自動車・部品に対する追加関税により影響を受ける輸入先国は(米国)

2018年12月6日

米国のトランプ政権は2018年5月、1962年通商拡大法232条(以下、232条)に基づき、鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税を賦課した。現在は、同条に基づき、自動車と自動車部品への追加関税賦課を検討している。他方で、トランプ政権は調査と並行して通商協議を行い、日本やEUなどとは交渉期間中、自動車・部品へ追加関税を課さないと約束している。それでは、仮に「追加関税賦課」との結論に至った場合、影響を大きく受けるのはどの国からの輸入になるのか。

自動車・同部品輸入額が大きいのはメキシコ、カナダ、日本、中国

自動車・部品への追加関税賦課については、現在、商務省が調査を行っている段階にあり、報告書の発表が待たれている。商務省は232条の規定に基づき、調査開始後270日以内に報告書を大統領に提出しなければならない。調査は5月23日から始められたため(2018年5月25日ビジネス短信参照)、11月末時点で調査期間が3分の2ほど終了した段階にある。報告書の提出期限(2019年2月17日)が近づくにつれ、「調査報告書案が政権内で回覧されている」「追加関税の対象が自動車部品のみになるのではないか」といった報道がみられるなど、同調査を巡る政権内部の情報が漏れ伝わってくるようになってきた(注1)。ただし、正式な報告書の公表前なため、本当に追加関税が賦課されるのか、賦課される場合に対象となる具体的な品目のHSコードは何になるのか、などの詳細は依然として定かではない。

それでは仮に、追加関税を自動車および部品に課すとの結論に至った場合、どこの国・地域からの輸入に大きな影響が出るのだろうか。商務省国際貿易局(ITA)交通機械部(OTM)が発表している統計(2017年)を基にすれば、乗用車・ライトトラックの輸入額はメキシコ、カナダ、日本などPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(43KB)自動車部品ではメキシコ、中国、カナダ、日本などが大きかったPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(54KB) (表1、2参照、注2)。従って、追加関税が課された場合、これらの国からの輸入に影響が出るものと考えられる。

表1:米国の乗用車・ライトトラックの輸入台数・金額(2017年)

輸入台数(単位:台)
順位 国・地域 台数
1 メキシコ 2,444,882
2 カナダ 1,826,416
3 日本 1,725,757
4 韓国 929,419
5 ドイツ 491,654
6 英国 213,323
7 イタリア 156,922
8 スペイン 61,532
9 中国 58,515
10 スウェーデン 58,320
世界 8,271,840
金額(単位:100万ドル)
順位 国・地域 金額
1 メキシコ 46,927
2 カナダ 42,517
3 日本 39,781
4 ドイツ 20,182
5 韓国 15,732
6 英国 8,583
7 イタリア 4,771
8 スウェーデン 2,024
9 スロバキア 1,996
10 中国 1,456
世界 191,749
注:
乗用車、ライトトラックの定義は米国際貿易局(ITA)に基づく。なお、中古車は含まない。
出所:
ITA発表資料

表2:米国の自動車部品輸入金額(2017年)

(単位:100万ドル)
順位 国・地域 金額
1 メキシコ 55,335
2 中国 17,590
3 カナダ 16,375
4 日本 16,278
5 ドイツ 9,878
6 韓国 8,284
7 タイ 3,189
8 台湾 3,161
9 インド 1,468
10 英国 1,309
世界 148,786
注:
自動車部品の定義は米国際貿易局(ITA)に基づく。
出所:
ITA発表資料

カナダ、メキシコ、日本、EUには対象外を約束

ただし、カナダ、メキシコは「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA:United States-Mexico-Canada Agreement)」のサイドレターで、原産地規則を満たす場合、乗用車は両国ともに対米輸入260万台まで、ライトトラックは台数制限なしで無税とすることを約束している。自動車部品は、メキシコは対米輸入額1,080億ドルまで、カナダは324億ドルまで無税とすることを約束している。また日本とEUは、それぞれ、米国と2国間の通商協議を行っている間は、自動車・同部品へ追加関税を課さないとの約束を取り付けた(表3参照)。

