中国の2017年対外投資(7)マレーシアへの投資は増加、投資分野が多角化

2019年1月23日

2017年の中国企業によるマレーシアへの直接投資は、国際収支ベースでは前年より増加した。製造業投資認可額ベースでは前年比で減少したものの、中国が2年連続1位となった。従来の大型不動産開発案件のみならず、製造業やサービス業での投資が目立った。今後は、米中貿易摩擦の影響に伴う中国からマレーシアへの生産移管などの動きが予測される。

2017年の中国からの投資は国際収支ベースで増加

2017年の中国企業によるマレーシアへの投資を、国際収支ベース(フロー、ネット)でみると、前年比8.4%増の69億リンギ(約1,794億円、1リンギ=約26円)となった(表1参照)。2016年の前年比6.9倍に比べると伸び率は鈍化したが、フローベースでは、香港(82億リンギ)、シンガポール(78億リンギ)に次ぐ3位だった(日本は62億リンギで4位)。その結果、中国の直接投資残高は2017年末時点で前年比69.7%増の201億リンギとなった(図参照)。外国直接投資残高全体に占める割合は、2016年末の1.8%から3.0%に拡大し、国別の順位では12位から10位に上昇した。

表1:マレーシアの国・地域別対内直接投資(国際収支ベース)(単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
国・地域 2016年
金額
2017年
金額 構成比 前年比
香港 13,922 8,242 20.1 △ 40.8
シンガポール 7,667 7,766 18.9 1.3
中国 6,397 6,937 16.9 8.4
日本 3,075 6,226 15.2 102.5
英国 3,554 5,173 12.6 45.6
ケイマン諸島 97 3,721 9.1 3736.1
ドイツ 694 2,883 7.0 315.4
オランダ 2,632 1,862 4.5 △ 29.3
韓国 1,331 1,524 3.7 14.5
ルクセンブルク 24 1,292 3.2 5283.3
合計 56,038 41,000 100.0 △ 26.8
出所:
マレーシア中央銀行
図:中国からマレーシアへの直接投資残高
2010年には18億6千800万リンギ、2011年に20億5千400万リンギ、2012年に20億3千100万リンギ、2013年に23億6千700万リンギ、2014年に37億6千万リンギ、 2015年に40億6千800万リンギ、2016年に118億8千290万、2017年には200億6千900万リンギと推移。
出所:
マレーシア中央銀行「国際収支統計」

製造業投資認可額ベースでは、中国が2年連続1位となり、前年比19.3%減の39億リンギだった(表2参照)。分野別にみると、窯業、土石製品が前年比65.6%増の24億リンギで全体の61.4%を占めた(表3参照)。次いで、輸送機器が9億リンギ(前年比123倍)、電気電子製品が2億リンギ(88.1%減)と続いた。

表2:マレーシアの国・地域別対内直接投資(製造業投資認可額ベース)(単位:件、100万リンギ、%)(△はマイナス値)
国・地域 2016年
金額
2017年
金額 構成比 前年比
中国 4,775 3,855 17.9 △ 19.3
スイス 523 2,444 11.3 367.7
シンガポール 2,114 2,307 10.7 9.1
オランダ 3,216 2,034 9.4 △ 36.8
ドイツ 2,645 1,517 7.0 △ 42.7
香港 265 1,495 6.9 463.5
日本 1,862 1,311 6.1 △ 29.6
オーストラリア 71 1,270 5.9 1691.5
米国 1,413 1,107 5.1 △ 21.6
台湾 549 755 3.5 37.7
合計 27,418 21,543 100.0 △ 21.4
出所:
マレーシア投資開発庁(MIDA)提供資料

製造業やITサービスなど投資分野が多角化

2017年の具体的な投資案件をみると、窯業、土石製品では、2017年3月にガラス製造の旗濱集団が、高層ビルの外壁などに使われる複層ガラスの製造工場をネグリ・センビラン州に設立する案件が発表された。マレーシアを高品質ガラス製品のハブとする計画で、投資金額は9億リンギ、1日当たり1,400トンの製造を目標とし、国内市場のほか中東、東南アジアへの輸出も行う。

