外資に関する規制

最終更新日:2023年12月28日

規制業種・禁止業種

米政府は、一般的に、外国による対内直接投資(FDI)を歓迎し、公平に扱うという姿勢である。ただし、国家安全保障の観点から、財務省が所管する対米外国投資委員会(CFIUS)が、国内資本の買収案件を審査する。

対米外国投資委員会(CFIUS)による対内資本買収の審査

米国は、外国からの対内直接投資(FDI)を歓迎するとともに、外国投資家を公正かつ同等に扱う。ただし、いわゆるエクソン・フロリオ修正条項に基づいて、国家安全保障上懸念のある国内資本の買収案件を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)を政権内に持ち、大統領の判断で、案件を拒否することも可能である。CFIUSは、省庁横断で構成される。

エクソン・フロリオ修正条項

大統領に対して、米国の安全保障を害する恐れのある取引を停止または禁止するために、適切な措置を適切な時期に取る権限を与える条項(U.S.C. App. 2170(d)(1))。また、大統領による事実認定および決定内容については、司法審査の対象とならないことも規定している(U.S.C. App. 2170(e))。

案件の提出は、基本的には当事者間の任意となっている。第1段階レビュー(45営業日以内)と、必要に応じて第2段階精査(45営業日以内、さらに15営業日の延長の可能性あり)の手続きを経る。最終的に、大統領の判断で、投資案件を差し止める場合もある。

エクソン・フロリオ修正条項の詳細
Section 2170. Authority to review certain mergers, acquisitions, and takeoversPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(269KB)
出所:政府印刷局(GPO)

CFIUSの権限の強化

2018年8月、トランプ大統領の署名により「2018年外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act:FIRRMA)」が成立した。FIRRMAは、審査対象の拡大を中心にCFIUSの権限を強化する内容となっている。
財務省は、2018年9月にFIRRMAの規則案を公表した。その後パブリックコメント期間などを経て、2020年1月13日には最終規則を公表、2020年2月13日に施行された。最終規則では、米国での事業内容に応じてCFIUSによる審査対象とする取引を従来の外国人による支配的な投資のみならず、非支配的な投資にも拡大すると同時に、一定の条件を満たす不動産取引も審査の対象としている。財務省は2020年5月に、申告が義務化される場合の判断基準を従来の産業分野(北米産業分類システム(NAICS)上で指定された27分野)に基づくのではなく、投資対象の重要技術を米国外に輸出等する場合に米政府の許可が必要かどうかに変更する案を公表し、パブリックコメントに基づき、これをおおむね踏襲する形で9月15日に最終規則を公表、10月15日に施行した。

バイデン政権は2022年9月にCFIUSが重点的にフォローすべき分野・要因を示す大統領令を発表、国内サプライチェーンの強靭(きょうじん)性、マイクロエレクトロニクス、人工知能(AI)、バイオ技術・製造、量子コンピューティング、先端エネルギー、気候適応技術など安全保障に影響を与える分野、サイバーセキュリティー上のリスク、米国人の機微なデータに対するリスクなどを挙げた。10月には財務省がCFIUSによる執行と罰則に関するガイドラインを発表した。法令義務違反になり得る行為として[1]申告または届け出が義務の取引について適時の提出がされなかった場合、[2]CFIUSと合意したリスク軽減措置などに違反した場合、[3]非公式なやり取りを含めてCFIUSに提出した情報に虚偽や不備などがあった場合などを挙げた。罰則のプロセスについては[1]CFIUSは当事者に書面で罰則の通知を行い、[2]当事者は受理から15営業日以内(CFIUSと合意すれば延期可能)に、CFIUSに再検討の申請を提出することが可能、[3]CFIUSは受理から15営業日以内(当事者と合意すれば延期可能)に最終の罰則通知を発行、[4]再検討の申請が期限内に受理されなければ、期限の経過後に最終の罰則通知を発行するという流れとなっている。

参考資料:
財務省:The Committee on Foreign Investment in the United States (CFIUS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

財務省:"CFIUS Laws and Guidance外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

※このほか、バイデン大統領が2021年6月3日に発令した、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく大統領令により、監視技術分野を含む軍事産業に関わる特定の中国企業に対する米国人による証券投資が禁じられている。

分野別の投資規制

航空、通信、海運、発電、銀行、保険、不動産、地下資源、国防の9つの産業分野に対しては、外国からの対米投資に関する連邦規制が適用されることがある。

Foreign Investment in the United States:Major Federal Statutory RestrictionsPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(255KB)
出所:Congressional Research Service

財務省による外国資産管理規制

財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control:OFAC)は、外国籍の個人・企業の所有する米国内資産に関する規制を統括している。

業種別規制内容について:財務省 "OFAC Information for Industry Groups外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

また、OFACは、米政府による外国に対する経済制裁の実施権限を有し、近年の制裁対象国と制裁内容の骨子を公表している。対象国は、キューバ、イラン、イラク、北朝鮮、スーダン、シリア、ジンバブエ、ベラルーシ、イエメン、ソマリア、リビア、コンゴ民主共和国、ロシア、ベネズエラ、レバノンなど。
さらに、国レベルではなく、個人や組織にも制裁を課す制裁対象分野およびその内容も公表されている。違法ダイヤモンド取引、麻薬、核拡散、テロリズム行為が対象。

