中国の2017年対外投資(1)対外投資制限などの影響で初のマイナス成長に

2018年12月13日

商務部などが発表した中国対外直接投資統計公報(以下、公報)によれば、2017年の中国企業の対外直接投資額(フロー)は前年比19.3%減となり、2003年に対外投資統計を取り始めてから初めて前年実績を割り込んだ。同年8月に公布された「対外投資の方向性のさらなる誘導・規範化に関する指導意見」で、不動産、ホテル、映画館、娯楽業、スポーツクラブなどへの投資が制限された影響が大きく、関連分野への投資が大幅に減少した。中国政府は、これらの「非理性的」な投資について真実性や合法性に対する審査を継続するとしており、今後も一部の分野での投資抑制の傾向は続くと見込まれる。

対外投資額は前年比19.3%の減少

2017年の中国企業の対外直接投資額(フロー)は、前年比19.3%減の1,582億8,800万ドルとなった。前年まで15年連続で過去最高を更新していたが、2017年は中国が対外直接投資統計の公表(2003年)を始めて以降、初のマイナス成長となった(表1参照、注1)。内訳をみると、新規株式投資が42.9%、当期収益再投資が44%を占めた。また、対外直接投資フローのうち、約2割(334億7,000万ドル)がクロスボーダーM&Aに用いられた。対外直接投資の累計額(ストック)は1兆8,090億4,000万ドルとなった。

国連貿易開発会議(UNCTAD)のレポートによれば、中国の対外投資フロー(2017年)は米国、日本に次いで世界第3位となり、世界全体の対外投資フローの1割超を占めた。また、ストック(2017年)では米国に次ぐ世界第2位で、2016年の第6位から大きく順位を上げた。

表1:中国の対外直接投資の推移 (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
フロー フロー前年比 ストック
2010年 68,811 21.7 317,211
2011年 74,654 8.5 424,781
2012年 87,804 17.6 531,941
2013年 107,844 22.8 660,478
2014年 123,120 14.2 882,642
2015年 145,667 18.3 1,097,865
2016年 196,149 34.7 1,357,390
2017年 158,288 △ 19.3 1,809,037
出所:
商務部・国家統計局・国家外貨管理局「2017年中国対外直接投資統計公報」
表2:中国の国・地域別対外直接投資(フロー) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 2015年 2016年 2017年
金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
1 香港 89789.8 61.6 26.7 114,232.6 58.2 27.2 91,152.8 57.6 △ 20.2
2 英領バージン諸島 1849.0 1.3 △ 59.5 12,288.5 6.3 564.6 19,301.2 12.2 57.1
3 スイス 246.8 0.2 633.6 68.1 0.0 △ 72.4 7,514.2 4.7 10940.5
4 米国 8028.7 5.5 5.7 16,980.8 8.7 111.5 6,425.5 4.1 △ 62.2
5 シンガポール 10452.5 7.2 271.5 3,171.9 1.6 △ 69.7 6,319.9 4.0 99.2
6 オーストラリア 3401.3 2.3 △ 16.0 4,186.9 2.1 23.1 4,242.0 2.7 1.3
7 ドイツ 409.6 0.3 △ 71.5 2,380.6 1.2 481.2 2,715.9 1.7 14.1
8 カザフスタン △ 2510.3 △ 1.7 6164.7 487.7 0.2 △ 119.4 2,070.5 1.3 324.5
9 英国 1848.2 1.3 23.3 1,480.4 0.8 △ 19.9 2,066.3 1.3 39.6
10 マレーシア 488.9 0.3 △ 6.2 1,830.0 0.9 274.3 1,722.1 1.1 △ 5.9
11 インドネシア 1450.6 1.0 14.0 1460.9 0.7 0.7 1,682.3 1.1 15.2
12 ロシア 2960.9 2.0 367.3 1,293.1 0.7 △ 56.3 1,548.4 1.0 19.7
13 ルクセンブルク △ 11453.2 △ 7.9 △ 350.2 1,601.9 0.8 △ 114.0 1,353.4 0.9 △ 15.5
14 スウェーデン 317.2 0.2 144.0 127.7 0.1 △ 59.7 1,290.3 0.8 910.5
15 ラオス 517.2 0.4 △ 49.6 327.6 0.2 △ 36.7 1,220.0 0.8 272.4
16 タイ 407.2 0.3 △ 51.5 1,121.7 0.6 175.4 1,057.6 0.7 △ 5.7
17 フランス 327.9 0.2 △ 19.1 1,499.6 0.8 357.4 952.2 0.6 △ 36.5
18 ベトナム 560.2 0.4 68.3 1,279.0 0.7 128.3 764.4 0.5 △ 40.2
19 カンボジア 419.7 0.3 △ 4.2 625.7 0.3 49.1 744.2 0.5 19.0
20 パキスタン 320.7 0.2 △ 68.4 632.9 0.3 97.3 678.2 0.4 7.1
合計 145,667.2 100.0 18.3 196,149.4 100.0 34.7 158,288.3 100.0 △ 19.3
出所:
商務部・国家統計局・国家外貨管理局「2017年中国対外直接投資統計公報」

