2023年度歳出計画、大統領の重点福祉政策が全体の10%超に

(メキシコ)

メキシコ発

2022年09月14日

メキシコ大蔵公債省が98日に国会に提出した2023年度(暦年)歳出計画によると、2023年の歳出(一般会計)は経常的経費が前年比実質5.8%増、年金経費が8.4%増、投資的経費が15.6%増、全体では8.2%の増加となる(添付資料表1参照)。大蔵公債省の98日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、社会開発分野の歳出が実質9.1%増、経済開発分野の歳出が6.0%増となっている。特にアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が重視する総合福祉政策の予算が拡充され、社会保護分野のプログラム予算(高齢者年金、奨学金、農村支援など)が12.7%増加している。

省庁別の予算(添付資料表2参照)をみると、福祉省(前年比30.0%増)、観光省(2.1倍)、環境天然資源省(76.6%増)などの予算増額が目立つ。総合福祉政策をつかさどる福祉省の予算はAMLO政権下で年々拡大し、連邦省庁では公共教育省を上回る予算規模に達している。観光省予算〔1,456億ペソ(約1483億円、1ペソ=約7.2円)〕全体の98.3%は、観光省傘下の国家観光振興基金(FONATUR)によるマヤ観光鉄道(2020116202161日記事参照)の建設予算で、観光プロモーションが強化されるわけではない。AMLO大統領が重視する年金や補助金支給を中心とする総合福祉プログラムを合計すると、2023年は5,958億ペソに達し、歳出全体の11.4%を占める。その中でも、現時点で65歳以上の高齢者に支給されている一律年金(2ヵ月ごとに2,550ペソ)の予算が実質34.3%拡充されて3,355億ペソに達し、歳出予算(一般会計)全体の6.4%に及ぶ。同年金プログラムは、所得水準や他の年金制度の加入状況にかかわらず、全ての高齢者に一律で支給されるため、福祉予算の無駄遣いとの指摘もある。

インフラ投資も大統領の肝いりプロジェクトが中心

2023年の歳出予算では、投資的経費が前年比15.6%増、うち実物投資が21.7%増加する。AMLO政権下で進められていた4大インフラプロジェクトのうち、サンタルシア空軍基地の拡張(フェリペ・アンヘレス国際空港、2022年3月23日記事参照)やドスボカス新製油所建設(2018年12月132019年6月10日記事参照)はおおむね2022年内に建設工事が完了する予定だ。他方、マヤ観光鉄道(2020年5月25日記事参照)やテワンテペック地峡開発(2022年7月14日記事参照)については進展が遅れている。マヤ観光鉄道は、ユカタン半島の環境破壊につながるとして複数の環境保護団体や地域住民団体が建設差し止めを求めて提訴したこともあり、AMLO政権が当初想定していた進展をみせていない。2023年度の同鉄道建設予算は実物投資予算の13.0%に相当する1,431億ペソに達している。AMLO大統領の任期満了(20249月末)までには、同観光鉄道の操業を開始させたい意向だ。投資予算の中では、ヌエボレオン州など一部の地域で深刻な水不足に対処するため、環境天然資源省傘下の国家水資源庁(CONAGUA)の治水工事予算が大きく拡充されている。

他方、通商産業政策や企業向け支援を担当する経済省の予算は、前年比で実質わずか0.4%増の377,811万ペソにとどまっている。特に、「国際通商・貿易円滑化」向け予算は66,123万ペソとなり、前年度予算に比べて名目で3.1%、実質で7.6%減少している。AMLO政権のエネルギー政策をめぐり、米国やカナダが米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の枠組みで紛争解決プロセスに着手している中(2022年7月217月22記事参照)、同プロセスに対処する経済省の予算が削られることに懸念を表明する声もある(「レフォルマ」紙99日)。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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