知財判例データベース スマートフォンにメッセージを伝送する方法に関する発明について、明細書及び図面の内容を参酌して解釈し、進歩性が認められた事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告(被上告人、特許権者) vs 被告(上告人、無効審判請求人)
- 事件番号
- 2023フ10965 登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2026年06月25日
- 事件の経過
- 上告棄却
概要
スマートフォン等の端末にメッセージを伝送する方法に関する発明について、請求項の文言自体の意味だけではなく、他の請求項との関係、並びに明細書及び図面の内容を参酌して請求項を補って解釈し、その解釈に基づいて当該請求項の発明の進歩性を認めた。
事実関係
スマートフォン等の端末により同報メッセージ(broadcast message、定められたメッセージを複数の受信者に一度に同時に送るもの)を送る際には、(1)データ網(3G、LTE等)を介して送ることもでき、(2)公衆網(電話や文字メッセージの送受信のための一般的な移動通信網)を介して送ることもできる。このうち、データ網を介して送る方が一般的に費用が安価であるが、特定のアプリ(例えばカカオトーク、LINE)が着信端末にインストールされている場合にのみ伝送が可能であるという制限がある。これに対し、本件特許発明の主な特徴は、(1)優先的にデータ網を介して同報メッセージを伝送するが、(2)(着信端末に特定のアプリがインストールされていないか、又はアプリがインストールされていてもデータ通信状態の不安定等の理由により当該メッセージが確実に受信されたというフィードバックを一定時間内にアプリから受けられなかった場合には)予備的に、公衆網も介して当該メッセージを伝送することである。
ただし、本件特許発明については類似の発明(優先的にメッセンジャーアプリケーションを介してメッセージを伝送するが、伝送が失敗した場合に同一のメッセージを文字メッセージで伝送する技術)が本件特許出願前に既に公知となっていたため、本件特許発明の代表請求項で、かつ唯一の独立項である請求項1は、無効審判を通じて特許無効が確定した。
その後、残りの従属請求項(請求項3~請求項11、なお請求項2は訂正により削除)に対して無効審判が請求されたのが本件である。かかる従属請求項は大きく2つのグループ(請求項3~8、請求項9~11)に分けることができ、このうち2番目のグループが進歩性欠如により無効であることは特許審判院と特許法院の共通した判断となり、大法院では審理の対象にならなかった。大法院における審理の対象は、1番目のグループの代表請求項である請求項3の進歩性の有無(より具体的には、進歩性判断の前提となる請求項3の解釈)であったところ、以下ではこの点を中心に説明する。
請求項3及びそれに関連する請求項1の記載は、以下のとおりである。
[請求項1]
データ網及び公衆網を用いた同報メッセージ伝送方法において、
…(中略)…
同報メッセージ伝送サーバが、前記同報メッセージを伝送する着信端末の電話番号と、前記同報メッセージの受信のためのアプリがインストールされた着信端末の電話番号データベースとを互いに比較する第12段階;
…(中略)…
前記同報メッセージ伝送サーバが、前記着信端末のアプリから同報メッセージ受信完了メッセージを、前記着信端末に前記同報メッセージを伝送した後から予め設定された時間の間にフィードバックを受ける第14段階;
…(中略)…
前記第12段階においてアプリがインストールされた着信番号ではない着信端末である場合、又は前記第14段階において前記同報メッセージ伝送サーバが前記着信端末のアプリから同報メッセージ受信完了メッセージのフィードバックを受けられない場合、前記同報メッセージ伝送サーバが公衆網を介して前記同報メッセージを伝送する第21段階;及び、
前記同報メッセージ伝送サーバが前記公衆網で伝送した前記同報メッセージを前記着信端末に表示する第22段階
を備えることを特徴とする、データ網及び公衆網を用いた同報メッセージ伝送方法。
[請求項3]
請求項1において、
前記第21段階以後、前記着信端末にインストールされた前記アプリにおいて、前記同報メッセージ伝送サーバが前記データ網で伝送した前記同報メッセージが前記着信端末に受信されたか否かを判断する第211段階をさらに備えること
を特徴とする、データ網及び公衆網を用いた同報メッセージ伝送方法。
特許審判院審決(請求項3無効)
請求項3の限定事項は、先行発明に明示されてはいないが、(請求項3の記載の意味は単に同報メッセージが受信されたか否かをアプリが判断するものに過ぎないという前提の下で)メッセージが受信されたか否かを判断するプロセスは先行発明に当然に内在しているものと判断して、請求項3の発明の進歩性を否定した。特許法院判決(請求項3有効)
