北米バッテリーショー2025、「脱中国」に向けた課題鮮明に
(米国、中国)
ニューヨーク発
2025年10月21日
北米バッテリーショー2025が米国ミシガン州デトロイト市内のハンチントンプレイスで、10月6~9日に開催された。主催は世界最大のBtoBイベント主催企業のインフォルマ・マーケッツで、展示会には1,300社以上が出展した。加えて、ゼネラルモーターズ(GM)をはじめとした民間企業や調査機関関係者、技術者など150人以上の登壇者による複数のセミナーも行われ、電気自動車(EV)、バッテリーの市場トレンドや製造上の課題、連邦政府による貿易・産業政策の影響など、幅広いテーマが議論された。
ジェトロは同展示会への視察ミッションを実施した(2025年10月16日記事参照)。
パネルディスカッションの1コマ。EVの成長鈍化に伴い、EES(定置型バッテリー)への生産転嫁についても議論された(ジェトロ撮影)
多岐にわたる議論の中で一貫していたのは、「中国依存から脱却」をいかに進めるかという問題意識だ。「重要鉱物の貿易政策」をテーマにしたパネルでは、登壇者が「中国は少なくとも10年、米国の先を行っている。米国はまだ競争の土俵にすら立てていない」と発言した。現在主流の三元系バッテリー(NMC、注1)だけではなく、比較的低価格で多くの車種への採用が進むリン酸鉄リチウムイオンバッテリー(LFP)の材料でも、中国が世界の主な供給源になっている。また、負極材に使われる黒鉛の約9割が中国産で、「2026年以降に25%の関税(注2)が追加されたとしても、米国には精製能力がほとんどない(ため、中国から調達せざるを得ない)」との指摘もあった。こうした実態を踏まえ、主要原料の多くが中国起点の供給網に結びついている状態は今後もしばらく続くとの見方が共有された。
こうした構造的依存は生産工程にも表れている。中国政府による輸出管理強化を巡っては、登壇者から「中国製の装置を輸入予定だったが、規制強化のため、欧州からの調達に切り替える必要があった。それにより生産コストが5割も上昇した」との証言があり、これが「米国の生産拠点整備が想定以上に遅れている要因」とも指摘された。別の登壇者は「米国には採掘と電池セルの生産工場はあるが、中間工程が欠けている」と述べ、国内の精製・前駆体製造の空洞を「最大のボトルネック」と表現した。
また、中国の輸出規制により「中国企業がインドネシアやモロッコに移転し、『非中国』として対米供給を続けている」との指摘もあり、名目上の「脱中国」が進んでいるようにみえても、実質的な中国依存が残る構図が浮き彫りとなった。リサイクル面でも課題は深刻で、登壇者は「米国で発生する廃電池粉末は全てアジアに送られている」とし、国内再資源化の遅れを強調して「国内循環の確立が急務だ」と訴えた。人材や教育の点でも、中国に後れを取っているとの指摘も相次ぎ、「十数年かけて中国が構築してきたシステムを米国が短期間で再現するのは容易ではない」と懸念する声も聞かれた。
「市場トレンド」のセッションでは、ブルームバーグNEFのバッテリー技術・テクノロジー部門代表は、9月30日に発動したEV税控除撤廃(2025年7月15日記事参照)などの影響を踏まえ、2030年時点のEV販売比率の見通しを全米自動車販売台数の50%から25%に下方修正したことを明らかにした。複数の登壇者が関税・補助金の揺れも投資判断を難しくしているとし、投資家が再び信頼を寄せられるような長期的で一貫した産業政策の必要性を訴えた。
(注1)正極材にニッケル、マンガン、コバルトを使用。
(注2)1974年通商法301条に基づき、2026年1月1日から、中国から輸入される天然黒鉛に25%の追加関税が賦課される。
(大原典子)
(米国、中国)
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