米韓FTA見直し:外資系メーカーが自動車輸出をけん引
大筋合意の評価と韓国の対米自動車貿易・牛肉輸入の推移(2)

2018年4月18日

米韓FTA発効後、韓国の対米自動車輸出の増加が顕著だ。しかし、これは米韓FTAによる米国の乗用車輸入関税撤廃前の現象で、撤廃後は逆に輸出が伸び悩んでいる。また、輸出を増やしたのは在韓外資系企業で、現代・起亜自動車は米国市場での販売伸び悩みなどにより、輸出増は限定的だ。他方、対米自動車輸入は韓国の乗用車関税引き下げ・撤廃により増加している。

米韓FTA発効後に対米貿易黒字が急増

第2回は米韓FTA発効を前後して米韓自動車貿易がどのように推移したかに焦点を当てる。

韓国にとって米国は、中国に次ぐ第2の輸出先、中国・日本に次ぐ第3の輸入先と、重要な貿易相手国となっている(2017年時点)。韓国の対米輸出入は増加基調が続いてきた(図1)。貿易収支は1998年以降、毎年、韓国が黒字を計上している。黒字額は2011年までおおむね、80~140億ドル台の範囲で推移してきたが、米韓FTAが発効した2012年以降、急増し、2015年には258億ドルに達した。

図1:韓国の対米輸出入・貿易収支の推移
対米輸出は2000年376億ドルから、米韓FTA発効直前の2011年に562億ドル、2017年に686億ドルに増加しました。対米輸入は2000年292億ドルから2011年446億ドル、2017年507億ドルに増加しました。対米貿易収支は2000年84億ドル、2011年116億ドルでしたが、米韓FTA発効後に急増し、2015年に258億ドルを記録しました。その後、対米貿易収支は減少し、2017年179億ドルになりました。
出所:
韓国貿易協会データベース

対米貿易黒字は2016年以降、減少している。韓国・産業通商資源部は、その理由として、鉄鋼・自動車・自動車部品・無線通信機器(携帯電話)などの対米輸出の伸び悩みや減少、液化石油ガス(LPG)・半導体製造装置などの対米輸入増を挙げている。その結果、2017年の対米貿易黒字は179億ドルになった。しかし、それでもなお、FTA発効直前の2011年(116億ドル)を大きく上回っている。

なお、米国・商務部統計によると、米国にとって韓国は、2016年は8番目の、2017年は10番目の貿易赤字国になっている。

対米自動車貿易黒字は対米貿易黒字全体の73%

米韓FTA発効で自動車の対米輸出が増加することは従来から予想されていた。2011年8月に韓国政府系シンクタンク10機関が共同で発表した「韓米FTA経済的効果再分析」によると、米国の関税撤廃などによる対米輸出増加額は、発効後15年間の年平均で12億8,500万ドル、このうち、自動車(部品も含む)は7億2,200万ドルと見込まれた。つまり、米韓FTA発効による輸出増の6割弱を自動車が占めるとされていた。さらに、米韓FTA発効により、対米貿易黒字は発効後15年間の年平均で1億3,800万ドル(製造業分野では5億7,300万ドル)増加する一方で、自動車(同)の対米貿易黒字は6億2,500万ドル増と、突出して増加することが見込まれた。このように、米韓FTA発効により、輸出や貿易黒字が最も増加するのが自動車と見込まれていた。

実際はどうだっただろうか。2011~17年に韓国の対米輸出は124億200万ドル増加、貿易黒字は62億2,000万ドル増加したが、事前の分析どおり、いずれも自動車(部品は含まない。以下同様)の増加が際立っている(表1、表2)。ちなみに、2017年の韓国の対米貿易黒字額に対する自動車貿易黒字額の比率は72.6%にも達している。

ただし、これらの統計から、米国の輸入関税撤廃後に対米自動車輸出が増加した、あるいは、現代自動車や傘下の起亜自動車が米韓FTAの恩恵を享受して輸出を伸ばしたとみるのは早計だ。