国・地域別にみると、香港が前年比2割減となったものの、引き続き全体の約6割を占めた(表2参照、注2)。スイスは中国化工集団によるシンジェンタ買収(約421億ドル)が計上されたことによって急増し、第3位となった。ほかには、シンガポール、カザフスタン、ラオスも急増した。一方で、米国向けの投資は62.2%減と大幅に減少した。これは、金融業への投資が約11億6,600万ドルのマイナス(引き揚げ超過)となったことなどが影響したとみられる。また、日本への投資は前年比29.1%増の4億4,405万ドルとなったが、全体に占める割合は0.3%にとどまった。香港やタックスヘイブン(租税回避地)への投資の比率が高い理由としては、中国企業が同地域を通じて税務コストなどの削減を図っていること、海外からの資金調達拠点として同地域を活用していることなどが挙げられる。

主要投資先国・地域の業種別内訳をみると、ASEANは製造業(構成比:22.5%)、卸売・小売業(17.4%)、リース・ビジネスサービス業(15.2%)への投資が多かった。また、EUは製造業(51.8%)、リース・ビジネスサービス業(24.3%)、香港はリース・ビジネスサービス業(44.7%)、金融業(20.7%)の比率が高かった。

中国政府が推進する「一帯一路」の沿線諸国向けの投資は前年比31.5%増の201億7,000万ドルと総額の12.7%を占め、全体が減少基調の中でも堅調に増加した。ストックベースでは、シンガポール、ロシア、インドネシアの上位3カ国への投資が累計100億ドルを超えた。

対外投資の審査強化で不動産やスポーツ・娯楽などが大幅減

業種別にみると、リース・ビジネスサービス業、情報・コンピューターサービス・ソフトウエア業、不動産業など、多くの業種で前年比マイナスとなった(表3参照)。2017年8月に公布された「対外投資の方向性のさらなる誘導・規範化に関する指導意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」により、不動産、ホテル、映画館、娯楽業、スポーツクラブなどへの投資が制限対象となったことや、対外投資全般に対する合法性・真実性の審査が強化された影響により、関連分野への投資が大幅に減少したためとみられる。一方、建設業や交通運輸・倉庫・郵便業といったインフラ関連の投資は大幅に増加した。特に、交通運輸・倉庫・郵便業は2015年、2016年と3割超の減少が続いていたが、2017年は前年の3.3倍に増加した。

