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ドイツの経済関連政策の行方

2017年10月16日

9月24日のドイツ連邦議会選挙(総選挙)では、連立を組む2大政党が大きく得票率を失い、右派ポピュリズム政党や親ビジネス政党などの少数政党が躍進した。4年前の前回総選挙時に比べ、ドイツの経済状況は改善している一方で、企業の国内ビジネス環境に対する評価は全体的に悪化しており、新政権がどのように産業界の声に耳を傾けた政策を打ち出していくのか、注目される。

与党が大きく票を失い、第3勢力が躍進

2017年は欧州にとって「選挙の年」だ。3月15日にオランダの下院選挙、5月7日にフランス大統領選挙の決選投票、6月8日には英国の下院総選挙、6月18日にはフランスの国民議会(下院)選挙が行われた。欧州では、リーマンショックや欧州債務危機を経て、2013年以降は民間消費を中心とする内需の拡大などがけん引し経済は回復基調にあり、2016年のEUの実質GDP成長率は1.9%、EU加盟国の中でマイナス成長を記録した国がなかったのは9年ぶりだ。失業率も2008年のリーマンショック以前の水準に回復するなどマクロ経済状況は悪くない。しかし、長年の緊縮財政の反動や所得格差の拡大、2015年以降の難民の大量流入や頻発するテロ事件などを背景とする反EU・ユーロや自国利益優先への回帰が各国選挙の争点となり、オランダやフランスの選挙では極右やポピュリズム政党はこれまでにない存在感を示した。

9月24日に行われたドイツの連邦議会選挙は与党が安泰とみられていたが、メルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)および現政権でCDU/CSUと連立を組む社会民主党(SPD)の2大政党は大きく得票率を落とした一方、2013年に設立された新興の右派ポピュリズム政党であるドイツのための選択(AfD)が第3党に躍進し、初めて国政に参加することになった。自由主義を掲げる親ビジネス政党の自由民主党(FDP)は第4党となり、2013年の前回総選挙で失った連邦議会での議席を回復した。

表1:ドイツ連邦議会選挙の暫定結果(△はマイナス、―はデータなし)
政党名 得票率 議席数
2017年 2013年 増減 2017年 2013年 増減
キリスト教民主・社会同盟
(CSU/CDU)
33.0% 41.5% △ 8.5 246 311 △ 65
社会民主党(SPD) 20.5% 25.7% △ 5.2 153 193 △ 40
ドイツのための選択
(AfD)
12.6% 4.7% 7.9 94 0 94
自由民主党(FDP) 10.7% 4.8% 5.9 80 0 80
左派党 9.2% 8.6% 0.6 69 64 5
緑の党 8.9% 8.4% 0.5 67 63 4
その他 5.0% 6.2% △ 1.2

注:超過議席・調整議席により、2013年と2017年の議席数は一致しない。
出所:ドイツ連邦選挙管理委員会

9月21日の世論調査(ドイツ第2公共放送;ZDF)では、政党支持率がCDU/CSUが36.0%、SPDが21.0%、AfDが11.0%、FDPが10.0%であったため、選挙直前にはAfDが2大政党に続く第3党となる可能性が指摘されていたが、現政権に不満を持つ有権者が予想以上にAfDに流れた格好となった。実際、AfDに投票した有権者の60%は現与党を中心とする他政党に失望したことを投票の理由に挙げたとされる。CDU/CSUが第1党となり、第2党となったSPDが与党となる意思がないと表明したことから、メルケル首相は2005年に首相に就任して以来、4期目の政権を担うことになる。メルケル首相は「課題を解決し、恐れを含む心配を受け入れ、そして何より良い政治を行うことで、われわれはAfDに投票した有権者を取り戻さなくてはならない」と述べている。

今後メルケル首相は連立交渉に入る。SPDは第2党となったものの過去最低の得票率と大敗し野党に下野すること早々に宣言した。CDU/CSUも大きく議席を減らしたことから、連邦議会で過半数を占めるためには最低2党と連立を組む必要がある。メルケル首相にとって、右派ポピュリスト政党のAfDおよび旧東ドイツの共産党の流れを組む左派党との連立の可能性はないことから、FDPおよび環境政党である緑の党との連立をまずは探っていくことになる。なお、ドイツの政党にはイメージカラーがあり、CDU/CSUは黒、FDPは黄赤、緑の党は緑でジャマイカの国旗と同じ組み合わせであることから「ジャマイカ連立」と呼ばれる。連邦議会選挙が終わって休む間もなく、各党は10月15日に実施されるニーダーザクセン州(州都・ハノーバー)の州議会選挙に向けて選挙戦を開始した。連立交渉が開始されるのは、同選挙が終わった後とみられる。

前回選挙時に比べ企業の国内ビジネス環境評価は悪化

選挙結果を受けて、ドイツの産業界は早急な政権の樹立、産業デジタル化や研究開発などの後押し、自由貿易の推進などを要求する声明を出している。

ドイツ産業連盟(BDI)は、ドイツ企業の競争力を強化していくため、これまで以上のテンポ、勇気、長期的視点を持って経済政策を実行すること、具体的には今後3兆ユーロに上るとされる財政黒字を投資、教育、税制改革にそれぞれ3分の1ずつ使うべきと提言した。また、産業デジタル化にはブロードバンドインフラが必要で、特に工業分野の雇用の3分の2が集中する地方のインフラを早急に整備すること、年齢に応じたデジタル教育に重点投資することを要請した。

