外国企業の会社設立手続き・必要書類

最終更新日:2023年08月31日

外国企業の会社設立手続き・必要書類

外国企業がカンボジア現地法人を設立する場合、商業省への商業登記に加え、経済財政省租税総局への税務登録、労働職業訓練省への事業所開設申告、国家社会保障基金(NSSF)への登録が必要となる。2020年6月から、これらの手続きのうち前三者についてはワンストップのオンライン申請により完了することが可能となった。

外国企業がカンボジアに投資する場合、業種や投資額によっては、適格投資プロジェクト(QIP)を利用することが可能である。ここでは、QIPを利用しない通常の投資案件について概説する(QIPについては、「外資に関する奨励」参照)。

ワンストップによる設立手続き

  1. 進出形態
    カンボジアに進出する外国企業の主な形態には、駐在員事務所、支店、現地法人、パートナーシップ、事業協力契約、個人事業主などの方法があるが、ここでは現地法人の設立に関して概説する。
  2. 従前の手続
    従前、カンボジアにおける会社設立は、商業省、租税総局、労働職業訓練省の順に、それぞれに対する手続を行うものとされており、手続完了まで、数カ月を要することが通常であった。こうした状況は、法人設立や外資による直接投資のインセンティブを削ぐものであるとして課題となっていた。カンボジア政府は、手続の簡易化・必要期間の短縮を目的とし、ワンストップのオンラインでの設立手続が可能となるプラットフォームを作成、2020年6月10日付閣僚評議会令(Sub-Decree No. 84 on the New Online Business Registration Procedures)により施行された。
  3. 新オンライン・システムの概要
    会社設立申請のオンライン・システム(Registration Services)は、クメール語・英語が準備されている。申請者は、オンライン・システムを通じて、必要情報の入力および必要書類のデータファイルによる提出を行い、登録費用をオンラインで支払う(銀行決済(ABA銀行またはACLEDA銀行)、クレジットカードまたはデビットカード決済)。提出書類に不備などがなければ、申請後、8営業日以内に会社設立手続が完了するとされる(前記閣僚評議会令第8条)。手続が完了すると、設立証明書・税務登録証書などの各証書(デジタルファイル)が交付される。導入後の実務において、現実には15営業日程度要している場合もあるようだが、本システム導入前と比較すると大幅に短縮されている。
  4. オンライン・システムでの手続・必要書類
    商業省・租税総局・労働職業訓練省に対する手続きが法令上必要となるが、本オンライン・システムはワンストップサービスであり、申請者は一括して一度手続きを行うことで足りる(後述のように各手続完了後にそれぞれ別途必要となる手続きは存在するが、本システムの登録完了をもって事業の開始は可能となる)。
    必要書類は、形態によって若干異なるが、現地法人の場合は次のものとなる。原則として書面原本は不要でデータファイル(PDFファイル)の提出で足りることとなり、また書類数も従前より少なくなった。
    1. 商業省の会社登録
      商業省の会社登録に際しては、まず使用を希望する商号を予約し、会社登録申請を行う。会社登録は申請後、3営業日以内に完了するとされ、完了すると法人設立証書(Certificate of Incorporation)が発行される。
      申請に際しての必要書類は次のとおり。
      • 登録住所地の土地登記または賃貸借契約書
      • 取締役の証明写真(jpgまたはjpegファイル、3カ月以内に撮影、背景は白)
      • 取締役のIDカード
      • 親会社の定款
      • 親会社の登録証書
      • 該当する場合、参考書類(既存の会社商号と似た名称を使用する場合、使用許可書。その他、ライセンスや関連書類)
      • 代理人が申請する場合、申請権限授与書
    2. 税総局の税務登録
      租税総局に対し、税務登録・VAT登録・パテント税の登録を行う。前二者は基本的に設立時のみである。パテント税とは、会社の事業に対しての課税であり、当局の定める事業目的カテゴリーに応じ、複数の場合は複数項目について、事業年度ごとに支払う必要がある。商業省での会社登録完了後、4営業日以内に完了するとされ、完了するとパテント税証書、VAT登録証書、税務登録IDカード、税務申告の通知書面が発行される。
      申請に際しての必要書類は次のとおり。
      • 事業所の固定資産税の支払い証書または固定資産の情報
      • 銀行口座情報(税務登録の完了後15日以内に提出することが必要。これがない場合、租税総局の証書が撤回される)
    3. 労働職業訓練省関係の手続き
      事業所開設申告(Declaration of the Opening of the Enterprise)に関する申請を行うこととなる。租税総局での税務登録完了後、1営業日以内に完了するとされ、事業所開設申告が発行される。申請に際して、労働職業訓練省用に別途求められる必要書類はない。
  5. 手続き費用
    手続き費用も減額された(下記金額は、4,000リエル=約1米ドルとし算定)。
    1. 商業省(2020年3月23日共同省令333号PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(856KB)
      • 商号予約費用:約6.25米ドル
      • 商業登録費用:約252.5米ドル
    2. 租税総局(前記閣僚評議会令第9条)
      • 税務登録費用:100米ドル(小規模納税者5米ドル)
      • パテント税登録費用(1項目・1事業年度当たり)
        1. 小規模納税者:約50米ドル
        2. 中規模納税者:約150米ドル
        3. 大規模納税者:約375米ドル
    3. 労働職業訓練省(2020年3月27日共同省令335号PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.91MB)
      • 事業所開設申告:30米ドル
  6. 関連手続き
    従前、商業省での会社登録は、商業省の商業登記用オンライン・システム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを通じて行われていた。このウェブサイトは継続されているが、新オンライン・システム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとは連動していないため注意が必要である。現状、申請者は、前述の会社設立手続きの完了後、商業省のオンライン・システムへの登録申請をすることを要する(申請費用約40米ドル、新商業登録システムで取得した設立証明書・商業登録情報などの提出が必要)。
    また、租税総局に対しては、登録完了後に、別途、新オンライン・システムの導入前に求められていたと同様の手続きを要求されている。すなわち、新法人の取締役などの代表者が租税総局に出向き、顔写真の撮影および指紋の登録を行う必要がある。現時点での実務では、前述の銀行口座情報の提出から1~2週間程度後に、租税総局から15営業日の期限を付した出頭要請レターが交付される。
    労働職業訓練省に対する必要手続きとしては、前述の事業所開設申告のほか、従たるものとして、会社台帳登録(Registration of Enterprise Ledger)に関する申請および従業員給与台帳登録(Registration of Payroll)に関する申請が存在する。これらは新システムに統合されておらず、労働省所管のシステム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますへの別途の登録および同システム上での手続きが必要となる(同システム導入について、2020年12月31日労働省令430号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
  7. その他
    このように、会社設立時の手続は大きく改善され、所用期間が非常に短縮された。
    しかし、特に税務登録の関係では、設立法人の取締役などがカンボジアを訪問し租税総局に出頭する必要があるなど、別途の手続の負担が残っている。また、登録した会社情報の変更(取締役の変更など)は旧来のものから改善がなされておらず、各当局に個別に手続を要し長期間を要している。