表1:韓国の品目別対米輸出(2011年から2017年にかけての増加額が多い順、上位10品目)(単位:100万ドル、%)
順位 品目名 2011年 2017年 2011~2017年
増減額(注)
金額 構成比 金額 構成比 金額 合計に
対する
比率
1 自動車 8,756 15.6 14,651 21.4 5,895 47.5
2 電力用機器 457 0.8 1,528 2.2 1,071 8.6
3 コンピュータ 1,482 2.6 2,381 3.5 899 7.3
4 半導体 2,726 4.9 3,377 4.9 651 5.2
5 石油製品 2,588 4.6 3,114 4.5 526 4.2
6 合成樹脂 475 0.8 982 1.4 507 4.1
7 乾電池および蓄電池 432 0.8 924 1.3 493 4.0
8 プラスチック製品 748 1.3 1,234 1.8 486 3.9
9 自動車部品 5,204 9.3 5,665 8.3 461 3.7
10 石鹸・歯磨き・化粧品 67 0.1 452 0.7 384 3.1
合計(その他を含む) 56,208 100.0 68,610 100.0 12,402 100.0
注1:
品目分類は、韓国独自コードのMTI3桁ベース。
注2:
2011~2017年で輸出が減少した品目は減少額の多い順に、無線通信機器(携帯電話など。30億4,600万ドル減)、基礎留分(6億5,500万ドル減)、家庭用回転機器(4億5,000万ドル)で、無線通信機器の輸出減が際立っている。
出所:
韓国貿易協会データベースより作成
表2:韓国の品目別対米貿易収支(2011年から2017年にかけての増加額が多い順、上位10品目)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 品目名 2011年 2017年 2011~2017年
増減額(注)
金額 合計に
対する
比率
金額 合計に
対する
比率
金額 合計に
対する
比率
1 自動車 8,380 72.0 12,966 72.6 4,587 73.7
2 合金鉄・銑鉄・古鉄 △ 1,341 △ 11.5 △ 52 △ 0.3 1,289 20.7
3 電力用機器 80 0.7 1,084 6.1 1,005 16.1
4 コンピュータ 1,010 8.7 1,908 10.7 899 14.4
5 半導体 △ 1,318 △ 11.3 △ 578 △ 3.2 740 11.9
6 原動機およびポンプ △ 216 △ 1.9 468 2.6 684 11.0
7 植物性物質 △ 2,147 △ 18.4 △ 1,571 △ 8.8 575 9.2
8 石炭 △ 1,341 △ 11.5 △ 772 △ 4.3 570 9.2
9 自動車部品 4,728 40.6 5,236 29.3 508 8.2
10 乾電池および蓄電池 273 2.3 755 4.2 482 7.7
合計(その他を含む) 11,639 100.0 17,860 100.0 6,222 100.0
注:
品目分類は、韓国独自コードのMTI3桁ベース。
注:
2011~2017年で貿易収支が悪化した品目は、無線通信機器(携帯電話など。貿易黒字が35億2,600万ドル減)、半導体製造装置(貿易赤字が29億7,700万ドル増)など。
出所:
韓国貿易協会データベースより作成

米国の乗用車関税撤廃より前に対米輸出が増加

韓国の対米自動車(大部分が乗用車)輸出の推移をみると、リーマン・ショックを受けて2008年、2009年に減少したが、2010年に増加に転じた(図2)。2010~15年には前年比2桁増を毎年記録、2015年に175億6,000万ドルのピークに達した。その後、2016年、17年は減少している。

図2:韓国の対米自動車輸出の推移
対米自動車輸出は2005年の85億9,300万ドルから2015年には175億6,000万ドルに増加しました。しかし、米国の乗用車関税が撤廃された2016年以降、対米自動車輸出は減少し、2017年には146億5,100万ドルになりました。
出所:
韓国貿易協会データベース