表3:中国の業種別対外直接投資(フロー) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2015年 2016年 2017年
金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比 寄与度
リース・ビジネスサービス業 36,257.9 24.9 △ 1.6 65,781.6 33.5 81.4 54,273.2 34.3 △ 17.5 △ 5.9
製造業 19,986.3 13.7 108.5 29,048.7 14.8 45.3 29,507.4 18.6 1.6 0.2
卸売・小売り業 19,217.9 13.2 5.1 20,894.2 10.7 8.7 26,311.0 16.6 25.9 2.8
金融業 24,245.5 16.6 52.3 14,918.1 7.6 △ 38.5 18,785.4 11.9 25.9 2.0
不動産業 7,786.6 5.3 17.9 15,246.7 7.8 95.8 6,795.1 4.3 △ 55.4 △ 4.3
建設業 3,735.0 2.6 10.0 4,392.5 2.2 17.6 6,527.7 4.1 48.6 1.1
交通運輸・倉庫・郵便業 2,726.8 1.9 △ 34.7 1,678.8 0.9 △ 38.4 5,467.9 3.5 225.7 1.9
情報・コンピューターサービス・ソフトウエア業 6,820.4 4.7 115.2 18,660.2 9.5 173.6 4,430.2 2.8 △ 76.3 △ 7.3
農・林・牧・漁業 2,572.1 1.8 26.4 3,287.2 1.7 27.8 2,507.7 1.6 △ 23.7 △ 0.4
科学研究・技術サービス業 3,345.4 2.3 100.5 4,238.1 2.2 26.7 2,390.7 1.5 △ 43.6 △ 0.9
電力・熱・ガス・水の生産・供給業 2,135.1 1.5 21.0 3,536.0 1.8 65.6 2,344.0 1.5 △ 33.7 △ 0.6
住民サービス・修理・その他サービス業 1,599.5 1.1 △ 3.2 5,424.3 2.8 239.1 1,865.3 1.2 △ 65.6 △ 1.8
衛生・社会活動 83.9 0.1 △ 45.3 487.2 0.2 480.9 352.7 0.2 △ 27.6 △ 0.1
文化・スポーツ・娯楽産業 1,747.5 1.2 236.6 3,868.7 2.0 121.4 264.0 0.2 △ 93.2 △ 1.8
水利・環境・公共施設管理業 1,367.7 0.9 148.1 847.1 0.4 △ 38.1 218.9 0.1 △ 74.2 △ 0.3
教育 62.3 0.0 359.7 284.5 0.1 356.8 133.7 0.1 △ 53.0 △ 0.1
ホテル・飲食業 723.2 0.5 195.5 1,625.5 0.8 124.8 △ 185.1 △ 0.1 △ 111.4 △ 0.9
鉱業 11,252.6 7.7 17.4 1,930.2 1.0 △ 82.8 △ 3701.5 -2.3 △ 291.8 △ 2.9
合計 145,667.2 100.0 18.3 196,149.4 100.0 34.7 158,288.3 100.0 △ 19.3 △ 19.3
出所:
商務部・国家統計局・国家外貨管理局「2017年中国対外直接投資統計公報」

対外投資で設立された企業の7割以上が黒字か収支とんとん

中国の地方企業による対外直接投資フロー(金融業を除く)は862億3,000万ドルと、金融業を含まない対外投資額全体の約6割を占めた。うち、約7割を北京市、上海市、広東省などの東部地域が占めた。四川省、重慶市など西部地域は全4地域の中で唯一、前年比で増加した。省・市別にみると、対外直接投資フローの上位は上海市(130億ドル)、広東省(118億ドル)、浙江省(107億ドル)の順であった。北京市は67億ドルで第5位となった。

個別の中国企業の動向については、公報では対外直接投資ストックベースでのランキングのみを公表している(表4参照)。同ランキングでは、中央の国有資産監督管理委員会が管轄する中央国有企業が上位を独占している。なお、中国企業の対外投資の主な個別案件については、2018年版ジェトロ世界貿易投資報告中国PDFファイル(1.0MB) の表8に詳しい。

公報によれば、中国企業が2017年末までに設立した企業(境外企業)は3万9,200社で、これら企業の投資先国における納税額(2017年)は376億ドル、従業員総数(2017年末時点)は339万3,000人、うち現地で採用した従業員は171万人と過半数を占める。

また、公報に関する記者会見の中で、中国企業が海外に設立した企業(境外企業)の2017年の利益総額は前年比52%増の1,378億ドルであり、境外企業においては黒字あるいは収支がとんとんの企業が7割以上を占めたと発表された。特に、中央国有企業が設立した境外企業では、4分の3以上が黒字であった。商務部対外投資・経済合作司の張幸福副司長は上記を踏まえて、境外企業の経営状況は全体的に良好と評価した。

