1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 特集
  5. 世界経済を展望するキーワード
  6. データ:コロナ禍のもと拡大するデータ流通量

特集:世界経済を展望するキーワードデータ:コロナ禍のもと拡大するデータ流通量

2021年9月24日

新型コロナウイルスの感染が広がった2020年は、様々なデジタル関連サービスの普及が加速し、国境を越えるデータ流通量も増加した。変化するデータ流通量やデジタル関連サービス貿易の背景を明らかにしつつ、今後のグローバルビジネスにおいてカギとなるこれらのルール形成の動向に触れる。

アジア大洋州での越境データ流通量は43%増

新型コロナの感染が広がった2020年は、自宅で過ごす時間が増えたことにより、インターネットの利用時間が長くなった、とのアンケート結果が日本や米国をはじめ、世界各地で報告されている。国際電気通信連合(ITU)によると、世界の2020年の越境データ流通量は718Tb/s(テラビット毎秒)で前年比37.7%と大幅に増加し、2015年の154Tb/sと比較すると4.7倍に拡大した。ロックダウンや緊急事態宣言などの措置により、オンラインショッピングや動画視聴サービスの利用が増加したことが要因とみられる。世界のEC市場規模は2020年に4兆2,000億ドルとなり、前年比25.7%増となった(eMarketer)。動画視聴サービスを約190カ国で展開する米国ネットフリックスは、2021年7月の決算発表で、全世界における有料会員数が2億900万人に達していると報告。また、2021年上半期の売り上げは前年同期比21%増と引き続き高い伸びを示している。今後、新興国でのスマートフォンの普及や5G(第5世代移動通信システム)ネットワークが各地で実装されるにつれ、生成されるデータはますます増加するとみられる。

越境データ流通量を地域別に見ると、近年では全体シェアの4割を占めるアジア大洋州の2020年の伸び率が42.8%と、2019年の伸び率(25.6%)を大きく上回った(図1参照)。そのほかの地域では、欧州(伸び率:27.5%、シェア:21.3%)、米州(伸び率:39.5%、シェア:19.6%)のシェアが高い。

図1:越境データ流通量(越境帯域幅)の推移
アジア大洋州、欧州、米州、中東、ロシア、アフリカの順に、2015年は154、52、49、39、6、5、2.2016年は214、78、56、47、8、8、2.2017年は287、118、62、52、13、11、5。2018年は395、168、86、71、18、11、6。2018年は395、168、86、71、18、11、6.2019年は521、211、120、101、24、13、9。2020年は、718、301、153、141、35、19、11。単位はテラビット毎秒。

注1:地域分類はITUによる。
注2:かっこ内は2020年の構成比。
注3:2020年は推計値。
出所:ITU(国際電気通信連合)から作成

デジタル関連サービス貿易は回復基調

新型コロナ拡大後、越境データ流通量の増加にみたとおり、ライブ配信やオンラインショッピングが普及し、これらを支える周辺の幅広いデジタル関連サービスも拡大した。

デジタル関連サービス貿易(=通信・コンピュータ・情報サービス)(注1)の2019年の輸入額上位5カ国の前年同期比伸び率を比較すると、2020年第2四半期から2021年第1四半期にかけていずれの国もデジタル関連サービスの伸び率がサービス貿易全体の伸びを上回っている(図2参照)。サービス貿易(全体)は主に旅行、輸送、財関連サービスなどで構成され、2020年は新型コロナ感染拡大により「旅行」が大きく落ち込んだ。国連世界観光機関(UNWTO)は「国際観光客到着数が10億人減少した観光史上最悪の年」と表現している。デジタル関連サービス貿易も、2020年第2四半期には経済活動が縮小または停止に追い込まれ、先行き不透明感や収益に対する不安などから企業が慎重な対応をとった。しかし、経済活動が徐々に再開されるにつれ、デジタル関連サービスの需要が伸びたことなどから、2021年の第1四半期は輸入額上位5カ国すべてでプラスの伸び率となっている。

図2:主要国の世界のデジタル関連サービス貿易額(前年同期比)の推移
(輸入ベース)
米国はサービス全体で5.7、6.0、5.4、2.1、△5.6、△34.2、△29.9、△17.1、△10.1%。デジタル関連サービスで△1.0、5.9、3.6、3.5、△5.6、△14.3、△14.3、△6.3、1.2%。 ドイツはサービス貿易全体で△2.4、1.3、0.5、1.5、△1.5、△31.2、△19.7、△17.3、△10.1%。デジタル関連サービスで2.5、4.3、3.3、13.4、△3.8、7.1、△4.4、△9.0、15.0%。中国はサービス貿易全体で△5.6、△5.8、△3.3、△0.6、△17.4、△31.8、△26.2、△23.3、△6.9。デジタル関連サービスで10.4、21.3、18.3、8.5、4.1、20.7、7.6、28.7、28.9%。フランスはサービス貿易全体で△5.1、△1.8、0.6、△0.3、△5.1、△22.2、△14.2、△8.1、2.1%。デジタル関連サービスで△2.6。0.6、0.2、△4.0、△1.0、△5.3、5.9、3.3、8.8%。 フランスはサービス貿易全体で△5.1、△1.8、0.6、△0.3、△5.1、△22.2、△14.2、△8.1、2.1%。デジタル関連サービスで△2.6。0.6、0.2、△4.0、△1.0、△5.3、5.9、3.3、8.8%。