また、ドイツ商工会議所は新政府への期待などについて会員企業約1,800社に対してアンケート調査を実施し、選挙翌日にその結果を発表した。それによると、2013年の前回の連邦議会選挙時に比べて、経済状況は改善しているにも関わらず、交通インフラ整備状況、企業税制、専門職・技術職人材をはじめ、ビジネス環境に対する評価は全般的に悪化している。新政府がまず取り組むべき課題としては、1.行政手続きの簡略化、2.デジタル化の推進、3.交通インフラの整備・拡張が上位を占めた。同会議所のエリック・シュワイツァー会頭は、ドイツ企業はデジタル化、人口変動、国際競争力などの課題への対応に迫られており、政治による後押しを期待する、と声明で述べている。

表2:ドイツ企業の国内ビジネス環境の評価(1が最高評価、6が最低評価)
項目 2017年 2013年との比較
役所・行政手続き 4.3 0.1ポイント改善
専門技術者人材 3.9 0.3ポイント悪化
企業税制 3.7 0.3ポイント悪化
交通インフラ 3.5 0.6ポイント悪化
労働コスト 3.2 0.2ポイント改善
研究開発 2.8 0.2ポイント悪化
社会保障制度 2.5 0.3ポイント改善
職業訓練制度 2.2 0.2ポイント悪化

出所:ドイツ商工会議所

表3:新政府がまず取り組むべき課題(複数回答、単位:%)
役所・行政手続きの簡略化 60
デジタル化の推進 55
交通インフラの整備・拡張 37
労働市場の柔軟性確保 37
投資を促す企業税制の整備 28
エネルギー転換の影響の制限 25

出所:ドイツ商工会議所

自動車や通商政策などで公約に隔たり

このような産業界の声に新政府はどのように応えていくのかは今後の連立交渉、大臣ポストの配分などに左右されそうだ。上記商工会議所アンケートでの政府に対する要望の上位項目について、連立交渉を行っていく各政党の公約を見ていくと、おおよそ以下の通りである。

行政手続き簡略化については、各政党ともさまざまな場面での役所手続きの簡素化を公約に掲げているが、例えばCDU/CSUは「デジタルポータル」を立ち上げ行政サービスをオンライン化し、企業や国民の各種申請手続きの一本化を図るとしている。

デジタル化の推進については、CDU/CSUはデジタル政策担当省を新設することで現在複数省庁にまたがっているデジタル関連政策をとりまとめ、加速化を進める。最新の光ファイバー網の整備を2025年までに行うほか、経済目的のビッグデータ活用ルールを定めるデータ法の制定などを公約に掲げている。FDPは、デジタル担当省の設置、ギガビット網の整備、行政サービスの電子化による企業や国民の各種申請手続きの一本化や教育分野でのデジタルインフラの整備を進める、とする。緑の党は、デジタル化によりエコロジカルで社会的な市場経済の実現を目指す。光ファイバー網の整備には、連邦政府が所有するドイツ・テレコムの株式(約100億ユーロ)の売却益を充てるべきと主張する。

交通インフラの整備・拡張については、CDU/CSUは政府の中長期交通インフラ投資プログラムである「連邦交通路計画」に従うが、計画手続きを短縮化する。FDPは従来よりも多くの予算を道路、橋、線路の整備に投資し、高速道路のみならず近距離鉄道網の充実を図るとする。一方、緑の党は交通インフラの新たな建設よりも維持、道路よりも鉄道を優先させる。また、自動車産業について、CDU/CSUは、ディーゼル車やガソリン車などエンジン種別を特定して自動車の走行を禁止することを明確に否定、電気自動車が浸透するまでは二酸化炭素排出量が少ないクリーンディーゼル車を重要な選択肢とみなす。電気自動車や水素自動車などの代替燃料車の開発推進のための戦略を作成し、全国に5万カ所の充電・充填(じゅうてん)設備を設置する、と公約に掲げる。FDPも、化石燃料車の販売禁止により電気自動車を強制的に導入することに反対している。一方、緑の党は、2030年以降は排ガスを出さない自動車のみ新車登録を許可する考えを示している。

なお、通商政策については、CDU/CSUは自由貿易主義を支持し、米国のトランプ政権誕生後に暗礁に乗り上げている米国との自由貿易協定(TTIP)の締結に向けた交渉を続けていくとし、FDPもグローバル化は日常の一部でありルールに基づく自由貿易は繁栄と雇用をもたらすとして、自由貿易協定を活用すべきと主張している。緑の党は、TTIPやカナダとのFTA(CETA)は大企業が利する一方で社会的、環境保護的および人権の観点からあるべき基準を満たしていないとして反対し、CETAについては再交渉なくして批准をすることはないとする立場を明らかにしている。

他方、英国のEU離脱(ブレグジット)に対する姿勢は一致している。各党とも、今後の英国との関係は重要とするが、最優先はEU27カ国の団結であり、英国が人の移動の自由を制限しながらもEU単一市場へアクセスするという「いいとこどり」は認めないとの立場を示している。

中道右派とされるCDU/CSUを率いるメルケル首相にとって、市場経済推進のFDPと環境保護を重視する緑の党との連立交渉は難航するとみられ、連立与党としてどのような経済政策を打ち出していくのか、注目される。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
鷲澤 純(わしざわ じゅん)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ大分(2000~2004年)、市場開拓部(2004~2006年)、ジェトロ・ウィーン事務所(2010~2015年)などを経て現職。

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