技術・工業および知的財産権供与に関わる制度

最終更新日:2023年08月31日

技術・工業および知的財産権供与に関わる制度

政府が知財権に関する法制整備に努力していることもあり、知財権保護に関するカンボジアの法制度は大きな進歩を遂げた。マドリッド協定への加盟、日本や欧州との特許に関する覚書といった形で、最近は知財制度の国際化にも取り組んでいる。外国の著作物については、従来保護が及ぶ範囲は極めて限定的であったが、2020年にベルン条約を批准し、外国著作物にも広く保護が及ぶこととなった。

知的財産権

知的財産権(知財権)の保護に関する法制度

カンボジアは1995年に「世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO)」の加盟国となり、1998年にはパリ条約に加盟しているが、知財権保護に関する法的枠組みは、長期間にわたって十分ではなかった。しかしながら今世紀に入ると、カンボジア政府は知財権に関する一連の法制整備を重ねており、知財権保護に関する法制度は大きな進歩を遂げるとともに、WTO加盟時の義務履行も果たしつつある。これまでに制定された知財保護に関する主な法律・規則には、次のものがある。

  1. 2002年2月7日「標章、商標、不正競争行為に関する法律PDFファイル(308KB)Law on Marks, Trade Names and Acts of Unfair Competition)」(ジェトロ仮訳)
  2. 2003年1月2日「著作権及び関連する権利に関する法律(Law on the Copyright and Related RightsPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(328KB))」(カンボジア投資委員会ウェブサイト)
  3. 2003年3月5日「特許、実用新案、工業に関するデザイン法(Law on the Patents, Utility Model Certificates and Industrial DesignsPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(477KB))」(WIPOウェブサイト、後述2017年11月22日付け改正未反映)
  4. 2008年5月13日「種子管理及び植物育種者権利法(LAW ON SEED MANAGEMENT AND PLANT BREEDER'S RIGHTSPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(75KB))」(商業省ウェブサイト)
  5. 2011年3月16日「IC配列設計の登録に関する政令(The Prakas on Registration of a Layout Design of Integrated Circuits)」
  6. 2014年1月20日「地理的表示法(Law on Geographical IndicationsPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(173KB))」(商業省ウェブサイト)

さらにカンボジア政府は、次のような法律の制定に向けて努力している。

  • 「非公開情報と取引機密の保護に関する法律(Law on the Protection of Undisclosed Information and Trade Secret)」

なお、2017年11月22日付けで、前述の特許、実用新案、工業に関するデザイン法の第37条、第38条、第109条および第139条が改正された(Amendment of Law on Patents, Utility Models and Industrial Designs)。改正点は、主として、海外で登録された特許・工業デザインの有効性の確認と、医薬品が特許保護の対象から除外される権利放棄期間の延長についてである。

参考:
世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
特許庁:パリ条約外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

商標および名称 (Trade Marks and Names

2002年の「標章、商標、不正競争行為に関する法律(Law on Marks, Trade Names and Acts of Unfair Competition)」は、知財権を保護するカンボジアで初めての法律である。同法によれば、商標に対する排他的権利は登録によって取得できる(第3条)。また、商標登録の優先権は、申請者またはその前権限者がパリ条約に加盟するいずれかの国で、既に国内・地域的な申請を行っている旨の宣言書を登録申請書に添付することにより認められる、と規定される。優先権が付される期間は、パリ条約に従って最初の出願から6カ月間である(第6条)。また同法は、登録手続き、無効および除去、集団的な商標、商標・名称のライセンス供与、権利侵害と救済、国境条項、所有権譲渡・変更などについても規定している。

なお、カンボジアの登録商標は、他国と同様WIPO:Global Brand Database外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますおよびカンボジア商業省知的財産局:Cambodia Trademark Database外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで検索・確認できる。