注:デジタル関連サービス輸入額上位5カ国を掲載。 
出所:IMFから作成

中国のデジタル関連サービス貿易は、2020年をとおしてプラスの伸びを示し、2021年第1四半期には前年同期比28.9%増と、とりわけ増加が顕著だった。新型コロナ拡大後、オンライン教育やライブ配信、EC(電子商取引)が拡大しており、これに伴ったデジタル関連サービス貿易も増加した。日本も2020年第3四半期にマイナス成長だったものの、2021年第1四半期には23.5%増と回復傾向が見て取れる。

ECルール形成、WTOで円滑化の動き

国境を越えたデータの移転やデジタル貿易が加速する一方、それを規定する国際ルールの不在が顕在化している。その事実は、2020年の新型コロナの拡大により、改めて注目されるようになった。現時点ではデジタル関連のルール作りにおいては国際的な合意がなく、WTOでは関税不賦課のモラトリアム合意(1998年)(注2)が延長されて現在に至る。WTOでは現在も、電子商取引をめぐる国際ルールの形成について有志国による複数国間交渉が進められているが、モラトリアム合意に対する姿勢には温度差がみられる。先進国はこのモラトリアム合意をWTO下での恒久的な多国間ルールとしたい意向だが、ECを含むサービス貿易の自由化に消極的な途上国は反発を繰り返してきた。途上国では、WTOの枠組みにデジタル貿易自由化のルールを組み込まず、自国のデジタル産業の保護や育成を進める傾向にある。こうした中、有志国はECルールの具体的な内容に関する提案文書を発表。特に、米国・EU・中国といった主要国の提案にはその方向性に大きな違いも見られたが(世界貿易投資報告第Ⅳ章参照PDFファイル(2.1MB))、2020年12月に各国の提案をまとめた「統合交渉テキスト」が作成された。同テキストは、交渉の次段階への基礎となるものとしての論点(参考参照)をカバーしており、実際の交渉ではこのテーマに対応する検討項目ごとに作業部会が設けられている。たとえば「円滑化」における電子署名の国際ルール化は、国境を越えた電子署名の活用を後押しし、貿易円滑化につなげる狙いがある。

参考:WTOで交渉が進む主な論点

1. 円滑化

電子取引の円滑化
電子商取引に係る国内法の整備
電子署名、電子認証
電子契約
デジタル貿易の円滑化
ペーパーレス貿易
インボイスの電子化
(有価証券などの)記録の電子的移転の実現
ロジスティクスや電子決済の円滑化
関税
電子的送信に対する関税不賦課の恒久化

2. 自由化

無差別原則と責任
デジタルプロダクトに対する差別の禁止
EC事業者だけを対象とする許認可の禁止
プラットフォームサービス(双方向サービス)で発生する損害に係る利用者とプラットフォーマーの責任
情報の流通
国境を超える情報の移動
コンピュータ関連設備の設置
インターネットとデータへのアクセス
政府公開データへのアクセス及び利用
インターネットへのアクセス
オンラインプラットフォームへのアクセス

3. 信頼性

消費者による信頼
オンライン上の消費者保護
迷惑メールの受信防止
個人情報保
個人情報、プライバシーの保護
企業による信頼
ソースコードの開示要求の禁止
ICT製品の暗号開示要求の禁止

4. 横断事項

法令の透明性の確保
法令の公表とアクセシビリティ
パブリックコメントをする機会の確保
通知や報告の仕組み
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティーに係る協力
途上国の能力開発
能力開発や技術支援の手段
利害関係者間の協力体制

5. 電気通信 GATS・電気通信に関する附属書の改訂

6. 市場アクセス 物品・サービス市場のアクセスの改善

注:交渉項目はすべてを網羅するものではなく、主な論点を示す。
出所:“What is at stake for developing countries in trade negotiations on e-commerce?”(UNCTAD)などから作成

こうしたルールの明確化は、自由な取引環境の整備に不可欠であり、海外でオンラインビジネスを展開する日本企業も注視する必要がある。たとえば、データローカライゼーションが規制されると、データサーバーの設置代金やレンタル料などのビジネスコストを抑えることが可能となる。現地拠点などを設けることなく、オンライン取引を行うことができるため、海外ビジネスを始める際にも透明性が確保できる。そのほか、相手国政府によるソース・コード開示要求の禁止がルール化されると、企業が技術流出を心配することなく、ソフトウエアや暗号製品といったデジタル・コンテンツを販売できる。こうした国際ルールは、断片的に導入される各国のデジタル関連規制を調和し、デジタル空間におけるビジネス環境は大きく改善する役割があり、交渉の早期妥結に期待が高まる。


注1:
デジタル関連サービス貿易は、UNCTADの「ICTサービス貿易」の定義を参考に、「通信・コンピュータ・情報サービス貿易」で定義した。
注2:
電子的送信に関税を課さないとの慣行を、一定の期間継続する約束をすること。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