他方、米国の乗用車関税(2.5%)の撤廃は米韓FTA発効5年目の2016年1月1日だった。つまり、韓国の対米自動車輸出が増加したのは関税撤廃より前で、関税撤廃後は逆に輸出が減少したわけだ。もちろん、関税撤廃は米国市場における韓国製乗用車の価格競争力にプラスに作用したと考えられるが、米国の関税撤廃により韓国の対米自動車輸出が目に見えて増加したかたちにはならなかった。

現代・起亜自動車の米国販売は伸び悩み

ついで、対米自動車輸出をメーカー別にみる。韓国自動車産業協会(KAMA)の統計によると、韓国の対米自動車輸出台数は2011年58万8,000台から2017年に84万5,000台に増加した。しかし、この間の現代・起亜自動車の輸出増加台数は2万1,000台で、韓国の対米自動車輸出増加台数全体の8.1%にすぎなかった。つまり、対米輸出増の主体は現代・起亜自動車ではなかったわけだ。

そもそも、近年、現代・起亜自動車の米国販売は伸び悩んでいる(図3)。これは、米国自動車市場が成熟化したことと、現代・起亜自動車のシェア上昇の勢いが止まったことによる。特に後者に注目すると、皮肉なことに、米韓FTA発効前は上昇が続いたが、発効後は逆に低下している。

現代・起亜自動車の米国販売の伸び悩みは、2012年に発覚した燃費の表示問題によるブランド・イメージの毀損(きそん)や、米国自動車市場で乗用車から小型商用車への需要シフトが続く中で、現代・起亜自動車の小型商用車の新モデル投入が遅れたことによるところが大きい。他方、現代自動車は2005年から、起亜自動車は2009年から米国現地生産を行っており(さらに、起亜自動車は2016年からメキシコでも生産開始)、韓国からの完成車輸出が現地生産に徐々に代替してきた。現地販売が伸び悩み、現地生産が開始したことで、韓国からの完成車輸出が伸びない構造になったわけだ。なお、現代・起亜自動車の米国現地生産車は米韓FTAによる韓国製自動車部品の関税撤廃メリットを受けているが、両社の米国現地生産の合計台数は2013年(76万9,000台)をピークに漸減傾向にある。

図3:現代自動車・起亜自動車の米国販売台数、シェアの推移
現代自動車の米国販売台数は2005年45万5,000台、2011年64万6,000台、2017年68万6,000台となりました。起亜自動車の米国販売台数は、2005年27万6,000台、2011年48万5,000台、2017年59万台となりました。米国自動車市場における両社の販売台数合計のシェアは、2005年4.3%から2011年に8.9%に上昇しましたが、その後は低下し、2017年は7.4%になりました。
出所:
現代自動車、起亜自動車

対米輸出を増加させた外資系メーカー

それでは、対米輸出を増やしたのはどのメーカーであろうか。2011~2017年に対米自動車輸出台数を大きく伸ばしたのは、ルノーサムスン(12万3,000台増、韓国の対米自動車輸出台数増加分全体の47.9%を占める)と韓国GM(11万3,000台増、同44.0%)の在韓外資系企業2社だ。いずれも米国の関税撤廃が追い風になったといえそうだが、同時に、本社が世界生産の中で韓国拠点をどのように位置づけたかが、対米輸出を大きく左右したといえる。

ルノーサムスンの対米輸出は2013年まで皆無だったが、2014年以降、急速に立ち上がった。対米輸出の大部分は、日産のクロスオーバーSUV「ローグ」(日本名「エクストレイル」)の委託生産のもようだ。ちなみに、2017年のルノーサムスンの生産台数は26万4,000台で、対米輸出が生産の半分弱を占めている。つまり、対米輸出が同社の屋台骨といっても過言でない。

他方、韓国GMは、世界のGMグループの中で小型乗用車生産拠点として位置付けられている。2017年は51万9,000台を生産、うち、39万2,000台をEUと米国を中心に輸出した。ところで、韓国GMの生産台数は2011年(81万1,000台)をピークに減少が続いており、最終損益は2014年以降、大幅な赤字になっている。そのため同社は事業の見直しに動いており、2018年2月には国内3工場のうち1工場の閉鎖を発表している。今後、韓国GMがグループ内でどのように位置づけられるかによって、対米輸出規模が変わることもありえよう。

