外資に関する奨励
最終更新日:2022年09月16日
奨励業種
カンボジアの外国直接投資に関する法制度は、基本的に投資を奨励するように設計されている。2021年10月15日、さらに投資を誘致・促進するよう新投資法が施行された。
新投資法
2021年10月15日施行の新投資法は、旧投資法(1994年制定・2003年改正)に代わる新法として、さらなる投資の誘致・促進を目的とし制定された。新投資法による主たる改正点としては、優遇措置の対象となる分野について規定し、旧投資法に加えて複数の優遇措置を追加したことが挙げられる。もっとも、2022年9月時点で、優遇措置を具体的に規定する政令などが施行されていない。新投資法は、新たな法令の施行まで従来の法令が有効であるとしており(第34条)、旧投資法に基づく枠組みが基本的には維持されている。
外国直接投資政策
カンボジアの外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)に関する法制度は、投資を制限するのではなく、自由で積極的な投資を奨励することを目的として制定されている。投資法の規定では、外国直接投資は土地所有を除き、外国人は内国法人と差別なく扱われており(外国人が土地を保有できないことは憲法で規定されている)、多くの分野で自由に投資することが許されている。また投資法では、「登録証明書」を入手した投資家に対し、種々の優遇措置が与えられている。
またカンボジア政府は、投資促進サービスの向上を継続的に図っている。例えば経済特別区(経済特区:Special Economic Zone :SEZ)の促進を図るため、2005年にはカンボジア開発評議会(Council for the Development of Cambodia:CDC)内にカンボジア経済特別区委員会(Cambodian Special Economic Zone Board:CSEZB)が設立された。同委員会の管理の下では、経済特区管理委員会(Special Economic Zone Administration:SEZ Administration)が各経済特区に設立され、投資プロジェクトの登録から日々の輸出入許可に至るまで、ワン・ストップ・サービスが提供されている。
優遇措置適格プロジェクト
投資ライセンス(投資許可)は、投資家または投資企業に対して発行されるのではなく、投資プロジェクトを対象として発行される。投資ライセンスを受領したプロジェクトは「適格投資プロジェクト(Qualified Investment Project:QIP)」と呼ばれる。
「改正投資法施行に関する政令第111号」の付属文書1、Section 2「優遇措置非適格の投資行為」は、優遇措置の条件となる様々な分野における投資最小限度額や条件を定めており、いくつかの例を次に掲げる。
投資分野 | 投資条件 |
---|---|
輸出産業にすべて(100%)の製品を供給する裾野産業 | 10万米ドル以上 |
動物の餌の製造 | 20万米ドル以上 |
皮革製品および関連製品の製造 金属製品製造 電気・電子器具と事務用品の製造 玩具・スポーツ用品の製造 自動二輪車およびその部品・アクセサリーの製造 陶磁器の製造 |
30万米ドル以上 |
食品・飲料の生産 繊維産業のための製品製造 衣類縫製、繊維、履物、帽子の製造 木を使用しない家具・備品の製造 紙および紙製品の製造 ゴム製品およびプラスチック製品の製造 上水道の供給 伝統薬の製造 輸出向け水産物の冷凍および加工 輸出向け穀類、作物の加工 |
50万米ドル以上 |
化学品、セメント、農業用肥料、石油化学製品の製造 現代薬の製造 |
100万米ドル以上 |
近代的なマーケットや貿易センターの建設 |
200万米ドル以上 1万ヘクタール以上 十分な駐車場用地 |
工業、農業、観光、インフラ、環境、工学、科学その他の産業向けに用いられる技能開発、技術向上のための訓練を実施する訓練・教育機関 | 400万米ドル以上 |
国際貿易展示センターと会議ホール | 800万米ドル以上 |
優遇措置非適格プロジェクト
前記「優遇措置非適格の投資行為」(ネガティブリスト)に記載されている投資プロジェクトには、投資優遇措置は適用されない。優遇措置非適格プロジェクトには、次のようなプロジェクトが含まれる。なお、新投資法は、ネガティブリスト方式であった旧投資法に代えて、投資優遇措置の対象となる分野についても列挙するという形をとったが(第21条)、この点が実務にどのように影響するのかは現時点で不明である。
