トランプ米政権、輸出管理の適用範囲を拡大、EL掲載企業の子会社なども対象に

(米国)

ニューヨーク発

2025年09月30日

米国商務省産業安全保障局(BIS)は9月29日、輸出管理規則(EAR)の適用範囲を拡大する暫定最終規則(IFR)を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、同日から施行した。この規則改正により、EARのエンティティー・リスト(EL)に掲載される事業体に加えて、新たにEL掲載事業体が50%以上所有する事業体もEARの適用対象となる。

ELは、米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する行為に携わっている、またはその恐れがあると米国政府が判断した企業や個人を掲載したリストで、9月29日時点でロシアや中国を中心に3,392の事業体が掲載されている。これらの事業体に対し、EAR対象品目の米国製品を輸出・再輸出・みなし輸出する場合には、BISの輸出許可(ライセンス)が必要となる。BISは、ライセンス申請の審査方針を「不許可」または「原則不許可」とすることが多いことから、実質的に輸出が禁止されるケースも少なくない。このため、ELは輸出管理におけるいわゆる「ブラックリスト」として位置付けられている。

これまで、EL掲載事業体の子会社などに輸出などする場合には、EL掲載事業体と法的に独立した別個の存在として、原則、ライセンス要件は適用されなかった(注1)。しかし、ジェフリー・ケスラー商務次官(産業安全保障担当)が2025年6月の連邦議会公聴会で、この状況を「規制回避を容易にする抜け穴」と指摘するなど、トランプ政権は規則改正に意欲を示していた(2025年8月6日付地域・分析レポート参照)。

今回の改正で、BISは新たに「関連事業体ルール(affiliates rule)」を導入し、(1)EL、(2)軍事エンドユーザーリスト(MEUリスト、注2)、(3)特別指定国民リスト(SDNリスト、注3)に掲載される一部の事業体が50%以上所有する事業体に、EARの適用範囲を拡大する。BISはこのルールの導入により、規制回避防止を図るとともに、EL追加に伴う行政負担を軽減し、EARの適用範囲を効果的に広げられると説明している。

BISはEAR関連リストとして、未検証者リスト(UVL)や取引禁止リスト(DPL)も管理しているが、現時点でこれらのリストに記載される事業体には、同ルールは適用されない。なお、BISは今回の改正に関するパブリックコメントを30日間受け付ける(注4)

EARは、米国からの輸出だけでなく、日本からの輸出に際しても、米国製の技術やソフトウエアを使用した製品や、米国製品を一定割合以上組み込んだ製品の場合には、域外適用される可能性がある。今回の改正により、日本企業はEAR対象品目の輸出などに当たり、取引相手がELに掲載されていないかだけでなく、EL掲載企業に50%以上所有されていないかも慎重に確認する必要が生じる。

(注1)ただし、EL掲載事業体の子会社などが別途ELに掲載されている場合を除く。さらに、エンドユーザーがEL掲載事業体であること、またはその可能性を認識しながらBISの許可なく輸出などを行った場合には、EAR違反となる(EAR一般禁止事項10)。

(注2)米国製品を軍事転用する恐れがある事業体のリスト。それらに米国製品を輸出などする場合はBISのライセンスが必要となるが、原則不許可となる。

(注3)財務省が管理する金融制裁対象者のリスト。SDN掲載者には、在米資産の凍結や、米国人との資金・物品・サービスの取引禁止が科される。今回、SDN掲載者のうち、EARの744条8(a)(1)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで列記される事業体にもEARの適用範囲が拡大された。

(注4)連邦政府の規則改定ポータルサイト(www.regulations.gov)から提出可能。案件番号はBIS-2025-0017。

(葛西泰介)

(米国)

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