地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向トルコ物流関係者に聞く
紅海危機に関する物流の最新動向(2)

2024年10月1日

2023年10月にハマスとイスラエルの武力衝突が発生して以降、イエメンの武装組織フーシ派による紅海での船舶攻撃が多発し、世界の物流状況に打撃を与えていることを受けて、日系企業へのインタビュー(「紅海危機に関する物流の最新動向(1)在トルコ日系企業に聞く」参照)に続き、トルコの企業の視点を聞くべく、在トルコの物流会社カーゴ・パートナー・トルコ社の社長、キュルシャッド・タンルヴェルディ氏に、トルコと同国を取り巻く物流状況について、実際の現場の声を聞いた(取材日:2024年7月17日)。


社長のキュルシャッド・タンルヴェルディ氏
(ジェトロ撮影)

カーゴ・パートナー・トルコ社のロゴ
(ジェトロ撮影)
質問:
会社概要、事業内容について。
答え:
わが社はニッポン・エクスプレス・ヨーロッパ(NX欧州)の100%子会社だが、独自ビジネスでトルコ国内外の市場を取り扱っており、地理的な優位性を利用して、欧州を中心に国際輸送をはじめ、世界に向けて物流サービスを提供している。トルコ国内には8県に9カ所の事務所があり、イスタンブールには、イスタンブール国際空港の近接地と、ニッポン・エクスプレスのある旧アタチュルク国際空港に近い2つの拠点がある。ほかには、ブルサ、イズミール、エスキシェヒル、アンカラ、アンタルヤ、メルスィン、ガズィアンテプに拠点を置いている。トルコの各拠点では中心となる取扱製品が異なり、例えば、ブルサは自動車、繊維や関連製品、イズミール拠点は水産物や農産物を取り扱っている。以前はイスラエル向けにも鮮魚の輸出があったが(現状は停止)、現在は米国向けを中心に、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、カナダなど世界各国へ輸出している。メルスィンはトランシップ・ビジネスがメインとなる重要拠点であることを強調したい。中国や他のアジア諸国から海上で輸送し、メルスィン港で積み替えし、コーカサス諸国へ安く、迅速に陸上輸送している。例えば、日本を含む極東からアゼルバイジャン、あるいはジョージアへ輸送する場合、マルマラ海と黒海を抜け、ポチ港(ジョージア)へ海上輸送し、鉄道、あるいはトラック輸送に切り替え、陸上輸送するルートが一般的に知られているが、海上輸送でメルスィン港まで運び、そこから陸上輸送に切り替えて輸送するルートを利用すると、前者より14、15日輸送時間を短縮できる。また、アジアから欧州への輸送に関しても、ロシア、ウクライナを経由する鉄道ルートがあるが、代替案として中央回廊(中国~中央アジア~コーカサス~トルコ~欧州経由)を通じた鉄道輸送もあり、顧客の要望に応じて陸路、空路、海路のどのルートでも輸送が可能だ。

カーゴ・パートナー・トルコ社の物流倉庫の一部。
耐震補強を行っているラックがある(ジェトロ撮影)
図1:トルコ周辺の地図
トルコ周辺の地理関係を示している。エジプト東部に紅海、トルコ西部にマルマラ海、トルコ南部にメルスィン港、ジョージア西部にポチ港が位置していることを示している。

出所:ジェトロ作成

質問:
紅海危機後、トルコの物流状況、コストへの影響などはあったか。
答え:
新型コロナウイルス禍で高騰した物流コストが下がっていくと期待していたところ、新型コロナ禍以降は1TEU(注)当たり700~800ドルまで下がった海運コストが、紅海危機以降には急速に上昇した。海上輸送費に関しては、欧州への海上輸送は2倍以上となり、40フィートのコンテナ当たり1,700ドルから5,800~6,000ドルと値上がりした。これは、紅海危機によるコスト上昇だけではなく、便乗値上げも行われていると考えている。
質問:
スエズ運河の運航状況はどうか。
答え:
イスラエルやその支援国を対象にフーシ派が攻撃をしているため、原則としてトルコ、インド、エジプトやロシア船籍の船舶に対する攻撃はないので、以前同様に通過できる。しかし、リスクがあるため、紅海を通過する輸送船に保険は適用されない。その結果、規模の小さな海運会社が紅海ルートを利用している。大きなシェアを誇る欧州の海運会社が喜望峰ルートを航行するようになり、東京発(喜望峰廻り)のイスタンブール着のルートでは、これまで29~35日かかっていた海上輸送日数が60~65日かかるようになり、世界のサプライチェーンに大きな影響を与えている。
質問:
取り扱いの中で、最も影響のあった製品や取引国はどこか。
答え:
中国やアジア諸国からのコンテナ船が大幅に減ったことで、コンテナ船の配船待ちを含むトータルの輸送時間が延び、多くの分野で問題が増加した。コスト高騰に、コンテナとスペース不足の問題が加わり、さらなる商品コスト上昇につながっている。トルコや周辺地域の問題として、紅海危機に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の問題により、コンテナやスペース不足の問題がある。一番影響を受けた製品はハイテク製品、電子製品、生鮮食品で、輸送時間や待機時間が長引いていることにより、生産上の問題や生鮮食品の腐敗が発生している。
質問:
トランジットポートビジネスへの影響はどうか。
答え:
コンテナやスペースが見つけられないという問題があり、新型コロナのパンデミック時の状況に似ている。陸路・航路ともに利用数が増えていない。というのも、対トルコ通貨・リラの対ユーロ、ドルのレートにあまり動きがなく、トルコのインフレが加速しているため、投資家は輸送ビジネスに本来費やす資金を定期預金に預けて金利で稼ぐ方法を選ぶ傾向にある。また、別の問題として、多くの市民が今年の6~8月の長期間休暇は、労働者不足の問題を発生させ、経済、輸出や国際輸送を実質的に減速させたと考えている。

注:
TEU(Twenty-foot Equivalent Unit)は、20フィートのコンテナ1本分の容量。40フィートコンテナをTEU換算すると2TEUとなる。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ)
日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。