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スタートアップ1万社時代を目前にしたインドの今

2018年9月14日

インドでは2017年に1,000社のスタートアップが生まれ、企業数は累計で5,500社に達した。過去10年で、「ユニコーン」企業は10社も誕生している。政府は2016年に「スタートアップ・インディア」を掲げ、エコシステムの強化を目指す。インドのスタートアップの最新動向について、現地企業へのインタビュー結果(2018年5月に実施)を含めて報告する。

B2B系のスタートアップの割合が上昇

旺盛な起業家精神、柔軟な発想力、IT人材の豊富さはインドの代名詞であり、スタートアップはインドに生まれるべくして生まれた企業形態であると言ってもよい。さらに、インドは多くの社会課題も抱えており、これをビジネスチャンスとするスタートアップも少なからず存在する。

ジェトロが2018年2月に発表した、「2017年度日本発知的財産活用ビジネス化支援事業. エコシステム調査 ―インド編―PDFファイル(4.7MB) 」などによると、インドのスタートアップの数は2017年時点で5,500社に上る。2017年だけで1,000社のスタートアップが新たに加わったとされるが、同時に既存企業の淘汰(とうた)も速いスピードで進む。2020年には、インド全体でスタートアップ企業数が1万社に達するという予測もある。インドのスタートアップの立地としては大都市が中心で、「インドのシリコンバレー」と呼ばれるインド南部のベンガルールを中心に、北部デリー近郊、西部ムンバイだけで全体のおよそ8割を占める。

スタートアップのビジネス領域について、同業界に詳しい地場コンサルティング会社ジノブ(zinnov)のアディト・ダナック・チームリーダーは「電子商取引(EC)などB2C系の企業が60%と業界の大半。しかし、近年では法人向けサービス、ヘルステック、フィンテックなどB2B系の割合が明らかに上昇している」とみる。スタートアップへの投資額は2017年時点で34億ドルに達しており、投資家の半数近くは外国投資家だという。スタートアップを側面から支援するインキュベーターやアクセラレーターの数も確実に増加しており、2017年には前年比約4割増の190に達した。

「日印スタートアップハブ」が立ち上がる

インド政府も、スタートアップへの支援を加速する。モディ首相は2016年、インドを世界のイノベーションハブに発展させることを目標に、「スタートアップ・インディア」政策を導入。「複雑な手続きの簡素化」や「資金調達支援と優遇措置の提供」、「産学連携とインキュベーションの提供」の3本柱の下、国内のスタートアップを支援するための19の具体的なアクションプランが実行されている。さらに、2017年度の中央政府の予算案でも、スタートアップ企業への優遇措置が盛り込まれた。2016年4月1日以降、2019年3月31日までに設立され、売上高2億5,000万ルピー(約4億円、1ルピー=約1.6円)以下で高度技術を有するスタートアップは、設立後7年間のうち、いずれかの連続する3年間について法人税の納税義務が免除される。

また、日本政府も、インドのスタートアップとの連携に強い期待を抱く。世耕弘成経済産業相は2018年4月にベンガルールを訪問した際に、「日印スタートアップハブ」の設立を宣言。具体的なサービスとして、インドの有望なスタートアップの日本への招聘(しょうへい)や、日印両国へのスタートアップ関連企業のミッション派遣、インドにおける関係企業とのマッチングや、インキュベーション施設の無料提供などが盛り込まれている。

直近10年で10社のユニコーンが誕生

インドのスタートアップの中には、市場での評価額が10億ドルを超える非上場のユニコーン企業が直近10年で10社も誕生している。その代表格といえる企業がペイティーエム(Paytm)だ。同社は2009年創業ながら、既に1万人以上の従業員を抱えるインド最大手の電子決済会社に成長した。同社の決済サービスは、雑貨店や八百屋など零細小売店を含めた800万店で利用が可能だ。2016年末の高額紙幣の無効化による現金不足も、電子決済を急速に普及させた。近年では、ECサイトや旅行サイトの運営も始めており、B2C限定ながら銀行免許も取得した。同社には、2015年の中国アリババグループによる6億ドル近い投資に続き、2017年に日本のソフトバンクも14億ドルの多額出資をしている。なお、ソフトバンクとヤフーの合弁会社は7月27日、Paytmと連携してバーコードを使った新たなスマートフォン決済サービス「ペイペイ(PayPay)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を日本で2018年秋から提供開始することを発表している。


Paytmのマユール・ハングルー・マネージャー(ジェトロ撮影)

日本企業にも既に導入実績あり

横浜に営業拠点を持ち、日本企業への製品納入実績を持つスタートアップも存在する。インド人大学生2人が2011年に創業したグレイオレンジ(GREYORANGE)だ。同社は、倉庫内でのピッキング業務を自動化する「バトラ―」と呼ばれるロボットを開発。人工知能(AI)が出荷情報などを分析し、商品が入った棚自体をロボットが動かすことで、作業員が倉庫内を歩く手間と時間を最小化できる。インド発の技術だが、売り先となる市場は労働力不足に悩む先進国だ。ニトリホールディングスをはじめ、複数の日本企業もクライアントに名を連ねる。日本法人の佐々木佳彦代表は「新興企業ゆえ製品の品質面ではまだ課題もあるが、社員は皆、真面目に取り組み、問題解決のスピードも速い。昨日よりも今日の方が良くなっている」と話す。


GREYORANGE本社内にあるバトラーのデモスペース(ジェトロ撮影)

「ジュガード」こそ、スタートアップの神髄

インドのスタートアップに投資をしている日系のベンチャーキャピタルもある。インキュベート・ファンド・インディアの村上矢代表パートナーは「ジュガードの精神こそ、スタートアップの神髄だ」と言い切る。ジュガードとは、カネをかけずに課題を乗り越える発想力を評価したヒンディー語だ。一方、インドのスタートアップ業界が抱える課題として、「エグジット(出口)のしづらさ」を挙げた。インドにも新興企業向け株式市場は存在するものの未成熟であり、新規株式公開(IPO)が容易ではないことが背景の1つにあるという。他方で、前出のコンサル会社zinnovのアディト・チームリーダーは「インド市場は巨大かつ多様であり、利益を出すのに予想以上に時間がかかることもエグジッドがしづらいと言われる一因かもしれない」と分析した。

世界のスタートアップ・エコシステムを調査するスタートアップゲノムが発表した「グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート2017」によると、スタートアップの業績や資金調達のしやすさ、人材の質、エグジットのしやすさなどの複数の評価軸を踏まえたランキングで、ベンガルールは20位にランクインした。しかし、スタートアップ先進都市である米国のシリコンバレー(1位)、英国のロンドン(3位)、中国の北京(4位)などにはまだ及ばない。インドで続々と誕生するスタートアップを、スピード感をもって成功に導き、世界に羽ばたかせるためには、インドのスタートアップ業界全体のさらなる質の向上が欠かせない。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
西澤 知史(にしざわ ともふみ)
2004年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ山形、ジェトロ静岡などを経て、2011年~2015年、ジェトロ・ニューデリー事務所勤務。2015年8月より海外調査部アジア大洋州課勤務。

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