財務省:
"Terrorism and Financial Intelligence外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"
"Sanctions Programs and Country Information外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

出資比率

業種規制あるいは国家安全保障にかかわる規制(エクソン・フロリオ条項)によって、外資の出資比率が制限されるケースがある。

前述の「規制業種・禁止業種」の項を参照。
これらの規制業種以外は、現地法人の資本金の100%を外国の法人または個人が所有しても問題はない。

外国企業の土地所有の可否

FIRRMAの施行により、外国人が空港や港湾また米軍施設に近接する土地等の取得などを行う場合は、条件によって制限の対象になり得る。前述の「CFIUSの権限強化」の項を参照。

外国企業(外国人)の不動産取得

外国企業(外国人)の不動産取得は、米国内での営業あるいは「恒久的施設」の取得とみなされ、税制面で不利になる可能性が高い。通常は、米国内に事業目的に沿った現地法人を設立し、そこを通して不動産投資、不動産の取得・賃貸を行う。

土地を含めた不動産への投資を事業の目的とする場合(例えば、不動産シンジケートやパートナーシップへの投資、米国内の事務所ビル、ホテル・リゾート、ゴルフ場などを買収しその賃貸料や売却利益を得ることを目的とした事業の場合)は、その所有割合に応じて、外国の投資家が得た損益を、毎年米国の当局に税務申告する必要がある。

また、米国内で一定の事業を行うために外国人(法人または個人)が土地を取得した場合に、その土地の一部あるいは全部を売却または賃貸することによって所得が発生する場合は、税務申告の義務がある。

出所:内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

資本金に関する規制

資本金について、法的な規制はない。

会社設立での資本金に関する規制は存在しない。
会社設立は州政府の管轄であり、州によって手続きと諸費用が多少異なるが、資本金額にかかわらず、登録手続料や州税として数ドル~数十ドルで登記できるケースが多い。ほとんどの州では、1日で登記が完了する。
ただし、雇用主証明(納税者番号)は、連邦政府の内国歳入庁(IRS)への登録が必要となる。

ビザ取得や融資、優遇措置等を受ける場合には、種々の条件を満たす必要がある。ビザ取得のためには、資本金は最低10万ドル、できれば20万ドル程度あることが望ましい。

その他規制

外国人が資産を売却した場合の税金関連規制、政府プロジェクトへの参入制限、州による規制、税制上の規制など。

外国人が資産を売却した場合の税金関連規制

外国人による資産の全体・一部の売却は、源泉徴収の対象となる。

外国人が米国内で資産(不動産を含む物的財産を指すが、主として土地と物件、または土地や物件の権利の一部も含まれる)を売却した場合、FIRPTA(Foreign Investment in Real Property Tax Act of 1980)に基づく源泉徴収の対象となる。資産の一部を売却した場合も、税金が源泉徴収される(26 USC Section2104)。

資産全体または資産の一部を外国人から買う場合、購入者(法人または個人)の代理人または取引責任者は、取引額の15%(外国企業の場合、別の特別規制あり)を支払額の中から源泉徴収する義務がある。源泉徴収に関する責任は購入側にあり、売却側が外国人(または外国企業)かどうかを確認しなければならない。購入側が売却側から源泉徴収できないと、購入側が税金を負担しなければならない。

FIRPTAの適用の例外は、購入側が、当該物件を自分の居住目的として30万ドル以下で購入した場合。売却側、購入側の双方あるいはいずれかが、企業組織の場合や、当該物件が信託財産である場合、あるいは不動産投信の取引の場合は26 USC Section1445を参照。

IRS "FIRPTA Withholding, Withholding of Tax on Dispositions of United States Real Property Interests外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

FIRPTAに基づく源泉徴収について
26 USC Section2104PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(156KB)
26 USC Section1445PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(150KB)
出所:政府印刷局(GPO)

政府プロジェクトへの参入制限

助成プログラムにより、外国企業の参画の可否が異なる。外国企業が申請する場合、国内の申請者と同様の登録プロセスを踏む必要があるほか、IRSが発行する法人納税者番号が必要になる場合がある。

Grant Eligibility外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
出所:grants.gov

州による規制

会社法、税制などが州によって異なる上、州法による様々な外国投資の制限が存在する。一般的には、不動産取得(特に農地取得)、銀行業、保険業などに関する規制がある。

税制上の規制

  1. 外資系企業に対する内国歳入庁への報告義務および記録保管義務
    外国資本が25%以上の米国法人などは、税法上の理由から、外国の関連会社との取引について内国歳入庁に報告し、また、取引関係の記録を保管することが義務付けられている。報告や記録保管の方法に関しては、極めて詳細な手続きが定められており、規則違反に対しては厳しい罰則が適用される。
  2. デミニミス条項
    米国の課税対象とならない外国の関連会社に対する金利の支払い、および外国の関連会社の債務保証を得ているローンの金利支払いに関する控除額を制限している。