輸送機械では、2017年5月に中国の自動車大手の浙江吉利控股集団(吉利集団)が、マレーシアの第一国民車メーカーであるプロトンの株式49.9%を約4億6,000万リンギで取得することに合意した。2018年12月には、吉利集団のスポーツ用多目的車(SUV)である「博越(Boyue)」をベースに開発した、プロトン初のSUV「X70」を発売した。

電気電子製品では、2017年11月に太陽光発電用単結晶シリコンを製造するロンジーソーラーが、サラワク州クチンに2016年1月に設立した単結晶インゴットからモジュールまでを一貫生産する工場への追加投資を発表している。

製造業以外では、中国電子商取引(EC)大手のアリババグループによる投資が目立った。2017年11月に稼働したデジタル・フリー・トレード・ゾーン(DFTZ)内に東南アジア域内をカバーする物流拠点を設立したほか、アリババクラウドによるデータセンター設置などの案件があった。いずれも、マレーシアを東南アジア域内のハブとして、サービス提供を行うことを目的とした投資である点が特徴だ。

2016年には、中国交通建設集団(CCCC)がパハン州で行う「クアンタン・ウォーターフロント・リゾート・シティ」の複合開発や、中国不動産開発大手のカントリー・ガーデンがジョホール州南部のイスカンダル開発地域で進めるフォレスト・シティ開発などの不動産開発案件への大型投資が相次いだが、2017年は製造業、ITサービス、物流など、分野が多岐にわたる投資案件が見られた。

表3:中国からの分野別投資実績(製造業投資認可ベース)(単位:件、100万リンギ、%)(△はマイナス値、―は値なし)
業種 2016年 2017年
件数 金額 件数 金額 構成比 前年比
窯業、土石製品 4 1,429 4 2,366 61.4 65.6
輸送機器 2 7 4 914 23.7 12,245.9
電気電子製品 8 1,775 2 212 5.5 △ 88.1
ゴム製品 n.a. 3 186 4.8
プラスチック製品 3 14 1 100 2.6 604.2
金属加工品 3 148 1 24 0.6 △ 84.0
食品製造 n.a. 1 23 0.6
紙・印刷・出版 3 24 1 14 0.4 △ 41.7
木材・同製品 4 40 2 10 0.2 △ 76.1
機械 n.a. 1 4 0.1
合計 33 4,775 21 3,855 100.0 △ 19.3
出所:
マレーシア投資開発庁(MIDA)提供資料

米中貿易摩擦の影響による投資増加の兆し

今後の中国からの対内直接投資については、米中貿易摩擦による米国向け製品の生産拠点をマレーシアへ移管する動きから、製造業投資が増加するとの見通しもある。他方で、2018年5月の政権交代後に、マレーシア政府が中国支援の下で整備を進める予定だった東海岸鉄道(ECRL)の工事の休止と、天然ガスのパイプラインプロジェクトの中止をそれぞれ決定したため、これらのインフラ開発に関わる投資は引き揚げが見込まれる。マハティール首相は、中国による不動産開発や建設への投資を批判する一方で、「工場を設立し、マレーシア人を雇用する中国の投資は歓迎する」と発言している(「ザ・スター」紙2018年9月2日)。

2018年上半期の中国からの対内直接投資額を国際収支ベースでみると、7億リンギで前年同期と比べて約9割減となった。他方、製造業の投資認可額ベースでみると、6億5,580万リンギで前年同期比43.0%増だった。実行済みの国際収支ベースでは前年割れとなったものの、先行指数の意味合いがある認可ベースでは大幅増となったことからも、今後は米中貿易摩擦に伴う中国からの生産移管と併せて、特に製造業の対内直接投資の増加が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。