国家社会保障基金(NSSF)への登録

国家社会保険基金(National Social Security Fund:NSSF)が運営するカンボジアの社会保険制度は、労災保険と健康保険が両軸であったが、2022年7月から年金制度も開始された(10月給与分から支払い開始)。雇用者は、事業所設立後30日以内にNSSFへの登録を、従業員の雇用開始後3日以内に従業員を登録することが義務付けられている(2022年7月5日付労働法に服する者のNSSFへの登録および保険料の支払についての手続に関する省令第168号)。企業登録および従業員登録が終了した後、NSSFは企業に対して次の書類を付与する。

  1. 企業のID番号
  2. 企業登録証明書
  3. 従業員のID番号
  4. 各従業員のNSSFメンバーカード

保険料は、毎翌月に納付義務がある。労働災害保険および健康保険の保険料は使用者が負担するものとされており、労働災害保険料および健康保険は従業員の月額給与の0.8%、健康保険料は月額給与の2.6%である。年金の保険料は労使が折半するものとされており、導入後5年間の保険料率は月額給与の4%(使用者2%、労働者2%)である。もっとも、保険料は、上限基準額として月額給与120万リエル(約300米ドル)が定められており、これを超える場合は一定額となる(2021年付8月19日政令第144号)。

外国企業の会社清算手続き・必要書類

会社は、株主総会における特別決議、解散趣旨書の作成と商業省への提出、債権者への通知、解散に関する公告、資産および債務の清算、商業省への解散届出書の提出、商業省の解散証明書の発行を経て、解散することができる。

会社の解散については、「カンボジア会社法」の第251条から第258条で定められている。

ジェトロ:ビジネス関連法・法務「カンボジア会社法(2015年3月)」「カンボジア会社法改正法(2022年3月)」

資産または債務を有する会社については、株主総会における特別決議、解散趣旨書の作成と商業省への提出、債権者への通知、解散に関する公告、資産および債務の清算、商業省への解散届出書の提出、商業省の解散証明書の発行を経て、解散することができる(会社法第252条~257条)。
株式を発行していない会社は取締役全員の決議によって何時でも解散することができ、資産および負債を有しない会社も、株主の特別決議によって解散することができる(会社法第251条)。
取締役または年次株主総会における投票権を有する株主は、会社の自発的清算または解散を提案することができる(会社法第252条)。
2022年1月の改正会社法は、会社の清算に際して、ライセンスを有する会計事務所または監査事務所を清算人として選任することが必要であるとした(同法第255条)。
さらに、2023年4月20日の会計監査規制当局省令19号は、清算業務を行う事務所はカンボジア弁護士1名以上を有するか、法律事務所との合意書を締結する必要があるとし(第21条)、清算人の資格を加重している。
解散および清算に関する条項は、裁判所に破産を申し立てた会社には適用されない(会社法第258条)。

なお、会社の解散手続きの中では税務関係手続が最も重要である。租税総局・関税総局に会社を解散する旨通知し、税務調査を受けた上で、税金清算証明書・関税清算証明書を取得する必要がある。この手続きでは1年以上など相当の期間を要するケースもある。
また、会社が適格投資案件の指定を受けている場合にはカンボジア開発評議会(CDC)関係の手続きが、工場を閉鎖する場合にはカンボジア工業科学技術革新省への申請が必要となる。さらに、商業省による解散証明書の発行後、労働職業訓練省、国家社会保険基金(NSSF)への通知を行う。なお、個別のライセンスを取得している場合には、各管轄官庁への申請・届出が必要な場合がある。

その他

業種・業態によっては、個別のライセンスを各監督省庁から取得する必要がある。

参考:個別のライセンス取得が必要な業種(一部)
業種 監督省庁 備考
飲食店 観光省 審査あり
ゲストハウス 観光省 審査あり
ホテル 観光省 審査あり
旅行代理店 観光省 保証金の支払いが必要
不動産サービス業 経済財政省 無犯罪証明書の提出要
保険ブローカー業 経済財政省 無犯罪証明書の提出要
通関業 関税・消費税総局 通関に関する専門家が必要
運送業 公共事業運輸省 トラックなどの登録も必要
診療所、病院 保健省 代表者はカンボジア国籍である必要あり
法律事務所 弁護士協会 代表者はカンボジア国籍である必要あり
海外人材派遣業 労働職業訓練省 代表者はカンボジア国籍である必要あり
教育機関 教育・青少年・スポーツ省 審査あり