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イノベーションには経営層との連携がカギ(インド)
インドを活用したオープン・イノベーションの可能性(3)

2019年6月10日

日本のイノベーション推進のパートナーとして、欧米はもちろん、昨今では中国、イスラエルといった国々の企業との協業事例を聞くことが増えてきた。インドについても、2018年5月、日印政府の合意の下、ジェトロ・ベンガルール事務所に「日印スタートアップハブ」が設置され、日本政府主導の取り組みが始まっている(2018年9月14日付地域・分析レポート参照)。連載の3回目は、インドへの投資や協業に対する関心が高まる中、日印スタートアップハブでの取り組みや成果とともに、インドのスタートアップと協業する場合に日本企業が留意すべき事項を紹介する。


日印スタートアップハブのお披露目イベントに
集まる観衆(ジェトロ撮影)

パネルディスカッションに登壇するベンチャー
キャピタルなどのスタートアップ関係者
(ジェトロ撮影)

スタートアップへの積極的な情報発信を

「日印スタートアップハブ」は、日印企業の両国でのビジネス展開支援やマッチング支援を通じたイノベーション促進を担う。発足以来、インドビジネスに関心のある日本企業へのブリーフィングやメンタリングのほか、オープン・イノベーションを推進する日本企業の視察団の受け入れなどを実施してきた。直近では2019年3月4日(月曜)~8日(金曜)に、ジェトロ主催の「インド・イノベーション・ミッション」を開催。インドのスタートアップとのオープン・イノベーションを検討する製造業、情報通信、商社などを中心に27社を受け入れ、セミナーや個別面談を実施した。その結果、連携や協業の交渉が進み、既にインドスタートアップ企業との協業に向けた投資を決定した日本企業も出ている。

前述のミッションに参加した日本企業は、インド人のオープンさや、英語力などのコミュニケーション面と、数学力と理論的思考力にたけた面を高く評価。ビジネスが成立しやすいと感じている企業もあり、「研究開発での協業を本格的に検討したい」といった声も上がるなど、有益なビジネスチャンスをつかんだようだ。


活発な商談が行われた、飛躍ミッションおよびイノベーションミッションの個別商談会(ジェトロ撮影)

同ミッションなどを通して、訪問先で積極的にピッチを行った企業や、課題意識を強く持ち、適切な相手との個別商談を実現した企業が成果を上げた。これらのミッションから見られた、日本企業がインドで求められる対応としては、(1)自社課題の明確化と連携したいターゲット分野や相手の明確化、(2)スピード感ある意思決定とインド市場へのコミットメント、(3)自社の強みやエコシステムに貢献できることの積極的な発信、の3点だろう。欧米のように、ビジネスライクで、かつオープンなマインドの南インドでは、目的や課題が明確であれば、商談はスピーディーに進みやすい。

他方、インドのスタートアップや多国籍企業は「多くの日本企業がインドに対して関心を示しているのは興味深い」とした上で、「インドでは日本の情報が不足しており、日本側のより積極的な情報発信を望んでいる」という声が多かった。インド人の日本に対するイメージは非常に好意的で、日本企業との接触や連携を望むインド企業からの相談がジェトロ・ベンガルール事務所に多く寄せられている。ジェトロでは今後も、イノベーション連携を望む日印企業同士の接触を増やすための取り組みを強化していく予定だ。

経営層とイノベーションチームの連携がオープン・イノベーションのカギに

一方、自社とシナジーのありそうなスタートアップを発掘したとしても、日本企業とは文化が大きく異なり、本格的な連携は容易でない。日本企業が今後、どのように連携を進めていくべきかについて、ベンガルールにも拠点を構え、米国トップ5に入るベンチャーキャピタル兼アクセラレーターであるテックスターズ(Techstars)のバラ・ギリサバラ社長に話を聞いた(2019年3月19日)。

質問:
主な業務内容は。
答え:
アーリーステージのスタートアップへの投資・アクセラレーションや、大手企業のイノベーション創出の支援を行っている。当社の強みは、グローバルネットワークを最大限活用した、世界50カ国で実施されるメンタリング重視のアクセラレーション・プログラムだ。同プログラムに参加したスタートアップのうち、87%は資金調達に成功し、シリーズAまで到達している。私自身、マイクロソフトをはじめとする、さまざまな大手企業のアクセラレーション・プログラムの立ち上げに従事してきた実績がある。
質問:
どのようなスピード感を持ってイノベーションを推進しているか。
答え:
社内プロセスに時間がかかるのは、日本企業特有の問題ではない。成功に導くための最大のポイントは、経営層とイノベーションチームがうまく連携することだ。まずは事前に各部署のビジネス課題を全て洗い出し、スタートアップとの連携に何を求めるかを社内で調達部門と現場の間で議論しておく必要がある。
その上で、実際にスタートアップとの議論開始の初日には、意思決定のできる経営層に必ず同席してもらうことが重要である。例えば、製造ラインでイノベーションを起こしたいのであれば、その責任者が必ず同席するべきだ。
質問:
インドにイノベーション拠点を設置するメリットと理想的な体制は。
答え:
日本企業にとってのメリットは、外部リソースから斬新なアイデアを得られることだ。そのためには、少数精鋭のイノベーションチーム3~4人を、アイデアのソーシング先として海外に設置する必要があり、そのチーム構成は、(1)プロジェクトマネジャー、(2)技術に精通するテック人材、(3)連携を強化するストラテジー、イノベーション人材が理想だ。
質問:
具体的な事例はあるか。
答え:
米国企業で小売業の変革を支援するターゲット・アクセラレーターは、インドに拠点を設置せず、イノベーションチーム3~4人だけを当地に送り込んでいる。このチームの役割は2つ。1点目は、本社各部署のビジネス課題をヒアリングした上で、そのソリューションとして、合致する企業を現地で見つけること。2点目は、現地で見つけた革新的なアイデアやテクノロジーを、本社に共有することだ。
質問:
エコシステム先進地域に共通する要素は。
答え:
1点目は、人のオープンさ。新たなアイデア、イノベーションを生み出していくためには、いかに活発に情報交換できるか、また、そういった場に出席しているかが最大のキーである。2点目は、決断の速さである。当然、決断をする際にはリスクを避けることが重要である。自身の失敗経験を共有し、より成功に近づく決断を促すために、さまざまな経験を積んだ人がメンタリングをした方がよい。他方、投資した先のどこが将来的に大成功するか、不確かなことも事実だ。できるだけ素早く決断し、広く多く賭けた方が、成功する確率は高まる。

双方向でのコミュニケーションが日印連携の第一歩

日本企業からは、複雑で巨大な市場であるインドを攻略するのは難しいという声がよく聞かれる。多様で複雑な市場を理解するには、長期的なコミットメントも求められる。しかし、インド企業は日本とのビジネスに対して非常にオープンで前向きであり、日本側からの積極的かつ明確な情報発信を求めている。日印連携の第一歩として、まずはインド・イノベーション・エコシステムをうまく活用しながら、インド企業と双方向の効果的なコミュニケーションを取ることが重要である。そこから、日印協業によるグローバル・ビジネスも生まれてくるのではないだろうか。


執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
瀧 幸乃(たき さちの)
2016年、ジェトロ入構。対日投資部誘致プロモーション課(2016~2018年)、ジェトロ・ベンガルール事務所実務研修(2018~現在)。高度人材、スタートアップ、オープンイノベーション関係の事業、調査を主に担当。

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