- すべての商業活動、輸入、輸出、卸、小売、免税店
- 水路・道路・空路による運輸サービス(ただし鉄道分野への投資を除く)
- レストラン、カラオケ、バー、ナイトクラブ、マッサージ店、フィットネスセンター
- 観光サービス
- カジノ、賭博ビジネス
- 銀行・金融機関・保険会社などによる通貨・金融サービス
- ラジオ・テレビ・新聞・雑誌などを含む報道・放送ビジネス
- 専門的サービス
- 合法的な国内供給源である自然林の木を原料として使用する、木材製品の製造・加工
- 50ヘクタール以下のホテル、テーマパーク、スポーツ施設、動物園などを含む、複合娯楽施設
- 三ツ星級以下のホテル
- 不動産開発、倉庫業
各種優遇措置
投資適格プロジェクトについては、法人税免税、免税輸入、輸出税免税などの優遇措置がある。
投資適格プロジェクト(QIP)に付与される投資優遇措置
投資適格プロジェクト(QIP)は、次の投資優遇措置の対象となる。
- QIPは、法人税の免税ないしは特別償却の適用を選択できる。
- 法人税免税制度(選択制)に関し、タックス・ホリデーの期間は、「始動期間(Trigger Period)」+3年間+「優先期間(Priority Period)」(合計最長9年間)で構成される。「始動期間(Trigger Period)」とは、「最終登録証明書」発行の日から最初に利益を計上する年、または最初に売上げを計上してから3年間の、どちらか短い期間。また「優先期間(Priority Period)」とは、最長3年間で、プロジェクト内容(業種と投下資本額)に基づき、財政法によって定められる。
- 既存のQIPを拡張(既存の製造ラインの拡張、既存の製造ライン内に新ブランド商品の追加、生産性の向上または環境の保護の目的の新規テクノロジーの導入、通信サービスのためのインフラの拡大:拡張型QIP)する場合でも、一定の要件を満たせば免税を受けることができる(2019年2月13日付、2005年9月27日付改正投資法の実施についての閣僚評議会令111号第15条修正についての閣僚評議会令第33号)。
- QIPが法人税免税を認められるには、年度ごとの「義務履行証明書(Certificate of Obligation Satisfaction)」を取得しなければならない。
- 法人税の免税期間後においては、QIPは税法に定める税率に従って法人税を支払わなければならない。
- 特別償却(選択制)は、最長9年間、特定費用について最大200%の控除を受ける権利がある。
- 生産設備および建設材料などの免税輸入制度(表2参照)。
- 指定された特別奨励区(Special Promotion Zone:SPZ)または輸出加工区(Export Processing Zone:EPZ)に立地するQIPは、他のQIPに対するのと同様の優遇措置および特典を受けることができる。
- QIPは、別途法令により異なる定めがなされる場合を除き、輸出税を100%免税される。
- CDC(カンボジア開発評議会)または州・特別市投資小委員会(Sub-Committee on Investment of the Provinces-Municipalities:PMIS)の認可を受けた場合には、QIPの権利・特典を、QIPを取得または吸収した者に移転ないしは譲渡することができる。
新投資法により付加された投資優遇措置
前述の優遇措置に加え、新投資法は、次の優遇措置を付加するとしている。
- 法人税免税制度(選択制)に関し、タックス・ホリデーの期間満了後も、6年間、事業所得税の一部が免税となる(最初の2年間は75%、続く2年間は50%、最後の2年間は25%)。
- 追加的優遇措置として、次の措置を受けることができる。
- カンボジア国内で生産された生産財についてVATの免除
- 次の活動は課税標準額から150%控除できる
- 研究、開発およびイノベーション
- カンボジアの労働者・従業員への職業訓練や技能の提供を通じた人材育成
- 労働者・従業員のための宿泊施設、合理的な値段で食事の提供を行う食事場所・食堂、保育所およびその他の施設の建設
- 生産ラインのための機械のアップグレード
- 労働者が住居から工場まで移動するための快適な交通手段、宿泊施設、合理的な値段で食事の提供を行う食事場所・食堂、保育所およびその他の施設など、カンボジア人労働者・従業員に対する福利厚生の提供
- 拡張型QIPについて、政令が定める事業所得税の免除
