知財判例データベース 無線照明制御システムの発明において、特許請求の範囲の文言の意味を出願審査過程における補正の経緯を参酌して解釈することにより、特許非侵害と判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人(特許権者) vs 被告、被上告人(被疑侵害者)
事件番号
2024ダ228104 特許権侵害差止(特)
言い渡し日
2026年06月24日
事件の経過
上告棄却(原審確定)

概要

 原告は、被告の実施サービスの内容の中に、原告の特許発明の文言的範囲と重なる部分が存在するため、原告の特許発明を侵害すると主張した。法院は、当該文言の意味を請求の範囲の記載及び明細書の記載だけでなく、原告が出願審査過程において当該文言の構成に補正することになった経緯、及びそのような補正をしながら提出した意見の内容を参酌して解釈した上で、被告の実施サービスは特許発明の権利範囲に含まれないと判断した。

事実関係

 原告の特許発明は、観客が所持するスマートフォンや応援グッズ(スレーブ照明装置)をマスター装置とネットワークで接続し、制御された照明パターン(例えば、コンサート会場で座席のグループ別に個別の色の照明を発光させるもの)を生成できるようにする無線照明制御システムに関するものである。
 争点は、特許発明の請求項1の「複数のスレーブ照明装置を予め設定されたグループ別に制御することができる」構成を被告の実施サービスが備えているか否かであった。
 原告は、被告の実施サービスによる実際の公演場面を見ると、座席のグループ別に個別の色を表示するように演出されているため、原告の特許発明を侵害したものであると主張した。

この図は、被告の実施サービスによる実際の公演場面としてスタジアムの座席を遠方から撮影した写真です。
<被告の実施サービスによる実際の公演場面>

 これに対し被告は、原告の特許発明は予めグループを形成してグループ別に照明を制御するものであるのに対し、被告の実施サービスは予めグループを形成するのではなく、仮想の座標平面上で関数を利用して照明を具現するものであるため、原告の特許発明の権利範囲に属さないと主張した。

判決内容

特許法院の判決(侵害否定)


イ.関連法理
 特許発明の保護範囲は、請求の範囲に記載されている事項により定められなければならない(特許法第97条)。そこに記載された文言の意味内容を解釈する際は、文言の一般的な意味内容を基礎としながらも、発明の説明や図面等を参酌して客観的・合理的に解釈すべきである。また、請求の範囲に記載された文言によって技術的構成の具体的な内容を把握することができない場合は、明細書の他の記載及び図面を補充して、その文言が表現しようとする技術的構成を確定し、特許発明の保護範囲を定めなければならないが、その場合においても、明細書の他の記載により権利範囲を制限又は拡張して解釈することは許容されない。特許明細書に記載された用語は、明細書全体を通して統一して解釈する必要があるため、1つの用語が請求の範囲や発明の説明に複数回使用された場合、特別の事情のない限り、同一の意味で解釈すべきである(大法院2019年7月10日言渡2017ダ209761判決、大法院2021年1月14日言渡2017ダ231829判決等参照)。

 特許発明の出願過程において、どのような構成が請求の範囲から意識的に除外されたかは、明細書だけでなく出願から特許登録に至るまで特許庁審査官が提示した見解、出願人が出願過程において提出した補正書と意見書等に示された出願人の意図及び補正理由等を参酌して判断すべきである。したがって、出願過程において請求の範囲の減縮がなされたという事情のみによって減縮前の構成と減縮後の構成を比較し、その間に存在する全ての構成が請求の範囲から意識的に除外されたと断定すべきではなく、拒絶理由通知に提示された先行技術を回避する意図でその先行技術に示された構成を排除する減縮等のように、補正理由をはじめ出願過程において現れた種々の事情を総合して考察した場合に、出願人がある構成を権利範囲から除外しようとする意思が存在するといえるとき、これを認めることができる。また、このような法理は、請求の範囲の減縮なしに意見書提出等を通じた意見陳述のみがあった場合や、特許登録後に行われた訂正を通じて請求の範囲の減縮があった場合にも同様に適用される(大法院2017年4月26日言渡2014フ638判決、大法院2018年8月1日言渡2015ダ244517判決、大法院2023年2月2日言渡2022フ10210判決等参照)。

