米シンクタンク、米中通商関係を展望、中国に過剰生産能力への対応求める可能性など指摘
(米国、中国)
ニューヨーク発
2025年04月30日
米国による対中追加関税の賦課に対し、中国も報復関税を賦課するなど、2025年2月以降の米中通商関係は「貿易戦争」の様相を呈している。米国シンクタンクのピーターソン国際経済研究所(PIIE)の公表データによると、4月現在の米国の対中追加関税の平均関税率(貿易加重平均)は124.1%(注)、中国の対米追加関税の平均関税率は147.6%に達する。こうした状況下、首都ワシントンのシンクタンクは相次いで、米中通商関係を展望する解説記事を発表しているほか、イベントなどを実施している。
ブルッキングス研究所の上席研究員ライアン・ハース氏は4月25日付「タイム」誌電子版の記事で、ドナルド・トランプ大統領やスコット・ベッセント財務長官の最近の発言内容から、緊張緩和の可能性を指摘した。一方で、米国は2026年に中間選挙を控えるのに対し、中国指導部の政治体制は堅固などとして、「北京は時間が味方と考えており、交渉に慎重な姿勢を示すだろう。中国の勝利と言える内容でなければ合意しないだろう」と述べ、交渉で米国側が譲歩をより迫られるとの見通しを示した。合意内容としては、中国の過剰生産能力の影響の軽減に向けた中国側の国内需要拡大への取り組みや、米国側による中国企業の対米投資受け入れなどを挙げた。また、合意形成の目安の時期は、両首脳が参加予定の2025年11月のAPEC首脳会談(韓国)を示した。
ワシントン国際貿易協会(WITA)とアジア・ソサエティ政策研究所(ASPI)は4月22日に、米中合意の展望に関するウェビナーを開催した。このウェビナーで、第1次トランプ政権で米国通商代表部(USTR)次席代表を務めたジェフリー・ゲリッシュ氏は、政権が現在の関税の高水準は長期的に持続不可能だと認識していると指摘しつつ、中国との交渉を急いでおらず、むしろ90日間の相互関税の適用停止(2025年4月11日記事参照)の期間中に各国との交渉に注力していると説明した。これら各国との交渉では、互恵的貿易関係の構築のほか、対中政策で米国と各国の連携を深めることにより、中国の孤立を深めることも目的にあると述べた。これら各国との交渉結果次第では、将来的な中国との交渉場面で米国に有利な合意を引き出すレバレッジを得ることができると説明した。将来的な合意内容については、米国は中国の過剰生産能力問題の影響緩和に向け、中国に自主的な輸出制限措置を促す可能性を挙げた。また「ウォールストリート・ジャーナル」紙記者のリンリン・ウェイ氏は、中国は米国の対中追加関税の撤廃に加えて、対中輸出管理の緩和を求める可能性を挙げた。
(注)随時更新されており、本稿で引用した数値は4月12日更新版に基づく。なお、米国は中国原産品に対して、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく対中追加関税(145%)などを賦課している。ただし、スマートフォンなど米国の対中輸入額の大きい一部品目に対する適用除外措置が設けられていることなどから、加重平均することでIEEPA対中追加関税145%などと比べて小さい数値になっていると想定される。
(葛西泰介)
(米国、中国)
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