表4:2017年末の中国企業非金融類対外直接投資(ストックベース)ランキング
順位 企業名
1 中国移動通信集団(チャイナモバイル) *
2 中国石油天然ガス集団(CNPC) *
3 中国聯合網絡通信集団(チャイナユニコム) *
4 中国海洋石油総公司(CNOOC) *
5 中国石油化工集団(シノペック) *
6 招商局集団 *
7 華潤(集団) *
8 中国化工集団 *
9 中国中化集団(シノケム) *
10 中国アルミ集団 *
11 国家電網 *
12 中国建築工程 *
13 中国遠洋海運集団(COSCO) *
14 中国五鉱集団 *
15 中糧集団(COFCO) *
16 中国国新控股 *
17 北京控股集団
18 上海実業(集団)
19 広州越秀集団
20 中国交通建設集団 *
21 中国民生投資
22 中国電力建設集団 *
23 広東粤海控股集団
24 中国長江三峡集団 *
25 浙江吉利控股集団
26 中国中信集団(CITIC) *
27 兖州煤業
28 海航集団(HNAグループ)
29 国家電力投資集団 *
30 華為技術(ファーウェイ)
31 聯想集団(レノボ)
32 天津渤海租賃
33 万科企業
34 中国兵器工業集団 *
35 中国航空(集団) *
36 光明食品(集団)
37 巨人網絡集団
38 中国旅遊集団
39 中国保利集団 *
40 中国華能集団 *
41 中国有色鉱業集団 *
42 中国宝武鋼鉄集団 *
43 青島ハイアール集団
44 中国航空工業 *
45 上海国際港務(集団)
46 中国国際海運コンテナ(集団) *
47 深業集団
48 中国建材集団 *
49 中国中鋼集団 *
50 蘇州卿峰投資管理
51 中興通訊(ZTE)
54 美的集団
57 紫光集団
58 中国鉄建 *
59 中国中車集団 *
61 三一重工
65 上海汽車集団
66 蘇寧雲商集団
67 中国電信集団(チャイナテレコム) *
70 上海復星医薬(集団)
71 中国広核集団
73 中国鉄路総公司 *
75 日産(中国)投資
76 緑地控股集団
80 東風汽車 *
82 中国華信能源
85 鞍鋼集団 *
91 内蒙古伊利実業集団
93 大連万達集団
94 中国航天科工集団 *
97 中国南方航空集団 *
注1:
51位以降は主要な企業を抜粋。
注2:
(*)は中央(国有資産監督管理委員会)が管理・監督する国有企業を指す。
出所:
商務部・国家統計局・国家外貨管理局「2017年中国対外直接投資統計公報」

「非理性的」な投資を抑制する政府の姿勢は2018年も継続

10月17日に商務部が発表した2018年1~9月の対外直接投資額(金融業を除く)は前年同期比5.1%増の820億2,000万ドルとなった。同発表において、商務部対外投資・経済合作司の担当者は、「非理性的」な投資は有効に抑制されたとし、同期間の不動産、スポーツ、娯楽業の対外新規投資プロジェクトがゼロであったと公表した。2018年も引き続き、一部の分野における対外投資抑制の傾向は継続するとみられる。


日中関係改善や日中の第三国協力の進展が中国の対外投資拡大につながるか
(ジェトロ撮影)

注1:
中国の対外直接投資の定義は、中国国内の組織および個人(境内投資家)が現金、実物資産、無形資産などの方法で、国外および香港・マカオ・台湾地域に企業を設立、出資、合併、買収を行い、当該企業の10%以上の株式を保有し、企業の経営管理権を保有もしくはコントロールして経済活動を行うことを指す(2017年度中国対外直接投資統計公報より)。
注2:
中国の対外直接投資統計は、最初の投資目的地を投資先として計上している。公報発表に関する記者会見を行った国家統計局貿易外経統計司の蘆山副司長は、最終目的地を投資先として計上した対外投資統計の作成について、集計上の難易度が高く、現在研究中であると述べた。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
小宮 昇平(こみや しょうへい)
2013年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課に配属。2016年3月より1年間の海外実務研修(中国・成都事務所)を経て、2017年3月から2018年8月まで中国北アジア課に所属。2018年8月より北京事務所にて調査業務等に従事。