- 特別優遇措置として、国家の経済発展に貢献する可能性の高い特定の分野や投資活動について、財政法が定めるその他の優遇措置
QIPの種類 | 免税輸入可能な物資 |
---|---|
国内志向型QIP(Domestically oriented QIPs) | 生産設備、建設資材および機器 |
輸出志向型QIP(Export oriented QIPs) (製造保税倉庫制度を選択するか、既に選択しているものを除く) |
生産設備、建設資材および機器、生産財(原材料、中間財、副資材) |
裾野産業QIPs(Supporting Industry QIPs) | 生産設備、建設資材、建設機器および生産財(原材料、中間財、副資材)。ただし裾野産業QIPが製品を100%輸出企業に提供しなかった場合や直接輸出しなかった場合においては、その部分について輸入関税およびその他の税金を支払うことを要する。 |
特定分野に対する投資優遇措置
投資法のQIPに対する投資優遇措置の規程にかかわらず、特定の産業を対象にした、あるいは追加的な投資優遇措置が、省令や他の規程の形で導入されている。
- 種子、繁殖種、残渣、トラクターなどの農業用機器など、農業用原材料や機器を対象として、輸入関税の減免やVTAの政府負担制度(VATの免税)が導入されている(Prakas No.390 (MEF) on Adjustment to Customs Duty and Imposition of VAT borne by the State)。
- 農業や農産加工分野におけるQIPでは、法人税免税制度(タックス・ホリデー)において3年間の優先期間(Priority Period)が認められる(Royal Kram NS/RKM/0609/009 on Promulgation of the Law on the Adjustment to the Law on Financial Management for the Year 2009 of June 20, 2009)。
- 縫製業における輸入生産資機材は、最終製品が輸出される場合においては、VATが免除される(The Letter No.110 SCN.CS of the Council of Ministers of January 27, 1999)。
- 縫製製品・繊維製品・履物・キャリーバック・ハンドバックまたは帽子の輸出を支援する裾野産業においては、輸入生産資機材に対するVATは政府の負担とされる。またそれら製品の輸出のために提供される裾野産業やコントラクターの製品・サービスおいても、VATは免除対象となっている(Prakas No.311 (MEF) on Implementation of Value-Added Tax (VAT) for Supporting Industry or Contractor that Supplies Goods or Service for Serving the Export of the Garment Industry, Textile Industry, Footwear Industry, Carry-Bag and Handbag Industry and Hat Industry. March 19, 2014)。
その他
投資法は、外国直接投資について投資保障を規定している。日系企業に関しては、投資法による投資保障に加え、日本とカンボジアの間で2008年7月に「投資の自由化、促進及び保護に関する協定(Agreement Between Japan and the Kingdom of Cambodia for the Liberalization, Promotion and Protection of Investment)」が発効している。
投資法は、次のとおり投資保障を規定している。
- 外国投資家は、土地所有権を除き、投資家が外国人であることのみを理由にした差別的な扱いは受けない。
- カンボジア政府は、カンボジアにおける民間投資家の資産に悪影響を及ぼす国有化政策は実施しない。
- カンボジア政府は、QIPの製品価格やサービス料金に対し統制を行うことはない。
- カンボジア政府は、投資家が銀行を通じて外貨を購入し、次の目的のためにその外貨を海外へ送金することを許可する。
- 輸入品の代金、もしくは国際的な借入に対する元金・利息の支払い
- ロイヤルティー、および管理費用の支払い
- 利益の送金
- 投資資本の本国送金
日本・外務省:「投資の自由化、促進及び保護に関する協定」