主要都市に広がるディーゼル車走行禁止措置(ドイツ)
実効性には疑問も

2019年6月21日

ドイツの主要都市で、旧式の排気ガス規制レベルにしか対応していないディーゼル車の市内走行を禁止する措置が実施されている。ハンブルクでは2018年5月31日から、シュツットガルトでは1月1日から(同市在住者登録車両については4月1日から)、ダルムシュタットでは6月1日からこの措置の適用が開始された。ベルリンでも8月には適用される予定だ。ハンブルクとダルムシュタットでは、走行禁止措置が適用されるのは市内中心部の道路2カ所(合計距離約1~2キロ)、ベルリンでも15カ所(合計距離約2キロ)に限定されるが、シュツットガルトでは市内全域が対象となった。

表1:ディーゼル車走行禁止措置が実施されている、あるいは実施が確定している都市
項目 ハンブルク シュツットガルト ダルムシュタット ベルリン
実施時期 2018年5月31日 2019年1月1日
(注2)
2019年6月1日 2019年8月
(注3)
対象地域 市内2か所(合計約2キロ) 市内全域 市内2か所(合計約1キロ) 市内15か所(合計約2キロ)
対象車種(排気ガス規制レベル) (注1) ユーロ1~5のディーゼル車 ユーロ1~4および ユーロⅠ~Ⅳのディーゼル車 ユーロ 1~5および ユーロⅠ~Ⅴのディーゼル車、ユーロ 1~2および ユーロⅠ~Ⅱのガソリン車 ユーロ 1~5および ユーロⅠ~Ⅴのディーゼル車

注1:「ユーロ」は自動車による大気汚染物質の排出規制値を定めたEUの排出基準。
ユーロ1の適用が1992年に開始された後、ユーロ2が1996年、ユーロ3が2000年、
ユーロ4が2005年、ユーロ5が2009年、ユーロ6が2014年から適用。新しい基準が出るたび、規制値は厳しくなっている。Noxの規制値はユーロ4が0.25g/km、ユーロ5が0.18g/km、ユーロ6が0.08g/km。
ユーロ1~6は乗用車対象、ユーロⅠ~Ⅵは大型トラックやバスなど重量車対象
注2:シュツットガルト市内在住者登録車両については3か月の経過措置が取られ、2019年4月1日実施。
注3:当初2019年7月1日実施予定だったが、ベルリン市の大気清浄化計画全体の策定が遅れているため延期され、8月ごろ実施の見込み。
出所:各市ウェブサイト

走行禁止の対象となっている排気ガス規制レベルは、シュツットガルトでは6段階中の古い方から4段階(「ユーロ1~4」「ユーロⅠ~Ⅳ」)だが、ハンブルク、ベルリンでは5段階で、シュツットガルトでは、2019年半ばごろの観測結果で市内の大気中の窒素酸化物(NOx)値が改善しなければ、5段階目の「ユーロ5」「ユーロⅤ」対応の車両も走行禁止措置の対象となる、としている。事実上、最新の「ユーロ6」「ユーロ6」でなければ措置の対象になる、という状況だ。

ディーゼル車走行禁止措置導入都市はさらに増加か

この背景には、2017年2月にドイツ国内28の都市圏でEUの定めた規制値を超えるNOxが検出されたことを受け、欧州委員会がドイツ政府に対して改善に向けた対策を強く求めたこと、ドイツ連邦行政裁判所が2018年2月にデュッセルドルフとシュツットガルトでのディーゼル車乗り入れ規制などの実施を求める環境保護団体ドイツ環境支援協会(Deutsche Umwelt Hilfe、DUH)の訴えを支持する判決を出したことがある(2018年9月18日付地域・分析レポート参照2018年6月1日付ビジネス短信参照)。

DUHはドイツの30以上の都市に対してディーゼル車乗り入れ規制などの実施を求める訴訟を起こしている。上記の都市に加えて、フランクフルト、アーヘン、ボン、エッセン、ゲルゼンキルヘン、ケルンでも、行政裁判所の判決に基づいてディーゼル車の走行禁止が実施される予定だったが、地元のヘッセン州、ノルトライン・ウェストファーレン州が不服申し立てをしたことから、実施が凍結されている。不服申し立てについての裁判所の判断は7~8月に出る見込みだ。裁判所が却下すれば、ディーゼル車走行禁止措置が実施される都市がさらに増えることになる。マインツでも、2019年上半期の大気汚染の状況によっては、秋以降に措置が実施される可能性がある。フランクフルト、ケルンでは市内の広い範囲での禁止措置が予定されており、エッセンではアウトバーンの一部が走行禁止の対象となる予定だ。

