ジェトロ世界貿易投資報告 2026年版

第Ⅱ章 世界と日本の直接投資と産業動向
第2節 主要国・地域の産業動向
コラムⅣ 東欧で進む光学・光通信技術の宇宙での活用

安全保障環境の変化で高まる宇宙インフラの重要性

欧州では安全保障環境の変化を背景に、社会や産業インフラの強靱化に資する先端技術への投資が増大している。NATOイノベーション基金(NIF)によれば注1、欧州の安全保障関連スタートアップ注2への投資は2025年に87億ドルと過去最高となり、前年比55%増、5年前の約4倍に拡大した。投資対象はAI、ロボティクス、宇宙などの「ディープテック」と呼ばれる先端技術分野だ。中でも宇宙分野についてEUは「宇宙安全保障・防衛戦略」で衛星通信、地球観測、測位が市民生活を支える重要インフラであると位置付けており注3、法制度面では2025年6月に欧州宇宙法案(EU Space Act)を公表し宇宙産業の競争力強化を目指している。西欧の主要国のみならず東欧諸国でも、光学技術やレーザーといった技術を宇宙で活用する動きがみられる。ヒアリングをベースとしたポーランド・リトアニア企業の最新動向を紹介する注4。

高い光学技術で地球観測や宇宙状況把握事業へ参入

ポーランドは2012年に欧州宇宙機関(ESA)に加盟して以降、同機関を通じた技術開発や企業育成を進めてきた。ESAには、加盟国の拠出額に概ね見合うかたちで産業契約を還元する「地理的還元」の原則があり、加盟国企業はESAプロジェクトの入札・公募を通じて開発に参画する。特に任意プログラムでは、加盟国が関心分野に応じて参加・拠出額を決めるため、拠出拡大は当該分野での企業参画機会の拡大につながりやすい。ポーランド投資・貿易庁(PAIH)によると注5、同国では300社超が宇宙関連分野に関与し、その半数超がESAの入札に参加している。ポーランド政府は2023年にESAの任意プログラムへの資金拠出金額を当初の計画比で約3.9倍に拡大しており注6、地球観測、宇宙データ利用などの分野で同国企業の参画機会が広がった。実際にESAの案件に参画したポーランド企業であるポーランド南西部のヴロツワフを拠点とするスキャンウェイ(Scanway)は、衛星向けの光学望遠鏡や小型カメラを開発する企業だ。同社はもともと製造現場での画像処理技術を基盤に事業を広げてきたが、2023~2025年で宇宙向け事業が急成長し、現在では売り上げの約8割を占める。同社の製品はキューブサット注7から大型衛星向けまで幅広く、軌道上で11基が稼働しているという実績が大きな強みだ。また、同社の小型カメラについてはESAのロケット(Ariane 6)に搭載され、打ち上げの一連の様子を撮影した実績を持つ。現在開発中の望遠鏡は地上分解能注880cm(センチメートル)級でこれは地上の道路や建物、車両が宇宙空間から詳細に把握できる水準だ。将来的には都市やインフラの管理、自動運転のための地図作成など幅広い用途での活用が想定される。

(同社製品Scanway Optical Payload(SOP)、スキャンウェイ提供)

衛星データの基盤整備で欧州の宇宙産業を支える

衛星が撮影した画像や観測データは、地上に送られた後、クラウド上に蓄積され、検索、処理、解析されて初めて社会で使える情報になる。欧州では、こうした宇宙データの保存・処理基盤を域内で確保することが産業競争力やデータ主権の観点から重要になっている。その担い手の1つが、ポーランドのクラウドフェロ(CloudFerro)だ。

同社は、欧州の地球観測プログラム「コペルニクス」のデータ基盤の構築・運用に関わる企業で、衛星データの保存、処理、配信を担うクラウドサービスを提供している。衛星データは容量が大きく、利用者が手元に全てダウンロードして解析するのは現実的ではない。そのため、データを蓄積するクラウド上で検索・処理・解析できる環境が重要になる。同社は既に100ペタバイト注9超の衛星・地球観測データを保有し、同社が構築・運用に関与する地球観測プラットフォーム「コペルニクス・データ・スペース・エコシステム(CDSE)」注10には60万人超の登録ユーザーが存在するという。

(左:クラウドサーバーの様子、右:地球観測プログラム「コペルニクス」から得られる衛星画像データ、ともにクラウドフェロ提供)

同サービスは誰でも無料で利用できる。農地の分布、河川・湖沼の広がり、都市の立地や土地利用の状況などを手軽に、視覚的に確認できる点が特徴だ。宇宙データというと、専門機関や研究者が扱うイメージがあるが、より多くの利用者がアクセスできる機会が増えることで、利活用の裾野が広がっていくことが期待される。

