知財判例データベース 納品前の試験的使用後に既に廃棄された物を対象とした積極的権利範囲確認審判において、確認の利益を認めた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告(特許権者、審判請求人) vs 被告(被請求人)
事件番号
2025ホ10277権利範囲確認(特)
言い渡し日
2025年07月17日
事件の経過
審決取消し確定

概要

 積極的権利範囲確認審判において、被請求人は、審判請求の対象となった確認対象発明に係る物を試験的に製作した後に廃棄して現在は存在しないため、確認の利益がないと主張した。法院は、「生産」行為しかしていない場合であっても発明の実施に該当し、その後にこれを廃棄したとしても、今後実施する可能性がないとは断定できないため、確認の利益が認められると判断した。

事実関係

 原告の本件特許は、湛水用水槽及びこれを使用する下水迂回工法に関するものである。被告は、2023年5月頃、ソウル市と下水管路補修工事の事業契約を締結した後、湛水用水槽と迂回管を設置して安全性確認試験を実施した。
 原告は、被告が製作した上記湛水用水槽と迂回管を確認対象発明として本件特許の請求項1の権利範囲に属する確認を求める積極的権利範囲確認審判を特許審判院に請求した。
 上記審判手続きで被告は、上記確認対象発明はすでに廃棄されており、将来実施する可能性もないことから、確認の利益がなく審判請求は却下されるべきであると主張した。
 これに対して特許審判院は、被告の上記主張に対する判断に先立ち、確認対象発明が適法に特定されているか否かをまず審理した(確認対象発明が適法に特定されているか否かは、当事者の主張がなくても職権で審理できる事項に相当する)。

特許審判院における争点

 本件特許の請求項1は、湛水用水槽において、「結合本体部の開口部から延長され、墜落事故を予防するように一定値以上の高さを維持する開放突出部を」含んでいる。
 これに対比される確認対象発明は、「結合本体部において上部方向に開放されるように延長され、墜落事故を予防するように一定値以上の高さを維持する開放延長部を含む」ものと特定されている。
 ここで、確認対象発明の「開放延長部」が、本件特許請求項1の「開放突出部」に含まれるか否かを判断できる程度に確認対象発明が特定されているといえるか否かが争点となった。

特許審判院の審決

 「突出」は、ある基準面に対して相対的に出っ張ったり膨らんだりすることを意味するものであり、本件特許の明細書や図面を参酌すると、本件特許の「開放突出部」は、結合本体部の開口部から延長されて突出もしている構造と解釈される。
 これに対し、確認対象発明の「開放延長部」には、本件特許の「開放突出部」が有する「延長」の概念が特定されているのみであり、「突出」の意味も含んでいるかまでは明確に特定されていない。これについて審判部が補正要求をしたにもかかわらず、本件特許発明と対比することができる程度に確認対象発明が具体的に特定されているとはいえない。
 これにより特許審判院は、本案審理に進まずに審判請求を却下した。
 これに対して原告は審決取消訴訟を提起し、審決取消訴訟では、(1)審決で判断された確認対象発明の特定の適法性、及び、(2)被請求人が主張する確認の利益の有無が争点となった。

判決内容

(1)争点1:確認対象発明の特定の適法性について

 確認対象発明の特定については、確認対象発明の説明書と図面を一体として把握し、これを総合的に考慮して判断すべきであるため、確認対象発明の説明書に不明確な部分があるか、又は説明書の記載と一致しない一部の図面があるとしても、確認対象発明の説明書に記載された他の内容と図面を総合的に考慮して確認対象発明が特許発明の権利範囲に属するかを判断できる場合には、確認対象発明は、社会通念上、特許発明の権利範囲に属するかを確認する対象として他のものと区別できる程度に特定されているというべきである(大法院2010年5月27日言渡2010フ296判決、大法院202020年5月28日言渡2017フ2291判決等参照)。

