ジェトロ世界貿易投資報告 2026年版
第Ⅱ章 世界と日本の直接投資と産業動向
第2節 主要国・地域の産業動向コラムⅢ データセンターの電力事情
データセンター電力消費は2030年に2倍に
電力消費量の大きいデータセンターの拡大は、電力需要にも影響を与える。IEAは、2025年のデータセンターによる電力消費について、前年比約70テラワット時(TWh)増の485TWhとした注1。これは世界の電力需要の約1.5%に相当する。ベースケースのシナリオでは、2030年にデータセンターの電力消費は約2倍になると見通している(図表)。
- 注:
- 2030年はベースケースシナリオの予測値。
- 出所:
- IEA“Key Questions on Energy and AI”から作成
2024年時点のデータセンター向け電力の供給源は、石炭、再エネ、天然ガスがそれぞれ約3割を占めている。今後は再エネの増加が見込まれ、2030年までのデータセンター向け電力需要増加分の約5割を賄う見通しだ。天然ガスと石炭は同割合が合計で約4割になると予測されている。再エネの伸びには劣るが、主要な電源としての地位を維持すると見込まれる。
電力中央研究所社会経済研究所注2は日本の事例を踏まえ、従来の製造業と比較したデータセンター産業の特徴として、「立地制約が緩い」「秘匿性が高い」「ビジネスサイクルが短い」の3点を挙げている。立地条件については、サプライヤーの集積などが求められる製造業に対し、データセンターはクラウド事業者の立地が重要であり、全国各地への立地が可能としている。秘匿性に関しては、技術競争や立地獲得競争の激化を背景に、電力設備容量や具体的な立地が公表されないケースが多い点が特徴だ。ビジネスサイクルについては、工場建設を要し設備更新期間も15年程度と長期にわたる製造業と比べ、データセンターは短い場合には1年程度で建設から稼働までが可能で、主要設備であるサーバーの更新期間も5年程度と短い。また、同研究所は現在のデータセンターの電力需要の特徴として、遅延を低減する観点からクラウド事業者の立地に伴い「特定の地域に集中する」こと、ならびに「短期間で急増する」ことの2点を指摘する。
AI特化のデータセンター登場で需要と変動性が拡大
データセンターの電力需要は主要機器ごとに分けて把握する必要がある。サーバー、データストレージ、ネットワーク機器、冷却・環境管理機器、蓄電池・バックアップ電源が主な機器であり、 データセンターごとに機器別の電力シェアは異なる。IEAによれば一般的にはサーバーが最も電力を必要とする機器となっており、超大規模データセンターでは、電力消費の約8割弱を占める注3。
直近ではAIファクトリーと呼ばれる、AI向けに最適化されたデータセンターの登場により、スペース当たりの電力需要の増加、電力負荷の変動性の上昇といった新たなトレンドが生まれている。計算・記憶能力を高めつつ、電力のロスやデータ遅延の削減が図られる中、ラック当たりのチップ数は増加している。これにより従来と同じスペースでも必要な電力が増加する。さらに、複数のチップが接続され同時に運用されることで、電力消費も同期して変動することになる。計算処理が集中して行われる期間とそれ以外の期間の消費電力の差が大きくなる。IEAはこれらを踏まえ、電力系統の安定性を考える必要があるとしている。
同時に、IEAはエネルギー効率化による電力需要低減の可能性にも言及している。短期的にはソフトウエアの改良、中・長期的にはハードウエアとインフラの改善が電力需要の抑制に寄与するとしている。他方で推論モデルの発達、画像・動画処理、AIエージェントの登場など、個別タスクに必要な計算量の拡大や、効率化に伴うAIサービスの拡大を踏まえると、効率化が進展した場合でも総電力消費は短期的に増加するとの見方を示している。
欧米で異なる電力需要への政策対応
電力需要の増加への対応を迫られる各国・地域の対応策は異なる。世界のデータセンターの電力消費量の約半分を占める米国では、中部大西洋岸地域を中心にデータセンター周辺住民の電力コスト上昇が問題視される。この状況下でトランプ政権は2026年1月、全米最大の電力網運営事業者PJMインターコネクションに対し、約150億ドル規模の発電所を新設するための入札を行うよう要請した。要請には消費者保護に加え、発電所の安定的な建設を後押しする15年間の収入保証などが盛り込まれた。3月には米大手テック企業7社とAIなどに利用するデータセンター建設に関する誓約書で合意し、自社負担による発電設備や電力供給インフラの整備や、電力不足時の予備電源の提供を求めた。
EUではデータセンターの効率性を高めることで電力需要を調整する方針だ。欧州委員会は2025年8月、エネルギー部門におけるデジタル化とAI活用の推進に関する戦略的ロードマップの意見公募を公表。その中で、データセンターを持続可能なかたちで電力網に接続するための枠組みを検討するとしている。具体的には、データセンターのエネルギー効率に関する評価制度を導入するなど、効率性を高めることで電力網や地域社会への影響を軽減する考えだ。2026年3月には評価制度に関する規則案について意見公募を実施し、同規則案をデータセンターのエネルギー効率向上に関する政策パッケージの一部として、同年第2四半期に採択する予定とした。