米国からの自動車輸入は増加基調

一方、韓国の対米乗用車輸入関税率は米韓FTA発効と同時に8%から4%に引き下げられた後、2016年1月1日に撤廃された。これにより、米国からの乗用車輸入が増加することが従来から見込まれていた。前述の「韓米FTA経済的効果再分析」(2011年8月)によると、発効後15年間の年平均で、自動車(部品を含む)は9,700万ドル増加するとされていた。

実際、米国からの自動車(大部分が乗用車。自動車部品を含まない)輸入は増加傾向にあり、かつ、韓国の関税の引き下げ・撤廃の年に輸入が格段に増加している(図4)(注)。

図4:韓国の対米自動車輸入の推移
韓国の米国からの自動車輸入は、2005年1億2,800万ドル、2011年3億7,600万ドルでしたが、韓国の乗用車関税率が8%から4%に引き下げられた2012年に7億1,200万ドル、4%の関税が撤廃された2016年に17億3,600万ドルに増加しました。2017年は16億8,500万ドルでした。
出所:
韓国貿易協会データベース

メーカー別にみても、米韓FTA発効以降、米国から韓国への自動車輸出を強化する動きがみられる。例えば、トヨタは、米国ケンタッキー工場から韓国へクロスオーバーSUV「ヴェンザ」の輸出を開始したことを発表している(2012年11月15日)。米国ビッグスリーも対韓輸出を増やしている。韓国輸入自動車協会(KAIDA)の統計によると、2017年のビッグスリーの韓国での販売台数は2011年の2.4倍に当たる2万19台に達している。販売台数が最も多いフォードは2011年4,184台から2017年1万727台に、ついで、FCA(クライスラー・ブランド)は3,316台から7,284台に、さらに、GMも752台から2,008台に、いずれも2倍以上に増加している。

KAIDAが無料公開しているのはブランド別輸入車販売統計で、米国製ドイツブランド車・日本ブランド車の販売統計は無料公開していない。しかし、これらを含めると韓国における米国生産車の販売台数はビッグスリーの2倍以上に達するもようだ。毎日経済新聞」(2018年3月26日、電子版)は、米韓FTA見直し交渉で米国安全基準に基づいて生産した自動車をそのまま韓国で販売できる台数の上限を2倍に引き上げたことを「問題」とした上で、「米国に生産基盤を置くドイツ車・日本車に有利な環境が整い、国産車の孤立状況が一層、鮮明になりうる」「2017年の米国ブランド車販売は2万19台だったが、(中略)米国に原産地を置く輸入車は4万2,976台と、数量は2倍以上に増える」と伝え、米国製ドイツブランド車・日本ブランド車の輸入増を警戒する見方を示した。

とはいえ、そもそも、米韓の自動車市場規模はかなり異なる。2017年の自動車市場は米国が1,724万台、韓国が179万台(国産自動車と輸入乗用車の合計で、輸入商用車を含まない)と、米国が韓国の10倍だ。今後、韓国市場における米国生産車の販売シェアが上昇したとしても、米国市場での韓国生産車の販売が激減しない限り、米韓の自動車貿易不均衡は解消しそうにない。


注:
ちなみに、計測期間2000~17年で重回帰分析を行った結果は以下のとおりである(対米自動車輸入の単位は100万ドル。タイムトレンドは2000年=1、2001年=2、…、2017年=18。米国産乗用車輸入関税率の単位は%)。
対米自動車輸入= 1,154.64+29.41×タイムトレンド-148.72×米国産乗用車輸入関税率
自由度調整済み決定係数は0.97。
推計の結果、米国産乗用車関税率のパラメーターの符号条件はマイナス、t値は9.56となった。ここから、米国産乗用車輸入関税率と米国産自動車輸入との関係は統計的に有意(有意水準1%)といえる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
百本 和弘(もももと かずひろ)
2003年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。2007年7月~2011年3月、ジェトロ・ソウル事務所次長。現在ジェトロ海外調査部主査として韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。