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  4. インドを活用したオープン・イノベーションの可能性(2)ベンガルールを中心に急発展するイノベーション・エコシステム

ベンガルールを中心に急発展するイノベーション・エコシステム(インド)
インドを活用したオープン・イノベーションの可能性(2)

2019年6月10日

インドのスタートアップ企業は、豊富なIT人材、開発力の高さが魅力であり、世界のトップ企業からの出資を呼び込む〔6月10日記事(1)参照〕。一方、スタートアップが成長するためには、資金のみならず、技術、経営、人材など多面的な支援やイノベーションを生み出しやすい事業環境が必要だ。インドでは、南部カルナータカ州の州都ベンガルールを中心に、イノベーション・エコシステムが急速に発展してきている。連載の2回目は、当地のエコシステムをうまく活用する欧米多国籍企業の事例や、スタートアップを成長させる仕組みであるアクセラレーションの事例を紹介する。

ハッカソン開催で人材発掘、連携も模索

インドの優秀な人材や有力なスタートアップを探す有効な手段の1つが、「アイディアソン」や「ハッカソン」だ。クリエイターやエンジニアたちが集結し、企業各社が提示した課題設定をもとに、一定期間内に新しいアイデアを創出し、または共同開発を行うイベントである。

日本の大手スタートアップ企業であるメルカリは、インドでハッカソンを開催したことで企業の知名度が上がり、インドのエンジニアリング系大学の最高学府であるインド工科大学(IIT)などから、優秀なエンジニア32人を採用するという成果につなげた。これらの人材確保については、国際的な米国IT系大企業各社による採用競争が激化しており、中には初任給で2,000万円を提示する企業も出るほどだ。

最近では、広大なインド全土をカバーするため、オンライン上でのハッカソン開催を希望する企業も増えている。ハッカーアース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますというインドのスタートアップは、このようなニーズに対応するため、オンライン上でハッカソンを開催するプラットフォームを開発した。同プラットフォームは、既にインド全国の大学の授業の一環として導入されているほか、優秀な開発者を採用したい企業の間で活用されるなど、注目を集めている。

スタートアップとの接触機会を増やすには、インド国内で開催される大規模なスタートアップ展示会(表1参照)への参加や、スポンサーとしての出資も有効だ。エコシステム内における知名度向上につながるとともに、ベンチャーキャピタル(VC)などに選抜された有力なスタートアップとの接触を広げる企業も多い。そのほか、企業がスタートアップとの協業を模索するには、こうしたイベントのスポンサーや、全国ソフトウエア・サービス企業協会(NASSCOM)などの業界団体、さらにVCなどとパートナーを組むことも1つの方法だ。ネットワークを持つスタートアップに対して、自社のビジネスノウハウや課題を共有することで、より効果的・効率的なコラボレーションが期待できる。

表1:インドの大規模なスタートアップ展示会事例
イベント名 イベント概要/特徴
テックスパークス(TechSparks)
(次回2019年10月11~12日開催予定)
スタートアップを取り上げる新興メディアであるユアーストーリー主催のインド最大規模のスタートアップ展示会の一つ。9回目となる2018年は、2日間の開催期間中3,000人以上の来訪者があった。官民のエコシステムのキーパーソンが集結する。
ベンガルール・テックサミット(Bangalore Tech Summit )
(次回2019年11月18~20日開催予定)
カルナータカ州政府主催の国際的なスタートアップイベントであり、日本を含む6ヵ国がグローバル・イノベ―ション・パートナーとして協力。2018年の同イベントでは、JETROも日本セッションを設けて日印ビジネスの協業例や日印スタートアップハブを紹介した。

出所:各イベントウェブサイトを基にジェトロ作成


30社ピッチが目玉プログラムのテックスパークス
(ジェトロ撮影)

バンガロール・テックサミットの外観
(ジェトロ撮影)

狙った分野のスタートアップを引きつける独自のアクセラレーション・プログラム

企業がスタートアップと協業関係を築く際には、自社のビジネスとシナジーのある特定分野のスタートアップを引きつけ、最適なパートナーを見つける必要がある。より多くのスタートアップを引きつけるには、資金力に乏しいスタートアップに対し、企業が提供できる資金やネットワークをいかに魅力的に発信できるかが重要だ。欧米の大手企業は、選抜したスタートアップに対して一定期間、自社の技術やノウハウの共有、投資など各社独自のアクセラレーション・プログラムを実施している(表2参照)。NASSCOMによると、コーポレート・アクセラレーション・プログラムに参加したスタートアップのうち、1~2割程度がプログラム主催者である企業と実際のビジネス連携に至っているという。このようなプログラムに参加をすることで、スタートアップの実績にもなり、その他の投資家からも投資を受けやすい。こういったアクセラレーション・インキュベーションは、政府支援機関や大学の施設でも行われている(表3、表4参照)。

