンター)」内の
新石器の無人販売車(ジェトロ撮影)

今後は前述の関連文書も受けて、建設が加速するとみられる。雄安新区管理委員会の担当者によると、市民サービスセンターに加えて、その北部に「雄安商務服務中心(ビジネスサービスセンター)」を建設する予定で、2019年3月末に定礎式を行うとしていた(ヒアリング時点の情報)。総建築面積は82万平方メートルで、ホテル、専門家用の住宅、サービスアパートメント、商業施設、幼稚園、会議センターなどを建設する。そして、2019年中には、清華大学のスマート実験室を含む国際実験室、金融城、国際科学技術交易中心などの10大重要プロジェクトの建設を開始するとしている。

なお、2018年4月発表のマスタープランの冒頭に、「北京の非首都機能の過密緩和をカギとして、京津冀協同発展を推進し、雄安新区を高いスタート地点から規画し、ハイレベルで建設を行っていく」という習総書記の共産党第19回全国代表大会での発言を記載しているが、北京の非首都機能の移転をどのような形で、どのような速度で進めていくかも今後の注目点となる。

現地ヒアリングを総合すると、非首都機能移転については、現在は初期段階にあり、どの機能をどのタイミングで移転するという定まった計画のようなものはまだないと考えられる。ただし、前述の指導意見において、国有企業の本社や支社、科学技術研究機関やイノベーションプラットフォーム、大学、病院などの北京市から雄安新区への移転が改めて強調されており、その具体的な構想は今後明らかになっていくものと考えられる。しかし、支店、分院、分校のように、北京市に拠点を維持しつつ雄安新区にも新たに拠点を設けるケースはまだ想像しやすいが、全体移転となると、被雇用者らの生活や利益とも密接にかかわることから、短期間に行うことの難易度は高いと思われる。

現在、進展が目立つのは、北京市が教育、医療分野で、資金負担や人材派遣などを行いながら、援助の形で学校などを設立するケースである。北京市教育委員会によると、2018年3月1日に北京市の援助教育プロジェクトとして、北京市朝陽区実験小学雄安校区、北京市第八十中学雄安校区、北京市六一乳児院雄安院区、北京市海淀区中関村第三小学雄安校区の運用を開始した。雄安新区管理委員会の担当者に聞いたところでは、雄安新区でさらに3つの学校(雄安北京史家小学、雄安北京四中、北海幼稚園)と1つの病院(雄安北京宣武医院)の建設を2019年から開始するとのことである。

関係各機関・企業の誘致において、教育、医療分野のインフラ整備が重要なことから、急速に整備を進めているものと考えられる。

ビジネス獲得に動きだしている日系企業も

前述のような建設状況であるが、現地において企業誘致の状況を聞き取りしたところ、雄安新区管理委員会の担当者は「雄安新区の誘致の本格化は、基礎インフラ整備が進展してからと考えている」と述べた(2019年3月7日付ビジネス短信参照)。北京における大手日系企業の担当者数人に聞いたところ、雄安新区管理委員会などからの主体的な誘致は受けていないとのことだった。

雄安新区の建設は「千年の大計、国家の重要事項」と表現されるように、産業集積が十分に進んでいない地域を、北京の非首都機能の移転の受け皿、質の高い発展を推進するモデル区などにしていくことから、国家の意向を踏まえながら、一定の時間をかけながら誘致は徐々に本格化するとの見方が多い。現在、現地政府は、基礎インフラ整備、従来型低付加価値産業の整理、生態回復のプロセスなどに注力している。

こうした状況の中で、日系企業は前述のとおり市民サービスセンターを視察するなど、ビジネスの可能性を模索するため、情報収集を行いつつその建設動向を注視している。ただし、一部では既に実際のビジネス獲得に向けて動き出しているケースもある。松下電器(中国)は2018年7月、同社と中国企業との合弁会社である北京松盛元環境科技、雄安新区が位置する河北省保定市との3者間で戦略提携を締結し、松下電器(中国)と北京松盛元環境科技は保定市に事務所を設立している(注2)。日本経済新聞2018年11月23日付報道によれば、その新拠点を通じて、AI(人工知能)などを使って省エネルギー性能や安全性を高めた住宅向け製品やシステムの納入を目指すほか、百度とともに自動運転向けの情報システムの共同開発も進めるとしている。百度は雄安新区で自動運転プロジェクトを推進している。

都市発展戦略に明るい中国政府系シンクタンクの専門家が「雄安新区でビジネスを展開すると、雄安新区のみならず、中国全体への宣伝効果が大きい」と指摘するなど、習総書記の肝いりプロジェクトに参画する宣伝効果の大きさを指摘する声は多い。このほか、ある日系企業の担当者は「建設計画が現在は不透明な部分はあるが、後になってから参入するのは難しくなる可能性もあるため、早期に参入できないか検討している」と、早期参入の有効性について述べた。雄安新区の建設が本格化する中で、今後の日系企業のビジネス展開の状況が注目される。


注1:
文中における関係者のコメントは、2019年2月末の現地視察時のものである。
注2:
保定国家ハイテク産業開発区のウェブサイト。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、北京センター、海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・北京事務所を経て、2018年8月より現職。