変化するアジア・大洋州の消費市場湖池屋ベトナム、味と販売戦略をローカライズ
2025年7月16日
湖池屋は、主力商品のスナック菓子「カラムーチョ」を中核に据え、海外の消費市場で展開を進めている。台湾やタイ、ベルギーで生産委託をしているが、ベトナムには海外で唯一の自社工場を設け、現地市場開拓と輸出拡大を進めている。
ベトナムでの事業内容や販売戦略、同国市場の特徴などについて、現地法人(Koikeya Vietnam)の会長で、生産を統括する石井直二氏に聞いた(取材日:2025年2月21日)。
- 質問:
- ベトナムでの事業内容は。
- 答え:
- 湖池屋はベトナムでの市場獲得を目指し、2016年3月にベトナム現地法人を設立した。商都ホーチミン市に隣接するドンナイ省のロンドゥック工業団地には、当社にとって海外初となる自社工場を建設し、2017年9月に正式稼働した。同年10月からは、「KARAMUCHO(カラムーチョ)」の販売を開始した。その後、2018年10月には低年齢層をターゲットにしたコーンスナック商品「KOIMUCHO(コイムーチョ)」、2022年3月にはジャガイモの素材の味を生かした「GOKOCHI(じゃがいも心地)」を販売し始めた。スナック市場が未成熟なローカル市場で、当社は大手小売りチェーンから個人商店までマス層をターゲットにした事業展開を進めている。
- 質問:
- ベトナム工場からの輸出状況は。
- 答え:
- 現在、輸出が仕向け地の拡大に従って年々増加しており、近年では月によって売り上げの約半分を占めることもある。
- 当初は、ベトナム国内向けの生産だけだった。しかし、2019年3月に国際基準の食品安全マネジメント認証「ISO 22000」を取得したことで、同年10月から輸出販売を開始した。現在では、海外での基幹工場として、隣国タイをはじめ、米国、日本、欧州へ輸出している。ベトナム工場は生産委託でなく自社製造のため、柔軟な対応が可能で、競争力を発揮しやすい。
- 質問:
- ベトナムの消費市場の特徴は。
- 答え:
- ベトナムの商圏は南北に分かれるほか、都市部と地方部でも消費傾向に違いがある。
- 販売チャネル別では、トラディショナルトレード(TT)が約8割を占め、モダントレード(MT)は約2割にとどまる。TTをカバーするには、多くの営業スタッフがバイクで個人商店を訪問して商品を売り込むなど、地道な営業活動が不可欠だ。MTに該当するスーパーマーケットやコンビニでは、店舗ごとの裁量が大きい印象だ。店舗によって取り扱う商品の種類や量に差があるため、きめ細やかな店舗ごとのフォローアップが求められる。TTでは小容量の商品が好まれるのに対し、MTでは大きいサイズが求められる傾向にある。最近ではコンビニでは大容量(パーティーサイズ)の売り上げが伸びている。
- このような複雑さはあるものの、ベトナムのスナック菓子市場は、ポテトチップスもコーンスナックもともに成長している点が魅力だ。市場規模はタイの方が大きいが、成長率を考慮すると、今後の拡大余地はベトナムで大きく期待が高まっている。消費者の購買力が向上し、単価の高いポテトチップスの需要も伸びている。
- 質問:
- ベトナムの消費者〔嗜好(しこう)〕の特徴は。
- 答え:
- ベトナム市場では、スナック菓子の辛味や塩味を抑える方向で味を調整してきた。例えば「カラムーチョ」は当初、隣国タイと同じレベルの辛さで販売を開始した。しかし、辛過ぎるという消費者の声が多く、辛味をマイルドに調整した。
- また、ベトナム人は塩辛いのを好まない傾向があり、日本向け製品と比較して全体的に塩味を抑えている。例えば、「じゃがいも心地」は味をローカライズし、うまみの強い塩味を中心に商品展開している。
- ベトナムでの売れ筋商品は「カラムーチョ」のポテトチップス、「コイムーチョ」のコーンミルク味(コーンポタージュ味)だ。新商品の開発も継続的に進めており、ポテトとコーンでそれぞれ毎年1~3種類ずつ新商品を市場に投入している。なお、過去に販売した「カラムーチョ」のカレー味は、ベトナムではあまり受け入れられなかった。
- 質問:
- ベトナムでの販売戦略は。
- 答え:
- 日本企業であることと、日本品質を前面に打ち出すため、進出当初は全ての商品パッケージにドラえもんのキャラクターを採用した。その後、「カラムーチョ」は、辛味の強い商品イメージとキャラクターが合わないという判断から、湖池屋のオリジナルキャラクターに切り替えた。一方、子供を主なターゲットとする「コイムーチョ」は、引き続きドラえもんのキャラクターを活用している。
- 販売促進に向けては、フェイスブックやティックトックなどのSNSを積極的に活用している。また、ホーチミン市やその周辺では、小学校や中学校の構内で試食・販売イベントを実施している。学校の売店や食堂などでも販売し、子供たちの間で高い人気を得ている。
- 質問:
- 今後の展望は。
- 答え:
- ベトナムのスナック菓子市場は、競合のOishi、オリオン、レイズの3社がシェア9割ほどを占める。その中で、湖池屋のシェアはまだ大きくないが、売り上げは年々増加し、シェアも着実に拡大している。特にホーチミン市内のスーパーマーケットでのシェアは2桁に達するまでに成長している。今後は、工場の立地や営業体制が整っているベトナム南部を中心に地盤を固め、他地域への拡大を図る方針だ。
- また、プライベートブランド向けのスナック菓子など、OEM受注にも対応し、今後の需要拡大が期待される。輸出では、既存輸出先の販路拡大の余地が大きい。特に北米や欧州では現在の販売店舗が限られていることから、さらに拡大する可能性がある。
- 生産体制は、現時点でポテトチップスは2シフト、コーンは1シフトで稼働しているが、それぞれ1シフトずつ増やし、生産能力の拡大を計画している。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
庄 浩充(しょう ひろみつ) - 2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)、広報課、ジェトロ・ハノイ事務所(ベトナム)を経て現職。