不十分な取り締まり態勢

取り締まりについては、「日常の交通規制の中でチェックする」とされており、禁止対象車両ないしは対象にならない車両を明示するステッカーや、対象車両の走行禁止地域への進入を自動的に検知する仕組みがあるわけではない。4月から市内全域を対象に走行禁止措置が本格実施されたシュツットガルトの取り締まりについて、シュツットガルト新聞の報道によると、 同月に走行禁止違反の疑いの対象となったのは4万3,875件で、うち駐車違反との関連が1万7,110件、スピード違反との関連が2万4,265件、信号無視との関連が1,736件と、全体の98%が他の違反との関連だった。厳密な取り締まりを実施できる態勢になく、検問を折々行うほかは、スピード違反や駐車違反など他の交通違反取り締まりの際に、ついでに取り締まっているのが実態のようだ。

ドイツ国内乗用車の3分の1がディーゼル車、ユーザーへの配慮も必要

ドイツ国内で登録されている乗用車約4,700万台(1月1日時点)のうち、ディーゼル車は約1,500万台で全体の約3分の1近くを占める。ユーロ1~4のディーゼル車、ユーロ5のディーゼル車はそれぞれ全体の約10%を占める。

表2:ドイツで登録されている乗用車に占めるディーゼル車の割合
車種 台数 割合
ディーゼル車 15,153,364 32.2%
階層レベル2の項目ユーロ1~3 2,128,007 4.5%
階層レベル2の項目ユーロ4 2,780,024 5.9%
階層レベル2の項目ユーロ5 5,419,755 11.5%
階層レベル2の項目ユーロ6 4,695,670 10.0%
乗用車合計 47,095,784 100.00%

出所:連邦自動車局、2019年1月1日時点

ディーゼル車のユーザーは無視できない規模であり、規制をかける一方でユーザーへの配慮も必要だ。今回の走行禁止措置には例外も設けられている。食料品・薬品などの配達、社会・看護サービスに係る通行、警察・消防・救急の緊急車両の通行などは禁止対象から除外されており、個々のケースで公共交通機関では定期的通院、通勤などが不可能で、ディーゼル車を使用せざるを得ないような場合も、市当局に申請して認められれば、対象外となりうる扱いもある。

連邦政府はまた、自動車メーカーが走行禁止措置の対象となる車両の保有者などに対し、禁止対象とならない車両への買い替えまたは交換への補助(ユーロ4および5のディーゼル車対象)、またはディーゼルエンジンが排出するNOxを浄化するSCRシステムなどの排ガス浄化機能整備(ユーロ5のディーゼル車対象)のいずれかの措置をとることを要請している(2018年10月18日付ビジネス短信参照)。買い替えまたは交換への補助については、BMWが2019年末まで、ユーロ1~5のディーゼル車ユーザーに対し、ディーゼル車を下取りに出しBMWの新車を購入した場合に2,000ユーロ、中古車の購入の場合に1,500ユーロを補助するなど、各メーカーがさまざまなプログラムを提供している。だが、浄化機能整備について対応すべく動いている自動車メーカーは一部にとどまる。

今回のディーゼル車走行禁止措置を、「ドイツの脱ディーゼルへの一歩」ととらえる向きもあるが、取り締まり態勢が不十分で、どれだけ効果を上げられるかについては疑問が残る。また、ディーゼル車ユーザーの層の厚さを考えると、本格的に脱ディーゼルに向かうには、ディーゼル車からの転換にさらに強力なインセンティブをユーザーに与えることを検討する必要があるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主査(欧州担当)
立川 雅和(たちかわ まさかず)
1986年ジェトロ入構。ミュンヘンでの研修(IFO経済研究所客員研究員、1990~1991年)、ジェトロ・ミュンヘン事務所(1991~1995年)、ジェトロ・ウィーン事務所(1998~2001年)、ジェトロ・デュッセルドルフ事務所次長(2001~2003年)、欧州課長(2003~2008年)、ジェトロ・アムステルダム事務所長(2013~2015年)、ケルン日本文化会館館長(2015~2019年)を経て2019年4月から現職。