エディブルフラワーでひらく花き輸出市場(日本)
加藤花園の差別化戦略

2026年9月9日

国内需要が縮小する中、日本産花きの輸出拡大への期待が高まっている。一方で、海外市場では価格競争が激しく、日本産ならではの差別化が求められる。無農薬のエディブルフラワー(食用花)を強みに海外販路を開拓する加藤花園外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(神奈川県伊勢原市)の棚橋蘭氏、三上繭氏に、同社の取り組みや海外での販路開拓、今後の展望などについて聞いた(取材日:2026年7月8日)。同社の取り組みは、食用という新たな用途によって日本産花きの付加価値を高め、海外市場で差別化を図る事例として注目される。

また、全国花き輸出拡大協議会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの事務局長である橋本季正氏に、花き業界の輸出に関する展望や協議会の取り組みについて聞いた(取材日:2026年8月6日)。

日本の花き産業を取り巻く環境

日本の花き産業は、色彩や品質の高さ、鮮度管理技術などが評価されている一方、国内需要は減少傾向にある。2024年の2人以上世帯における切り花への年間支出額は1世帯当たり7,684円となり、前年の8,034円を下回った。また、花きの作付面積は平成7年(1995年)の48,000ヘクタール、産出額は平成10年(1998年)の 6,300億円をピークに、長期的な縮小傾向が続いている(注1)

切り花輸出の現状と主要市場

こうした中、農林水産省は「輸出拡大実行戦略」(2025年5月)において、切り花を輸出重点品目に位置付け、2030年までに全体46億円(中国15.5億円、米国11億円など)を目標に掲げて、花きの輸出を促進している(注2)(詳細は、輸出品目別レポート「花き(切り花)」PDFファイル(1.09MB)(2025年8月)を参照)。

農林水産省の認定品目団体である全国花き輸出拡大協議会「輸出花きについて外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、海外輸出が多い切り花の主な品目として、スイートピー、グロリオサ、トルコギキョウや日本で育成されたラナンキュラス品種などが挙げられる。


グロリオサ(全国花き輸出拡大協議会提供)

スイ―トピー(全国花き輸出拡大協議会提供)

トルコギキョウ(全国花き輸出拡大協議会提供)

ラナンキュラス(全国花き輸出拡大協議会提供)

次に、2021年から2025年までの切り花(注3)の輸出動向を年別にまとめた(表)。切り花の輸出量、金額ともに2023年にピークを迎えた後、減少基調にある。2025年の輸出量は331トン(前年比15.1%減)、輸出額は14億9,000万円(同比9.3%減)だった。輸出額を国・地域別に見ると、米国、中国、台湾、韓国、香港の順に多い(注4)

表:日本の対海外切り花輸出額・数量の推移注1:2025年の輸出額上位10カ国(地域)を抽出。 注2:HS=0603。 注3:「0」:単位に満たないもの。
順位 国・地域名 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 前年比伸び率(%)
数量 金額
1 米国 39.3 250.7 41.9 305.7 50.5 369.3 54.9 450.9 55.9 484.0 1.8 7.3
2 中国 258.3 610.6 300.6 684.7 332.4 778.0 232.8 561.4 176.5 401.4 △ 24.2 △ 28.5
3 台湾 8.6 61.6 21.0 133.3 23.5 146.9 26.5 189.1 21.2 149.9 △ 19.8 △ 20.7
4 韓国 22.8 125.9 24.9 142.9 20.9 135.1 15.5 114.5 15.1 121.5 △ 2.9 6.1
5 香港 23.3 102.7 26.6 91.6 27.7 93.2 26.3 96.8 23.5 89.0 △ 10.6 △ 8.1
6 オランダ 4.9 21.1 5.0 24.2 5.2 40.2 7.2 64.5 8.7 76.8 20.9 19.2
7 ベトナム 17.2 35.1 20.4 51.6 10.1 34.5 9.4 30.2 11.0 39.0 17.6 28.9
8 グアム (米) 0.0 0.3 0.0 0.0 0.1 0.5 2.9 22.6 3.2 20.8 10.9 △ 8.3
9 オーストラリア 3.0 37.3 1.8 14.3 2.4 22.0 1.8 15.8 2.7 19.8 53.5 24.8
10 フランス 1.8 18.7 1.1 13.9 1.6 20.5 1.0 14.5 0.9 14.8 △ 5.2 2.1
世界 392.2 1,344.1 451.8 1,514.3 484.1 1,707.4 390.2 1,643.4 331.2 1,491.2 △ 15.1 △ 9.3