レーザーの活用進めるリトアニア

リトアニアでは、レーザー技術や光衛星通信などのニッチ分野を軸に、宇宙関連技術の活用が進んでいる。同国は2021年にESAの準加盟国となり、宇宙産業の育成を本格化させた。2022~2025年には44社がESAプログラムに申請し、このうち17社が資金を獲得した。政府は2026~2028年のESA関連プログラムへの拠出額を1,450万ユーロ(約25億円)とし、2022~2025年比で62%増やす方針を示している。リトアニア政府は、同国の宇宙関連産業が2027年までに名目GDPの1%を占めることを目標に掲げており、国際連携と重点分野の選択を通じて存在感を高めようとしている注11。

リトアニアの宇宙関連産業を支える基盤の1つが、同国が強みを持つレーザー産業だ。リトアニア・レーザー協会へのヒアリングによれば、同国のレーザー関連企業の輸出比率は8割を超え、主要な輸出先には米国や中国、ドイツ、日本などが名を連ねる。また、リトアニア政府系機関の発信では、同国には60社超のフォトニクス・レーザー関連企業があり、生産の94%が輸出向け、売上高は2億8,400万ユーロ(約480億円)に上るとされる。光学部品、レーザー光源、レーザー加工、通信、センシングまで国内でカバーする産業基盤を持つ点が特徴であり、同国のレーザー技術は半導体加工、精密加工、医療、宇宙など幅広い分野で活用されている。

レーザー技術が宇宙分野で注目される背景には、衛星データ量の増大がある。高解像度の地球観測衛星や通信衛星コンステレーション注12の増加に伴い、宇宙から地上へ送るデータ量は増加している。光は電波と比べて桁違いに広い帯域が使用可能なほか、電波通信と比較してビームが細いため外部からの干渉を受けにくく、秘匿性も高いという特徴がある注13。こういった特性から、光通信は衛星データの大容量・高速伝送や、地上通信網を補完する次世代通信基盤として期待されている。

宇宙データセンターの構築などを想定した大容量データ伝送ニーズを念頭に日本のスタートアップとの協業を進めていると語るのはリトアニアのアストロライト(Astrolight)の創業者で最高経営責任者のラウリナス・マチュリス氏だ。同社は同国最大の科学研究機関である物理科学技術センター(FTMC)からのスピンオフとして設立された企業である。

同社は陸・海・空・宇宙を横断する安全かつ高速な通信を実現するための、最先端のレーザー通信ソリューションを開発している。また、2023年には「DIANA」の育成プログラム注14に約1,400社の中から採択された。2024年には、フェーズ1参加企業40社中の上位10社が入るフェーズ2に採択され30万ユーロの助成を受けた。こうした実績は同社のレーザー通信技術が次世代の通信基盤として評価されていることを示している。

(スペイン領カナリア諸島テネリフェ島のテイデ観測所に設置されたアストロライト製の可搬型光地上局OGS-1、アストロライト提供)

注記

注1
NIF “Defence, Security and Resilience in EuropePDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(11.8MB)”(2026年2月10日付) 本文に戻る
注2
安全保障・レジリエンス上の課題解決に資する防衛、AI、宇宙、量子、バイオ、エネルギーなどの技術を開発する企業を指す。 本文に戻る
注3
EU “Space Act外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2025年6月25日付) 本文に戻る
注4
ジェトロによる取材(実施日:2026年2月25日~27日)に基づく。 本文に戻る
注5
“PAIH “THE AEROSPACE SECTORPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.0MB)”(2025年6月25日閲覧) 本文に戻る
注6
Science Business ”Poland signals stellar ambitions as it increases its contribution to the European Space Agency外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2023年9月20日付) 本文に戻る
注7
一辺10cmの立方体を基本単位(1ユニット)とした超小型人工衛星の規格。 本文に戻る
注8
地上の物体を判別する能力。この場合、撮影した画像上の一辺のピクセルが地上の80cm四方に相当する。 本文に戻る
注9
1ペタバイトは1,000テラバイト(TB)に相当。 本文に戻る
注10
ESA “Copernicus Browser外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2026年6月16日閲覧) 本文に戻る
注11
Lithuania Ministry of the Economy and Innovation“Lithuania is strengthening its space technology sector by allocating an additional €5.5 million for participation in European space programmes外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2025年9月15日) 本文に戻る
注12
特定の目的に応じて複数の人工衛星を統合して運用するシステムのこと。 本文に戻る
注13
JAXA研究開発部門「光衛星通信技術の研究外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2026年6月17日参照) 本文に戻る
注14
NATO加盟国全体の研究者や起業家と連携し、技術の開発を支援するNATOの機関。DIANAは試験施設を有し、産学官、スタートアップ、イノベーターと協力して、防衛や安全保障の課題の解決を目指している。 本文に戻る