表3:232条に基づく自動車・同部品への追加関税賦課に関する通商協議の状況
国・地域 日付 内容
EU 7月25日 トランプ大統領とジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長の首脳会談により、通商関係の強化、エネルギー分野での戦略的協力、国際基準の形成に向けた対話緊密化、不公正貿易慣行の排除で合意。トランプ大統領は、共同会見において「(米国とEUの)どちらかが交渉の席を立たない限り、われわれはこの合意の精神に反することは行わない」と述べ、翌26日にウィルバー・ロス商務長官は「交渉が適切に進んでいる間は、(232条による)自動車への関税は課さない」と述べた。ただし、交渉が破綻すれば再びEUを追加関税の適用対象とする考えも同時に示唆。
日本 9月26日 安倍晋三首相とトランプ大統領の首脳会談で、「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉開始で合意。共同声明には、「日米両国は信頼関係に基づき議論を行うこととし、その協議が行われている間、本共同声明の精神に反する行動を取らない」との文言が入った。交渉継続中は、自動車・同部品に対する追加関税を賦課しないことを事実上約束したものとみられており、安倍首相は10月24日の所信表明演説にて「協議が行われている間は、日本の自動車に追加関税が課されないことも確認」と発言している。
カナダ
メキシコ
9月30日 USMCAのサイドレターにより、232条に基づき自動車・部品へ追加関税を賦課したとしても、原産地規則を満たす製品の場合、乗用車は両国ともに対米輸入260万台まで、ライトトラックは台数制限なしで無税とすることを約束。自動車部品については、メキシコは対米輸入額1,080億ドルまで、カナダは324億ドルまで無税とすることを約束。
出所:
ホワイトハウス、USTR発表資料などから作成

従って、これら4カ国・地域を除いて考えると、乗用車・ライトトラックの輸入が多い相手国は韓国や中国、自動車部品については中国や韓国、タイ、台湾、インドとなり、これらの国・地域からの輸入へ与える影響が大きいと考えらえる。

このうち、中国と韓国からの輸入額は、自動車・部品、どちらにおいても大きい。米国は中国に対して、1974年通商法301条(以下、301条)に基づき追加関税を課しているため、品目によっては、最恵国(MFN)税率、301条に基づく追加関税、さらに232条に基づく追加関税と重層的に関税が課される可能性がある(注3)。従って、中国からの輸入については、他国と比べて影響が大きくなる可能性がある。

韓国は、米韓自由貿易協定(KORUS)の見直し交渉に応じる代わりに、追加関税対象外を約束することが狙いの1つであったとの報道があったものの、約束されずに妥結したため、適用対象になる可能性が指摘されている(2018年9月26日ビジネス短信参照)。

英国も、自動車・部品ともに輸入額が大きい。現状では英国はEU加盟国のため、EUが米国と通商交渉を行っている間は追加関税の対象外になると考えられるが、2019年3月のEU離脱以降は対象になる可能性がある(注4)。

在米日系企業は90%超を米国内、日本、NAFTA、EUから調達

ジェトロの「2017年度 米国進出日系企業実態調査の結果」に基づき、在米自動車関連日系企業152社の調達先割合(単純平均値)をみると、米国内が62.9%、日本が24.4%、メキシコが4.0%、カナダが1.0%、EUが0.3%で、既に何らかの適用対象外が約束された国・地域で90%を超えた(図参照)。従って、総じてみればであるが、現状の条件の下では、追加関税の影響を直接的に受ける日系企業はそう多くないものと推測される(注5)。

ただし、米国の62.9%には「米国の日系企業」(32.7%)、「地場企業」(28.5%)、「その他外資系企業」(1.7%)が含まれるため、これらの企業が追加関税対象国・地域から自動車・部品を輸入していれば、間接的な影響を受ける可能がある。また企業を個別にみると、適用対象外が約束されていない国・地域からの調達で50%を超える企業が複数ある。中には、中国とASEANからの調達で90%を超える企業もみられる。そのため、当該措置が与える影響の度合いは、企業ごとに大きく変わってくる点には留意が必要だ。

図:自動車関連進出日系企業の調達割合(国・地域別)
米国が62.9%、日本が24.4%、メキシコが4.0%、カナダが1.0%、EUが0.3%、ASEANが3.1%、中国が2.7%、台湾・韓国・香港が1.1%、メキシコ除く中南米が0.1%、その他が0.4%。
注:
各企業が金額ベースで合計100とした時の各国・地域の比率を算出し、その数値を平均化したもの。調査において、業種を「輸送用機器(自動車/二輪車)」または「輸送用機器部品(自動車/二輪車)」と回答した企業のみを抽出。
出所:
2017年度 米国進出日系企業 実態調査(ジェトロ)