カンボジアの商標法は、国内使用のみに関する認定を行うため、輸入や国内流通に関する権利保有者の排他的権利は保護され、また委任状や流通契約によって排他的流通業者を指定することもできる。具体的には、2021年6月25日商業省令117号により、登録商標に基づくカンボジア国内での排他的輸入・販売についての権利および商業省による承認手続きの詳細が定められ(商業省令2016年186号を廃止・変更)、また、2020年1月13日商業省令36号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(4MB)により、流通業者やライセンシーによる登録手続きが明確化されている。省令117号に基づき認められる法的地位としては、カンボジア居住者であり商標登録を自ら有する者による排他的輸入・販売権の登録(排他的権利証明書)、および商標登録者から権限を付与されたカンボジア法人の排他的輸入・販売権の登録(排他的権利記録書)の二つがある。中古品、人間・動物の医薬品、肥料と農薬および法令で規制されている物は登録不可とされている。排他的権利証明書・排他的権利記録書の有効期間は2年間である(更新可能)。登録権利者は並行輸入販売の水際での差止めなどの権利行使が可能になるが、非商業目的かつ公共目的の輸入、個人使用目的での輸入、輸出目的での輸入などは権利行使の対象外である。

著作権(Copyright

2003年の「著作権及び関連する権利に関する法律(Law on the Copyright and Related Rights)」は、文化的な製作物の適正かつ正しい利用を保証するために、著者および演奏者に著作物に関する権利を与えることによって、文学、文化的演技の著作、演技者、音楽制作者の業績や放送機関を通じた放送内容などを保護することを目的にしている(第1条)。同法により保護される製作物は、次のとおりである(第3条)。

  1. カンボジア国民でカンボジアに定住する著者の作品
  2. カンボジアで最初に出版される作品(海外で最初に出版され、その後30日以内にカンボジアで出版される作品を含む)
  3. 主たる事務所や定住する住居をカンボジアに有する製作者による視聴覚作品
  4. カンボジアで建設された建築物およびカンボジアに所在する建築物などに付属する、その他の芸術品
  5. 国際条約により、カンボジアが保護する義務を有することが定められている作品

外国の著作物について、前述3の条件が厳しく、保護が及ぶ範囲は極めて限定的であった。しかし、カンボジア政府は2020年6月にベルン条約を批准し、2022年3月9日から発効したため、前述5に基づいて外国著作物にも広く保護が及ぶこととなった。

なお、次のような対象物も、同法によって保護されている(第7条)。

  1. すべての書籍およびその他の文学的、芸術的、科学的、教育的文書
  2. 講演、演説、説教、口頭または書面による弁論、および同質の特徴を有するその他作品
  3. 演劇およびミュージカル
  4. 言語を含むと含まないとにかかわらず、すべての作曲作品
  5. 視聴覚的作品
  6. 絵画、彫刻、およびその他のコラージュ
  7. 写真および建築物
  8. コンピュータ・プログラム、およびプログラムに関連する設計図書など

著者はその作品に関し、すべての人に対抗することができる排他的権利を有しており、その権利には倫理的権利、経済的権利が含まれる(第18条)。著者の倫理的権利は永久的なものであって譲渡することはできず、差し押さえることもできないし、時効にもかからない(第19条)。
著者の経済的権利は、複製の許諾、公衆への伝播、派生作品の製作などを通じて自身の作品を使用することができる排他的権利である(第21条)。経済的権利の保護は、作品制作の日に始まり、著者の死後50年間存続する(第30条)。
経済的な紛争が生じた場合の法の適用を容易にし、著作権の証拠とするために、著者または著作権者は、文化・芸術省にその作品を供託したり登録することができる。登録した場合、文化・芸術省は登録証明書を発行する(第38、39および40条)。
著作者や著作権者は、自らの権利を守って運用するため、文化・芸術省の許可を受けて集団的運用機構を設立することができる(第56条)。

特許、実用新案および工業意匠

「特許、実用新案、工業に関するデザイン法(Law on the Patents, Utility Model Certificates and Industrial Designs)」は2003年1月22日に制定され、カンボジアにおける許諾済み特許、実用新案および工業デザインに対する保護を与えている(第1条)。同法の目的は次のとおりである(第2条)。

  1. 革新、および科学的・技術的調査・開発を奨励する。
  2. 国内外における商業と投資の増大を刺激し、促進する。
  3. 製造活動と経済開発を促進するため、カンボジアへの技術移転を奨励する。
  4. 工業所有権を保護し、権利侵害や違法な商行為に対抗する。

特許(Patents

「特許」とは発明を保護するために与えられる権利を指し、「発明」とは技術的分野における科学的問題に対する解決方法を提供する発明者のアイデアを言う。「発明」は製品・方法、ないしはそれらに関連するものである(第4条)。「発明」は、それが新しく、画期的な段階を経るものであり、工業的に応用可能な場合においては、「特許」が許諾される(第5条)。
「特許」に対する権利は発明者に帰属し(第10条)、特許申請は工業担当省(工業科学技術革新省:Ministry of Industry, Science, Technology, and Innovation)に対して行う。その際、申請料の支払いが必要である(第16条)。
登録官が「特許」を許諾した場合には、次のような手続きがとられる(第39条)。