これらのエコシステムでプレゼンスの高い多国籍企業は、さまざまなイノベーション関係のイベント・展示会のスポンサーとして名を連ね、主要なインキュベーター、アクセラレーターの戦略パートナーとなっているケースが多い。スタートアップとの連携を望む日本企業にとっても、まずは自社のプレゼンスを高めるための情報発信や関係機関との密な連携が欠かせない。

表2:コーポレート・アクセラレーションの事例
代表企業 プログラム概要/特徴
エアバス
(フランス航空機メーカー大手)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
アーリーステージのスタートアップ7社程度を対象とした6カ月間のエアバス・ビズラボと呼ばれるプログラムをフランス、ドイツ、ベンガルールの3カ所で実施。エアバス社内チーム、産業エキスパートとともに市場調査、概念実証、ビジネスモデルの構築などを行う。
フィリップス
(オランダ・ヘルスケア関連機器開発大手)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
米国ケンブリッジ、オランダ・アイントホーフェン、ドイツ・ハンブルク、上海、ベンガルールの5拠点にイノベーションハブを設置、うちベンガルールは世界最大規模。ベンガルールでは、アーリーステージのAIスタートアップを世界中から5社選定し、3カ月間のプログラムを実施。専門知識やノウハウの提供、アイディア・ビジネスモデルの構築、リスク軽減の支援などを行う。

出所:各社ウェブサイトを基にジェトロ作成

表3:政府系アクセラレーター・インキュベーターの事例
代表企業 プログラム概要/特徴
NASSCOM
(National Association of Software and Services Companies)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
インドのスタートアップ・エコシステムを発展させるために10年間で1万社のテック系スタートアップを育成する「10,000 Startups Warehouse」を2013年に開始し、インド国内10カ所にインキュベーション施設を設置。ディープテック系スタートアップを育成するために、Center of Excellence –IoTおよびData Science & AIも設置された。Nasscomのインダストリー・パートナーになっている大手企業は、ハッカソン、セミナーなどを通じた入居スタートアップへのアクセスが可能。
C-CAMP
(Centre of Cellular And Molecular Platforms)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
インド科学技術省バイオテクノロジー局のイニシアティブにより、バイオ関係のスタートアップの研究支援、投資を行うためにベンガルールに設立された。シード段階のスタートアップへの投資や、完備された研究施設の提供、アカデミア、産業との連携支援、メンタリングなどを実施する。また、アグリテックのスタートアップを支援するために、Centre of Excellence-for Agri Innovationも設置された。

出所:各機関ウェブサイトを基にジェトロ作成


選抜されたテック系スタートアップが入居するNasscom Warehouse(左)と、
Centre of Excellence for IoT(右)の様子(ジェトロ撮影)
表4:大学連携のインキュベーターの事例
代表企業 プログラム概要/特徴
インド経営大学院ベンガルール校
(NSRCEL- IIM Bangalore )外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
アーリーステージのスタートアップを支援するためのインキュベーション施設NSRCELが設置された。教授によるビジネスモデルの構築支援や卒業生ネットワークを活用したメンタリング、投資等が行われる。これまで200社以上のスタートアップが入居した。
インド理科大学院
(Society of Innovation & Development (SID) - IISc )外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
学内リソースを活用した企業連携やスタートアップ支援のための組織SIDを校内に設置し、企業の訪問研究、スタートアップのインキュベーションを実施。同校はインド国内で最高峰の研究力を誇る理工系総合大学であり、ボーイング、GMやマイクロソフトといったベンガルールに拠点を持つグローバル企業が多く活用している。

出所:各大学ウェブサイトを基にジェトロ作成


変更履歴
表1に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。
テックスパークス(TechSparks)のイベント概要/特徴(2019年7月2日)
(誤)3万人以上の来訪者があった。
(正)3,000人以上の来訪者があった。
テックスパークス(TechSparks)の日程(2019年7月19日)
掲載後に日程が変更されている事実を確認しましたので訂正しました。
変更後の日程:次回2019年10月11~12日開催予定
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
瀧 幸乃(たき さちの)
2016年、ジェトロ入構。対日投資部誘致プロモーション課(2016~2018年)、ジェトロ・ベンガルール事務所実務研修(2018~現在)。高度人材、スタートアップ、オープンイノベーション関係の事業、調査を主に担当。

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