注1:2025年の輸出額上位10カ国(地域)を抽出。
注2:HS=0603。
注3:「0」:単位に満たないもの。

出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

価格競争を避けた差別化がカギ

米国と中国は日本産切り花の主要市場となっている。今後の輸出拡大においても、重点的なターゲット市場として位置付けられている。一方で、米国市場ではコロンビアやエクアドルなど南米産の切り花が高いシェアを占めており、価格競争力が強いため、日本産切り花の輸出拡大における課題となっている。そのため、日本産は高品質、高鮮度に加え、日本独自の品種や希少性のある花などによる差別化が重要となっている。全国花き輸出拡大協議会によると、米国では日本オリジナル品種の需要があり、特にスイートピーなどは差別化が図りやすい品目の1つという。中国では高品質な日本産花きの認知度向上に向け、日本酒や日本食と組み合わせたプロモーションも展開されている(注5)

長年のノウハウでエディブルフラワーを栽培

こうした現状もある中、独自の付加価値によって海外市場を開拓しているのが加藤花園(神奈川県伊勢原市)だ。同社は、30年以上前からエディブルフラワー(Edible Flower、食用花)を生産販売している。農薬を使わない方針の下、長年の経験とノウハウを生かして培った栽培方法や品質管理を徹底することで、多種多様なエディブルフラワーの栽培を可能にしている。水耕ではなく土での栽培にこだわり、花持ち(賞味期限)や品質の向上を図っている。

一般的に日本で食用花というと、菊やシソ、キンギョソウといった和食のつま(つけあわせ)をイメージするが、同社のエディブルフラワーはマリーゴールド、ベゴニア、ビオラ類、アリッサムなど種類が豊富だ。また、同社のエディブルフラワーは、料理に彩りを添え華やかさを演出するだけでなく、花本来の味や香りを楽しめる点が特徴だ。花の品種ごとに味が異なり、料理のアクセントとしても活用できる。

販売先は、ミシュラン掲載店をはじめとする高級レストランやインバウンド観光客向けの飲食店など、業務用が中心で、全国に販路を展開している。最近では、2027年3月に横浜で開催予定の2027年国際園芸博覧会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(GREEN×EXPO2027 YOKOHAMA JAPAN)に向けて、出展企業などからの引き合いがあり、出荷に向けた準備を進めている。


左から2番目が棚橋氏、左から3番目が三上氏(同社提供)

高級百貨店で陳列される商品(同社提供)

コロナ禍を機に海外市場へ挑戦

コロナ禍の影響もあって、日本国内における業務用需要が減少したことや、SNSなどを通じて海外から直接問い合わせや引き合いがあったことをきっかけに、海外への販路開拓を考えるようになった。2023年、地元の金融機関である中南信用金庫からジェトロ横浜を紹介された。2024年からは、ジェトロ新輸出大国コンソーシアムの専門家による伴走型支援を活用し、タイなど東南アジアでの販路開拓を開始した。

当初、花き市場が大きいEUや米国などをターゲットに考えていたが、検疫のハードルや競合する他国産との差別化といった課題から、食文化としてエディブルフラワーを受け入れる素地があると考えられる東南アジアでの販路開拓へ方向転換した。ハイエンド向けの飲食店やホテルをターゲットに売り込みを行った結果、現地シェフから品質の高さや農薬を使用しない方針が高く評価され、タイ、シンガポール向けに定期的に輸出することに成功した(注6)。現在では、日系高級百貨店でも取り扱われている。

今後、エディブルフラワーがサラダやコース料理の食材として活用されることで、輸出の拡大が見込まれる。

日本産のエディブルフラワーならではの価値が評価

四季のない国や地域では、日本特有の春夏秋冬ごとの花が人気だ。特に、常夏のタイやシンガポールでは、冬の花の人気が高いという。これらの現地ニーズやシェフのリクエストを踏まえながら、旬の花を詰め合わせた状態で発送する。

加藤花園によると、現地産の食用花には苦みがあり、主に飾りとして利用されている場合が多かったという。

「苦みのない食用花」という差別化ポイントが明確になり、単なる「飾り」や「映え」としてではなく、シェフが思い描く彩りと味に応える「新たな食材」として高く評価されている。「エディブルフラワーが単なる飾りではなく、新たな食材として認知されれば、現地のホテルやリゾート、レストランなどにチャンスがある」と、三上氏は語る。