米国内からの強い反発も、トランプ大統領は「有効な」レバレッジとして認識

実際に、自動車・同部品へ追加関税は課されるのだろうか。当該措置に対しては米国内からの反発も強く、複数の団体が追加関税による経済への影響を発表している。例えば、米国自動車工業会(AAM)は、25%の追加関税が課されれば、販売価格が1台当たり平均5,800ドル上昇とし外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます全米自動車ディーラー協会(NADA)は6,000ドル以上上昇外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます すると発表した(ともに6月27日発表)。ピーターソン国際経済研究所(PIIE)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、国内生産台数が1.5%減少し、19万5,000人の雇用が1~3年間かそれ以上の期間失われ、米国が輸入相手国・地域の全てから同種の報復を受けた場合は62万4,000人の雇用が失われると試算した(5月31日発表、注6)。

加えて、7月に行われた公聴会でも反対の声が相次いだ。公聴会で追加関税を支持したのは全米自動車労働組合(UAW)のみで、AAMや自動車政策会議(AAPC、注7)などの主要自動車団体を含む他の全ての証言者は反対した(2018年7月26日ビジネス短信参照)。政権内部でも、追加関税賦課に反対意見が多いようだ。米新興メディアの「アクシオス(Axios)」(11月12日)によれば、トランプ大統領自身とピーター・ナバロ通商製造業政策局長を除く、多くの経済担当の高官は、当該措置に反対している。

ただし、反発が強いからといって、追加関税賦課の可能性を安易には否定できない。トランプ大統領の通商分野における実績を振り返ってみれば、長年問題視されていた中国の強制技術移転などの課題を明らかにして制裁措置を発動し、就任当初は実現が難しいと思われていた北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を妥結させた。加えてトランプ大統領は、自動車・部品への追加関税という脅威が通商交渉のレバレッジになると、その「有効性」を認識している。前述のアクシオスによれば、トランプ大統領は、追加関税の可能性に言及したことでEUは2国・地域間の通商協議開始に応じた、と述べている。

いずれにせよ、調査報告書の提出期限は2019年2月17日に迎える。日本とEUは、現状では追加関税の適用免除が約束されてはいるものの、あくまで交渉が継続されている限りという条件の下であるため、ひとたび交渉が頓挫すれば、適用対象となる可能性もゼロではない。適用対象外を約束していない国・地域のみならず、日本やEUなども、引き続き、今後の展開を注視していく必要がある。


注1:
例えば、追加関税の対象については、ピーター・ナバロ通商製造業政策局長が、米国の防衛産業や製造業のリスクは、最終製品ではなく部品のサプライチェーンの惰弱性にある、と指摘したことを受け、自動車部品のみになるのではないかとの報道がみられた。ナバロ局長は11月9日、ワシントンのシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)での講演において、「われわれが直面している課題は、防衛産業だろうと自動車産業だろうと、最終組み立てではなく、重要なサプライチェーンをどこに有しているかにある」と発言していた。これは、国防総省が9月に発表した「米国の製造業、国防産業基盤、サプライチェーンの弾力性に関わる評価と強化」報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.2MB) を受けてのもの。
注2:
現在は調査中につき、OTMが定める自動車や部品の定義と、追加関税が賦課される際の定義は必ずしも一致しない可能性がある。対象品目について、ウィルバー・ロス商務長官は調査開始時に、「スポーツ用多目的車(SUV)、バン、ライトトラックなどを含む自動車や同部品の輸入」と述べるにとどめている。
注3:
アンチダンピング(AD)関税や相殺関税(CVD)が課されている品目の場合、これらも上乗せされて課税されると考えられる。
注4:
英国がEUから離脱した後、米国とEUは2者間による通商交渉を開始する予定。ただし、自動車・同部品への追加関税との関係性は不明。
注5:
あくまで企業ごとの調達金額を100とした場合の割合であるため、企業によって調達金額の絶対値が異なる点には留意。
注6:
完成車に含まれる輸入部品の割合など、試算を行う条件は各団体によって異なる。2018年6月29日ビジネス短信も参照。
注7:
AAPCは、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)の「デトロイト3」のみで構成される団体。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
赤平 大寿(あかひら ひろひさ)
2009年、ジェトロ入構。貿易投資相談センター人材開発支援課(2009~2014年)、海外調査部国際経済課(2014~2015年)、戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員(2015~2017年)を経て2017年8月より現職。