本件特許の明細書と図面の記載に照らしてみると、請求項3の記載の意味は、データ網で受信された同報メッセージと公衆網で受信された同報メッセージについて両者が同一であるか否かを着信端末が確認する動作であり、データ網と公衆網を介して重複受信された同報メッセージを着信端末に重複表示しないための前提動作である。先行発明には、データ網と公衆網を介した二重伝送の問題が発生しないため、二重表示防止のための動機もない。したがって、請求項3の発明は、先行発明に対比して進歩性が認められる。判決内容
大法院判決(請求項3有効)
請求の範囲は、特許出願人が特許発明として保護を受けようとする事項を記載したものであるため、新規性・進歩性判断の対象となる発明の確定は、請求の範囲に記載された事項によらなければならず、発明に関する説明や図面等の他の記載によって請求の範囲を制限又は拡張して解釈することは許されない。しかしながら、請求の範囲に記載された事項は、発明に関する説明や図面等を参酌してこそ、その技術的な意味を正確に理解することができるため、請求の範囲に記載された事項は、その文言の一般的な意味を基礎としながらも、発明に関する説明及び図面を参酌して、その文言によって表現しようとする技術的意義を考察した上で、客観的・合理的に解釈しなければならない。原審は、本件特許発明の請求項3の「前記第21段階以後、前記着信端末にインストールされた前記アプリにおいて、前記同報メッセージ伝送サーバが前記データ網で伝送した前記同報メッセージが前記着信端末に受信されたか否かを判断する第211段階」の部分を、本件特許発明の明細書のうち発明に関する説明及び図面等を参酌して、「第21段階以後に、着信端末が、公衆網で伝送された同報メッセージと同一の同報メッセージをデータ網で受信したか否かを判断すること」と解釈した。
原審判決の理由を、前述した法理や原審が適法に採択して調べた証拠等に照らして検討すると、原審の判断に、上告理由の主張のように請求の範囲の解釈に関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りはない。
専門家からのアドバイス
特許請求の範囲の解釈は、特許の有効性及び侵害判断のいずれの局面においても核心争点の一つである。しかし、どこまでを明細書及び図面を参酌した特許請求の範囲の合理的解釈として許容すべきか、又は、どこからを請求の範囲の制限解釈又は拡張解釈に該当するとして許容すべきでないかの判断は容易ではない。
本件において、請求項3を文言どおりに解釈した場合には、「データ網で伝送された同報メッセージが着信端末に受信されたか否か」を(着信端末にインストールされている)アプリが判断するという意味に解釈する余地がある。特許審判院もこうした解釈を取り、進歩性を否定した。
これに対し特許法院は、請求項3の意味を「データ網で伝送された同報メッセージが公衆網でも着信端末に受信されたか否か」を判断するものと解釈し、このような解釈が大法院によっても支持されたといえる。
具体的には、請求項3の引用先である請求項1には、「同報メッセージ伝送サーバが、前記着信端末のアプリから同報メッセージ受信完了メッセージを、前記着信端末に前記同報メッセージを伝送した後から予め設定された時間の間にフィードバックを受ける第14段階」が記載されている。これは、データ網を介してメッセージが受信されたかを着信端末のアプリが判断してサーバにフィードバックを返すという意味であると解される。ところで、(第14段階の後の段階である)請求項3の第211段階において、データ網を介してメッセージが受信されたかを着信端末のアプリが再度判断する理由は、請求項3を文言どおりに解するだけでは明快な説明とはならない。そこで特許法院(及び大法院)は、明細書及び図面には、データ網を介してメッセージが受信されたかをアプリが判断する段階のみならず、その後に同一メッセージがデータ網と公衆網を介して重複受信されたかをアプリが判断する段階も開示されていることに鑑みて、請求項3の記載を合理的に解釈してこそ請求項1と3の関係を調和的に解釈することができ、かつ明細書及び図面の全体的な内容に合致すると判断した。
本件は、請求項の記載を文言どおりに解釈した場合に他の請求項との関係において重複ないし矛盾等の問題があったところ、明細書及び図面を参酌して請求の範囲を合理的に解釈することを許容した具体的事例として、参考にするに値する。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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