日本とアフリカの間の租税条約の現状と今後
2026年8月27日
外務省が実施している海外進出日系企業拠点数調査
によると、2025年10月1日時点でのアフリカにおける日系企業の拠点数は1,054拠点と初めて1,000拠点を超えた。日本企業のアフリカ進出が拡大する中、投資環境を左右する制度面のインフラとして重要なのが投資協定と租税条約だ。投資協定については、サブサハラ・アフリカを対象に「日本とサブサハラ・アフリカ諸国との間の投資協定の歴史と現状(2026年4月30日付地域・分析レポート)」にて整理した。本稿では、日本とアフリカ諸国との間の租税条約の締結状況や交渉動向、今後の展望について概観する。
租税条約は、国境を越えた企業活動や投資に伴う二重課税を回避するとともに、脱税や租税回避を防止することを目的とする。財務省によると、日本は現在、世界81国・地域を対象とする租税条約を締結している(2026年7月1日時点)(注) 。日本はアフリカ諸国との間では、エジプト、ザンビア、南アフリカ共和国(南ア)、モロッコ、アルジェリア(発効日順)の5カ国と租税条約を締結している(表参照)。
各国との租税条約の詳細な内容は、ジェトロのウェブサイト「制度情報」の「税制」ページや、財務省
のウェブサイトに掲載されている条約本文および概要を参照いただきたい。
| 国名 | 租税条約発効日 |
|---|---|
| エジプト | 1969年8月 |
| ザンビア | 1971年1月 |
| 南アフリカ共和国 | 1997年11月 |
| モロッコ | 2022年4月 |
| アルジェリア | 2024年1月 |
| チュニジア | 交渉中(2019年3月交渉開始) |
| ナイジェリア | 交渉中(2019年6月交渉開始) |
出所:財務省ウェブサイトを基にジェトロ作成
アフリカ諸国との租税条約締結の経緯
日本のアフリカ諸国との租税条約は1960年代後半から段階的に拡大してきた。最も早い事例は当時アラブ世界の盟主であったエジプトで、1968年に署名し、1969年に発効した。エジプトとは投資協定も1978年に発効しており、こちらもアフリカ諸国の中で最も早い。
続いて、ザンビアとの租税条約が1971年に発効した。交渉はザンビア側の申し入れによって開始された。ザンビアは1964年に独立したが、旧宗主国の英国以外の国との経済関係を強化したいという考えから、当時高度経済成長期にあった日本からの企業進出等に期待を寄せているという事情があったとされる。日本としても、製造業に不可欠な銅の重要な産出国としてザンビアに注目していた。その後50年以上が経過した2026年7月には、同国との投資協定も発効している。
アフリカ有数の工業国で、レアメタルの重要産出国でもある南アとの租税条約は、全人種参加の選挙によるネルソン・マンデラ政権樹立後の1997年に署名・発効した。アパルトヘイト撤廃後の両国の経済関係の緊密化が背景にあったと考えられる。本稿執筆時点で南アとの間では投資協定は存在しないが、南アは現在、アフリカで進出日系企業の拠点が最も多く、日本企業のアフリカ展開の拠点の1つとなっている。
近年は北アフリカ諸国との条約整備が進んでいる。欧州向け自動車の製造拠点などとして近年存在感を高めているモロッコとの租税条約は2019年2月に交渉が開始された。本条約は2022年、並行して交渉されてきた投資協定と同時に発効し、日本企業の事業展開を支える法的基盤の整備が進んだ。2025年10月1日時点でモロッコには南ア、ケニア、エジプトに次ぐ76の日系企業の拠点がある。
アルジェリアとの租税条約は第8回アフリカ開発会議(TICAD8)の開催直前の2022年6月に交渉が開始され、わずか8カ月後の2023年2月に署名し、2024年1月に発効した。同国はアフリカ最大級の天然ガス生産国であり、近年のロシアのウクライナ侵攻や中東情勢を受けて世界的にエネルギー安全保障への関心が高まる中、欧州向けガス供給国としても存在感を増している。
アフリカではチュニジアとナイジェリアの2カ国と交渉中
現在、日本と正式に租税条約の交渉中となっているのは、北アフリカのチュニジアと、アフリカ最大の人口を誇るナイジェリアの2カ国だ。チュニジアとは、TICAD7に先立ち2019年3月に交渉開始と第1回交渉の実施が発表された。同年6月には、ナイジェリアとの交渉開始と第1回交渉の実施も発表された。しかし、チュニジア、ナイジェリアとも、本稿執筆時点に至るまで2回目以降の正式交渉の実施は発表されていない。