  1. 特許許諾情報を出版する。
  2. 申請者に対し、特許許諾証明書および特許コピーを発行する。
  3. 特許を記録する。
  4. 公衆に対し、特許コピーを提供する。

特許は申請登録の日から20年後に失効し、特許や特許申請を保持するには、毎年前払いにより、登録官に年間費用を支払う必要がある(第45条および46条)。

実用新案証明(Utility Model Certificates

  1. 実用新案証明は、新規で工業的に応用可能であり、かつ製品・方法もしくはそれらに関連する実用新案の保護のために供与される(第69条)。
  2. 実用新案証明は、申請登録の日から7年目の年末に失効し、更新はできない(第73条)。
  3. 特許の許諾ないしは拒絶以前においては、1回に限り、特許申請者はいつでもその申請を実用新案証明への申請に変更可能であり、またその逆も可能である(第75条および76条)。

工業意匠(Industrial Design

工業製品や手工芸品に特別な外観を与えるものについては、線・色・三次元形状のどのような組み合わせや材質であっても工業意匠とみなされ(第89条)、それが新しい場合には登録することができる(第91条)。
登録申請日または先願日以前の12カ月間に、世界のどこでも未だ公衆に対して公開されていない場合、「新規」であるとみなされる(第92条)。
工業意匠の登録申請は工業手工芸省で行い、申請料の支払いが必要である(第95条)。登録所有者以外の人間による、登録工業意匠による物品のカンボジアでの製造・販売・輸入には、登録所有者の合意が必要である(第105条および106条)。工業意匠の登録は登録申請日から5年間有効であり、さらに5年間ずつ2回にわたり更新可能である(第109条)。

国際的協定等

標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書への加盟

2015年3月5日、カンボジアは、標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書に加盟した。「マドリッド協定議定書(正式名称:標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書)」は、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局が管理する国際登録簿に商標を国際登録することにより、指定締約国においてその商標の保護を確保できるとする条約である。カンボジアの商標所有者は、カンボジアで登録をすることにより、議定書加盟国115カ国においてその商標が保護されることとなる。

参考:
特許庁:マドリッド協定議定書の概要外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
WIPO:Members of the Madrid Union外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

特許取得を容易にするための、日本の特許庁との覚書

2016年5月9日、日本の特許庁はカンボジア工業手工芸省(現工業科学技術革新省)との間で、カンボジアにおける特許の取得を容易にするための協力を開始するための覚書に署名したと発表した。
カンボジアに出願された300件以上の日本からの特許出願のうち、かつてはほぼすべてが未着手状態となっていたことを受け、特許庁はカンボジア工業手工芸省との間で、特許取得を容易にするため、協議を行ってきた。特許の付与円滑化に関する協力(Cooperation for facilitating Patent Grant:CPG)で両者は合意し、日本で審査を経て特許となった出願がカンボジアで行われた場合、実質的に無審査でカンボジアでも特許が付与されることとなった。
なおカンボジアは、同様の覚書をシンガポール知的財産権庁(IPOS)とも調印しており、2016年7月25日に発効している。

参考:
経済産業省:「特許の付与円滑化に関する協力(CPG)について外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
IPOS:GUIDE TO RE-REGISTER A SINGAPORE PATENT IN CAMBODIAPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(228KB)

欧州特許庁との協定

2017年1月23日、欧州特許庁(European Patent Office)はカンボジア政府との協定に調印し、カンボジアがアジアで初めての有効性承認国(Validation States)となったと発表した。本協定により、欧州特許庁が認めている特許はカンボジア国内においても保護される。なおカンボジア側は医薬品については、ジェネリック医薬品に対する配慮から、本協定の適用除外にするとしている。

参考:Cambodia first Asian country to recognise European patents on its territory外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(EPO)

その他

投資法により、ロイヤルティー支払いのための外貨購入および外貨の外国への送金については、明確に認められている。ただし、カンボジア非居住者へのロイヤルティーの支払には14%の源泉徴収税が課されることに、留意が必要である。