トランプ米大統領、議決権行使助言企業のDEI・ESG方針より米国民の利益求める大統領令に署名

(米国)

ニューヨーク発

2025年12月16日

米国のドナルド・トランプ大統領は12月11日、証券取引委員会(SEC)委員長に対し、多様性、公正性、包摂性(DEI、注1)および環境、社会、ガバナンス(ESG、注2)に関わるプロキシー・アドバイザー(以下、議決権行使助言会社)の規則および規定が、本大統領令と矛盾する場合、撤廃あるいは改定を指示する大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発令した。同日、ファクトシート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも発表した。

同令は、SEC委員長に対し、具体的に次の5つの措置を求めている。

  1. 議決権行使に関する勧告につき、証券法不正防止条項を、議決権行使助言会社に対し施行すること
  2. 議決権行使助言会社に投資顧問業者としての登録の義務付けを検討すること
  3. 議決権行使助言会社に利益相反に関する透明性向上の義務付けを検討すること
  4. 議決権行使の決定に関し、議決権行使助言会社が投資顧問業者と調整するためのツールとして機能しているかについて検証すること
  5. 登録投資顧問がDEIやESGについて助言するために議決権行使助言会社を雇い、その勧告に従うことで受託者責任に違反していないかを調査すること

同令では、米連邦取引委員会(FTC)に対し、司法長官と協議の上、議決権行使助言会社が不正な競争方法、欺瞞(ぎまん)的な行為あるいは慣行に関与しているかを判断することも指示している。そのほか、議決権行使助言会社に対し州レベルで実施されている反トラスト法について検証することも明記している。

また、労働長官に対し、従業員退職所得保障法(ERISA)の受託者規則を強化し、議決権行使助言会社とプランマネジャーが米国人労働者と退職者の経済的利益のみを追求するよう指示している。

同令では、インスティトゥーショナル・シェアホルダー・サービスとグラス・ルイスという外国資本の2大議決権行使助言会社を名指し、これらの企業が議決権行使助言会社市場の90%超を独占し、人種的平等性の追求や積極的な温室効果ガス(GHG)削減など、政治的に動機付けられたDEIやESGに関する方針を日常的に推進していると指摘している。これらの議決権行使助言会社は、米国最大手の企業における株主提案や役員報酬など、コーポレートガバナンスの決定事項に関し絶大な影響力を持ち、こうした企業の助言は、米国の中流階級投資家の利益の最大化よりもDEIやESGに基づくイデオロギー的な目標を優先していると主張している。

同令は、「米国を再び豊かにする」というトランプ大統領の公約実現のための措置の1つであり、トランプ大統領は「(同令に基づき)米国民の退職金口座と政治イデオロギーを分離し、減税と規制緩和をとおし、米国民がより多くの貯蓄や投資をできるような環境を整備する」と主張している。

(注1)Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)の頭文字のDEIにAccessibility(障がい者などに対するアクセス可能性)を含めてDEAI、DEIA、IDEAなどとも呼ばれているが、本稿では、大統領令に合わせてDEIに統一する。トランプ大統領のDEI廃止の経緯と影響については、2025年1月28日記事2025年4月14日付地域・分析レポート参照。

(注2)ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉で、企業が持続可能な成長をするためには、経営においてESGの3つの指標が重要だという考え方を意味する。

(久峨喜美子)

(米国)

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