租税条約ネットワークは他地域と比較して限定的
もっとも、日本と租税条約を締結している国の割合は、地域別に見るとアフリカが他地域と比べて非常に低い。特にサブサハラ・アフリカの国で日本と租税条約を結んでいるのは、本稿執筆時点でザンビアと南アの2カ国のみとなっている。現地企業とのビジネス関係が他地域と比較して限定的であることに加え、アフリカとの租税条約交渉が容易でない背景には、課税権をめぐる双方の立場の違いがある。
アフリカとの関係では、日本はほとんどの場合「投資輸出国」であり、企業が現地へ投資を行う側だ。一方、アフリカ諸国は「投資受入国」となる。このため、日本側は源泉地国課税の軽減を求めるインセンティブが強いのに対し、アフリカ側は自国財源確保の観点から源泉税率を維持したいというインセンティブが強い。国際社会においてグローバル・サウスの発言力が高まる中、近年は国連モデル租税条約(UN Model)が途上国の課税権をより重視する方向に発展しており、多くのアフリカ諸国もこれを支持している。日本とアフリカ諸国が租税条約の締結交渉を行う際には、このような立場の違いについて調整が必要となることが考えられる。
産業界の要望と今後の展望
しかし、近年のアフリカとの経済関係強化を背景に、アフリカ各国、特にケニアやナイジェリアなど日本企業の進出ニーズが高い国との租税条約整備は、現地でビジネスを行う日系企業にとって重要性を増しているといえる。実際に産業界からも、アフリカとの租税条約ネットワークの拡大を求める声が上がっている。
日本経団連は、2025年に横浜で開催されたTICAD9に際して発表した提言「アフリカの内発的・持続的発展に向け、今こそ日本の積極姿勢を示すべき
」(2025年6月17日)において、ケニア、ナイジェリア、ガーナ、モザンビーク、エチオピア、セネガル、チュニジア、アンゴラ、ウガンダ、コートジボワール、ブルキナファソ、マダガスカル、タンザニア、コンゴ民主共和国、ナミビアの各国、さらに南部アフリカ開発共同体(SADC)、東アフリカ共同体(EAC)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)などの地域経済共同体(RECs)との租税条約の締結、またエジプトとの租税条約の改定と締結済み国における制度運用の実効性の確保を要望している。
また、日本の機械メーカー、商社、エンジニアリング企業などを会員とする業界団体である日本機械輸出組合(JMC)は、令和9年度税制改正要望
(1.5MB)(2026年7月27日)において、モザンビークとの租税条約締結を求めている。現在は、同国に恒久的施設(PE)を持たない非居住者によるサービス対価に対し20%の源泉税率が適用されており、二重課税による税負担が大きくなっているという。また、エジプトとの租税条約について、税務当局に対する複雑な手続きがなくても租税条約の恩恵を享受できるようにするための交渉を政府に求めている。現在は、在エジプト日系企業が得たロイヤルティーに対する源泉徴収税について、まず20%が徴収され、還付申請により5%の還付が認められれば、税率が15%となる運用となっている(エジプト制度情報「税制」参照)。
他のアジア諸国・地域の動きを見ると、アフリカとの経済関係が深く、進出企業数も多い中国は本稿執筆時点で21のアフリカ諸国と租税条約を締結している(未発効含む)。韓国も、日本が締結していないケニアやエチオピア、チュニジアを含む9カ国と租税条約を締結している。直近では、ケニアとシンガポールの間の租税条約が2026年4月に発効したほか、7月にはナイジェリアが香港との租税条約に署名したという動きもあった(2026年7月23日付ビジネス短信参照)。日本企業のアフリカビジネスへの関心が高まる中、今後の租税条約ネットワークの拡大に期待したい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
波多野 瞭平(はたの りょうへい) - 2025年10月から現職。中東・アフリカ地域の調査業務を担当。





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