ロ.具体的判断
 本件特許発明の請求項1に記載された「グループ」が表現しようとする技術的構成は、次のように画定することができる。

  1. 請求の範囲に記載されている事項
  2.  「予め」は「あることを行うに先立って」という意味を持つ副詞であり、「グループ」は「共に行動するとか共通点があることにより1つに束ねられる集まり」を意味する(標準国語大辞典参照)。これに基づき、「(予め設定された)グループ別に」制御し、互いに異なる(照明)色で表示するという請求の範囲の記載に照らしてみれば、本件請求項1の発明でいう「グループ」とは、「グループ別に同じ制御情報を受信し、同じ照明色を表示させるために、少なくともグループ別の制御情報を送信して制御するに先立ち、(スレーブ照明装置それぞれのエントリ情報/識別情報と)マッピングされた座席情報に基づいて束ねた複数のスレーブ照明装置の集合」を意味する。

  3. 発明の説明及び図面
  4.  「グループ」は、マスターとして動作する第1スマート装置の使用者、すなわち「専門スタッフ」が、上記スマート装置の表示部に表示された照明制御アプリケーションの照明制御画面において、グループとして束ねる座席配置図の特定領域をドラッグして境界線を描く等の方式で設定することができる。グループとして束ねられた第2照明装置群、すなわち観客が所持する複数のスレーブ照明装置が、照明色等を一括して表示することになる。

  5. 出願過程
  6.  特許庁審査官は2018年4月24日、原告に対し、先行発明にも「照明装置のグループを生成し、制御信号を送信してグループ化された照明装置を制御する構成」が開示又は暗示されており、進歩性がない旨の拒絶理由を通知した。これに対し、原告は「本件特許発明の主要な特徴は、複数のスレーブ照明装置が視覚的な応援効果を出すためにグループ別に制御される点である」旨の意見書を提出した。
     その後、特許庁審査官は、上記拒絶理由が依然として解消されていないとの理由により、原告の出願について拒絶決定をした。これに対し、原告は 、請求の範囲の補正と共に再審査を請求し、次のような内容の意見書を提出した。

 「特定の照明パターンや形状を演出するために、数千乃至数万の客席上に存在する数千乃至数万のスレーブ照明装置を個別に制御することは不可能であり、したがってスレーブ照明装置をグループ別に制御しようとすることが主要な特徴です。また、公演中に数千乃至数万のスレーブ照明装置をグループ別に効果的に制御するためには、グループ別制御のための事前情報を予め構成する過程が必要となります。」

 以上の内容を総合すると、本件請求項1の発明における「予め設定されたグループ」とは、「公演開始前に観客の座席情報を第2照明装置(スレーブ照明装置)の識別情報等とマッピングする方式で、座席配置図の全ての座席がマッピングされた後に、第1スマート装置の使用者である演出者(専門スタッフ)が、1つのグループに属する座席では同一の照明パターンが表示されるようにする目的で、座席配置図上の特定の領域を選択する等の方式を通じて、意図的に束ねた複数のスレーブ照明装置」を指すものと解釈される。

ハ.被告の実施サービスは本件請求項1の発明の権利範囲に属するか
 被告の実施サービスは、照明装置を関数(演出家が演出しようとする照明形状に対応する特定の方程式又は不等式)の演算結果に従って動作するように制御可能な制御情報を、無線通信方式に従って複数の照明装置へ伝送する方式により制御される。被告の実施サービスは、照明装置を複数の仮想座標平面にマッピングした後、そのうちの1つの平面を選択して座標値を基準に制御する方式による。演出しようとする効果に応じて複数の座標平面を切り替えながら使用するため、1つの照明装置(座席)には座標平面ごとに複数の座標が付与され得る。したがって、被告の実施サービスは、本件請求項1の発明の「予め設定されたグループ」に関する構成要素を含んでいると認めることはできない。

 これに対し原告は上告を提起したが、大法院は原審判決の判断に誤りがないと簡潔に判示した。

専門家からのアドバイス

 本件特許発明は照明を制御する方式に関するものであったことから、その特許侵害の成否を判断するためには、被告の実施サービスの動作アルゴリズムを具体的に分析する必要があったと考えられる(判決文にはアルゴリズムを分析する相当分量の説明が含まれていたが、冗長になるため省略した)。これに関連して原告は、被告の実施サービスの公演において『結果的に』グループ別に照明を制御することが実現されているため、原告の特許発明を侵害すると主張した。
 これに対し法院は、特許発明の請求項の文言及び明細書の記載に加えて、原告が特許出願の審査過程において補正をした経緯及び提出した意見書の内容を綿密に検討した結果、原告の特許発明はグループを『予め』特定する発明であるのに対し、被告の実施サービスはそうではない点を指摘し、非侵害の結論を下した。
 本判決は法理自体は従来どおりであるが、韓国の法院が請求の範囲の文言解釈をどのように行っているかを把握する上で好適な参考事例といえる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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