また、国内は鉢花による出荷を中心としているが、植物検疫の問題もあり、海外向けには花の部分のみを摘み取って出荷している。国内商社経由で、適切な温度管理(冷蔵)をした上で、空輸により海外へ輸出している。単独ではコスト高という課題があったが、同じ冷蔵温度帯の水産品を扱う輸出商社と連携し、混載することで輸出を実現した。輸送温度の記録を取るデータロガー(記録計)も活用し、品質を保てるよう梱包(こんぽう)方法にも工夫を凝らしている。

生鮮の食用花は、賞味期限を確保するためにリードタイムの問題が付きまとう。同社では、東南アジア向けの場合、出荷の翌々日に到着するよう国内商社と連携するなど、取引先へ円滑に届けられるよう工夫している。

「5年後には、海外売上高を全体売上高の10%にしたい。また、来年横浜で開催される2027年国際園芸博覧会を地元神奈川の企業として盛り上げたい」と、棚橋氏は話す。

同社のように一般的な日本産切り花として輸出するのではなく、エディブルフラワーとして付加価値をつけることで他国産と差別化する戦略は、日本の花き生産者が食用という新たな用途で海外市場を開拓する際の1つのモデルとなるだろう。


春から初夏 花ミックス(同社提供)

晩夏から初秋 花ミックス(同社提供)

冬から初春 花ミックス(同社提供)

エディブルフラワーの料理での活用例(同社提供)

花き輸出拡大に向けた業界全体への波及効果

このような取り組みは、花き業界全体の輸出拡大に向けた方向性とも一致する。全国花き輸出拡大協議会の橋本季正事務局長は、「花きの国内需要の減少はこれからも続くと考えられており、減少による影響を少しでも食い止めるには国外への輸出を増やす必要がある。世界では花きの需要はまだ増加しており、輸出に対する期待は大きい。エディブルフラワーは食品としての厳しい基準をクリアすることや(注7)、長時間の移動における品質維持の工夫などが、切り花の輸出に必要なノウハウとして大変参考になる」と述べる。なお、同団体は日本産花きの輸出先国の新市場開拓や多角化を目指し、ジェトロなどと連携して現地市場調査やプロモーションイベントを実施している。また、来年開催される国際園芸博にあわせて、関係機関とともに各種事業を検討している。


全国花き輸出拡大協議会 橋本氏(同協議会提供)

高付加価値化で海外市場をひらく日本産花き

国内市場の縮小が続く中、日本産花きの輸出拡大に向けては、高品質や日本独自の品種といった強みを生かした高付加価値化が重要となる。加藤花園のエディブルフラワーは、農薬を使用しない方針の食用花という付加価値に加え、品質管理や鮮度保持に関するノウハウを生かして海外市場を開拓している。こうした事例は、日本産花きが強みを生かしながら海外市場で差別化を図る際に、重要な視点となるだろう。


注1:
各統計値については、下記を参照されたい。
注2:
日本政府は2014年に「花きの振興に関する法律」を制定し、花き産業および花き文化の振興に加え、輸出の促進にも取り組んでいる(詳細は、農林水産省「花きのページ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。なお、種苗法に基づき「海外持出制限の届出」がなされた登録品種については、種苗などの国外への持ち出しが制限されるため注意が必要だ(詳細は、農林水産省「種苗法の改正について」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。 本文に戻る
注3:
切り花のHSコード0603。関税分類上、生鮮切り花では、HSコード上で、ばら、カーネーション、らん、菊、ゆり(リリウム属のもの)およびその他に細分化されている。 本文に戻る
注4:
花きの輸出手続きに関しては、輸出先国の植物検疫条件によって、植物検疫証明書や輸入許可証、また栽培園地の登録、輸出検査、病害虫に関する調査などが必要になるため、注意が必要だ。各国の輸入規制や検疫条件などの詳細は、ジェトロ「日本からの輸出に関する制度」や、植物防疫所「輸出入条件詳細情報」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどを参照されたい。 本文に戻る
注5:
詳細は、2024年9月20日付ビジネス短信「成都市で日本食レストラン向けの日本産切り花商談会を初めて実施」および2026年1月27日付ビジネス短信「ジェトロ、上海市で日本の桜イベントを実施」。 本文に戻る
注6:
詳細は、ジェトロ活用事例「加藤花園:お皿の上の芸術に彩りを。安全・安心の「美しい食用花」をアジアへ」を参照されたい。 本文に戻る
注7:
国・地域によっては、エディブルフラワーは食用のため、野菜に分類される場合があるので注意が必要。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム
庄田 幸生(しょうだ こうき)
2025年、ジェトロ入構。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の市場情報や輸入規制、法令などの調査を担当。