英国は電力接続に着目している。国内に複数のAI成長ゾーン(AIGZ)が設置され、AI産業の振興が図られている。政府はAIGZへの電力ネットワーク接続を優先する方針を示し、活用されていない電力接続枠をAIGZに振り向ける仕組みも検討している。データセンターの立地の特徴である分散性を緩和し、電力供給を迅速化する狙いだ。接続面でもガス・電力市場局(Ofgem)と連携し、データセンター開発事業者自身が高圧送電線や配電所を建設・接続することを認める措置を検討している。
再エネ調達と原子力活用で安定電源の確保を模索
電力需要の拡大に伴い、排出削減とクリーンエネルギー目標達成を迫られる運営事業者は戦略的な電力調達が求められている。その手法の 1つが企業による電力購入契約(PPA)注4だ。PPAでは発電事業者が需要家との間で長期の供給を固定価格で契約し、需要家は長期調達に加え、再エネなど電源を指定できる。IEAによれば、2025年に新たに締結された再エネPPAの約4割がテック企業向けだという。地域別では、米国、欧州がそれぞれ約4割を占める。米国で過去5年間に締結された再エネPPAの65%がデータセンター企業によるものだ。欧州でもPPAの電力供給量は2021年の1.5TWhから2025年には約15TWhまで拡大した。その他の地域でも、再エネPPAの約2割がデータセンター企業向けとされる。
もっとも、PPAで供給される電力の電源は太陽光と風力が中心で、天候の影響を受けやすく変動性も高い注5。加えて、発電所の立地や使用時間の関係上、実際の使用電力は必ずしも低炭素とは限らない。データセンター事業者の中には、これまでの年間ベースではなく、時間単位の電力需要を低炭素電源で賄うことを目標に掲げる企業も出てきた。この中で水力や地熱由来の再エネを太陽光、風力などと併せて調達する企業も出てきている。
さらに、近年の需要拡大を受け、ベースロード電源注6の確保も重要性を増している。中でも注目されるのが原子力発電だ。米国の大手テック企業を中心に、従来の原子力に加え、次世代原子炉の1つである小型モジュール炉(SMR)に注目している。IEAも2030年以降の電力供給源としてSMRに注目しており、再エネの増加と合わせて原子力由来の電力の増加が石炭のシェアを低下させると見込む。SMR由来電力の供給契約容量も2024年の25GWから2026年4月時点で45GWまで拡大した。EUや英国も需要拡大を受けて、SMRを含む原子力由来の電力に注目し、政策面で積極的な開発を図る方針を打ち出している。
加えて、急増するデータセンター建設に対して電力系統への接続が長期化している米国では、オンサイトでの天然ガス火力発電を活用する計画も進む。グローバルエナジーモニターによれば、2025年時点で米国で開発中のガス火力発電容量は252GWに達し、その3分の1超がデータセンター向けの併設電源とされる注7。中でもデータセンターの開発が進むテキサス州で拡大しており、開発中のガス火力発電容量80.6GWのうち、約40GWがデータセンター向けとされている。
一方、時間帯ごとの需要変動が大きいAIのデータセンター向けには、バッテリーを活用した蓄電技術(BESS)への期待も高い。IEAはオンサイト発電設備が短時間の急激な負荷変動に対応しにくいと指摘し、その補完策として蓄電システムを有望視する。日本でも、パワーエックスが横浜市や日本郵船などが計画する洋上浮体型データセンターの実証実験向けにBESSを提供することを発表した注8。今後は低炭素性、安定供給、経済性をいかに両立させるかが、データセンター立地戦略と電力政策の双方における重要な論点となるだろう。
注記
- 注1
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IEA “Key Questions on Energy and AI
”(2026年4月16日) - 注2
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電力中央研究所「データセンターの電力需要の特徴に関する考察と将来推計―2025年度版 OCCTO供給計画を用いて―
」(2025年8月) - 注3
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IEA “Energy and AI
”(2025年4月10日) - 注4
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PPAには、電力の現物受渡しを伴う物理的PPAと、差金決済を行う仮想PPA(VPPA)がある。
- 注5
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Data Center Dynamics “Do PPAs have a future in the data center sector?
”(2025年2月10日付) - 注6
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季節や天候に左右されず、昼夜を問わず安定的に発電できる電源のこと。
- 注7
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グローバルエナジーモニター “ Betting big on data centers, U.S. now leads world for new gas power development
”(2026年1月) - 注8
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パワーエックスプレス発表
(2025年5月21日)
(2026年7月28日)