 本件特許における発明の説明の記載と図面を考慮すると、本件特許の「開放突出部(30)」は、結合本体部(10)の「上面全体」の上側方向に延長された形状だけでなく、上面の一部分は蓋のようなものにより覆われて閉鎖されているが、残りの一部分は開放された形状(下記図面の水色部分)も含むものであることが分かる。

この図は、本件特許発明である湛水用水槽の構成を示した斜視図で、2つの発明の態様を示しています。

 確認対象発明の説明書及び図面によると、結合本体部の下部には開放部を備え、迂回管が連結される供給ホール部が形成されており、結合本体部の上部方向に開放されるように延長される開放延長部が形成されているものであることが分かる。また、確認対象発明の説明書及び図面によると、確認対象発明の開放延長部は、結合本体部の上部方向に開放されるように延長されて一定の高さを維持するものとして特定されていることが分かる。

この図は、確認対象発明である湛水用水槽を一方向から撮影した写真です。
<確認対象発明の写真7>

 本件特許請求項1の発明の開放突出部は基準点である結合本体部の開放されていない上面に比べて上側方向に一部又は全部が突出した形状をいずれも含む一方、確認対象発明の開放延長部は結合本体部の上部を基準として上側方向に全体的に延長されている。したがって、両発明の対応する構成は、結合本体部の上面又は上部を基準として一部突出している構造であるかを対比することができる程度に特定されている。

(2)争点2:確認の利益について

 特許法における物の発明に関する規定上、「実施」は「その物を生産・使用・譲渡・貸渡し若しくは輸入し、又はその物の譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ)をする行為」[特許法第2条第3号(イ)目参照]を意味する。このような実施行為は、各々独立的なものであって、「生産」行為しかしていない場合にも発明の実施となり、使用や譲渡しかしていない場合も実施に該当する。

 被告は2023年5月30日にソウル市と下水管路補修工事の事業契約を締結し、2023年12月9日にまず湛水用水槽とその迂回管等を設置し、2023年12月14日から2024年1月15日まで安全性確認のために通水試験を実施した。このような被告の一連の行為のうち確認対象発明の湛水用水槽とその迂回管等を製作して設置する行為は、特許法上の「生産」に該当する。被告の主張のように、たとえ安全性確認のために通水試験をした後に、2024年5月中旬には廃棄していたとしても、このような通水試験は、2023年5月30日の契約締結以後の経済的利益を目的としたものであり、特許法第96条第1項で規定している特許権の効力が及ばない研究・試験ということはできない。

 このように被告は、確認対象発明を実施した事実を十分に認めることができる一方、被告が提出した証拠のみでは自身の主張のように確認対象発明に係る物を廃棄し、今後実施しないと断定するには不十分であり、他にこれを認める証拠がない。
 したがって、本件審判請求を却下した本件審決には、原告らの主張するような違法があるとして、審決を取り消した。

専門家からのアドバイス

 本件の経緯を改めて詳察すると、原告は、被告が製作した物品を確認対象発明として特定し、自身の特許の権利範囲に属する確認を求める積極的権利範囲確認審判を請求したが、審判院では、確認対象発明を正しく特定しているかが主争点になり、それに対する却下審決を受ける結果となった。それに対する審決取消訴訟では、審決による上記却下に誤りがあるとする判断は得ることができたが、結果的には、当初に意図していた権利範囲の属否判断の審理に進めることはできなかった。
 特許権者が積極的権利範囲確認審判を請求する際の確認対象発明を特定する場合において、自身の特許の請求項に記載された機能的又は抽象的表現をそのまま使用して確認対象発明を特定したときには、特許発明と対比することができる程度に具体的に特定されているかに関する争いが生じやすく、本件もそうしたケースであったといえる。したがって、機能的又は抽象的表現に該当する具体的な構成として確認対象発明を特定した上で、特許発明の権利範囲に属する確認を求める方が望ましいこともある点に留意したい。
 加えて、本件の判決においては、確認対象発明に係る物を生産した後にすでに廃棄していた場合であっても、当該生産行為のみによって特許発明の実施に該当するとして、将来再度実施する可能性が全くないと断定することができない限り、確認の利益が認められると判示された点も参考になろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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